星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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第 1話 『任務拝命いたします』

【空管理局地上本部】

 

 ミッドチルダの地にある管理局の地上施設。ミッドチルダだけを担当するのではなく、時空管理局に所属する地上部隊全ての本部である。

 事実上のトップであるレジアス・ゲイズ中将をはじめ、「地上を守ってきたのは自分達だ」という絶対的な自信があり、事実、地上の次元犯罪減少に貢献して来た。

 しかし事件の規模が大きいと主張する本局が、優秀な魔導師を数多く引き抜き『海』へと配備する為、地上本部は常に戦力不足に悩まされている。

 そして現在、地上本部を無視して『古代遺物管理部機動六課』が設立された……。

 

 

 

 

 私の名前は『晃生』です。最愛の主が名付けてくださいました。「可愛い女の子につける名前じゃないな、良い名を付けられなくてごめん」と言ってましたが、主から戴いた大切な宝物です。それに、かっ可愛いって……。こほん、失礼しました。

 

 今日はレジアス中将から召集を受け、主である淳志と一緒に地上本部を訪れています。ここに来るのも久しぶりですね。最近はずっと他の管理世界の地上支部を査察してましたから。

 

「諏訪 淳志(あつし)三佐です。お久しぶりです、中将」

「諏訪 晃生(あきお)二尉です。お元気そうで何よりです」

 

 私たちはレジアス中将の執務室で、中将に敬礼しています。中将が答礼されたので敬礼を解くと、少し和やかな雰囲気になりました。さて、今回の査察任務の結果について、報告を始めましょう。

 

「査察の結果ですが、『本局』や『海』の悪影響が後から後から出てきました」

「無限ループの仕事です。左遷された査察官の余生の任務にはぴったりですね。『海』が口出しできないようにするには交渉材料が足りないし、この際支部を解体して所在世界に押し付けてしまおうかと、諏訪三佐と本気で議論しました」

 

 本来なら上官であり責任者である淳志だけが報告し、私が口を(はさ)んではいけないのですが、副官として報告の補完をするよう命じられています。

 

 しかし査察結果の報告中ですが、もううんざりです。ここまで腐っているとは。

 これというのも、本局の人材引き抜きによる地上本部の監視能力低下が原因でしょう。地上でも好き勝手する『海』と、一緒になって碌でも無い事をする地上支部。本当に迷惑です。

 

「そのどちらも今のままでは出来ん。忌々しいがな」

「管理局が地上まで支配しようとするから手が回らなくなる。地上のことは全部その世界に任せれば、中将もミッドチルダのことだけ考えられるのに」

「自分たちの世界は自分たちで守る。たったこれだけのことを、当然の権利を、管理局は認めないのですから」

 

 査察結果の報告と、ミッドチルダの最新情報の入手です。情報交換は大切ですから。そうそう、退勤後は仕事以外の情報を調べないと。料理、服飾、それからよ、夜の……いえ、なんでもないです! 忘れなさい!

 あ、いつの間にか新しい任務の話になっています。

 

「『古代遺物管理部機動六課』? あの鳴り物入り部隊の監視任務ですか?」

「しかも常駐してですか?」

「そうだ。高ランク戦力の魔導師を集めてはいるが、この部署の設立目的は失敗が前提だ。その失態を我々に(なす)り付け、地上の実権も手に入れようとしているのだろう」

 

 本局上層部、正気なのですか? 『海』の人手が足りないなどと言っているのに、今度は地上にまで手を広げようと? 地上の人材全てを『海』のものにできても、内情は変わりませんよ?

 

「腐ってますね」

「そんなお為ごかしが通用すると思ってるのでしょうか?」

「そう言うな、二人とも。『海』上層部の肝煎りだからな、何も出来ないと高を(くく)ってるのだろうよ」

「叩き潰せばよいのですか?」

「では遠慮なく」

 

 さて、どの方法が良いでしょうか? できるだけ派手で、大恥掻かせられる方法は、と。

 

「待て、とりあえずは自分たちの未熟さを自覚させることと、現状を理解させることだ」

「機動六課の資料は?」

「ここにあります。確認を」

「ありがとうございます、ゲイズ三佐」

「今は『オーリス三佐』でも良いですよ。ここには私たちしかいないので」

「そういう訳にもいかないでしょう」

 

 心の中ではそう呼んでいますけど、今は仕事中です。公私は分けるべきだと返しながら資料を受け取り、淳志と二人で資料の記載内容を確認していきます。機動六課の詳細、所有設備・装備、人員構成……ってこの内容、何ですか!?

