星光小夜曲 -Starlight Serenade- 作:ATSW
前回のあらすじ?
ヴァイスはヘリの操縦中、アルトの下着姿を思い出して鼻の下を伸ばす。
そして晃生にヘリから蹴り落とされる。
「それは前々回だろ! しかも未遂だ!」
憂鬱な朝食を取る、ルキノとアルト。
そしてアルトの秘められた性癖が明らかになる。
「違う! 脱いだのは寝惚けてたから!」
「下着姿で諏訪二佐に抱き付こうとしたのも?」
「事故よ、事故!」
「ふーん」
「何で疑うの!?」
「色気で落とせば査察が緩くなる、とか考えてなかった?」
「ないってば!」
「……なぁなのはちゃん、ちょっと頑張ってみんか?」
「無茶言わないで!?」
◇
俺は諏訪淳志二佐、査察官だ。今は作戦中の機動六課司令部の査察の為、司令室にいる。
画面では今、高町一尉が晃生に制止され、言い争っている。これから戦闘になると解っているのに無防備に飛び降りようなどとは、気を抜き過ぎている。普通のガジェットなら簡単に撃破できると慢心しているのか?
8年前の負傷は、何の教訓にもなってないようだな。
晃生に諭された高町一尉がヘリから飛び立った。……しかし、何で隊長が部下を置いていくんだ? 航空型ガジェットの群れを見つけたなら、ヘリも襲撃対象になる事を考えるべきだろうに、どうでも良いのか?
いざという時は、晃生が守るしかないじゃないか。
飛び立った高町一尉は、ガジェットまでわき目も振らず飛んでいく。晃生の言葉を聞いたのなら、せめてヘリの周囲くらい索敵したらどうだ? 『常在戦場』とは言わないが、任務中なのに最低限の警戒くらいしないのか?
時間が無いから晃生の説明も足りなかったし、バリアジャケットを纏えばそれで良いと勘違いしたのだろうな。
今回の高町一尉の行動を見ていたが、発進時の安全無視よりも指揮放棄が不味い。前線管制官にどれだけの事ができるか知らんが、せめてリインフォース曹長に分隊指揮の権限委譲をしてから行け。フォワードの四人よりも階級が高いから指揮を代行させるつもりだったのだろうが、これでは指揮官としての再教育が必要だな。それとも小隊指揮官資格を剥奪するか?
代わりを晃生がする事になりそうだ。何か代案を考える必要があるか? 面倒な。
隊長二人がガジェットと戦闘を開始した。リミッター付きとはいえ、航空ガジェットとの戦闘は流石S+ランクと言えるかもしれない。だが、その後が不味い。ある程度撃ち落とし、敵の増援も無いと判断したら、ハラオウン執務官か自分を先行させてフォワードの指揮や援護をするとかできないのか? もしかして、晃生を当てにしているのか? 確かに晃生がいればフォローは大丈夫だが、部外者だぞ? 実力を知っているとも思えないし。晃生の実力を知れば、当然のように取り込もうとするかも知れない。
だが、高町はどうする? 隊長から外し、ヘリを援護する航空戦力として運用するか?
……まあいい。今考える事ではない。彼女たちの
しかし、晃生が固定砲台役が適任だと言っていたがその通りだな。何が戦技教導とは『細かい事で叱ったり怒鳴り付けてる暇があったら、模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめしてあげる方が、教えられる側も学ぶ事が多い』だ? そのような方針では、本当に大切な事を教えられていないのではないか?
通常なら短期間の教導だ。戦う為の技術向上だけ考えれば良いから、教導隊の方針などと言う世迷言の実践で十分だ。だが機動六課では一年もあるんだ。戦闘技術だけ鍛えるのではなく、戦闘での心構えや注意点を教える事もできるだろう? 今は基礎を固める段階だと言うのは分かるが、座学で戦いでの心構えを教えるくらい考え付かないのか?
まさか、模擬戦の中で注意するから一つ一つ見付けていけと言うのではないだろうな?
