星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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閑話 2 『汚れちゃったんです』

前回のあらすじ?

 

「初任務は無事解決です!」

「諏訪一尉のお蔭ですけど……」

「指揮放棄の隊長の代理、作戦の補足、死に掛けた隊員の庇護、強力な敵の撃破」

「僕ら、頼りっぱなしですね……」

「機動六課の面目丸潰れです……」

「あと、ジュエルシードって物がガジェットに付いてたって言うけど」

「レリック以上の危険物らしいですけど、何の目的で?」

「六課司令部でも何か有ったらしいけど、一体何なのかしらね?」

 

「ところで、何かヴァイスさんが言いかけてましたよね? アルトさんがどうとか」

「あー、あれか……って、あれは思ってただけでしょうが!」

「固いこと言いっこなし!」

「あははは……」

 

 

 

 

 

 

 まだ出動任務が回ってこない、機動六課。その隊舎食堂で朝食を食べながら、あたし、ルキノ・リリエは憂鬱だった。

 

「ふう……」

 

 また溜息を吐いてしまった。ここの食事は美味しいのに、こうして食べててもあんまり幸せな気分になれない。これも諏訪夫妻の所為だよね……。とはいえ、指摘されるほど問題のある機動六課(わたしたち)が悪いんだから責任転嫁なんだけど。でも恨み事を言うくらいは許されるだろう。

 

「おはよー、ルキノ」

「おはよ」

 

 声を掛けつつ隣に座ったのが、あたしの同僚兼友人のアルト・クラエッタ。朝食をテーブルに置いたら、ぐでーっという様子で突っ伏した。もう、行儀悪いよ。

 

「アルト、大丈夫?」

「寝不足なんだよー。ヘリの改造で、夕べは3時間も寝てないから」

「3、って。諏訪一尉に釘刺されてなかった? 若い()が徹夜じゃ美容に悪いって」

 

 諏訪一尉は冗談めかして言っていたけど、不可抗力とはいえ仕事を増やしてしまったことに責任を感じていたんだろう。なにしろ、不備の指摘を通達した時にすれ違いが起きた為、整備部隊が意地を張ってしまったのだから。

 

『ええ!? これを全部、ですか!?』

『危険度の低いものは後回しでも良いですが、ヘリを始めとする人命に係わる物は早急に対処してください。これは八神二佐の指示でもあります』

『いや、これが自分たちの仕事だからやりはしますよ。でも時間が……』

『心配しないでください。私たちの伝で、地上部隊の手の空いた整備士や引退した局員に応援を要請します。だから……』

『ちょっ、ちょっと待ってください! 設備の不備を報告されるのは仕方ないにしても、この上応援まであるんですか!? それじゃ俺たち、仕事ができてないって言ってるようなものじゃないですか!』

 

 機動六課が問題点の多い部隊だと分かった以上、所属する人員が頑張って実績を上げなくてはいけない。なのに応援を要請するというのは、自分たちの手に負えないという事を意味する。事件が頻発して人手が足りないのなら、人員派遣を受け入れる理由にはなるけれど、まだ機動六課には出動する任務が無いんだ。只でさえ評価が低い今の状態では、自分たちの能力不足を疑われるんじゃないかって考えているんだろう。

 その他にも、機動六課に移籍した事で、個人的に問題が起きているのかもしれないし。スカウトされた隊員は、つまり実力を認められて新規部隊立ち上げに参加した、という事だ。スカウトされなかった中には、選ばれなかった事でプライドを傷付けられた気がして、八つ当たりだと知りつつ恨んでいる人もいるかもしれない。そんな人と仲が悪くなったとか、元の職場と仲が悪くなったまま機動六課(ここ)に来た人もいるかもしれないよね。あたしも弱みとなるような事は、あまり外部に見せたくない。だから、この考えは的外れじゃないかもしれないよね。でも諏訪一尉は認めたくなかったみたい。

 

『人命が掛かっているんですよ? 貴方たちの実力を疑ってはないですが、人手は多いに越したことは無いでしょう?』

 

 そう諏訪一尉は言ってたけど、でも整備士たちは受け入れなかったんだ。シャーリーは新人のデバイス開発をしていたから手伝えず、応援を受け入れるべきだって言ってたけど。ちょっと(なのかな?)無理をすれば自分たちでできるって意見が通り、応援は断ることになったんだ。

 それを聞いた諏訪一尉、諦めたように溜息をついたんだよね。そして意見を突っぱねられたからじゃないとは思うけど、捨て台詞っぽいことを言って去っていった。

 

『そこまで言うなら、応援は無しにします。ですから貴方たちも、甘えて弱音を吐いたりしないでくださいね』

 

 でも気を悪くした訳じゃなかったらしい。徹夜で作業するみんなに、こまめに差し入れをしてくれたりと、面倒見てくれたんだ。だから最初は兎も角、いつまでも悪く言う人は……まあ、あまりいなかった。うん。

 尤も、整備のみんなが意地張ったのも、尻拭いを他人に押し付けたくないっていうプライドの他に、諏訪一尉に不甲斐無い姿を見せたくないって理由だったそうだし。諏訪一尉って、地上部隊の隠れたアイドルみたいだし、スバルがなのはさんに憧れているから良い所を見せたがってる、っていうのに近いのかな?

