星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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プロローグ『一生、貴方とともにいます』

 星の光を纏った少女と、その輝きに心を奪われた少年。二人が出会うとき、一つの恋物語が始まる……。

 

 

 

 その夜は満天の星空だった。

 その夜空の下、湖畔で幼い少年が笑顔を浮かべて見上げている。

 湖面には星の輝きが映り、まるで星の海にいる気分になる。

 じっと星空を見上げていた少年が、その両腕を星空に向かって伸ばし、小さな掌を開く。

 届かない、ならもっと伸ばせば、あの星を手に取ることができる、そう思って。

 その瞳には星の光が映り、小さな宝石のようだ。

 そのとき風が吹き、少年は瞳を閉じた。

 

 まるで星の光が、自分の腕の中に舞い降りてきたような感覚。

 自分を、そっと抱きしめているかのような。

 

 少年は、その腕の中の輝きを抱きしめようとして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――突然起きた地震で足場を崩され、湖の中へと落ちた。そして浮かび上がろうとした時に、何かの衝撃を受けて気を失う。

 だがそれでも、幸運と言えるのかもしれない。なぜなら、その後の地獄を見ずに済んだのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

【闇の書】

 

 本来の名は『夜天の魔導書』。貴重な魔導術式を集めて保管し、後世へと残すための旅するデータベース。かつて改悪を受けたもの。修正も制御もできない防御プログラムが存在したために、破壊と悲しみを生み出すだけの災厄となった存在。

 

 

【闇の書の残滓】

 

 『闇の書』に存在していた、今は破壊されている防御プログラムの残滓。『マテリアル』を生み出した存在。

 

 

【マテリアル】

 

 『闇の書の残滓』が『砕け得ぬ闇』として復活するため、力を得る手段として、道具として作り上げた存在。

 

 

 私たちは『マテリアル』。道具でしかない存在。誰からも望まれない存在。絶望しか与えられない存在。そして、その存在を、その生を、祝福されない存在―――

 

 

 

 

 

 私はマテリアルSこと『星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)』。私の前にはマテリアルLこと『雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)』と、マテリアルDこと『闇統べる王(ロード・ディアーチェ)』がいます。状況が違えば、家族と、姉妹と呼べた存在。でも、問題はそこではありません。

 私たちは輪になり、足元を見ています。そこに横たわっている、7歳くらいの幼い、気を失った一人の少年を。まさか、この少年が……。

 

「……こういう事ですか。これは運命なのでしょうか」

「出会えてよかった! ってやつだね!」

「はしゃぐと消耗が進みますよ」

「我らは生まれたばかり。しかも存在が安定していない」

 

 その為にも、魔力が必要です。なのに、集めることができない。

 

「早急に魔力を補充する必要がありますね」

「必要っていっても、魔力持ちが足りないんだけど?」

「……オリジナル達は感知できません。この近傍にいないのか、妨害をかけているのでしょうか?」

「妨害は無かろう。我らの存在を知らず、そして自分たちの魔力を隠す慎みなど無い塵芥(ちりあくた)どもだ」

 

 その通りでしょうね。オリジナルの三人とも、その本質は破壊の力でしかない。ただ、他者を傷つけるしかできない。だから、マテリアルの原型として選ばれた……?

 

「オリジナル達がいれば、そいつらの魔力で大団えーん! ……だったのに」

「そうですね。でも今、魔力を持つのは、ここにいるこの子だけですね……。あの人だったものたちでは、持っていたとしても、もう関係無いですし……」

 

 この少年の顔には笑みが浮かんでいます。何でしょう、生涯で唯一無二の宝物に出会えたような、邪気の無い、幸せそうな笑顔。

 しかし、周りの状況を知ったならば、私たちを憎むのでしょうか……?

 

「湖の中にいたから大丈夫だったんだ! 運が良いな!」

「本当に良ければこんな事態に出くわすことなどないぞ?」

「むー」

「そうです。溺れていましたし、じっ、人工呼吸をしなければ、治療ができても助からなかったでしょう」

 

 ふと顔を上げると、二人がニヤニヤと笑ってこちらを見ていました。

 

「「ちゅーっ! ちゅーっ!」」

 

「うるさいですっ!!」

 

 からかうんじゃありません!

 自分の顔が熱い。真っ赤になっている事でしょう。この二人が忌々しいです。

 この少年はつい先程、湖の中に魔力反応があることに気付いて救出したのです。そ、それで、私が人工呼吸(マウストゥマウス)を行い、息を吹き返すことができました。私がしたのは二人が躊躇していたからですが、任せる気にもなりませんでした。何故でしょう……。

 

「う……」

 

 小さい呻き声に、私たちは注意を少年に戻します。でも、まだ目は覚まさないようですね。

 

「まあ、治療の術式を蒐集してあったのは不幸中の幸いか」

「でもさ、リンカーコアの傷は治せないから、僕らみんなの維持は無理だって」

 

 そう。彼の『今の』魔力量では私たち三人のうち、一人しか維持できない。

 

「……『カルネアデスの舟板』しか手段は無いか」

「なにそれ?」

「限られた人数しか生き残れない状況で……、生き延びる為に、同じ立場の相手を殺すことです」

 

 でなければ、皆消滅する。それが悲しい……。

 

「それって、殺し合うってこと? なんだよ、初めから決まっていた事じゃないか!」

「だがな、今回の件はイレギュラーだ。闇も眠っている。理由は分からんがな」

「三人とも存在できる未来もあった、と言うことですね」

 

 望めば、手に入れられる可能性もあった。なのに……。

 

「あー! 十分な魔力さえあればーっ!!」

「無い物強請(ねだ)りは無意味です。本来ならそれすら不要だったのですから」

 

 そうだったなら、どんなに良かったか。私たちが、その手で殺しあう必要など無かったのですから。

 

「あー! もー、うるさーい! そんな事は、もーいーだろ!!」

「そうだな、同胞の(よしみ)だ。せめてこの手で葬ってくれよう、塵芥共!」

「ふふーん! 生き残るのは僕だよっ!」

「それでは、始めましょう……!」

 

 殺し合いを!!