 思わずオーリス三佐を見ますが、肩を(すく)めました。……この酷い内容が、事実なのですか……。

 

「聖王教会のカリム・グラシア少将の『予言』で設立? 他に具体的な理由は……『レリック』?」

「あの良く爆発するロストロギアですか? どうせ本来とは違う使用方法と保管状況が原因でしょうに」

「しかし、どこから予言なんて設立理由が分かったんです? 普通、書類には記載しないのでは?」

「とある筋だ。詳しくは言えん」

 

 しかし、あのお嬢様も係わっているのですか。同じミッドチルダの地上にいるのに『本局』に(おもね)るばかりの……。

 レジアス中将がレアスキル嫌いであるのは、ミッドチルダ出身を含めた殆どのレアスキル所有者が本局ばかりに協力し、地上を(ないがし)ろにしている為でもあるんですよ。

 

 さて、肝心の部隊の目的ですが……。

 『レリック事件から想定外の非常事態にまで発展した場合、最前線で事態の推移を見守り、地上本部が事態に当たるか教会や本局の本格的な介入があるまで時間を稼ぐことができる戦力』として、『古代遺物管理部機動六課』が用意された、ですか。

 まあ、これだけなら及第点を与えられます。しかし……。

 

「実態は、『本局が直接コントロールでき、かつ、地上で自由に行動ができる部隊』ですか」

「要するに、『地上本部の対応が悪い』と言いたいのか」

 

 本局が資金も人材も吸い上げている所為で、地上の戦力が不足しているのですよ? 何が『対応が悪い』ですか!

 

「たった1年試験運用するだけの実験部隊……? それなのに、設備は全て最新の物を揃えているだと? 1年後には地上部隊に引き渡すとでもいうのか?」

「お金の無駄遣いですね、他の部署からの払い下げでも十分ですのに。『隊員の熱意に影響する』とでも言いたいのでしょうか」

 

 甘ったれてませんか? そういえば、天涯孤独とはいえ子供の頃からお金に不自由したことないんですよね、八神はやては。お金の効率的な遣い方(せつやく)を知らないのでしょうか?

 

「高ランク魔導師を集め過ぎた弊害で、主要メンバーに対しリミッターが必須。しかも全て身内で固めているのか。これで公私混同しないと言えるのか?」

「手足となる部下は低ランクと言うより低戦力ですね。任務に従事させながら戦力の底上げなんて、難しいと思うのですが。それとも戦技教導官がいるから大丈夫だと考えているのでしょうか?」

 

 少数精鋭なのは兎も角、任務と平行して新人を鍛える事は、部隊設立の趣旨から外れていますよね。

 高町なのは(しろいあくま)……魔法資質的には戦技教導官よりも、誘導弾で翻弄し、離れた場所から大威力の魔法砲撃を撃ち込む固定砲台役が最適なんですが。レリック関係の捜索・回収任務と平行して、たった四人の新人相手に教導官役をするとは、遊んでいるのですか? どうせ教導を行うなら、近隣の地上部隊からも希望者を集めて行えば良いと思いますよ。それなら『陸』もある程度受け入れるでしょうから。

 

「戦技教導しか出来ない小娘に任せる時点で失敗だな。本人は頑張っているつもりかもしれんが」

「相手の限界を見切ってぎりぎりまで訓練をするのでしたか。限界を超えるには良いかもしれませんけど、幼い子供にすることじゃないですね」

「そもそも、子供『だけ』を相手に『教育』をしたことも、年単位での長期訓練を行ったことも無かった筈だぞ。メンタルケアとかできるのか?」

「さあ……」

 

 10歳の子供まで参戦、と。

 フェイト・T・ハラオウン(きんいろのしにがみ)……保護した子まで駆り出すとは。高町なのはが撃墜されたことを忘れているのですか?

 

「ティアナさんも所属……才能に劣等感を持ってましたね。私と模擬戦した時は絶望させてしまい、立ち直らせるのに苦労しました。今は、きちんと意思疎通が出来ているのでしょうか? 無理をしていないと良いですが」

「お人よしだからな、上手く言いくるめられているのかもな」

「ありそうですね。ギンガさんの妹は脳天気らしいですから気にしないでしょうけど」

 

 見れば見るほど不安になる内容ですね。

 八神はやて(ちちもみま)……指揮官教育を受けている筈ですよね。高ランク戦力のヴォルケンリッターが自分に臣従しているから慢心しているのでしょうか。一度じっくりと話し合う必要がありそうですね。 

 

「普通は低ランクでも実戦経験豊富な大人を使うべきなのに、子供の遣いですか?」

「自分たちが偉そうに出来ない人間を避けたんだろうな。所属は20代までの人間がほとんどだ」

「それで大丈夫なら良いのですけど……」

 

 才能が有るとしても、未熟で経験の浅い人間ばかり。実験部隊とは博打を打つ事(うまくいけばもうけもの)の意味ではないのですよ?

