バカと喧嘩と言えない秘密   作:mos

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part B

 あぁもぅ!! なんでこうなるんだよ!

 せっかく仲直りできたのにこんな所で捕まってたまるか!

 こうなったら全員ぶん殴ってでも逃げ延びてやる!!

 と身構えた、その時──

 

 

「何を騒いどるかァっ!!!」

 

 

 突然横の扉が開き、ドスの利いた男性教師の怒鳴り声が廊下中に響き渡った。

 空気がビリビリ振動するような鉄人の一喝。相変わらず凄い迫力だ。

 でもこんなものは僕にとっては日常茶飯事。どうということはない。

 だが清水さんや覆面軍団はこの声に圧倒されたのか、その動きを完全に止めていた。

 

「なんだ吉井。またお前か」

 

 鉄人が僕の顔を見て呆れ顔で言う。

 そういえばここって職員室の前だっけ。

 って言うか、また僕のせいにされてる?

 

「西村先生! ちょっと失礼します! アキ、こっちよ!」

 

 美波が僕の手を引き、鉄人の脇を素早く通り抜ける。

 僕も引かれるままに職員室に飛び込んだ。

 

「あ? あぁ……」

 

 もともと鉄人は女の子には甘い。

 それもあってか、美波のこの行動に鉄人はポカンとした顔をしてこの様子を見ているだけだった。

 

 あれ? そういえば言われるがままに入っちゃったけど……。

 

「こらお前ら! 職員室で遊ぶんじゃない!」

 

 僕たちが入ってきた方には鉄人が立ち塞がり、須川君の襟首を掴んでいる。

 その後ろには恐れおののいているFFF団数名の姿も見える。

 職員室には扉がもう一つあるが、向こうの扉は鍵がかかっていて開かないのだろう。

 ガンガンと凄い勢いで誰かが叩いている。

 聞こえてくる声からしてあれは清水さんだろう。

 でもかなり興奮しているようで、何を言っているのかさっぱり分からない。

 

「ね、ねぇ美波、これって袋の鼠じゃないの?」

「う……そ、そうね。どうしよっか……」

 

 後のことは考えていなかったのか……。咄嗟の行動だったんだな。

 でも間一髪のところで逃げ果せたのは確かだし、ここは感謝すべきだろう。

 よし、後は僕がなんとかしよう。美波に任せっきりというわけにもいかないし。

 

 まず、勝利条件は僕と美波の両方が学園を出ること。

 もしくは一時間捕まらずに逃げ延びることだ。

 どちらにしてもまずはこの職員室からの脱出を考えるべきだろう。

 そうしなければ外に出ることも時間切れを狙うこともできやしない。

 

 職員室の出入り口は二つ。片方は鉄人が、もう片方には鬼が待ち構えている。

 現状ではどちらも脱出経路としては使えないだろう。

 

「誰ですか乱暴に叩くのは! お止めなさい! 扉が壊れます!」

 

 状況を確認していると、窓際の席に座っていた高橋先生が堪りかねたように声を上げ、立ち上がった。

 そしてカツカツとヒールを鳴らしながら扉に向かう。

 まずい! 扉を開けるつもりだ! 今あれを開けられたら鬼がなだれ込んで来てしまう!

 

「先生! そこは開けちゃダメだ!」

 

 僕が叫ぶと高橋先生はキッと険しい顔をこちらを向け、眼鏡の奥の目を吊り上げた。

 

「扉を壊されては堪りません! あなたたちも遊ぶなら外でやりなさい! 職員室は遊び場ではありませんよ!」

 

 高橋先生は僕の制止を聞いてくれなかった。そして再び扉に向かって歩いて行く。

 

 まずい……このままじゃ清水さんが入って来てしまう。

 今の彼女は僕たち──というより美波を捕まえることで頭が一杯だ。

 この先どんな行動に出るか分からない。

 あんな状態の清水さんを高橋先生に抑え切れるだろうか?

 

 とにかくここにいたら鉄人か清水さんのどちらかに捕まってしまう。

 一刻も早くここから脱出しなくては……。

 でも職員室の出口はあの二つのみ。今はどちらも非常に危険な状態だ。

 他に出口は──ん?

 

 外でやれ?

 

 高橋先生の言葉を思い出してふと後ろを見る僕。

 後ろは一面ガラス窓になっていて、そこから校庭の様子がよく見えた。

 普段は運動部が練習をしている校庭。

 しかし今日はそのような光景も無く、茶色い地面の上では落ち葉がくるくると風に舞っている。

 

 そうか! 出口がダメなら──!

 

「美波、ここから出るよ!」

 

 こっちしかない!

 

 僕は机を回り込み、窓を開けた。

 外から冷たい風が入ってきて、卓上の紙を数枚舞い上げる。

 上履きのままだけどこの際気にしていられない!

 

「こら吉井! ちゃんと出口から出て行け!」

 

 鉄人が須川君を床に押え込んだまま怒鳴りつける。

 だが気にしている暇は無い!

