八神クリニックへようこそ!   作:ナンジェイ

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カルテ16

 

 

 

 唐突な話だが、婚姻を結ぶ為には年齢制限なるものが法によって定められている。男性であれば満十八才、女性であれば満十六才を迎えていなければ結婚できない。義務教育の課程で習う内容の一つだ。

 

 法にそれほど詳しい訳ではないのであれだが、男が満十八才と定められているのは、社会的責任を負える年齢を考えた場合に十八才以上が妥当だという事だろうか。確かに、義務教育を終えて三年後、或いは高校卒業後と考えれば分からないでもない。

 

 対して女性の場合は満十六才、何故こちらは男性に比べて二年も早いのか。法がどのような理由で定めたのかは知らないが、医学的立場でこれを考えると十六才以上というのはある程度納得できる。その理由は、女性の体の発育と関係する。

 

 男性に無くて女性にあるもの……それ即ち子宮である。結婚をしたから出産を行うとは誰しも限らないが、そもそもその二つは同列に扱われる事が多い。結婚後出産、或いは子を授かったのを機に結婚をする場合もあるだろう。結婚に至るまでの過程は人それぞれだ。

 

 ここで前述の問題へ戻るが、子を授かるための機関であるそれは、妊娠した場合最低でも十六才を迎えていなければ母体の安全が脅かされる。体が成長していない年齢で妊娠をしてしまうと、最悪の場合母体が出産に耐えられずに命を落とすという危険を伴う。体が発育した状態の出産ですらある程度の危険は考慮されるのだ、成長しきっていない場合を考えるとその危険性は理解できるだろう。結婚年齢を十六才以上と定めているのは、そういった背景があっての事だと思われる。

 

 つまり、世の男性諸君は十六才未満の少女と結婚どころか性行為など以てのほかなのである。ゴムをすればいいとか、互いに同意の上だからいいとか話す人間がたまにいるが、そういう問題ではない。そこにほんの僅かなリスクがある以上、決して行っていい行為ではないのだ。

 

 年下に恋をするのは大いに結構、十六才未満の少女に想いを寄せるのも結構だ。しかし、人には理性というものが備わっている以上、時には限度というのを設けなければいけない。それが、何よりも相手を想い敬っているという証なのだから。

 

 そして、弁える必要があるのは大人側だけではない。

 

 

「六年生にもなると、みんなも興味を持ち始めて性に関する情報を得る機会が多くなるかもしれない。だけどね、これだけは覚えていてほしいんだ。浅はかな考えや間違った知識は当人達だけじゃなくて、周りの家族や友達、みんなを不幸にするんだって事を」

 

 

「男の子達も女の子達も、今は正しい知識をしっかりと身に付けて、将来は好きな人と一緒になれるように頑張ってくださいね。えっと……以上で、私達の授業を終わりたいと思います」

 

 

「ありがとうございました。はい、それではみんな、八神先生とシャマル先生にお礼と拍手!」

 

 

 とある木曜日の午後。八神クリニック休診日の本日、普段なら家でダラけている筈のオレはシャマルと二人で私立の小学校にて授業を行っていた。科目は総合分野、テーマはズバリ『性について』だ。

 

 実は、知り合いが勤めているこの学校から課外授業の一環として六年生の子に授業をしてほしいと頼まれていた。と言ってもその電話を受けていたのはシャマルで、オレはつい昨日知らされた身である。オレが直接頼まれていたら面倒くさがって断るだろうから直前まで話さなかったとはシャマルの談だが、決してそんな事はない。あり得ない。この国、いや世界の将来を担う子供達の為ならば、休日の一日や二日安いものである。そう話したら何かシャマルに感激された。貴女の中でのオレの評価って一体……

 

 そして、たった今授業を終えたオレとシャマルは、このクラスの担任の女性教員の投げ掛けによって三十人弱の子供達からお礼をされた後、惜しみ無い拍手を頂いている。つまらなくならないように漫画やらパネルやら活用して努力はしたけど、それ以上にみんな真剣に授業を受けてくれていたし、疑問に思った事は積極的に質問してくれた。

 

 ただ男子諸君の質問が主にシャマルへとんでいたのは悔しい。何だ、オレ達二人とも分かりやすいように白衣で来てるから、女性の白衣姿ってのはやっぱ需要あるのか。途中際どい質問ばかり投げ掛けられてシャマルは困惑してたが、そこは院長兼家族でもあるオレの助太刀によって終始スムーズに行えた。でもその時男子全員から舌打ちされたんですが、君達ちょっと反応が正直すぎやしませんかね……

 