そういえば、戦技教導官とは『戦争のない時に戦時のエースが技術を腐らせず、有用に使うために就く仕事』だと言っていた奴がいたな。格下相手に自分の戦技を維持し続けられるとでも思っているのか? 戦えない鬱憤を晴らすのには最適かもしれんが。
……いかんな。晃生が苦労しているところを見た所為で、かなり毒を吐いてしまった。落ち着け。熱くなるな。ここにいるのは任務の為だ。彼女たち機動六課を査察する為だ。冷静さを失うな。
…………でも晃生に迷惑を掛け続けるのなら、この連中、殴り飛ばしても良いよな?
◇
「グリフィス君、ヘリが現場に到着。作戦開始します!」
「了解、バックアップは任せます」
「「「はい!」」」
作戦開始。機動六課の栄えある初任務だが、副官である僕、グリフィス・ロウランが指揮を取ることになった。と言っても、八神部隊長が聖王教会から戻るまでの代理だが。それでも大役には違いない。その気負いからか、いつの間にか拳を力一杯握り締めていた。いけない、焦りは禁物だ。ゆっくりと手を開き、深呼吸して気を落ち着かせる。
画面には各フォワードの状況が映し出されている。順調にガジェットを駆逐しながら重要貨物室を目指している。分割された別の画面では、隊長二人が航空型ガジェットを駆逐して制空権を確保した。このままなら問題無く任務を完遂できそうだな。
そう思った時、八神部隊長が司令室に入ってきた。それを見て、これで大丈夫だという安心感に包まれる。自分は指揮官としてはまだまだと言う事だな、精進しよう。
「ごめんな、お待たせ」
「八神部隊長。ここまでは比較的順調です」
「ロウラン准尉の指揮もそれなりに堂に入っていたしな」
「「えっ!?」」
予想もしなかった声に慌てて振り向いた。すると部隊長の入ってきた入り口と反対側の壁際に、諏訪二佐が腕を組んで立っているのが見えた。いつの間に? 全然気付けなかったぞ。
「何でここにいるんや!?」
「機動六課の初任務だ。査察官として確認する義務がある」
「いつからそこに居たんですか……」
「……はあ。俺の事より、現場を気にしろ。フォワード達の気が散らないように、通達以外の雑音は伝えるなよ」
そう言われてスタッフ達は現場の各状況のモニターに戻った。この調子ならば……そう思った時、フィニーノ一士が叫んだ。
「エンカウント! 新型です!」
車両後尾から移動中のライトニング・フォワードがガジェットの新型と接触した。だが、強力なAMFに手を
「なっ!?」
モンディアル三士がガジェットの猛攻を避けようとして飛び越えたが、その背後に隠れていたもう一機からの奇襲に気絶して車外へ投げ飛ばされた。それを追って、ルシエ三士が飛び降りた!
「あの二人! あんな高高度でのリカバリーなんて……!」
クラエッタ二士の絶望的な報告。だがそれを吹き飛ばすように部隊長が叫ぶ。
「いや! あれでええ!」
「! そうか!」
『そう! 発生源から離れれば、AMFも弱くなる! 使えるよ! フルパフォーマンスの魔法が!!』
部隊長たちの言葉に、司令室の雰囲気が明るくなる。これで大丈夫だ! そう思った瞬間……。
「ふざけるな!!」
諏訪二佐の凄まじい怒鳴り声が響き渡った。
「魔法を使える事が! 死ぬかもしれない事よりも大事なのか!?」
まるで雷に打たれたかのように体が硬直していた。画面の高町隊長とハラオウン隊長もだ。航空型ガジェットを全滅させていなかったら撃墜されていただろう。
「何が『フルパフォーマンスの魔法』だ! 晃生が掴まえなければモンディアルは死んでいたぞ!」
画面では、ルシエ三士たちが諏訪一尉に庇われていた。モンディアル三士を掴まえようとしたが、ガジェットに攻撃されて失敗したのだ。そのままなら死んでいた、その事に気付いて背筋が冷えた。
「AMF発生源から離れれば良い、確かにその通りだ! 気絶したまま落下した人間を、飛行魔法をまともに使えない人間が自由落下で追いかけて掴まえるのでなければな!」
モンディアル三士のデバイスには限定的だが飛行能力を与えてあるとは聞いていた。だけど気絶していては飛ぶ事も、減速を掛けながら降りる事もできない。ルシエ三士も飛行魔法の訓練をしていない筈だ。
