バカと喧嘩と言えない秘密   作:mos

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part D

 翌日。

 

 今日も一日補習授業だ。

 授業が始まる前に美波と話そうと思っていた。だが当の本人がなかなか来ない。

 もしかして体調を崩して寝込んでしまったとか……?

 と、心配していたら、授業開始の二分前に教室に飛び込んできた。

 遅刻寸前。滑り込みセーフだ。

 余程慌てていたのだろう。ポニーテールを纏め上げているリボンの結び目がずれて、少しアンバランスになってしまっている。

 

「美波、リボン曲がってるよ」

「えっ? ホント?」

「ちょっとじっとしてて」

 

『『『……!(ギリッ)』』』

 

 教室内から凄まじい殺気を一身に浴びる。

 しかしそれももう慣れたもの。

 僕はそれを気に留めることもなく、美波のリボンを整えてやった。

 

「こんなもんかな」

「ありがとアキ。でもそう言うアンタも寝癖ついてるわよ?」

「へ? あ、ホントだ……」

 

「見せつけてくれるのう」

「変われば変わるもんだな」

「…………夜道に気をつけろ」

 

 秀吉や雄二が僕をひやかす。

 ただ、ムッツリーニの言葉には本気の殺意が込められているような気がした。

 

「授業を始めるぞ。お前らカッターをしまえ」

 

 そんなことをやっていたら鉄人が来てしまった。

 どうやら周りの皆はカッターを手に構えていたようだ。危ないところだった……。

 でも例の件を話す時間が無かったな。仕方ない。休み時間に話そう。

 

 今日も教師は鉄人だ。

 鉄人曰く、この調子で行けば明日で補習は終わりらしい。

 それを聞いたFクラスの面々は明日もかと愚痴を溢す。

 

 そして今日も鉄人の一日密着授業が始まった。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 休み時間。

 

 よし、美波と話を……って、あれ?

 

 気付いたら美波は隣の席から姿を消していた。

 どこへ行ったんだろう……。

 あまり時間も無いな。急いで捜さなくちゃ。

 と言っても思い当たる場所なんて無いぞ?

 時間も無いし、もう手当たり次第見てみるか……。

 

 僕はとりあえず三階を捜してみた。

 隣のEクラスに人の気配は無かった。

 向かいの文化部の部室には鍵がかかっていて入れない。

 

 新校舎側だろうか。

 渡り廊下を通り、新校舎のBクラス……鍵がかかっているし、人の気配も無い。

 反対側のAクラスには──ん? 誰かいる。あれは……?

 

「霧島さん?」

「……吉井?」

 

 Aクラスには一人だけ。

 机で教科書を広げている霧島さんがいた。

 

「霧島さんも補習?」

「……ううん。一人で自習してた」

「そっか。そうだよね。Aクラスに補習があるわけないよね。でもなんでこんな休みの日に?」

「……雄二が来てるから」

「あぁ、そうなんだ」

 

 って、納得していいんだろうか。

 以前からよくあったことだけどさ……。

 本当に霧島さんは雄二を慕ってるんだな。あいつには勿体ないくらいだ。

 

「そうだ霧島さん、美波を見なかった?」

「……ううん。教室にいないの?」

「うん。話をしたかったんだけど、ちょっと目を離したらいなくなっててさ」

「……私はずっと机に向かってたから分からない」

「そっか。ありがとう。他を捜してみるよ」

「……待って吉井」

「うん?」

「……授業の終わる時間を教えて」

 

 霧島さんなら雄二のことなんでも知ってると思ったけど、そうでもないのか。

 えっと、今日の残りの授業は……あと三科目かな?

 

「確かあと三時間のはずだよ」

「……そう。ありがとう」

「じゃ、僕はこれで!」

 

 と背を向けると、

 

「……待って」

 

 霧島さんが再び呼び止めた。

 

「何? 僕急ぐんだけど……」

「……これあげる」

 

 そう言って霧島さんは小さな袋を差し出してきた。

 

 なんだろうこれ?

 と疑問を抱きながらも取り敢えず受け取った。

 中を見てみると、それにはクッキーやチョコレートが入っていた。

 

「これは?」

「……このクラスの備品のお菓子。教えてくれたお礼にあげる」

 

 あぁそうか。すっかり忘れてたけどAクラスってお菓子を常備してるんだっけ。

 飲み物も自由だし。いいなぁAクラスの設備は……。

 って、そんなこと関心してる場合じゃないや。

 

「ありがとう霧島さん! じゃあまた!」

 

 僕はお菓子の袋をポケットに押し込み、Aクラスを後にした。

 

 ここにもいないとなるとCクラスかDクラスしか残ってないな。

 廊下を更に進み、奥のCクラス、Dクラスも覗いて見た。

 が、やはりそこに人影は無かった。

 

 本当にFクラスしかいないんだな……。

 今頃他のクラスの皆は休みを満喫しているのか。くそっ……。

 いや、今はそんなことより美波だ。

 

 でもこれで三階は全部だな。ということは三階にはいないのか。

 そうなると屋上か一階の職員室か実習室か……。

 けどもう時間が無い。授業に遅れれば追加補習が待っている。もう戻らないと……。

 

 僕は仕方なく来た道を走り、Fクラスへ戻った。

 ところが教室に入ると既に美波は席に戻っていた。

 

「あれ? 美波どこ行ってたのさ」

「ん。ちょっと……ね」

「ちょっとって?」

「どこでもいいじゃない。そんなことよりすぐ西村先生が来るわよ」

 

 美波は(はぐ)らかし、ちゃんと答えてくれなかった。

 僕にも秘密ってことか。

 なんか……寂しいな……。

 

「授業を始める。全員揃ってるな」

 

 鉄人の補習授業が始まってしまった。

 話は次の休み時間だ。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 そして次の休み時間。

 

 僕はさっきの授業で出された問題に答えられず、そのことで鉄人に掴まってしまった。

 こんなことしてる場合じゃないのに……。

 

 教壇で鉄人の説教を受けていると、美波が教室を出て行くのが見えた。

 

「あっ……みな──」

「吉井! 聞いているのか!」

「は、はいっ! 聞いておりますです!」

 

 あぁもう……どうして僕はこう運が悪いんだ……。美波と話したいのに……。

 

 そんな僕の思惑とは裏腹に鉄人の説教は続いた。

 結局、この休み時間はずっと説教を聞かされていた。

 

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