その次の休み時間。
やはり美波は一人でどこかへ行こうとする。
よし、今度こそ話を……。
「吉井! 何処へ行く気だ! 逃がさんぞ!」
「貴様にはここで大人しくしていてもらうぞ!」
と思ったら今度は須川君たちの邪魔が入った。
……なんで皆して僕の邪魔をするんだよ! 一刻も早く美波を安心させてあげたいのに!
「あぁもう!! いいかげんにしろ!! 僕の邪魔をするな!!」
苛ついた僕は思わず声を荒げた。
「! ……お、おう」
「そ、そりゃ……すまなかったな……」
いつになく強い僕の口調に驚いたのか、須川君たちは意外にも素直に引き下がってくれた。
僕は背後から冷ややかな視線を浴びながら教室を飛び出した。
だが廊下に出て左右を見渡してみると、もう美波の姿は無かった。
くそっ! 完全に見失ってしまった!
屋上か?
そう直感した僕は階段を駆け登った。
四階を通過し、そのまま屋上への階段を登り、乱暴に扉を開けると――
誰もいなかった。
ここじゃないのか……。当てが外れてしまったな……。
息を切らせながら僕はがっくりと肩を落とした。
無駄足だったか。どこに行ってるんだろう……。
ハァ……戻るか……。
諦めて教室に戻ろうとした時、
「明久君っ!」
と、僕を呼ぶ声がした。この声は姫路さんだ。
振り向くと、姫路さんが息を上げてそこに立っていた。
「なんだい? 姫路さん」
「あ、あの……美波ちゃんのことなんですけど……何かあったんですか? 休み時間になると一人でどこかへ行っちゃいますけど……」
肩で息をしながら心配そうな目で問う姫路さん。
姫路さんも美波の異変に気付いたんだな。
そうだ。姫路さんに勉強の手伝いをお願いしなくちゃ。
えっと、時間は……屋上の時計ではまだ五分くらいある。話してる時間はありそうだな。
「姫路さん、そのことでお願いがあるんだ」
「えっ? 私に……ですか?」
「うん。実はこのところ、美波は徹夜で勉強してるらしいんだ」
「そうなんですか? テストの点数が悪かったんですか?」
「いや、そういうわけじゃ無さそうなんだ。理由は分からないんだけど……。でも凄く頑張ってるみたいなんだ。それでさ、姫路さんに美波の勉強を手伝って貰えないかなと思ってさ」
「それなら喜んでお手伝いします!」
「ありがとう姫路さん。そうだ、雄二と秀吉とムッツリーニも呼んで皆で一緒にやろうよ」
「はい! 是非そうしましょう!」
姫路さんが嬉しそうな笑顔で答える。
よかった。これで美波も夜中まで勉強することもないだろう。
「じゃあ姫路さん、今日の補習が終わったら美波と皆に話そう」
「分かりました。それじゃ教室に戻りましょう。もう時間ですよ」
「げっ! ほんとだ! 急いで戻ろう!」
☆
その日の補習授業が終わり、僕はようやく美波と話すことができた。
「やっと補習も終わりね。疲れたぁ~……。さ、アキ、帰りましょ」
「うん。でもちょっと待って」
「? 何かあるの?」
僕は姫路さんに目を向け、頷いた。姫路さんもそれに応じて頷いてくれた。
そして僕は例の件のことを話しはじめた。
「美波、最近夜中まで勉強してるって聞いたけど、それって本当?」
「えっ? どうしてそれを?」
「葉月ちゃんが僕に話してくれたんだ。美波のこと心配してたよ?」
「あの子ったら……。黙ってなさいって言ったのに」
「じゃあやっぱり本当なんだね?」
「う、うん……」
「それなら姫路さんに教えてもらうのがいいだろうって思ってさ。僕からお願いしたんだ。そうしたら協力してくれるって言ってくれたんだよ」
「はいっ、美波ちゃん、一緒にやりましょう」
「……瑞希、気持ちは嬉しいんだけど……。これはウチが一人でやらなくちゃいけないの。だから、ごめん」
「えっ? でも一緒にやった方が効率もいいですよ?」
「それは分かってるんだけど……今回はダメなのよ」
「どっ、どうしてですか! いつも皆で一緒に勉強してきたじゃないですか! 困った時はお互い様です! 私、お手伝いしますから!」
「瑞希……。ごめん」
「……そうですか……。分かりました……。でも私に出来ることがあったら何でも言ってくださいね……」
姫路さんは悲しそうにそう言うと、教室を出て行ってしまった。
僕は呆気にとられてしまい、二人のやりとりに口を挟めなかった。
美波が姫路さんの申し入れを断るなんて思わなかった……。
これで美波が徹夜することもなくなる。そう思っていたのに……。
「美波……」
「アキ、帰りましょう」
「美波!」
「な、何よ」
「いったいどうしちゃったんだよ! 姫路さんの申し出まで断っちゃうなんて!」
「……」
「勉強なら姫路さんに教えてもらうのが一番に決まってるじゃないか!」
「そんなこと分かってるわよ……だから言ったでしょ。今回はダメなのよ」
「なんでだよ! なんでダメなんだよ!」
「それは……」
「どうして言ってくれないんだよ……」
「……」
「今からでも遅くないからさ、姫路さんに教えてもらおうよ」
「違うのよ! そうじゃなくて……」
「何が違うって言うのさ! 僕だって姫路さんのおかげで────」
「何よ!! 二言目には瑞希瑞希って! どうせウチは瑞希みたいにはできないわよ! そんなに瑞希がいいならずっと瑞希に教えてもらえばいいでしょ!」
「そ、そんなこと言ってないだろう!? 皆で一緒にやろうって言ってるんだよ!」
「だから今はできないのよ!」
「どうしてだよ!」
「……」
「僕にも言えないってのか……」
「アキの……バカ……」
「えっ?」
「アキのバカっ!! ウチの気も知らないで! もう知らないっ!! 勝手に瑞希と一緒に勉強でもなんでもすればいいじゃない!」
「なっ、何だよ! 美波がそんなに頑固だなんて思わなかったよ! こっちだって知るもんか! 勝手にしろ!」
「っ……!」
「うっ……。い、今頃そんな顔したってダメだ────っ!」
言い終わる前に振りかぶる美波の腕が見えた。
その直後、僕は左の頬に衝撃を受けた。
袋を破裂させたような、乾いた音を鼓膜に響かせて。