星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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第10話 『私も機動六課の一員です』

前回のあらすじ?

 

「機動六課は処分無し!」

「隊長たちに多少の処罰はあったけど」

「でも副隊長たち、空気を読んで欲しいな」

「折角処分無しなのに、ぶち壊しになるところだった」

「でも諏訪二佐が何か隠し事をしていたなんて……」

「グリフィス准尉が気付いたけど、一体何なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 魔導師にとっては魔法が使える事だけが重要。

 魔法を上手く使えず死んでも、本人の自業自得。

 この条件に該当するから、機動六課の隊長たちの失言は管理局では問題にならない。

 本局の反ハラオウン派が敢えて問題とするだけだ。

 庇うハラオウン派と、潰す口実とする反ハラオウン派による、本局の内部抗争でしかなくなる。

 

 ――だから解散させられないと、諏訪二佐が言った。

 

 しかしその事が解散させない理由になるとは思えない。

 地上本部所属の査察官が、本局の内部事情を理由にするなんて不自然だ。

 違和感があるのに、敢えてその理由で誤魔化そうとしている。

 そう思ったから、何を隠しているのかと尋ねたんだ。

 

 諏訪二佐たちはずっと黙っていた。

 僕も黙って、彼らが何と答えるか待っていた。

 

 何時間もそうしていたような気がする。

 

 僕がじっと待っているうちに、彼らの様子が変わった。

 この根競べは僕が勝ったようだ。

 

「ロウラン准尉。今の理由で納得して欲しかったのだがな……」

 

 諏訪二佐は諦めた様に深く息を吐き、こちらに向き直った。僕が納得しない事は予想できたので、隠し通す気はなかったようだ。

 

「一つは、三士たちが助かった以上、この程度で騒ぎ立てても罪にも問題にもならない無駄な事だからだ。大量に死者を出した犯罪者であろうと、管理局へ奉職すれば事実上無罪扱い。部下の生死を甘く見ていた程度ではお咎め無しだ。それを口実にして使い潰しにされる事はあるだろうがな」

 

 そう言って、部隊長を見る。まさか、闇の書事件の事をここで持ち出すのか?

 

「さっきは八神二佐たちの『空を飛べない人間に対しての不謹慎過ぎる発言』に我慢できず、思わず怒鳴りつけてしまったがな。それが常識である管理世界は、魔法至上主義世界とは、つくづく見下げ果てた代物だな」

 

 その言葉にスタッフ一同が俯く。僕も『不謹慎過ぎる発言』で喜んだ事を思い出して俯いた。

 

「二つ目は、各管理世界に存在する地上部隊の支部とハラオウン派敵対派閥の癒着の排除。機動六課が順調なら、ハラオウン派の発言力増大に焦って露見する可能性が高い。現在調査中だが、実際に巻き返そうとして派手に動いたものも幾つかあるしな」

 

 その後に、後回しになるがハラオウン派側でも摘発する必要はあるがな、と言っている気がした。

 彼の言葉は機動六課を利用して『陸』と本局の膿を出して排除する事を意味している。それ自体は結構なことだ。だが『機動六課は局内政争の道具としての価値しか無い』と言われているようで不愉快になった。

 だが……。

 

「その理由でも、庇い立てするにはまだ弱いです。それだけではないでしょう? 何か、貴方たちにとっても重大な秘密があるのでは?」

 

 そう、まだ肝心な事を隠している気がする。先の二つの理由でも納得はできる。それ以上に厄介な理由があるのではないだろうか?

 

「……切れ過ぎるのも厄介だな。秘密と言うほどの物ではないが、聞いたら後戻りはできない。それが嫌な者は聞かずに退出した方が良い」

「……そんなに厄介な理由があるんか?」

「ああ。聞かせるのは尉官以上の者だけにしよう。それ以外の者は退出してくれ」

「リインは私のパートナーや。それにシャマルとザフィーラにも聞かせたいけど、それはええか?」

「……全員が、ベルカの騎士の誇りにかけて秘密を守るという誓いを立てる事。そして主である八神はやてが全ての責任を持つと言うのなら、認めよう」

 

 それ程の事か? 僕は准尉なので『尉官以上』の条件は満たしてないが、幸いにも部隊長補佐だ。指揮官代行もあるのでぎりぎり聞く資格はあると主張できる。それで駄目なら、後でどうにかして調べてみよう。

 だが資格が無い筈のランスター二士が退出しない。覚悟を決めたような、思いつめた表情をしていて、ナカジマ二士が必死になって腕を引いても動こうとしない。それを見て、他の者も戸惑ったように動くのを止めてしまった。これは不味くないか……?

