星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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第11話 『これが本当の理由です』

前回のあらすじ?

 

「機動六課を解散させられない理由とは?」

「一、死者が出なかったから問題視されない」

「二、機動六課を局内政争の道具として扱う」

「三、ジュエルシードとジェイル・スカリエッティ?」

 

 

 

 

 

 

 

「『ジェイル・スカリエッティ』です」

 

 諏訪一尉が告げたその名前に、ハラオウン隊長が慌てた様子で立ち上がる。

 僕も名前だけは聞いたことがある。確か、広域次元犯罪者として指名手配されている科学者だった筈だ。生命操作や生体改造、人造生命体の開発に執着し、その目的の為なら次元犯罪すら起こす。そんな人物の名前がここで出てくるなんて。

 

「ジェイル・スカリエッティ!? それは本当ですか!?」

「はい。彼らしからぬ小細工でしたね」

「……なんか知り合いみたいな言い方ですね?」

 

 探るようなハラオウン隊長の言葉。僕もそう思う。犯罪者なのに、そんなことはしないと断言できるのか? まさか繋がりがあるとかいうんじゃないでしょうね?

 

「……以前、会ったことがあります」

「なっ!? いっ、一体どこで!?」

「とある違法研究所で」

 

 まさか、本当に会っていたとは。しかし、微かに嫌そうな顔をしているところを見ると、任務中に発見したとかだろう。

 だが違法研究所? スカリエッティの物か? そこでは一体何の研究をしていたんだ?

 

「そこは奴の研究を盗用していたらしくてな。証拠隠滅の為に研究所を爆破した、奴のものらしい戦力と交戦する破目になったんだ。その時に興味を引いたのか、態々通信を繋げて挨拶してきたんだよ」

「『素晴らしい。私の研究に協力願えないか』。挨拶の前にそう言ってきましたけど」

「協力? 一体何の?」

「クライアントとやらの依頼で行っている人造魔導師計画の派生研究と言っていたが、研究所崩落の最中で悠長に質問していられる状況ではなかったのでな。その時に聞き出せた研究内容については、これ以上の情報は無い」

 

 諏訪二佐たちの実力に目をつけたという事か? だが、一体何の研究に協力させようとしたのだろう。

 

「脱出中に『世界征服か滅亡の手伝いをさせる気か』と冗談で呟いたら、『世界征服には興味がないよ。それに世界を消滅させるなら、私の研究をより輝かせるか、全ての(しがらみ)を消し去るために行うだろうね』と答えてきた。その時の奴の目を見てなんとなく理解できた。そして管理局で奴のデータを調べて確信した」

「確信? それは一体何を?」

 

 ハラオウン隊長の質問が続く。そういえば、スカリエッティは彼女がここ数年追いかけている次元犯罪者だった。捕らえる為に、情報はできるだけ多く押さえておきたいだろうな。僕らは邪魔せず、口出しを控えよう。

 

 諏訪二佐は一旦目を閉じて、何かを思い出すようにしていたが、やがて口を開いた。

 

「スカリエッティの性格だ。奴は傲慢で自己顕示欲が強いが目的の為には容赦しない。そして遊んでいるように見えても無意味な事はしない」

「意味も無く次元震を起こしたりしないという事ですか……」

「必要なら時空管理局を消滅させる目的で次元震を起こしかねないが、今回のように半端に手札を切るような無様な真似はしないだろうな」

「本当ですか?」

「挨拶代わりにちょっかいをかけるくらいの事ならやりそうだがな。無駄に手駒を使い捨てるとは思えなかった」

 

 諏訪二佐の人を見る目は確かだ。彼の言うとおりの人物像なら、ジュエルシードを使い捨てにはしないだろう。尤も、不要だからガジェットの強化に使った可能性も捨てきれないが。

 

「その後は? 会ったのはその時だけですか?」

「……その時は炎上し、崩れ落ちる研究所から脱出するので精一杯だった。そして奴と再会したのは……」

 

 諏訪二佐は微かに躊躇(ためら)った様子を見せたが、軽く息を吐くと姿勢を正した。その時に、ナカジマ二士を見たようだが……?

 

「8年前だ。首都防衛隊所属の一部隊が壊滅した後に、通信スクリーン越しだが。相変わらずといった感じだったな」

「……! それは、母さん、が、いた……?」

「はい。クイント・ナカジマ准尉が所属していた、ゼスト・グランガイツ一佐の部隊です。私たちに黙って突入捜査を一日早めた事を知り、後を追ったのですが間に合いませんでした」

 

 愕然としているナカジマ二士。しかし無理も無い。その時に彼女は母親を亡くしているのだから。

 

