バカと喧嘩と言えない秘密   作:mos

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僕と美波と言えなかった秘密
part A


「それはそうと。ねぇアキ」

「うん?」

「触ったわね」

「へ? 何を?」

「お尻……触ったでしょ」

「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って! 僕はそんなことしてないよ!?」

「……召喚獣で」

「あぁ……なんだ、そういうことか」

 

 確かにさっき僕の副獣が持ち上げたのは美波のお尻だ。

 

「……」

 

 美波は僅かに顔を赤らめながら僕を睨み付ける。

 

「い、いや、でもほら、それは召喚獣だし」

「アキの召喚獣って感覚もあるんでしょ?」

「うっ……まぁ、そうなんだけど……」

 

 僕の召喚獣には受けたダメージがフィードバックするという、できれば欲しくない能力がある。

 ただ、返ってくるのはダメージだけじゃなくて、それ以外の感覚もある程度伝わってくる。

 それは教師の雑用係として使う場合に物を触った感覚が無ければ加減ができないからであろう。

 

 そういえばさっきは夢中で気にしていなかったけど……。

 言われてみると確かにこう……ハリがあって……柔らかかったような……?

 

「……スケベ」

 

 ぐはっ!!

 

「やめてっ! そんな目で僕を見ないで! だって仕方なかったじゃないか! あの場から逃げるにはこうするしかなくて──」

「なんてね。冗談よ。おかげで助かったんだし、今回は大目に見てあげるわ」

「な、なんだ冗談か。よかった……」

 

 やれやれ。心臓に悪い冗談だよ……。

 

「……でも、さ」

「ん?」

「……触って……みたいの?」

「そりゃ僕だって男だし」

 

 ハッ! 何を正直に言ってるんだ! これはきっと誘導尋問だ!

 きっと”うん”なんて答えたら待っているのは卍固めか逆エビだ!

 

「ああぁぁ今の嘘! 冗談! そ、そんなこと──」

「じゃあ……」

「うん?」

「”愛してる”って言ってくれたら……」

 

 え……。

 

「触らせて──」

「美波」

「えっ?」

「そんな交換条件はやめてくれないか」

 

 美波に悪気は無かったのかもしれない。でも僕は美波の言おうとしていることが嫌だった。

 だから思わず語気を強めて言ってしまった。

 

「……そうね。ウチみたいな寸胴(ずんどう)じゃ触っても面白くないものね!」

 

 口を尖らせ、()ねたように美波が言う。

 

「そうじゃないんだ」

「じゃあどういうことよ」

 

 美波は少し怒っているようにも見える。僕がからかって言っていると思っているのだろうか。

 だとしたらそれは誤解だ。僕はこれ以上無いくらい真剣なんだ。

 

「その言葉はもっと大事にしたいんだ」

 

 僕はそう言いながら真剣な眼差しを美波に向けた。

 なぜなら、この言葉は僕にとって目標でもあるものだから。

 

「……うん……。変なこと言ってごめんね」

 

 美波は僕の目をしばらく見つめると、目を逸らしてそう言った。

 きっと僕の気持ちを察してくれたのだろう。

 

 僕は返事の代わりに美波の手をぎゅっと強く握った。

 

 

 

          ☆

 

 

 

 辺りは既に暗くなっていた。

 街灯には灯が灯り、道路を明るく照らしている。

 

 いつもの商店街を通り抜け、住宅街を歩く僕と美波。

 いつもの帰り道。

 ただ、隣を歩く美波の口数がいつもより少ない。

 

 さっきは強く言い過ぎてしまったかな……。

 少し後悔した僕は美波に話し掛けてみた。

 

「あの……さ、美波」

「うん」

「さっきはちょっと強く言い過ぎたよ。ゴメン」

「えっ? 何のこと?」

 

 あれ? 違うのか?

 

「いや、なんか元気が無いからさ、また僕が言い過ぎちゃったのかなって思って……」

「あ……ううん。そんなこと無いわ。アキの言うことも正しいと思うし。そうじゃなくてね、今ちょっと考え事してたの」

「そ、そっか、それならよかった……」

 

「「……」」

 

 会話がそこで途切れ、僕たちは静かに歩き続けた。

 

 考え事か……。

 僕がさっき言ったことの意味を考えているのかな。

 それとも僕にも言えないっていうアレのことなのかな……?

 そんなことを考えながら公園の前を通り掛かった時、美波が言い出した。

 

「アキ、ちょっとここに寄ってもいい?」

「ん? 公園に? 僕はいいけど……トイレ?」

「ううん。そうじゃなくて、やっておきたいことがあるの」

 

 やっておきたいこと? こんな所でやっておきたいことって何だろう?

 う~ん……。

 まぁいいか。美波がそうしたいって言うのなら。

 

「分かった。えぇと、それじゃあ……」

「あそこのベンチでいい?」

 

 美波が公園の片隅のベンチを指差して言う。

 

「あ、うん。いいよ」

 

 いつもは子供たちの遊ぶ姿がある公園。

 でもこの時は誰もいなかった。きっと日が暮れて皆家に帰ったのだろう。

 僕たちは街灯のすぐ横のベンチに腰掛けた。

 

「すぐ終わらせるから、こっち見ないでね」

 

 そう言うと美波は僕に背を向け、鞄から何かを取り出した。

 一体何だろう? まるで鶴の恩返しだ。

 でも見るなって言われると見たくなるよな……。

 僕はチラリと横目に美波の様子を伺ってみた。

 

 見えたのはいつものポニーテールと黄色いリボン。それにせっせと動かしている両腕。

 何をしてるんだろう。

 

 ……覗いてみたい。

 

 でも見るなって言ってたし、覗き込んだりしたら怒るだろうなぁ……。

 うぅ……でも気になる……。

 これじゃ本当に鶴の恩返しだ。

 

 そういえば童話では最後にお爺さんが娘の正体を見てしまって鶴が去ってしまうんだっけ。

 あの童話の通りになったら嫌だな……。

 まぁ美波は鶴じゃないどさ。でもやっぱり約束は破っちゃいけないな。

 仕方ない。ここは美波を信じて待とう。

 

 僕はベンチの背もたれに寄りかかり、小刻み手を動かしている美波を静かに見守った。

 

 

 ……

 

 

 何分くらい経っただろうか。

 指が冷たいのか、美波は時折指に息を吹き掛けるような仕草を見せている。

 昼間は比較的暖かかったけど、日が落ちて気温もだいぶ下がってきた。

 長時間こんな所にいたら風邪を引いてしまいそうだ。

 僕は心配になって聞いてみた。

 

「ねぇ美波、家に帰ってからじゃダメなの?」

「ダメ! 今終わらせたいの!」

 

 振り向きざまに邪魔をするなと言わんばかりに美波が声を荒げる。

 どうしても今じゃないとダメらしい。

 

「わ、分かったよ……」

 

 しょうがない。こう言う時の美波には逆らわないほうが身のためだ。

 

 ん? そういえば体育館の横で隠れていた時も同じようなことを言ってたような……?

 あの時は必死に鞄を取りに行こうとしていたんだっけ。

 やっぱり鞄に大事なものが入っていたんだな。

 

 家に帰る前にやっておきたいこと……か。

 つまりあれは美波の家に関係する何かということなのかな。

 

 ……余計な詮索はやめよう。

 

 きっと何か事情があるのだろう。とにかく今は美波の邪魔をするべきじゃない。

 

 僕は諦めて美波を待つ事にした。

 

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