「貴様らの言葉は、自在に空を飛べる空戦魔導師の驕りだ! ルシエ三士が後を追って飛び降りた事で、何もかも解決したような気になるな!」
驕り。そう言われて気付いた。僕もクラエッタ二士も、最初は落下した事に愕然としていた。なのに部隊長たちの言葉に納得し、喜んでしまった。ルシエ三士の行動を肯定した二人は飛行適性がある。彼女の能力を信じてはいたのだろうが、言われてみれば問題発言だ。
僕たちが悔恨の情に駆られた事とは関係なく、フォワード達の戦いは続いていた。今画面に映っているのは、フリードの攻撃に耐えたガジェットをモンディアル三士が破壊したところだ。
全ガジェットを破壊、レリックも確保できた。初任務は無事完遂できた筈なのに、司令室はまるで通夜のようだ。
「……それが機動六課司令室での出来事だ」
『……確かに、そんな事を言うのは空戦魔導師としての驕りですね。部下の能力を把握している筈なのに、一体何を考えているのでしょうか』
「部隊長と教導官でもこうだからな。やはり、それが魔導師どもの、特に空戦魔導師の常識なのかもしれないな……」
『私は一緒にされたく無いのですが……』
諏訪二佐が諏訪一尉と何か話しているようだ。しかし、司令室スタッフはそれどころではなかった。初任務で殉職者が出ていたかもしれない。僕も部隊長補佐として、この状況をどうフォローすべきか必死になって考える。
隊長たちの発言は本意ではなかったとするか? 上に立つ者が取り乱していては指揮ができないから、皆が落ち着くようにあの発言をしたと。……いや、駄目だ。こちらからは何もできなかったとはいえ、救助のための手段を何も採らなかったのだから。なにより諏訪二佐が納得しない。
ルシエ三士は飛行は無理だが浮遊はできるから任せたとするか? ……これも駄目だ。たった今失敗したのを見たばかりだ。大体この方法は、墜落死までに追い着けるか、追い着けてもモンディアル三士を掴まえる事ができるかが問題になる。
飛行魔法を練習中だった。……独学で習得できれば、既にAランク以上になっているだろう。彼女では無理がある。自主練習でできないなら、飛行魔法の使える魔導師がついていないと危ない。この場合は隊長たちだが、勤務状況を見れば誰も見ていない事が解る。
フリードの竜魂召喚で対応。……これまで成功していないのは資料で解る。そんなものを当てにしていたなんて言えはしない。
考えてみれば、ナカジマ二士に連絡を取って救助を依頼しても良かったのではないか? 人命救助の専門部隊である『特別救助隊』を志望する彼女なら、落下した人間の救助経験があるかもしれない。今回モンディアル三士の救助に失敗したのは、ルシエ三士にガジェットの攻撃を凌ぐだけの防御力が無かったからだ。防御の堅いナカジマ二士なら、ルシエ三士と違ってガジェットの攻撃を防ぎつつモンディアル三士を救助できただろう。その後はあの魔力の道を空中に作ってリニアレールまで戻れば……。
「……聞いているか!?」
「はっ、はい!」
諏訪二佐が話しかけていたのに気付かなかった。不味い、これではさらに立場が悪くなる。
「八神二佐に分隊長二人、司令室スタッフも全員聞け。今回の任務での問題点を述べる。ガジェット迎撃時には高町一尉が安全確認無視、それと下士官への正式な権限委譲もせずに指揮権放棄。ルシエ三士の自殺行為に対しては、八神二佐と高町一尉が肯定。部下が死に掛けるような危機的状況のフォローも無し。あまりにもお粗末だな」
「ちょっ、待ってや! 私らは……」
『フォワード達を信頼していたと言いたいのでしょうが、下手をすれば見殺しです。魔法は万能ではないのですよ?』
「そんな事……」
八神部隊長が反論しようとしたけれど、諏訪一尉の言葉に上手く反論できず、黙ってしまった。このままでは、本当に機動六課が解散になってしまう。いや、それだけならまだいい。クロノ提督やリンディ総務統括官、下手すれば母さんにも迷惑が掛かる。一体どうすれば良いんだ……?