星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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第 9話 『六課の処分を通達します』

前回のあらすじ?

 

「機動六課司令部スタッフの査察を行ったが…酷いものだ」

「『フルパフォーマンスの魔法』は酷過ぎますね」

「魔法が使えればどんな苦難も乗り越えられる、か。盲信でしかないな」

「それで部下のフォロー無し。ここまでくると、魔法至上主義は人間にとって害悪その物ですね」

「その事は置いておこう。今回の件を中将に報告したので、後は処分をどうするかだな」

「『本局と教会を叩く、良い材料ができた』。そう言って喜んでましたね」

「暴走しないで欲しいものだが……」

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、機動六課の処分を通達します」

 

 僕ら機動六課の隊員は、八神部隊長以下全員が隊舎内会議室に集合している。レリック護送と現地事後処理の引継ぎを終えたフォワード陣も帰還し、たった今帰還報告(デブリーフィング)が終わったところだ。

 

 陸上フォワードの4人は愕然としている。彼女たちは諏訪一尉に庇われたとはいえ、一応は任務を完遂できている。自分たちが不甲斐ないとは感じていただろうが、今回の出動任務の結果がここまで悪い評価を受けるとは思ってなかったのだろう。尤も、その評価の一番の原因は、部隊責任者である隊長たちの失言だ。部下の命を軽視したように受け取られたのだ。それを理由に機動六課が解散させられるかもしれないなんて、僕らも想像できなかった。

 

「今回の件では、地上本部のレジアス・ゲイズ中将が、本局のリンディ・ハラオウン総務統括官、聖王教会の騎士カリム・グラシア卿と会談を行い、機動六課の処分内容を決定した」

 

 諏訪二佐の言葉に今までの事を思い出す。山岳リニアレールがガジェットに襲撃され、機動六課の初出動となった。問題はこの後だ。

 

 フォワード部隊が現地へ向かう途中に航空型ガジェットを発見し、迎撃のために高町隊長が無防備に飛び降りようとした事。リニアレール内のガジェットを駆逐中に奇襲を受けて車外にモンディアル三士が投げ出され、ルシエ三士が助けようと飛び降りた事。どちらも任務が無事に完遂できていれば、問題だったことすら気付かなかっただろう。だが指摘されて初めて、ガジェットに攻撃される隙だった事に気付かされた。実際に、ルシエ三士の救助行動は妨害されたのだから。

 だが一番の問題は、部隊長たちの失言だ。死ぬかもしれない事態にフォロー無く楽観視。それを問題視した諏訪二佐が地上本部に報告した。

 

 機動六課の初出動での問題点指摘から、解散させられる可能性があった。本来なら責任者が処分を受けるだけで済んだだろう。だが機動六課は、本局と聖王教会の意向だけで設立された経緯がある。信じられない事だが、地上部隊でありながら、地上治安維持を主管する地上本部を、完全に無視していたんだ。只でさえ本局とは不仲な地上本部、その面子を潰すように設立された部隊だ。査問で済めば、処分としては軽い方だろう。

 

 僕と八神部隊長は六課後見人の方々に連絡を取り、どう対応すべきか相談していた。尤も、対応と言っても本局と聖王教会から地上本部へ、できるだけ処分を和らげる様に働きかけてもらう事くらいしかできなかったが。

 それを受けて六課後見人のお二人が、機動六課の処分についてゲイズ中将と会談を行っていたんだ。残念ながらクロノ提督は任務中で、参加できる状況ではなかったようだ。

 

 そして落ち着く事もできないまま待ち続け、ハラオウン総務統括官から待望の連絡があった。

 

『とりあえず何とかなったから、貴女たちが心配する必要はないわよ。【初回の出動任務で致命的失敗も無かった】という事で、部隊解散と懲戒処分は回避できたから』

 

 最悪の結末を回避できたのは良かった。でも失敗が無かったのは、諏訪一尉が適切にフォローしてくれたからだ。部外者の助けで任務達成と言うのは情けなさ過ぎる。二度とこんなことが無いよう、部隊長補佐として頑張らねば。

 でも画面越しでも判るほど、彼女がかなり疲れた顔をしていたのが気になった。それ程ゲイズ中将との交渉が激しかったのだろうが、一体どんな状況だったんだ?

