バカと喧嘩と言えない秘密   作:mos

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part J

 一口サイズのお菓子はすぐに食べ終わってしまった。

 鬼ごっこの時間切れまではまだだいぶある。

 そこで僕たちはこの屋上で時間を潰すことにした。

 

「ねぇアキ」

「うん?」

「あのね、昼休みの時に見せた写真なんだけど……」

 

 昼休み? 写真? なんだっけ……?

 

「ごめん、よく覚えてないんだけど……なんだっけ?」

「もう……これよこれ!」

 

 美波がちょっと()ねたような顔をして写真を取り出し、僕に突き付ける。

 

「あぁ、これか」

 

 僕に抱きつく姫路さんの姿が写っている写真。

 これなら確かに昼休みに見せられた。

 あの時は説明できなくて結局喧嘩を(こじ)らせちゃったけど……。

 

「この写真ね、実は土屋に貰ったものなの」

 

 うん。知ってた。だって他にこんなもの撮るヤツなんていないし。

 

「これって、その……瑞希と抱き合ってわけじゃ……ないのよね?」

「えぇっ!? あ、当たり前じゃないか! これは姫路さんが転んじゃってたまたまこうなっただけだよ!」

「やっぱりそうなのね。ウチね、あの後冷静になってこれをよく見てみたのよ。そうしたらこれ瑞希の靴が片方脱げてるじゃない。だから転んだだけなんじゃないかなって思ったの。あの子、運動が苦手だものね」

 

 そういえばこの写真、よく見たら姫路さんの上履きが片方脱げている。

 こんな写真なら冷静に説明していれば変に誤解することも無かったんじゃないだろうか。

 そうすればすぐに仲直りできただろうし、あんなに辛い思いもしなくて済んだんじゃないのか?

 なんであの時説明しなかったんだろう。

 

 ……そうだった。

 

 あの休み時間の前に、美波と久保君が楽しそうに話しているところを見たんだった。

 それを見ていたらなんだか凄くモヤモヤした気分になって……。

 

 あの時って久保君と何を話していたんだろう?

 聞いちゃいけないような気もするけど……やっぱり気になる。

 でもそんなこと聞いたりしたらきっと変に思われるよね。

 それに本当は僕なんかより久保くんの方が良かったりしたら……。

 

 ……

 

 あぁーもう! 何をウジウジしているんだ僕は! これじゃ雄二の言う通りじゃないか!

 悩んでたってしょうがない! 男なら当たって砕けろだ!

 

 僕は思い切って声を発した。

 

「み、みんみみ美波っ!」

 

 ──が、その声は裏返り、酷く(ども)っていた。

 

「ぷ……アキ、(せみ)の鳴き声みたいになっちゃってるわよ?」

 

 笑われた……。

 でも美波の言うとおりこれじゃミンミンゼミだ。少し冷静にならないと……。

 

「えっと、三時間目の後の休み時間なんだけどさ」

「? うん」

「あの時、Aクラスのところで久保君と話してなかった?」

「え? あっ……あれ、見てたの?」

「いや! かかか隠れて見るつもりなんて無かったんだけどさ! 偶然見かけて……その……」

「隠れて見てたの?」

「ああいや! そ、それは……その……」

 

 あぁもう……僕のバカ……。なんでこう口に出しちゃうだろう……。

 

「たまたま廊下で会ったから話したのよ。Aクラスは休みなのに来てたからどうしたのかなって思ってね」

「で、でもあんなに楽しそうに──っ!」

「えっ?」

 

 しまった!

 こんな聞き方したらヤキモチ焼いてたのがバレちゃうじゃないか!

 

「そうね。ちょっと楽しかったかも」

「えぇっ!?」

 

 や、やっぱり楽しかったのか……。

 

「でも久保って変わってるわね」

「へ? 変わってる?」

「うん。あの人、変なことばっかり聞くのよ。”アキの好きな食べ物は”とか、”好きな色は”とかね。そんなの聞いてどうするのかしらね」

「そ、そうなんだ……変わってるね……」

「それにアキのこと”アッキー”なんて呼び方してたわ。最初聞いた時、誰のことか分からなくて聞き返したのよ。そうしたら急に慌てちゃって。それでウチおかしくなってきて思わず笑っちゃった」

 

 なんだろう。変な寒気がしてきた……。

 風が冷たいとかそういうのじゃなくて、悪寒とでもいうのだろうか。

 何か身の危険を感じる……。

 

「そ、それで久保君はどうしたの?」

「最後にウチに”アキと別れたのか”って聞いてきたから、そんなわけないでしょって返事したら、しょんぼりして帰っちゃったわよ?」

「へ、へぇ~……そっか……そうなんだ……」

 

 なんだ……久保君とは別に何でもなかったんだ……。

 僕の取り越し苦労だったのか……。

 あんなに色々考えたのに、まるっきりバカみたいじゃないか。でもよかった……。

 

「でもどうしてそんなこと聞くの?」

「えっ!? いやそれはその……えっと……」

 

 な、なんて答えよう? 下手な言い訳したら怪しまれるし……。

 

「あっ……。もしかしてアキ、妬いてるの?」

 

 !?

 

「いいいいやぜんぜん!? そそそそんなことないよ!?」

 

 み、見透かされた──!?