 

「毎日きつかった……。結果をシミュレートして、改造して、飛ばして不具合洗い出しては改修して……」

「男連中は徹夜続きだって聞いてたから、アルトはまだ良いじゃない」

「まあ、そうなんだけど……」

 

 フォワード達の安全には代えられないから、アルトも文句は言えないようね。実際、諏訪夫妻の指摘を受けるまでは、あたしもヘリに欠陥があるなんて分からなかった。

 あの不具合の多さは査察官の二人も疑問視していたみたい。でも調査した結果は、調達ルートの一部がリンディさんと仲の悪い本局幹部の派閥にあったというところまで。それ以上は本局内部の事になるので無理なんだって。だから今後は、本局内部の調査を部隊長の伝で行うことになっている。

 でも聞いた話だと、「何でそれに掛かりきりになってくれんのや」とか「私がこんな目に遭うのもその幹部の所為か、どうしてくれよか」とか色々呟いていたっていうんだけど。大丈夫かな、部隊長……。

 

「はあ……」

「溜息多いね。あたしも人のこと言えないけど」

「あたしが恥掻いた原因も諏訪一尉たち、なんだよね……」

「睡眠不足で惚けていたんだから、しょうがないって。汚れたからって、作業服脱いだのはアルトでしょ?」

「言わないでよ……」

 

 そうなんだよね。アルトは睡眠不足でフラフラになっていた所為で、資材を置いていた場所で派手に転んじゃったらしいんだよ。

 あたしは経費関係の見直しが中心だったから、そこまで無理はする必要なかった。それで、諏訪夫妻が整備の状況確認の為に格納庫へ行く時に、丁度手が空いていたからアルトの様子を見に行こうと思って一緒させてもらったんだけど……。ヘリの陰から現れたアルトの格好を見て、思わず目を疑ってしまったわ。

 

「様子を見に来た諏訪二佐に『何で下着姿で作業しているんだ?』って言われるまで、全然気にしてなかったよね?」

「言わないでってば!」

 

 なんでも、『べとべとして気持ち悪ぅ』『口に入っちゃった、苦いよぉ』『垂れたら汚しちゃうなぁ』とか言いながら作業服を脱いで、そのまま作業に戻っていたらしい。男連中は流石というか、チラチラ見ながらも手を休めずに作業していたけど、あれは見ていて怖かった。

 睡眠不足で血走ってる男集団の中に、若い女の子が半裸でいるんだもの。どうみても、性犯罪発生直前! ……って状況だったわ。

 

「グリスやら機械オイルとかで体中……」

「言わないでって、言ってるでしょう!?」

「下着に滲み込んでた所為で、色々と透けてたし……」

「言うな――――っ!!」

 

 その後、『汚れちゃったんです!』って言い訳しつつ着替えに行こうとしたのはいいんだけど、アルトってば慌てていたから転んじゃったんだよね……諏訪二佐に抱きつく格好で。

 

『危ない!!』

『むぐ――――!?』

 

 でも接触寸前で諏訪一尉が魔法を使い、修羅場は防がれた。諏訪一尉は『倒れたら危ない』とか言ってたようだけど、あれって『諏訪二佐が汚れるところだった』『抱き付くなんて許さない』って感じだった。だってねえ……。

 

『リリエ二士、クラエッタ二士を更衣室に連れて行ってください』

『このままですか!?』

『下着姿では不味いでしょう?』

『だったら、そこのシートを被せれば……』

『何ですか?』

「いえ、何でもないです!』

 

 諏訪一尉の有無を言わせない雰囲気に逆らえず、あたしは更衣室まで引っ張っていったんだ……

 

 赤いフープバインドで頭から足の先まで隙間無く包まれ、エビみたいにビッタンビッタン暴れていたアルトを。

 

 ……笑顔の諏訪一尉が、とっても怖かったよ。

 

「でもまあ、何とか改造も終わったし。これでゆっくり寝られるよ」

「ヘリだけでしょ? 設備関係はこれからじゃないの」

「うっ!? で、でも危険性が低いってことで、徹夜するような無茶はもう無いよ!」

「なら良いけどね。くれぐれも怪我だけはしないでよ」

「分かってるって」

 

 

 

 でもこの後、初出動の最中に問題が発生してしまう。その所為でまた眠れぬ夜を過ごす事になるなんて、この時のあたし達は思いもしなかったんだよね……。

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