 

 ……ところで隊長格三名に付いてるルビですけど。貴女の仕業ですか、オーリス三佐殿?

 

「しかし、良くこんな部隊の設立を認めましたね?」

「まったくです。中将なら却下はできなくても、もっと制約を付けられたでしょうに」

「知っていればな」

「は?」

「儂が知らんうちに承認されておった! 予算、敷地、設備、装備、人員、待遇、権限など、全て決められておったんだ!!」

 

 中将が苛立ちをぶつけるように、机を殴りつけました。しかし……。

 

「地上のトップを無視して、地上部隊設立!?」

「……本当ですか? 普通は知らせている筈です」

「事実だ。お前達の次の任務の候補を探していなければ、未だに気付いていなかったかもな」

 

 いくら八神はやてが世間知らずでも、一人だけでそこまで馬鹿な事ができるわけありません。本局は、そこまで地上を蔑ろにしているのですか……。

 

「この連中のミスの指摘ですか。一日で解散させられる材料が集まりそうですが」

「確かにな。だがその事はどうでもいい。肝心なのは、連中のミスを自分たちで責任を取らせる必要があることだ」

「そんな当たり前のことが出来ないのか……」

「無様ですね。尤も、最初からこちらに擦り付けるつもりなら、頭に無いのでしょうけど」

「八神たちは気付いてないのですか?」

「ええ。『管理局の誇る若きエースたち』ですからね。上層部が過保護にしているんです。頭が痛いことに……」

 

 オーリス三佐が言ってるように、今まで以上に頭の痛い任務になりそうです。降りては駄目ですか?

 

 ・

 ・

 ・

 

 駄目でした。おぼえてなさい、中将(OHANASHI・DA)

 

「悪いとは思っとる。就任にあたり、二人とも一階級昇進してから任務に就いてもらう。それまでは休暇のつもりでゆっくりすればいい」

「二人とも任務、任務で落ち着けなかったのですよね? 一年くらいですが他の査察任務は入れないよう手配します」

 

 本当ですか?

 

「そういうことなら、まあ、仕方ないですしね。連中のお守りは頭痛いが、それだけで良いのなら」

「彼女たちの醜態を見物しながらのんびり休めるなら、良しとしましょうか」

 

 

  「あー、二人とも。その、なぁ?」

 

 

「二人きりではあったが、任務のせいで『二人の時間』はなかなか取れなかった。寂しい思いをさせたな……」

「いいえ、良いのです。貴方といられただけでも幸せなのですから」

 

 

  「二人とも、ちょっと勘違いしてませんか?」

 

 

「ありがとう、俺には勿体無いくらい素敵な奥さんだよ」

「どういたしまして、世界一素敵な私の旦那様」

 

 

  「ごほん! まだ話が……」

 

 

「晃生……」

「淳志……」

 

 

「「話を聞けぇぇぇ!!!!」」

 

 

「「わっ(きゃっ)!」」

 

 いきなりなんですか、二人とも。

 

「あぁ、いつまでもここにいたら仕事の邪魔ですか」

「では帰りましょうか」

 

 腕を組みたいですね……さり気無く、さり気無く……。

 

「あーだからな? 地上本部も人手不足でな?」

「こちらの仕事を回すから、機動六課で処理して欲しいと中将は言っているのです」

「ちょっ、オーリス!?」

「どうされました、中将?」

「お前の発案じゃろうが!!」

「三佐の私が二佐の諏訪査察官に仕事を押し付けるなど、出来るはずありませんが……!?」

「何をしれっと……!?」

 

 静かになりました。デバイスを起動させてもいないのに。じゃなく拍子抜けですね。

 私? ただ微笑んでいるだけですが、なにか?

 

「どういうことです?」

「いやだからな、手伝って欲しいなーと言う訳でして」

「お願いしているのですよ、中将が」

「ちょっ、お前、また!?」

 

「二人とも、落ち着きなさい」

 

 ・

 ・

 ・

 

 素直ですね、直立不動してまで。礼儀正しいことです。私の階級が一番下なのに。

 まぁいいですから話を進めましょう。

 

「給料、必要経費は地上本部ですか。待遇、執務場所などは相手に話は通ってますよね?」

「無論だ。後は辞令を出し、お前たちが着任するだけでよい」

 

 ……? 後は私たちだけ、ですか?