 一方オレの方はというと、女の子達からの質問が主にとんできた。ただこちらも男子同様に際どい質問ばかり聞いてきたので、若干照れくささを感じながら答えたりした。途中シャマルがフォローに回ってくれたので動揺も僅かですんだし、そこで授業の運びが悪くなる事もなく。でもシャマルが手助けに入ってくれたこの時も、何故か女の子達の舌打ちが一斉に聞こえたんですが……最近の女の子恐い。

 

 とまあ、授業は何とか無事に終わったんだけど……

 

 

「さて……っと、少し早く終わったみたいだな」

 

 

「本当ですね。どうしましょうか?」

 

 

「あ……それでしたら私にいい考えが」

 

 

 予定していた時間よりも十分以上早く終わってしまったので、シャマルと二人悩んでいると担任の先生から提案が。まあこっちは時間分だけ学校側から給料頂いているわけだし、与えられた時間分の仕事はしないといけない。なのでこのまま続くのは何ら問題無いのだが……

 

 

「さーて、ここからは質問タイムです。みんな、お二人に何か聞きたい事とかありますか?」

 

 

 担任の女性教員が声を発した直後、クラス全員の返事と挙手が上がった。しょ、正直ちょっと引くくらいの勢い何ですけど……

 

 あの、先生? やっぱり残り十分弱の分の給料返しますんで帰っていいですかね?

 

 

「よし、それじゃあ山田さん」

 

 

「はい! 八神先生とシャマル先生の異性のタイプって何ですか?」

 

 

 本気で帰ろうかなと考えていると、児童達からの質問コーナーが勝手に進んでいた。担任の先生に指名された女の子は山田さん、黒髪のショートヘアーで活発そうなイメージの子だ。しかし、異性のタイプとはまたベターな質問だな……

 

 オレの理想の女性、か。

 

 

「そうだな……料理が得意で、優しい女性、かな?」

 

 

「……よしっ」

 

 

 ……ちょっと待ってほしい。何故シャマルは隣で軽くガッツポーズをしているのか。別に喜ぶ要素一つも無いと思うんですが。

 

 仮にだ。オレが話したタイプが彼女に当てはまっていて、それを聞いて喜んでくれているとしよう。ただそれでもおかしい。料理が得意なのはまだ分かるにしても、優しい……ん?

 

 いやいやいや、最近貴女から優しさの欠片も垣間見えないんですが。寧ろオレとバインダーの扱いが段々雑になって頭の安全が脅かされているんですが。シャマルさんや、貴女の言う優しさって一体何なんや……

 

 

「シャマル先生はどんな男性がタイプですか?」

 

 

「私は……外でちゃんと仕事をしてくれて、たまにでいいので家事を手伝ってくれるような人でしょうか。家事スキルの高い男性って素敵ですよね」

 

 

 シャマルの考える優しさという部分に若干疑問を抱いていると、彼女も異性のタイプについて答えていた。早速所々で家事を手伝おうとか料理勉強しようといった男子諸君の声が漏れ始めているんですが……動機が不純だろ、良いのかそれで。やっぱり男って単純だね……因みにオレは当てはまってるだろうか。

 

 仕事については、やる気がないだけで基本ちゃんとしてない事も……でも駄々をこねて昼休憩三十分延長したり、気分によって診察時間変更したりやってるし……少しマイナス点か。

 

 家事については、掃除や洗濯とか割りと手伝ったりしてるし、当てはまっているのでは……あ。そう言えばオレ料理出来ないんだった……これは結構マイナス点かも。

 

 結論……あれ? シャマルの中でのオレに対する評価って大マイナスだ。何か涙出てきた。

 

 

「や、八神先生大丈夫ですか?」

 

 

「問題無いです、オレの扱いの雑さの理由が分かっただけですから」

 

 

「は、はあ……? ええっと、他に質問ある人!」

 

 

 オレの今後の家族内での扱いが改善される可能性が低いと宣告された今、やる気なんて起きるはずもなく。自分で言うのも何だけど、改善の余地が無いんだもん。終始仕事を真面目にとか無理、料理に関してもはやてがさせてくれないから勉強出来ない。ほら、詰んだでしょ?

 

 それでも現場は本人の意思と関係なく進んでいき、先生の声に児童達の返事と挙手が再び上がった。あ、もう今のオレに質問答えるメンタル残ってないんで。シャマルさん後全部お願いします。

 

 

「はい、田中君」

 

 

「ズバリ、二人の関係は?」

 

 

 あぁ、こういう質問もベターだよね。見るからにクラスのムードメーカー的な田中君、彼の問いに続くようにあちこちから男女問わず回答の催促が。でもみんなが期待しているほどの回答なんて持ち合わせてないんだけど。

 

 答えてあげてシャマル、貴女が主でオレが隷属だって。結局男ってのは給料持って帰ったら用済みなんだよ……来世は女性に生まれたいなぁ(遠い目

 

 