 

 

 それから数時間経過。フォワード達も帰還し、報告も終わった。後は諏訪二佐の機動六課への処分内容の発表だ。総務統括官は心配ないと言っていたが、この人はそこまで甘くない。勝手な処分を個人的にするとは思えないが、気が抜けないな……。

 

「本来なら機動六課を解散させるのだがな……」

 

 僕らの思いなど無視するかのように、諏訪二佐が大きな溜息を吐いた。そして姿勢を正し、よく通る声で処分内容を告げた。

 

「今回の出動任務では問題点が有ったが、初回である事、致命的な失敗も無かった事から、部隊解散も懲戒処分も見送る事となった」

 

 思わず歓声を上げる六課メンバー。僕も嬉しい事は嬉しいが、しかしこれは不味い……。

 

「騒ぐな! 貴様らが助かったのは、本局ハラオウン派と教会の申し入れを地上本部が受け入れただけだ! 次は無い事をしっかりと肝に銘じておけ!」

 

 諏訪二佐の叱責に全員静かになる。しかし気になることを言っていた。総務統括官がやつれるほどの交渉で、教会と本局からの申し入れ?

 先の連絡では言葉を濁され、詳細を教えてもらえなかった。もしかしたら僕の権限では知り得ない内容だったのか? だとしたら補佐として八神部隊長と一緒に連絡を受けたのは不味かったかも知れない。そんな事を考えていたら、ハラオウン隊長がおずおずと言った感じで手を上げて質問した。

 

「あの、その申し入れってどんな内容ですか?」

「教会騎士などの戦力となる人材を、地上部隊へ派遣する事。そして本局から地上本部へ、予算を融通する事だ」

「要するに『機動六課の不始末を、本局と教会の代償行為で無かった事にする』と言う事です。そこまでして庇われるとは、甘やかされているのか、期待されているのか」

「それだけで処分無しにまでなるのか?」

 

 ハラオウン隊長の質問に、諏訪夫妻が答えてくれた。人材も予算も不足している地上部隊だ、その条件なら処分を緩くする事は有り得る。でもそこでヴィータ副隊長が質問したように、処分無しにまでするものなのか?

 ……そうせざるを得ないほど、地上本部の状況が深刻なのかもしれない。本局と『海』はかなり憎まれているだろうな……。

 

「対外的には処分無しだが、八神二佐と高町一尉は現在の指揮官資格を凍結する。そして早急に指揮官教育を受け直してもらう事とする」

「はい!? 私がいなかったら、機動六課の部隊指揮はどうするんや!?」

「大隊指揮官資格なら俺も持っている。代わりはいるから安心しろ」

「指揮官は主はやてだけだ! そんな事は認められん!」

「そうだ! 機動六課は、はやての部隊だぞ!」

 

 抗議するシグナム・ヴィータ両副隊長。でも僕も同じ気持ちだ! 処分無しと言いながら、二人を更迭するのか!?

 思わず文句を言おうとしたその時、諏訪一尉が苦笑しているのが目に入った。何だ?

 

「本気にされてますよ?」

「……冗談だから落ち着け。二人には『古代遺物管理部機動六課』という部隊で約一年、指揮官研修を受けてもらう。そしてハラオウン執務官」

「はっ、はい!」

「今回の処分対象には含まれなかったので、小隊指揮官資格はそのままだ。しかし、二人と一緒に研修を受ける事を推奨する」

「分かりました」

「研修の監督と審査は我々二人が行う。覚悟しておけ」

 

 ……こういう訳で処分無しという事なのか。

 実質は今のまま。しかし指揮官としておくには不安が残る二人を、自分たちが教官となって再研修をする訳か。そしてハラオウン隊長も再研修こそ推奨だが、現状からいって受けざるを得ないだろう。

 何と紛らわしい。だが処分としては甘いくらいだ。それには感謝しよう。

 

「要するに、機動六課の部隊指揮が再研修代わりと言う事で、私となのはちゃんは今のままでいいんやな?」

「『今より優れた指揮官になる』、だ。今のままでは困る」

「わーっとる! 見とれよ!」

「……まあ、やる気が有るのは良い事です」

 

 勢い込む八神部隊長に、諏訪一尉が一寸呆れたように言った。……まあ、その元気が空回りしなければいいけど。査察の最中でも、何度も悲鳴を上げてたからな……。

 

「それと先程のシグナム二尉とヴィータ三尉の発言だが、八神二佐個人の部下としては兎も角、管理局員としては不味い。機動六課は『ロストロギア関連の危険な任務に従事し、特にレリックによる被害を防ぐための回収を専任とする部隊』だと記憶していたのだが。二人は違う意見を持っているようだな?」

「そっ、それは……!」

「あっ、あれだ、その……」

 

 不味い! さっきは僕も反論しかけたが、部隊の私有と判断されたら全てが水の泡だ! 管理局への背任として、今度こそ処分される!

