バカと喧嘩と言えない秘密   作:mos

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そして事態は急変する。


僕と指導と決死の鬼ごっこ!
part A


 丸一日を経て、僕はようやく美波と仲直りすることができた。

 まだ美波の徹夜の理由は教えてもらってないけど、もうどうでもいいや。

 いつか美波の方から話してくれるかもしれないし。

 それに、こうしてまた一緒に歩いてくれるんだから……。

 

 僕は込み上げてくる嬉しさに頬が緩んでしまって仕方がなかった。

 ところがそこへ──

 

「いたぞ! あそこだッ!」

「伝令! 吉井発見! ヤツは職員室前だ!」

 

 歩き出してすぐ、前方より複数の足音と男子生徒の声が聞こえてきた。

 何事かと目を向けてみると、旧校舎へと一直線に続く廊下のその先で黒い集団がこちらを見ていた。

 黒いマントを羽織り、黒い覆面で顔を隠した謎の集団。

 

「げっ! あいつらは!?」

 

 異端審問会──通称FFF団だ。

 しまった! 手を繋いでいる所を見られてしまった!?

 ヤバイ! 逃げなくちゃ! って言っても新校舎側の昇降口は閉まってるぞ?

 ど、どうしよう! どこへ逃げればいいんだ!?

 

 などと戸惑っていると、その集団のうちの一人が真ん中をかき分けて前に出てきた。

 黒いマント姿は他の者と同じだが、大きな鎌のような得物を担いでいる。

 異端審問会会長、須川君だ。

 

「吉井。俺から逃げられると思うなよ」

 

 彼は大きな鎌を床にドンと突き、僕を威嚇する。

 

「……逃げてみせるさ。僕には秘策があるんだ」

 

 対抗して僕も強がりを言ってみせる。

 と言っても実は秘策なんて無い。これは相手の動揺を誘うためのハッタリだ。

 こう言っておけば警戒して動きが鈍くなるはず──

 

「ほう。ではその秘策とやらを見せてもらおうか」

 

 と思っていたのだが、彼には通用しないようだ。

 

「……追い詰めろ」

 

 須川君の指示と共に黒い集団が一斉に、ジリジリとにじり寄ってくる。

 一気に襲ってこないのは一応警戒しているのだろうか。

 だけど今の僕には彼らに対抗する手段が無い。捕まったら最後だ。

 なんとかして逃げないと……!

 

「さすがに相手が多すぎるわ……。どうしようアキ……」

 

 美波が不安げな顔を向けて言う。

 

「大丈夫。なんとかなるさ」

 

 安心させようと笑顔でそう答えたものの、状況はかなり不利だ。

 見たところ相手は十人くらい。廊下の幅からして正面突破はまず無理だ。

 かといって、後ろに下がったところで新校舎側からは出られない。

 ということは──上の階でやり過ごすしかない!

 

「逃げるよ美波!」

「う、うん!」

 

 美波の手を引いて逆方向へ走り出す僕。

 ところがその先に一つの影が立ち塞がった。

 

「見つけましたっ! お姉様っ!」

 

 甲高い声で叫ぶ縦ロールの髪形をした小柄な女の子。

 その声に僕たちは思わず足を止めた。

 あれは──清水さん?

 

「み、美春!? どうしてアンタがここにいるのよ!」

 

 美波の言うとおりだ。補習授業はFクラスだけのはず。

 Dクラスの清水さんがいるはずがない。

 まさか霧島さんのように毎日美波に会いに来ていたとでも言うのか?

 でもこの四日間、清水さんの姿なんて見なかったけどな。

 もしかして美波が休み時間になると姿を消していたのは、清水さんに会っていたのか……?

 いや、そんなわけないか。美波も驚いてるくらいだし。

 

 って! そんなことを考える場合じゃなかった!

 すぐ後ろに須川君たちが来てるんだった! このままでは捕まってしまう!

 

「美波、行くよ!」

 

 僕は美波の手を引き、清水さん目がけて走り出す。

 強行突破するなら後ろの十人より前の清水さんだ。

 フェイントを掛けて一気に抜けてやる!

 

「逃がしませんっ!」

 

 だが清水さんは素早い動きで僕の前に立ちはだかり、行く手を阻む。

 

「くっ……どいてよ清水さん! 今は君の相手をしている暇は無いんだ!」

「いいえ、どきません! それよりその汚い手を放しなさい!!」

「やめて美春! ウチらの邪魔をしないで!」

「どうやら特に策も無いみたいだな、吉井」

 

 清水さんと言い合っていると、急に男子の声が割り込んで来た。

 その声にハッと周囲を見渡す。

 だが気付いた時には時既に遅し。僕らは黒い集団に取り囲まれていた。

 

「ぐ……須川君……!」

「さぁ、観念してもらおうか」

 

 彼らは清水さんと一緒になって僕らを壁際に追い込み、徐々にその範囲を狭めてくる。

 

「アンタたち! いいかげんにしなさいよね!」

 