 

 

 

 

 その身を血で染めながら、頭の片隅で考えます。

 

 

 

 

 ……やはり私たちは、魔力構築体(マテリアル)は、どう願おうとも幸せにはなれないのでしょうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 ……何があったんだろう? 星空を見ていたら、いきなり……。

 

「うっ……」

「気が付きました?」

 

 体がすごく痛い。でも我慢して、目を開ける。

 僕の上に、黒い服を着た女の子。黒いから夜空と見分けがつかなくて、だから星に包まれているような、綺麗な……。

 

「女神様?」

 

「はい?」

 

 女神様は、目を丸くしてなんだか慌てていたけど、咳払いをして僕に笑いかけた。

 

「私は女神ではありませんよ」

「僕、聞いたよ?」

 

『この湖には星に憧れる精霊たちが一杯いて、水面に星を映して輝かせる。そして星空の綺麗な夜に、精霊たちに招待された星の女神が湖に降りてくる』

 

「この湖に伝わる伝説だって。やっぱり本当だったんだ」

「そんな……」

 

 なぜかあちこち遠くを見ている。可愛い。 

 

「そっ、それよりも。貴方にお願いがあるのです」

「お願い?」

「はい。私の主になって欲しいのです」

「主ってなに?」

「私をそばに置く者、でしょうか」

「本当に? いいの? 僕はずっと願ってたんだ。あなたのような女神様に、一生そばにいて欲しいって」

 

 そう。ずっと願っていた。綺麗な星空を見上げる度に、ずっと。……あれ? 顔が真っ赤だ。

 

「……はい。不束者ですが、よろしくお願いいたします」

 

 良かった……。怒った訳じゃなかったんだ。でも『不束者』って。今の台詞の意味知っているのかな?

 

「ところで、主って何をするの?」

「とりあえずは、私に魔力を供給して欲しいのです」

「『魔力を供給』って?」

「……私の体は魔力でできています。それが無くなると、私は消滅……この世から消えます」

「それは絶対駄目!」

 

 彼女がいなくなる!? 冗談じゃない!

 

「ですから、私と契約して主になっていただければ、主の魔力で維持……ずっといることができます」

「うん、よくわかった。主になるから!」

「では、契約をしましょう」

「どうやるの?」

「魔力供給が必要ですので、使い魔契約を基にした魔法陣で行います」

 

 足元に丸い光の絵ができた。すごいな、さすがは女神様。

 

「ここに立ってください。それで魔力を供給するラインを繋げられます」

「うん、わかった」

 

 二人で手を繋いで光の中に立った。ふと悪戯心が沸き起こる。

 

「こういうとき、何か言うのかな?」

「何かとは?」

「えーっと。『病めるときも、健やかなるときも』」

「あっ、あの! それは神父が言う言葉ですから!」

 

 いきなり慌て出す女神様。意味を知ってるのか~。じゃあ、さっきのも?

 

「じゃあ、なんて言うの?」

「……それは、もっと大人になってから、二人で言いましょうね?」

「約束だよ?」

 

 言質はとった。絶対だからね?

 

「!! でっでは始めましょう!」

 

 そう言って目を閉じる。顔は真っ赤だけど。可愛い。

 

「なんか、さっき寝ている時、こんな感じだったね」

「そっ、そうですか?」

 

 何故かさっきよりも顔が赤くなった。何かあったのかな?

 

「それで、誓いのキスをする?」

「かっ、からかわないでください!」

 

 慌てる彼女に、つい笑ってしまう。

 

「……7歳くらいですよね? 随分子供らしくないような気がしますけど」

「早熟だってよく言われるよ?」

「それで済ませられない気がするんですが……」

「そう言われても、本当に7年しか生きていないんだけど」

 

 なんでみんな信じないんだろう?

 

「それが信じられないのですよ……。契約、できました。大丈夫そうですね」

「よかった……」

 

 

 ふと、何かの気配を感じた。何かが語りかけようとしている……?

 

 

 ~~~~~~、~~~~。

 

 

「……うん、分かった。誓うよ!」

「どうしたのですか?」

「うん? あ、夜空と風に話しかけられた気がしたんだ」

 

 そう。この夜空そのもののような何か。風と…雷?を意味する何か。その二つに。

 

「夜空と風?」

「うん。『一生を添い遂げ、幸せにすると誓えるか?』『絶対、守るんだぞ!』って」

「……そうですか」

 

 嬉しそうに笑う彼女に、僕も嬉しくなる。

 気が付くと、彼女の両手が僕の頬に添えられて、真っ赤な彼女の顔が、近づいて……思わず目を閉じる。

 暗闇の中、彼女だけを感じる。彼女の温もりを。唇の、柔らかく、甘い感触を……。

 

 

 

 

 幼い主の言葉に嬉しくなりました。いつか再会できた時、彼女たちに礼を言いましょう。

 そして『誓えるか』ですか……、主のさっきの言葉を思い出します。

 主の頬に両手を添えて……、顔が熱いです。

 これは儀式。これから先を、二人がずっと一緒にいる為の……。

 

 

「……誓います。一生、貴方とともに……います」

 

 

 私も誓います。守ります。ありがとう、私の家族たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、星の光を纏った少女と、その輝きに心を奪われた少年が出会った。

 この出会いは偶然か、必然か。

 しかし、二人には関係の無いことだった。

 お互いに、世界で、そして生涯で最も大切な存在と巡り会えたのだから。

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