 

「……随分と手回しが良いんですが、断るとは思ってなかったんですか?」

「そうですね。彼女たちとの因縁を考えれば、『梃入れ』なんてするはずもない。どうしてなのですか?」

 

 最初に言ったとおり、叩き潰しても良いんですよ?

 

「……お前たちが『元凶は始末した。もう自身の復讐は必要ない。自分の罪を理解しない輩など目に入れる価値もない』と言ったときの目を見て、思ったのだ。お前は『本当はあの事件に関わった者全てを断罪したがっている』と」

「確かに。ですが、俺としては『負の連鎖』など意味は無い、どこかで線引きしなければならないと思っています。だからもういいんですよ」

「あの連中には『自分が何をしたのか』を思い知らせてあげました。淳志がそれ以上を望まないなら、無駄な手間になります」

 

 これ以上、最愛の旦那様の手を煩わせて、二人の時間を削るなんて。冗談じゃありません。

 

「それでも、実際に犠牲者に会いもせず『自分は贖罪を頑張ってます』なんて、高ランク魔導師の特権に胡坐をかいているだけです。犯罪者の管理局への奉職は、管理局の権益を守ること。『闇の書の主として罪を償う』ことなどにはなりません」

「あの小娘どもに、『自分の幸せのために、無自覚に他人の幸せと平穏を踏みにじっている』ことを教えてやる必要がある。お前にとっては余計なお世話かもしれんが、な」

 

 確かにそのとおりですが、淳志の気持ちを理解したからこそ、あの連中を放置したんです。でも、これであの小娘たちの心身にその罪を教えてあげられますね。思わず笑い声が漏れました。

 ……おや? レジアス中将にオーリス三佐? 何故引き攣った、青い顔をしているのですか?

 

「孤独な幼少時を過ごし、初めて家族を手に入れた。この幸せを守るため贖罪に励んでます、か。くだらない」

「ハラオウン親子が犠牲者の家族だから、義理は果たしたとでも考えているのでしょうね」

 

 自分の幸せのために、無自覚に他人の幸せと平穏を踏みにじってますよね。

 せめて歴代の闇の書事件の被害者と遺族、その全てに会って謝罪していたのなら。私もここまで彼女たちを憎みはしなかったでしょう。

 淳志は『自分の記憶領域に存在さえさせない』とばかりに無視を決めていますが。

 

「ま、そのことは今は関係ない。任務の内容を詰めよう」

「簡単に言えば、こちらから送った書類などの処理・決裁を機動六課で処理し、送り返して欲しいのです」

「あそこの端末で処理? 機密漏れはどうするんです?」

「機密に関わる内容は送りません。どうしても必要な場合は本部に来て頂きます」

「連中の出動任務に同行させることは契約違反だからな。査察と本部の仕事だけすれば良い」

 

「……それで夜遅くまで残業し帰宅できないほど仕事を押し付けるつもりなのですか……?」

 

 それはごめんです。どうなのだと視線で問うと、再び直立不動していました。

 

「いや銅婚式(けっこん7ねんめ)のお祝いと言う事で今昇進させるし機動六課在任中は本当に必要な事以外せんでいいから!」

「そうです将来の事とか子供の事とか貴方たちの事とか本当色々大変でしょうから定時で良いです!」

 

 ……将来……子供……そうですね、いいですね。

 

 『結婚式』は、初めて淳志と出会った日、あの満天の星の下で挙げました。

 

 『銅婚式』は、偶然ですが『低年齢婚可能』な世界での任務があったので、淳志が10歳の誕生日、私が11歳のときに籍を入れたのです。本当は赴任初日にしたかったのですが、9歳では駄目、他世界人は駄目、と色々うるさかったのです。でも我慢できなかったので、結婚したいというこの気持ちを一生懸命『お話』して分かって頂きました。さすがに7歳で入籍にはできないと、職員さんたちが泣いて土下座して謝ってお願いしてきましたので、そこだけは我慢しましたが。

 イエ、でばいす(ルシフェリオン)ハ関係ナイデスヨ?

 

 

 職務内容の書かれた資料を読み終え、今回の職務についての不備も粗方潰し終わったと判断し、後は辞令を受けるかどうかだけです。といっても、もう答えは出ているのですが。淳志と私は互いの顔を見て小さく頷き、レジアス中将とオーリス三佐に揃って敬礼しました。

 

「了解です。諏訪淳志二佐」「諏訪晃生一尉」

「「任務拝命いたします」」

 

 

 

 さあ機動六課の皆さん、どう遊んであげましょうか?

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