 美波が彼らを睨み付けながら声を張り上げる。

 それを口火に、押し問答が始まった。

 

「何故ですお姉様! 喧嘩別れをしたと聞いて駆けつけたのに、何故そのように触れ合っているのです!」

「島田、俺たちは引き下がるわけにはいかない。吉井は重大な会規違反を犯したのだ」

「そんなこと誰に聞いたのよ! 見ての通りウチらは別れてなんかないわ! だからウチのことは諦めてって何度も言ったでしょ!」

「って聞けよ島田! まぁいい。吉井、審議の結果お前は百夜干しの刑と決まったのだ。大人しく刑を受けてもらうぞ」

「イヤですっ! お姉様を諦めるなんて美春にはできません!」

「それを言うなら一夜干しだよ! って言うか僕を干物にするつもりかよ!」

「その男がいなくなればお姉様は美春の元へ帰ってくるはずです! だからその干物野郎を始末するのです!」

「裏切りは万死に値する! 貴様は干物にしても飽き足らん!」

「いいかげんにしなさい美春! アキに手を出したらウチが許さないわよ!」

「じゃあなんだって今になって僕を捕まえようとするんだよ! 午前中は襲ってこなかったじゃないか!」

「お姉様! 何故そのようなことを言われるのです! お姉様はその男に騙されているのです! 今、美春がお救いします!」

「バカかお前は。午前中にお前を処刑したら欠席扱いになるだろ。それじゃ追加補習になっちまうだろうが!」

「だからやめなさいって言ってるでしょ! 本気で怒るわよ!」

 

 ……

 

 あー。

 

 なんかもう話がごちゃごちゃだ。

 皆好き勝手に話すもんだから、もうわけが分からない……。

 ホント、どうして僕の周りにはこうもややこしい人ばかりが集まるんだろう。

 僕は普通に生活したいのに……。

 

 それにしても清水さんはどうして僕と美波が喧嘩していたことを知っていたんだ?

 須川君が今朝の時点でそれを知っていたのも謎だ。

 美波や姫路さんが教えるわけがないし、当然僕だって誰にも言ってない。

 

『────!』

『──! ──!』

 

 考える僕の前では清水さんたちが口論を繰り広げている。

 

 ……誰の仕業か分からないけど……。一つだけ、確実に言えることがある。

 

「吉井明久! 今すぐこの手で地獄に送ってやります!」

「「「裏切り者に死の裁きを!!」」」

 

 それは今、僕が命の危険に晒されているということだ。

 なんで僕だけ標的にされなくちゃいけないのさ……。

 

「美春、どうしても諦めないって言うの?」

「当然です! お姉様が目を覚ますまで美春は諦めません!」

「……分かったわ。じゃあこうしましょう。アンタたちがウチとアキを捕まえられたらアンタの勝ち。ウチは美春の言うことを聞くわ。でもウチとアキが学園の敷地から出るか一時間逃げ延びたらウチらの勝ちよ。その時はもうウチのことは諦めて」

「校内鬼ごっこというわけですね」

「ちょ、ちょっと美波、勝手にそんな約束しないでよ!」

「島田、その鬼側には俺らも含まれてるのか?」

「そうよ。須川たちもアキを狙ってるんでしょ? だったらアンタたちは鬼側よ」

「ま、待ってよ! 鬼ごっこって普通鬼は一人だよね? これじゃほとんどが鬼側じゃないか!」

「……いいでしょう。その挑戦、受けましょう!」

「俺らも異存は無い。元々、吉井を捕えるのが目的だからな」

「ちょっと待ってってば! これって僕に何のメリットも無いよね!?」

「清水、お前は島田をやれ。俺たちの狙いは吉井だ」

「言われるまでもありません! お姉様を小汚い豚どもなんかに触らせはしません!」

「ねぇ! 僕の意見も聞いてってば!!」

 

 あぁもう! なんで皆聞いてくれないんだよ!

 と苛立ちを顕にしていると、そこへ美波が耳打ちしてきた。

 

(大丈夫よアキ。鬼ごっこの鬼って最初に目を伏せて十数えるんでしょ?)

(へ? 数える?)

 

 ……あ! そうか! 目を伏せている間に逃げようってことか!

 確かにそのルールがあればこの包囲された状況からの脱出も可能だ!

 

(ナイスだよ美波! それじゃ早速……)

 

「それじゃあ鬼は皆目を伏せ──」

 

 と僕がそう言い掛けるや否や、

 

「では覚悟なさってください! お姉様!」

「諸君、宴の時間だ」

 

 清水さんとFFF団が一歩足を進め、その包囲を更に狭める。

 

「えぇっ!? ちょ、ちょっと待ってよ!」

「ア、アンタたち鬼なんだから十数えなさいよ!」

「問答無用です!」

「「Yeah!! Let's Bloody Party!!」」

 

「そ、そんな──きゃぁーっ!」

「待って待って待ってぇぇ!!」

 

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