 

「アキ? 顔が真っ赤よ?」

「い、いやこれは! そ、そんなんじゃなくて……! その……」

 

 僕は恥ずかしさで頭が一杯になり、顔が燃えるように熱くなってしまった。

 

「ふふ……誤魔化してもダメよ。そんな顔してたらすぐ分かっちゃうんだからね」

「う……」

 

 は、恥ずかしい……! 久保君に嫉妬して、しかも勘違いだったとか……。

 穴があったら入りたいよ……。

 

「ご、ごめん……なんか、ごめん……」

 

 美波の言葉で完全に混乱してしまった僕は、何故か謝っていた。

 

「ううん。……妬いてくれて、ありがと」

「い、いや、そんな……」

 

 美波は僕の腕に強く抱きつき、肩に頬を寄せる。

 その仕草は僕の恥ずかしさを一層掻き立てていった。

 

「はぁ……翔子の言うとおりだったなぁ……」

 

 そんな僕を余所に、美波がため息混じりに言い出した。

 

「霧島さん? な、何が?」

「ウチね、実はこの四日間ずっと休み時間はAクラスに行ってたの」

「へっ? そ、そうなの?」

 

 おかしいな。あの時Aクラスも探したんだけどな。見落としたのかな……。

 

「うん。それでね、さっき補習が終わった後もどうしたらいいか分からなくてそこで悩んでたの。そうしたらね──」

 

 

 

 ~~~~~~ 補習授業後のAクラス ~~~~~~

 

 

 

「……美波」

「翔子……?」

「……どうしたの。昨日から様子が変」

「そ、そんなことないわよ? ウチはいつも通りよ」

「……嘘。いつもはそんな暗い顔してない」

「……」

「……話してみて。力になれるかもしれない」

「ありがとう翔子。でもこれはウチとアキの問題だから……」

「……吉井と何かあった?」

「うん……ちょっと、ね……」

「……喧嘩した?」

「えっ? どうして分かったの?」

「……美波がそんな顔をするのは自分を責めている時」

「顔……そうね……。今のウチきっと酷い顔してるんでしょうね。今は鏡も見たくないわ……」

 

「「……」」

 

「ウチ……アキに酷いこと言っちゃった……」

「……何て言ったの?」

「その…………空気だって……」

「……空気?」

「うん……」

「……地球の大気圏内に存在する無色透明の気体。約8割の窒素と約2割の酸素が主成分」

「そうじゃないの! そういう意味じゃなくて……」

「……?」

「悪い意味で使っちゃって……」

「……それで吉井が怒った?」

「多分……怒ってると思う……」

「……どうしてそんなことを言ったの?」

「それは……」

「……吉井が変なことを言った?」

「ううん。違うの。アキはぜんぜん悪くなくて……」

「……詳しく話してくれる?」

「うん……」

 

「ウチ、テストが終わってからあれのことであんまり寝てなくて、補習授業とかアキと一緒に帰る時とかも、ぼんやりしちゃってたの」

「……うん」

「それをアキはウチが徹夜で勉強してるんだって思ったみたいで、昨日瑞希と一緒に手伝うって言い出したの。でも誰かに手伝ってもらうわけにいかなかったから断ったんだけど……」

「……うん」

「そうしたらアキが怒って瑞希瑞希って言ってきて……でもあれのことはまだ言えないし……それでウチも頭が混乱してきちゃって、もうわけ分かんなくなっちゃって……それで……つい……」

「……殴ってしまった?」

「うん……」

「……前はよく吉井を殴ってた」

「それは……そうなんだけど……。今回はちょっと違くて……」

「……どう違うの?」

「……」

 

「昨日のことはアキがウチのことを心配してやってくれたことなの。それなのにあんなことしちゃって……」

「……そう……」

「きっとアキ、怒ってる。もうウチのことなんか嫌いになったと思う……」

「……吉井はそんなことで怒ったりしない。それは美波が一番よく知ってるはず」

「ううん! きっと怒ってる! だって──!」

「……だって?」

「だって……さっきもあんな酷いこと……言っちゃったから……」

「……恐いのね」

「うん……」

「アキは今までウチが何をしても怒ったりしなかった。それはアキが優しいからで、ウチはそれにずっと甘えてきたんだと思う。だから……昨日の怒ったアキが凄く……恐かった……」

「……大丈夫。怒ったのはあなたを思ってのこと」

「そうなのかな……」

 

「……私はあなた達が羨ましい」

「えっ? 喧嘩してるウチらが?」

「……ううん。あなた達は喧嘩をしてるようで、してない」

「どういうこと……?」

「……美波は自分のしたことを謝りたいって思ってる。だからあなた達はもう喧嘩はしてない。あとはきっかけがあればいいだけ」

「きっかけ……」

「……美波と吉井はお互いに想い合ってる。それが私には羨ましい。雄二はまだ素直になってくれないから」

「想い合ってないと思うな……少なくとも今は……」

「……ううん。美波は今でも吉井のことを思ってる。きっと吉井も同じ」

「そうかな……」

「……絶対に」

 

「「……」」

 

「ウチ、どうしたらいいのかな……」

「……美波はもう自分で答えを出してる。後は実行するだけ」

「でも……」

「……このまま吉井と喧嘩別れしたい?」

「そんなわけないじゃない! ウチは! ウチは……」

「……それなら美波がやるべきことは一つ。勇気を出すこと」

「勇気……」

「……吉井を信じられない?」

「そんなことない! そんなことないけど……」

「……大丈夫。あなた達ならうまくいく」

「翔子……」

「……勇気を出して」

 

「そうね……恐がってるだけじゃ何も解決しないものね」

「……うん」

「ありがとう翔子。ウチ、もう一度アキと話す。ちゃんと謝ってみる!」

「……頑張って。私も頑張る」

「うん! 行ってくる!」

 

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