 

 彼女が動かないのを見て、シグナム副隊長が立ち上がった。そのまま詰め寄ろうとしたが、諏訪一尉が素早く先回りして立ち塞がったので立ち止った。

 

退()いてもらおう」

「貴女の出る幕ではないですよ」

 

 シグナム副隊長は険しい表情で諏訪一尉を睨み付けている。諏訪一尉は無表情に見えるが一歩も引く気配は無い。まるで二人から熱気が吹き付けているようだ。放っておいたら、両者ともデバイスを起動させて戦闘を始めてもおかしくない。

 そんな緊張感に満ちた空気の中、諏訪二佐がランスター二士に問い掛ける。

 

「何故、退出しない? 命令違反と受け取るぞ?」

「お言葉ですが、あたしも機動六課の一員です。守秘義務が課せられるとしても、アクセス権限のある機密とは言われませんでした。あたしは騎士ではないですが、誓いを立てるので聞かせてください! 本当の理由が知りたいんです!!」

 

 まるで血を吐くかのようなランスター二士の叫び。諏訪二佐が重圧を感じさせる程の峻烈な視線を向けても、彼女は揺るがなかった。いや、負けまいとして気迫を籠めて睨み返す。

 

「あたしでは、まだ役に立てないんですか……?」

 

 本当に小さな、彼女の呟きが聞こえた。そして彼女の目から一粒の涙がこぼれたのを見て、諏訪二佐からの圧力が揺らいだ。

 

「諏訪二佐、何かあれば私が責任をとる。だから全員に話を聞かせて欲しい」

「……この話は、ハラオウン総務統括官から一般隊員には伏せていて欲しいと頼まれた事で、アクセス権限は必要無い。だが、ここの全員を巻き込む事になる。それでも聞かせるか?」

「ああ、聞かせて欲しい。この機動六課が、何の為に存続を許されたのか。私らは知らなあかん」

 

 この質問は八神部隊長にだ。責任者の彼女に決定権があり、彼女は全員が真実を知る事を選んだ。そして残った全員が守秘義務として受け止め、口外しないと誓いを立てる。

 諏訪夫妻は複雑な表情で、その様子をずっと見ていた……。

 

 

「……順を追って話そう。発端は諏訪一尉からの報告だが、今回現れた新型ガジェットの内部に、ジュエルシードが組み込まれていた。それが撃破後に発動したんだ」

「ジュエルシード!? 一体何で!?」

「あれは本局で管理されている筈だよ!?」

 

 10年前に分隊長二人が係わった、A級ロストロギア。本局の保管庫に収められ、厳重に管理されている筈だ。持ち出すには相応の理由と許可が必要な物が、何故ガジェットなどに組み込まれている?

 

「本局で、流出か盗難でも起きたのだろうな。地上に情報が無いのだから、本局で隠蔽したのか?」

「そんな……」

「それならまだ良い。管理が杜撰なだけだから。それでも管理局としては致命的だが」

「あの、その理由は?」

「『ロストロギアは危険だから時空管理局が責任を持って管理する』。その建前で、強盗紛いのやり方で取り上げ、独占しているんだぞ。その危険物を管理できないとなれば、存在意義の一つが無くなる」

「今後はロストロギアの引渡し要求には応じなくなるという事ですか……」

 

 確かに致命的だ。それができたのは、時空管理局が危険なロストロギアを管理・規制する事になっていたからだ。

 

 平和利用されていたにも拘らず、使い方を誤れば危険だという理由で押収されたものもあるだろう。いや、単にロストロギアというだけで取り上げた事例もあるかもしれない。それが正しかった事か、問題となるのは確実だ。

 その他にも、危険度が低いからと管理局が売却した物だってある。研究の為に使い潰した物もあるだろう。それらロストロギアがきちんと管理されているか、扱いや処分方法が適切だったか、調査を受け入れる必要もあるかもしれない。

 