 その部隊の最後は僕も知っている。戦闘機人プラントと考えられた違法研究施設への突入捜査を行い、全滅したんだ。

 隊長は、S+ランクで古代ベルカ式を使う騎士、ゼスト・グランガイツ一佐。地上部隊最強とも言われた、ストライカー級の実力者だったそうだ。

 副隊長としてクイント・ナカジマ准尉。ナカジマ二士の母親で、同じシューティングアーツの使い手で陸戦AAランク。いや、教えたのだから師匠というべきか。元々は、戦闘機人事件を追っていた捜査官だったそうだ。

 もう一人副隊長がいて、確かメガーヌ・アルピーノという名前だったか? 同じく准尉で陸戦AAランク。召喚魔法を使うレアスキル持ちだったと聞いた。

 この三人は、その実力を見込まれて本局から何度もスカウトを受けていたそうだ。しかし全て断り、地上を守り続けていたと母さんに聞いたことがある。全滅したと聞いた時は、残念そうにしていたな……。

 

 しかし、こんなところで繋がりがあるなんて。もしかしたら諏訪二佐と諏訪一尉は、僕らが思っている以上に重要な情報を持っているんじゃないのか?

 

「極秘の合同捜査を行う予定だったが、子供だった我々の参加には反対していたからな。気付いたときには置いていかれ、手遅れだった」

 

 そういう諏訪二佐は無念そうだ。その気持ちは良く分かる。僕だって任務で一緒になった相手に死なれたらショックを受けるだろう。

 彼らは、自分達がいれば助けられたとは自惚れたりはしないだろうが、それでも思ってしまうのだろう。何かできたのではないか、一人でも救うことができたのではないか、と。

 

「我々にできたのは、ナカジマ准尉たちの遺体を探して運び出す事だけだった。その最中にいきなり通信を繋いできたよ。『無用な犠牲を出さないよう気を使っていたのに、何故彼らはあと一日待てなかったのかね』、と」

「あと一日?」

「奴はそう言っていた。ゼスト隊の捜査内容と予定を知っていたのだろうな」

「それって、管理局に内通者がいるというんですか!?」

 

 諏訪二佐は、勢い込むハラオウン隊長に頷いた。『自作自演劇』という諏訪二佐の言葉が頭を過ぎる。

 しかし、そんな前から犯罪者と繋がっている者が局員にいるのか。それも『陸』の捜査内容の情報を入手できる程高い権限を持つ者で。

 

「最初に会ったときに奴は言っていたよ。クライアントの案件は、完成まで10年以上掛かると。完成して別の研究をしていれば別だが、今回のレリック事件の裏には、そのクライアントが関係しているのだろう」

「それが黒幕だと?」

「推測に過ぎんがな」

 

 確かに、現時点では全て状況証拠からの推測だけだ。断定はできないだろう。だが、調査の指針の一つにはできる。

 

「ジュエルシードもそのクライアントの命令だったのかもしれない。機動六課隊員の任務遂行中にレリックの爆発に見せかけて暴走させ、次元震を起こさせろという」

「レリックは過去に最低3回、大規模な爆発を起こしています。解析できていない高エネルギー結晶体のロストロギアですから、今回は次元震を引き起こす程の爆発を起こしたという説明でもそれなりに説得力はあるでしょう」

 

 レリックの爆発から次元震へと繋がり、ミッドチルダが消滅した、か。確かに機動六課の責任とするには十分だ。何故なら僕らは『レリック回収の専任部隊』なのだから。

 

「これも推測でしかないが、スカリエッティと黒幕の仲は上手くいっていないのかもしれない」

「それは何故?」

「今回の暴走のタイミングが我々に都合が良すぎる。気の進まない命令に対する抵抗として、『封印できる実力のある魔導師の目の前で態と暴走させた』と考えれば納得がいく」

「随分……詳しいんですね」

「その程度は理解できるくらいに調べた。スカリエッティの映像・会話データなら管理局のデータベースにもある筈だ。調べてみれば良い」

 

 ハラオウン隊長。質問したいのは分かりますが、さっきから見ていると、容疑者に対して尋問してるみたいですよ? 諏訪二佐も内心では不愉快なのか、『そんな事も知らないのか?』と皮肉っているみたいだし。

 しかしジェイル・スカリエッティか。随分深く今回の事件に深く係わっているようだし、調べる必要があるな。場合によっては、母さんやハラオウン総務統括官の協力も仰ごう。上手くいけば、その黒幕に繋がる何らかの手掛かりが掴めるかもしれない。

 

「分からないのはガジェットの使い方だ。レリックを回収している従来型はともかく、今回の新型は使い捨てに思える。……まさかとは思うが、機動六課で戦闘経験を積ませているのか?」

「なんだと!?」

「あたしら機動六課を演習相手にしてるってのか!? ふざけんな!!」

 

 敵でも、障害でもなく、単なる標的扱いでは、歴戦のベルカ騎士には侮辱だろうな。激昂する副隊長たちだが、諏訪二佐は無視して淡々と続ける。

 