 

「主要メンバーを身内ばかりで固めている事で『八神はやてが私物化した部隊』との噂も有ったのですが、事実なのですか?」

「そんな訳ないで! レリック問題に対処する為なんや!」

「今はそういう事にしておこう。首の皮一枚繋がった状態だというのに、また解散要求など出されたくはないだろうしな」

「部隊長たちの失言で解散しかけたのに、また同じ事を繰り返さないでくださいね」

「あ、ありがとうございます! ほら、二人とも!」

「……我らの失言でした。お許しください」

「悪かっ……すみませんでした。以後、気をつけます」

 

 かなりの仏頂面でだが、謝罪した事で雰囲気が和らいだ。やれやれ、一時はどうなる事かと思った。

 

 ……あの、諏訪一尉? 「ここで潔く解散した方が、傷が広がらずに済む気もしますが」なんて呟かないでください。ようやく落ち着いたのに……。

 

「副隊長二人の失言の件はこれまでとする。八神二佐が大切なのは分かるが、公人としての立場を自覚し、以後は自重するように」

「機動六課の過剰戦力を皮肉った冗談に、『いつ地上本部が焼け落ちるか』というものもあります。迂闊な言動をしていては、反乱を疑われますよ」

 

 ……? 八神部隊長、今の冗談に不自然に反応したような……。

 

「ところで諏訪二佐、その、随分不機嫌ですね?」

 

 高町隊長!? 貴女、空気が読めないんですか!?

 

 ……? 偶然か? 高町隊長の質問が、部隊長の妙な様子を問い質そうとした諏訪一尉を邪魔したように見えた。部隊長も気のせいか、ほっとした様子に見えるし。

 

「解散させられなかった事よりも、解散させられない理由が原因なのですよ」

「解散させられない理由?」

 

 とりあえずは理由を聞こう。でも一体何だ? ゲイズ中将を含めた上官たちの決定が不本意だからと思っていたが、違うのか?

 

「忌々しい事だが、八神二佐と高町一尉の意見は管理局以外の魔導師をも含めた共通認識であり、一般常識なんだ。非魔導師のフィニーノ一士も納得したようにな」

「魔法の無い管理外世界の出身でも、全てにおいて『最初に魔法ありき』ですからね。管理局も、よくもここまで常識や観念を歪めたものです」

「確かにな。だがそれが『普通』なのだろうな。今回の問題も、我々の査察上の指摘が無ければ見過ごされていた事だ」

 

 かなり不機嫌なのは解る。だが、発言内容が妙だ。これは一体……?

 

「不思議に思う者もいるだろうな。だが今回の件は、八神二佐たちの更迭理由にはなるが、事件そのものは問題視されない可能性が高いんだ」

「なっ!?」

 

 馬鹿な!? 管理局が問題視しない!? それは管理局が人命を軽視していることになる!

 

「魔導師にとっては、魔法こそが重要だ。だから『魔法が使えないのでAMF発生源のガジェットから離れるために飛び降りた』という行動は、殆どの魔導師なら当然だと思うだろう」

「空を飛べるかどうかは二の次です」

 

 出動時の八神部隊長と高町隊長もそのとおりだった。だから魔導師の共通認識と言う訳か……。

 

「当然の行動だから、ルシエ三士の行動は何も問題無い。死んだ場合は『飛行魔法が使えずに墜落死した自業自得』で片付けられる。八神二佐以下、監督責任は問われるがな」

 

 部下の死に上官が責任を負うのは当然だ。何でそんな当たり前の事を……?

 

「はっきり言おうか。今の事例では『リンディ・ハラオウン総務統括官とその派閥に属する者が八神二佐を庇い、敵対派閥が追い落としのために騒ぎ立てて罪を追求する』だけとなるだろうな」

「モンディアル三士、ルシエ三士の死はどうでも良いことになるでしょう。公式記録では、【八神二佐の指揮の拙さから殉職した】とだけ残りますね」

 

 ……有り得る話だ。ハラオウン派を潰すための切欠になるだけか。しかし……。

 

「だからと言って、それで諏訪二佐が自分たちを解散させられないとは思えないのですが?」

 

 気が付いたら言葉に出ていた。地上本部所属の査察官が、本局の内部事情を理由にするなんて不自然だ。絶対に何か訳がある。こんな違和感のある理由で誤魔化そうとする何かが。

 

「本局の内部抗争でしかなくなる事が理由になるとは思えません。一体何を隠しているのですか?」

 

 僕の発言に二人とも驚いている。その様子を見て、自分の考えが正しいと確信できた。

 そして今聞かなければ、もう二度と知る機会は無いだろう。だから教えていただきます!

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