「応じないだけならまだましですよ」

「『時空管理局にロストロギアの管理能力・所有資格は無い』として、全次元世界で返還要求が出るかもしれないな」

「そうですね。ロストロギアには有用な物も、国宝のように大切に保管されていた物も有ったでしょうから。尤も、隠蔽した連中がそこまで考えていたとは思えませんけど」

 

 そんな事になれば凄まじい騒ぎになる。

 返還しなければならない場合、ロストロギアが紛失・破損・消費などで返せなければ、賠償問題では済まない。

 そして押収したロストロギアが犯罪に使われていたりすれば、誰も管理局を信用しなくなる。一刻も早く犯人を捕らえなければ。母さんやハラオウン総務統括官は既に動いていると思うが、早急に連絡を入れて確認しよう。

 

 

「問題は、犯罪に使われる事を知りつつ横流しをしている場合だ。最悪の場合、ガジェットによる襲撃事件の犯人と、本局内部の、それもかなり高い地位に居る人間が結び付いている可能性がある。レリック事件の黒幕が管理局だという自作自演劇かもしれんな」

「管理局がそんな事するかい! レリックでも、ガジェットでも! 被害に遭っている人間がいるんやで!」

「被害者のことを考えない人間など幾らでもいますよ。犯罪を起こす者、自分が被害に遭わないから無視する者。そもそも地上の治安悪化の理由を無視している本局が、地上の被害を気にしますか?」

「……」

 

 八神部隊長の意見には同意したい。だが本局は気にしないだろう。その治安悪化は本局と『海』が原因なのに、怠慢の一言で片付けるのだから。

 

「八神二佐。今回の出動で起こり得た、最悪な事態は何か分かるか?」

「え? えーと、『レリックを確保できず、フォワード部隊が全滅する』か?」

「ジュエルシードが無ければその通りだ」

 

 部隊長の予想は、僕と同じだ。それにジュエルシードが関係するとなると……次元震、か?

 

「今回の場合は『ジュエルシードの暴走を止めることができず、次元震でミッドチルダが消滅すること』だ。下手すれば黒幕によって、機動六課メンバーが次元震を起こした犯罪者として扱われる」

「はあ!? 何でそうなるんや!?」

「大体、ミッドは管理局発祥の地ですよ! 管理局員がそんな事する訳ないでしょう!?」

 

 僕も憤慨して叫んだ、そんな馬鹿なことがあってたまるものか! 管理局員が、世界の守護者であるべき管理局の一員が、次元震を起こして世界を滅ぼそうとする!? 何故そんな事をしなくてはいけない!?

 

「『ガジェット内のジュエルシードを不用意な魔力攻撃で暴走させた』とでっち上げれば、下手人として仕立て上げるには十分だ。それを理由にハラオウン派を潰せるからな」

「『ジュエルシードを動力源とした試作機』の可能性も有りますが、あのガジェットは戦闘用の機体でした。まともな人間なら次元震の危険を冒してまで使用しないでしょうね」

「しかも意図的に暴走させようとした可能性がある。だから犯人は、ミッドチルダを消し去っても構わないと思っているか、思い入れの無い他世界出身者かもしれないな」

 

「そんな……」

 

 無茶苦茶な理由だ。だが実際に次元震が起きようとしていた。

 このミッドチルダで、次元震……。旧暦462年の古代ベルカのように、このミッドチルダを崩壊させようというのか? そんな事をすれば、下手すれば次元震の余波で本局も被害を受ける。この次元世界の治安と秩序を守ってきた組織の中枢が失われでもしたら、次元世界は無法地帯になりかねないぞ。そんな事をする人間は狂っているとしか思えない。

 

「その、まともでない人間の仕業としても、一体誰なんでしょうか?」

「ガジェットの製作者はミッドチルダを消滅させようとするような狂人という事か……」

「いえ、それは違うでしょう」

「え!?」

 

 諏訪一尉!? 何で、そう断言できるのです!? 何か、しまったって顔してませんか!?

 

 皆が見ている中、困ったような視線を諏訪二佐に向ける。それを受けて彼が頷いた。何か念話で話していたのか?

 

「諏訪一尉、何でそんな事が分かるんや!?」

「……残骸の中、ジュエルシードの組み込まれた基盤を確認したのです。そこに、製作者の物と思われるサインが有ったのですよ」

「サイン?」

 

 そして諏訪一尉は、僕ら機動六課にとって無視できなくなる名前を告げた。

 

 

「『ジェイル・スカリエッティ』です」

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