「スカリエッティの背後にいるクライアントとやらが黒幕である事。奴と繋がる内通者の存在。お粗末な戦力の使い方。リミッター付き魔導師が苦戦しない強さから、段々強力になっていく戦闘機械。レリックという高エネルギー結晶体の収集。……機動六課は、この為に設立を認められたのかもしれない」

「私らが利用されたって言うんか!?」

「あくまでも推測だ」

 

 八神部隊長が叫んだ。僕も信じられない。

 だが、ストライカーとまで呼ばれたオーバーSランク魔導師をもあっさり切り捨てるような存在が黒幕なら。戦闘証明の為に機動六課を利用しようと考えていたら、隊長たちのような過剰戦力で構成された部隊の設立も納得がいく。ニアS以上の高ランク魔導師、その戦闘スタイルは接近戦から長距離砲撃まで色々と揃っている。実戦データの蓄積には最適だろう。

 

 ……この機動六課は、スカリエッティの為(・・・・・・・・・)の実験部隊という事か。冗談ではない。

 

「だから事件の黒幕は、今回表向きはお前たちを庇っておき、より派手な失敗をさせるべく暗躍するかもしれない。違っていたとしても、ジュエルシードを暴走させるような犯罪者を放っておく訳にはいかない」

 

 そう言って諏訪二佐が、苛烈な意志を視線に乗せて僕らを見た。

 

「我々地上本部は、スカリエッティの背後に潜む、この事件の黒幕を捕らえる事を目的とする。その為の囮として、道具として、戦力として、お前達を利用する。幼い子供まで利用するのは気が引けるが、現時点では他に方法が無い。それが嫌な者については、守秘義務遵守の他、条件を付けて異動を許可する」

 

「な!?」

 

 そんな理由があるのか!? 僕らを囮にするなんて……!

 

「あき、諏訪一尉……!?」

 

 ランスター二士は諏訪二佐の無情な言葉に、諏訪一尉へ縋るような視線を向ける。否定してほしいのだろう。だが……。

 

「機動六課を餌にして黒幕を(いぶ)り出し、捕らえる。これが本当の理由です。貴女たちにとっては不本意でしょうが、これまで以上に危険な任務になると予想されます。誰一人欠ける事無く任務を遂行できる事を願ってます」

 

 諏訪一尉は感情を殺したかのような無表情だ。しかし抑えきれない激情を感じさせる、烈火のような視線で僕らを見ていた。

 彼らの気迫に飲まれ、反論も拒否もできなかった。静まり返った司令室に、呟くような声が響いた。

 

「黒幕は……」

 

 発言をしたのは、それまで黙っていた高町隊長だった。彼女を見ると俯いたままだ。考えを口にしている事にも気付いていないかもしれない。

 

「黒幕は、何が目的でこんな事件を起こしてるんでしょうか?」

「目的は色々推測できるが、どれもはっきりした証拠が無い。レリックを使った兵器の製造とも思われるが、我々では理解できない事かもしれない」

「そうですか……」

 

 返事をしたきりで、顔も上げない。よっぽどのショックだったんだろうな。ここで八神部隊長が質問した。

 

「黒幕の正体について、何か想像できるか?」

「今の段階では無理だ。もしかしたら八神二佐に関係があり、邪魔に思っている存在かもな」

「私らの知り合いかもしれんいうことか!?」

「知り合いとは限らない。逆恨みも有り得る。機動六課のメンバーに私怨を抱く者の仕業かもしれない」

「なっ!? 諏訪一尉が撃破した後にジュエルシードを暴走させたんなら、あんたらが狙いかも知れへんやろ!!?」

「そ、その両方かもしれないじゃないですか。部隊長、落ち着いて……!?」

 

 八神部隊長が反射的に言った、責任転嫁のような言葉。僕も宥めようとしただけで、考えて発言した訳じゃない。

 

 しかし諏訪二佐は虚を()かれたような表情だ。珍しい状況に驚かされた。部隊長も信じられない物を見たと言わんばかりだ。

 隙の無い彼が何かを見落としていた? そしてそれを指摘されたというのか?

 

「……機動六課と我々に恨みを持ち、狙いそうな管理局内部の高官?」

「……今回の処分内容の通達は以上です。各自、反省点を踏まえて職務に励んでください」

 

 司令室の全員が見ている中、諏訪二佐が何か考え込んでいる様子で席を立ち、歩き出した。諏訪一尉は付き添って歩いているが、心配そうにしている。

 

「(……そんな奴は一人だけだ)」

「(淳志……)」

 

 それまでの重い雰囲気が消え、僕らは解放された事で安心していた。それ以上は彼らのことを気にしなかったし、司令室の入り口が閉まる寸前に諏訪二佐が何か呟いていた事も気付かなかった。

 この時に聞いていれば、諏訪二佐の呟きについて尋ねていれば、未来は違っていたかもしれない。

 

 

「まさか……、奴が生きているのか?」

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