バカと喧嘩と言えない秘密   作:mos

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part G

 二時間目が終わり、休憩時間。

 美波はまた一人で教室を出て行ってしまった。

 僕はそれを見送るしかできなかった。

 

 ……

 

 鉄人はああ言ってたけど……僕の話なんて聞いてくれるのかな。

 あれからずっと目を合わせてくれないし……。

 

 僕の何がいけなかったんだろう……。

 やっぱり強く言い過ぎちゃったのかな……。

 

「ハァ……」

 

 なんでこんなに悩むんだろう。

 何を怖がってるんだろう僕は……。

 

 ……顔でも洗ってこよう。さっぱりすれば気分も変わるかもしれない。

 僕はゆっくりと立ち上がり、教室を出た。

 そして水飲み場のある新校舎に向かって渡り廊下を歩いていると、

 

「明久君っ!」

 

 後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。誰だろう?

 その声の方を振り向いた瞬間、

 

「きゃっ!」

 

 という声と共に胸に飛び込んでくるものがあった。

 

 な、なんだ!? 何が起きたんだ?

 突然のことで何が起こったのか分からなかったが、僕はそれを反射的に抱き止めていた。

 僕は飛び込んできたものを確かめるために胸元を見てみた。

 すると、そこにはふわっとした長い髪とウサギのヘアピンがあった。

 これは……。

 

「……姫路さん?」

「ご、ごめんなさい! 私そそっかしくて……」

 

 姫路さんの足元を見ると、上履きが片方転がっていた。

 きっと慌てて走って(つまず)いてしまったのだろう。

 

「大丈夫? 姫路さん」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 姫路さんはそう言って離れると、上履きを履き直した。

 そしてこんなことを言ってきた。

 

「明久君、私もう一度美波ちゃんと話してみます」

「美波と……?」

「はい。美波ちゃんが一人で勉強してるのはきっと理由があると思うんです。もしかしたら女の子同士なら話してくれるかもしれません。だから私、もう一度話してみようと思うんです」

 

 男の僕じゃ話せないこと……か。確かに姫路さんの言う通りなのかもしれない。

 どうも美波は僕を避けてるようにも感じるし……。

 ここは姫路さんの力を借りよう。

 

「……分かったよ姫路さん。僕からも頼むよ。美波の力になってあげてほしい」

「はいっ! じゃ、早速行ってきますね」

 

 姫路さんは元気にそう返事をすると、新校舎の方へ走って行った。

 僕はその後ろ姿を見守りながら思った。

 

 結局僕は何も出来ないんだな……と。

 

 

 

 その後、姫路さんは休み時間が終わる直前に戻ってきた。

 どうやら美波は見つからなかったらしい。

 その美波は鉄人が教室に入ってくるのとほぼ同時に滑り込むように戻ってきた。

 いったいどこに行ってるんだろう……。

 

「逃げ出した者はおらんな? では授業を始める」

 

 話す間もなく三時間目が始まってしまった。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 相変わらず鉄人の声はよく通る。

 授業中は他に声を出す者もなく、教室内には鉄人の声のみが響き渡る。

 この重低音は僕の空っぽのお腹に響き、僕に空腹感を思い出させていた。

 

 今朝、僕は喧嘩のことが気になってご飯が喉を通らなかった。

 考えてみれば昨日の昼以降、ほとんど食べていない状態だ。

 塩水生活で空腹には慣れていると思ったけど、いつの間にかちゃんとお腹が減るようになっていたんだな……。

 

「では休憩時間とする。十分後には全員席に戻るように」

 

 そう思っていた所で三時間目が終わった。

 

 隣を見ると既に美波の姿は無かった。

 やはり休み時間の開始と共にどこかへ消えてしまう。

 

 ……そういえば順番で言うと今日は美波がお弁当を作る番だったな。

 でもあの様子じゃ作ってきてるわけないよな……。

 

 昼休み前にあと一科目か。さすがにお腹が空いてきたな……。

 あ、そういえば昨日霧島さんに貰ったお菓子があったっけ。

 

 思い出して上着のポケットを探ると昨日のお菓子の袋の感触があった。

 袋を取り出して開けてみると、一口サイズのクッキーが三個とチョコレートが二個入っていた。

 ご飯の代わりにはなりそうにないけど……腹の足しにはなるかな。

 

 ……

 

 きっと美波もお弁当無いよね……。

 霧島さん今日もいるかな。美波の分も貰ってこようかな……。

 

 そうだ! これを渡してもう一度話すきっかけを作るってのはどうだろう?

 美波は甘いものが好きだ。

 きっと喜んでくれるに違いない!

 食べ物で釣るようでちょっと気が引けるけど……でもきっと話は聞いてくれるさ!

 

 よし! そうと決まれば早速Aクラスへ!

 

 

 

 僕は嬉しかった。

 やっと美波と仲直りするきっかけを見つけた。

 嬉々として教室を飛び出し、廊下に向かって走り出した。──だが。

 

 !

 

 廊下に出たところで僕は思わず扉の陰に隠れた。

 

 Aクラスは渡り廊下を渡ったすぐ先。

 その教室の前に二人の人影が見えた。

 片方は長い髪を後ろで纏め上げた特徴的なポニーテール。

 間違いない。あれは美波だ。

 

 そしてもう片方の人影は……。

 高い身長に僕くらいの短かい髪。細めの身体で、眼鏡をしているように見えた。

 その眼鏡に指を当てる仕草には見覚えがある。

 

 あれは────久保君?

 

 なんで久保君がいるんだろう。Aクラスは休みなんじゃないのか?

 もしかして霧島さんのように一人で自習しているんだろうか。

 

 美波と久保君は話をしているようだった。何の話をしているんだろう?

 会話の内容はここまでは聞こえてこない。

 ただ、時折見せる美波の笑顔がとても気になった。

 

 ……ダメだ。

 こんな覗き見みたいなことしちゃいけない……。

 そう思いながらも二人の様子から目が離せなかった。

 

 ……何やってんだろう僕……。

 

 罪悪感は次第に強くなり、見ていられなくなった僕は教室に戻った。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 ……

 

 美波と久保君……。

 何の話をていたんだろう。もしかして美波の勉強に関係してるのかな。

 じゃあずっと久保君と勉強をしてるってことなのか?

 だから姫路さんの申し出も断ってしまったのか……?

 

「よーし授業を始める。全員揃ってるな?」

 

 いつの間にか十分間の休憩が終わり、鉄人が教壇に立っていた。

 気付けば美波も席に着いていた。

 

 また憂鬱な時間が始まった。

 

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