「病院の先生と看護師っていう回答では駄目なんですよね……えっと、簡単に言えば八神先生と私は家族なんです」

 

 

「お、お二人ってご結婚されてたんですか!?」

 

 

「あ、その、今はまだと言うか。家族は家族なんですけど、将来的にはそういった関係もアリなのかなぁとか思わなくもなかったり……つまり私達は家族なんですけど、結婚とかとはちょっと違うというか……」

 

 

 何か急に場が騒然と化した。別にオレが思ってたような容赦ない回答じゃなくて普通のだったのに、何故だ。何処に驚く要素があるのか……

 

 それと先生、オレ達結婚してませんから。家族っていうのは特殊な事情があって詳しく話せないんだけど、でもまあ普通の家族と何ら変わりはありませんから。いや、扱いの雑さは世間一般の人達よりは目立つな。

 

 担任の先生はシャマルの呟きに戸惑っており、児童達は児童達で何か所々盛り上がったり落ち込んだりしていた。ちょっとそこの二人、ごにょごにょとオレに聞こえない声で話してないで騒ぎをどうにかしてほしいんですが。オレ一人だけ現場でおいてけぼり食らってるんですが。

 

 ……あの、もしかしてここでもオレの扱いって雑なの?(涙

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「あれ? 松お兄ちゃんどうしてここにいるの?」

 

 

 余りの扱いの雑さに絶望して、六年生の教室から出て暫くの事。学校内を彷徨っていたらなのはちゃんと遭遇しました。なのはちゃんと遭遇しました! 嬉しすぎて二回言ってしまった……あの空間から脱け出して正解だったよ!

 

 白を基調とした制服姿のなのはちゃん可愛い、ツインテールをピョコピョコ動かしながら首を傾げるなのはちゃん可愛い、不思議そうな顔で見上げてくるなのはちゃん可愛い、とにかくなのはちゃん可愛い。

 

 

「なのはー、一緒に帰りましょ」

 

 

「ふ、二人とも待って~!」

 

 

「あ、アリサちゃんとすずかちゃん」

 

 

 ……オレは夢でも見ているんだろうか。なのはちゃんの傍へ駆け寄ってきた二人の少女。見間違いでなければ、以前うちのクリニックへ診察を受けに来たアリサちゃんとすずかちゃんではないか。女三人集まれば姦しいと言うが、とんでもない。どう見ても楽園(ぱらいぞ)ではないか……!

 

 あれだけ酷い扱いを受けたのも、全てはこの時の為だったのだ。絶望の中で出会った眩しい程の希望を前にして思う、オレ今回の仕事受けてよかった……!

 

 

「あ、八神クリニックの先生じゃない」

 

 

「お久しぶりです先生、どうしてここにいるんですか?」

 

 

「そ、そうなの! 松お兄ちゃんどうして学校に来てるの?」

 

 

 一人感激していると、再度なのはちゃんから疑問を投げ掛けられた。取り敢えず不思議そうな表情の三人へ、本日オレがここへ来ている理由を説明する。概ね納得してくれたようで、三人とも大変だねと労ってくれた。お兄さんもう泣きそうです。

 

 なのはちゃん達は今から帰るところだったらしく、よかったら一緒に帰らないかと誘われました。ええ、勿論即答でOK出しましたよ? 断る筈がないでしょう。

 

 玄関口に向かうべく、歩き続ける道すがら。三人に囲まれてニヤニヤが止まらない。仕方無いじゃん、だって幸せなんだもん。明日もこの学校に来ようかな……

 

 

──なんて幸せ気分も束の間、突然首根っこ掴まれました。

 

 

「待ちなさい、お兄さん危ない顔して何やってるんですか」

 

 

「げ……シャ、シャマルどうしたの?」

 

 

「どうしたのじゃありません。今のお兄さん端から見たら通報されるレベルですよ」

 

 

 首根っこ掴んできたのはシャマルでした。物凄く機嫌悪そうです、はい。バインダーが手元にあったら絶対叩かれてるよねこれ。

 

 でもどうしてこんなに早く見付けられたのか……え? クラールヴィントで居場所特定したから? 何そのGPS機能恐い。

 

 

「ほら、学校の方達へ報告に行きますよ」

 

 

「やだ! なのはちゃん達と帰る!」

 

 

「我が侭言わない!」

 

 

 ああ、シャマルに引きずられてなのはちゃん達との距離が段々離れていく……酷いよ、あんまりだよ、オレの幸せを取り上げないでよおおおぉぉぉ!

 

 直後に連れていかれた場所は校長室でした。待っていたのは還暦前のじいさんだった……鬱だ死のう。

 

 

 




結婚前の性行為は、ゴム着けないと駄目だからね。中に出さなくてもアウトだからね。みんな気を付けてね。
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