 

「行くよ美波!」

 

 僕は窓に足を掛け、そこから外へ飛び出した。

 

「先生、すみません!」

 

 続いて美波も同じように窓から脱出する。

 

 よし!

 

「このまま一気に校門を駆け抜けよう!」

 

 勢い付いた僕は校庭を走る。

 すぐ後ろには同じように疾走する美波の姿がある。

 FFF団や清水さんが追って来る気配は無い。

 

 勝てる!

 

 少し余裕を見た僕は後ろを振り返り、職員室の様子を確認してみた。

 するとその窓から清水さんが飛び出してくるのが見えた。

 

「おのれ吉井明久ァ! お姉様を渡しなさァァい!!」

 

 鬼の形相で凄い勢いで追いかけてくる清水さん。

 やはり高橋先生には抑え切れなかったようだ。

 その後ろからは鉄人の捕縛を逃れたと思われるFFF団の数名も追ってくる。

 ゆっくりしてる暇は無さそうだ!

 

「急ぐよ美波!」

「ダメよアキ! あれを見て!」

 

 美波が立ち止まって指を差す。

 

 何がダメなんだ?

 と僕も立ち止まって前方に目を向けると、校門近くに二つの黒い人影が見えた。

 比喩とかじゃなくて、ホントに黒い。

 頭から被る黒いマントと目の部分だけに穴の空いた黒い覆面。

 異様な雰囲気を醸し出すあの出で立ち。

 間違いない。FFF団だ。

 

 待ち伏せか! くそっ! もう手が回っていたのか!

 どうやら簡単には勝たせてくれないらしい。

 でもどうする? 急がないと後ろの清水さんが──

 

「吉井! やはり現れたな!」

 

 立ち止まって考え込んでいたら怪しい連中がこちらに気付いてしまった。

 

「我ら血の盟約に背いた報いを受けろ!」

 

 彼らはそう叫びながらこちらに向かって走ってくる。

 まずい! このままじゃまた挟み撃ちだ!

 とにかく一旦どこかに隠れて追っ手を巻かないと!

 

「美波、こっちだ!」

「えっ? どこに行くのよ!」

 

 僕は方向を体育館に変えて走り出す。

 

 この校庭じゃ隠れる場所なんて無い。

 けど、昼休みに雄二とやりあったあそこなら植木がたくさん植えられている。

 それにその先の校舎裏にだって隠れる場所は何ヶ所もある。

 

「分かった。裏門から出るのね?」

 

 後ろを走る美波が僕に問い掛ける。向かっている先が分かったようだ。

 

「いや。正門で待ち伏せされていたから、きっと裏門も見張られていると思う」

「それもそうね……。でもそれじゃどうするの?」

 

 確かに向かっているのは裏門方面だ。でも目的は裏門からの脱出じゃない。

 

「僕に考えがあるんだ」

「考え? どんな?」

「まぁここは僕に任せてよ」

「……うん、分かった。アキを信じる」

「ぇ……?」

 

 正直、意外だった。

 

 美波のことだからもう少し聞き返してくると思っていた。僕はそれに答えるつもりもあった。

 でも美波は何も聞かずについてきてくれた。

 ホント、一体どうしてこんなに急に態度が変わったんだろう。

 昼休みの時はあんなに怒っていたのに。

 

 けど──嬉しい。

 さっきまで喧嘩していたのに、今はこんなにも僕を信頼してくれている。

 このことがなんだか無性に嬉しかった。

 昨日からの辛かった気持ちがこのことを余計に嬉しく感じさせているのだろうか。

 

 清水さんとFFF団はそんな僕らを執拗に追い続ける。

 こんな状況であるにも関わらず、僕は自然と口元が緩んでしまった。

 

『お姉様っ! 止まってください! どうして美春の言葉を聞いてくださらないのです!』

 

 必死に呼び掛ける清水さんの声が後方から聞こえてくる。

 さすがにちょっと可哀想になってきたな……。

 清水さんの悲痛な叫びに僅かに同情を覚え、僕はほんの少しだけ足を緩めてしまった。

 

「話を聞かないのはアンタの方でしょうが!」

『違いますっ! お姉様はその男に(たぶら)かされているのです! やはりお姉様の正気を取り戻すにはその男をこの世から消し去る以外ありません!!』

「美春! もういいかげんにしてーっ!」

 

 ……同情していたら殺されそうだ。やっぱりここは非情になるしかない!

 

 再び全力で走る僕。

 

 確かに清水さんの足は早い。

 でも僕も美波も脚力には自信がある。簡単に追い付かれたりはしない。

 むしろ注意すべきはFFF団だ。粛正モードに入った彼らの統率力はかなりのものだ。

 だが、付け入る隙はある。

 彼らは一つの目的に固執するあまり、冷静な判断力を失うのだ。

 恐らく清水さんもあの様子からして今は正常な判断ができないだろう。

 それを利用させてもらう!

 

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