星光小夜曲 -Starlight Serenade-   作:ATSW

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閑話 1 『もう泣いてもいいんです』

前回のあらすじ?

 

「諏訪一尉、なのはにそっくりだったね……」

「人造魔導師じゃないかっちゅう事か」

「偶然の一致とも思えるのですが?」

「でも今まで噂一つ聞いたことねーってのは、おかしいぞ?」

「……聞いてみるですか?」

「違った場合、またぼろくそに言われるな」

「なのはみたいに?」

「……ううっ」

「『乙女失格』『ダイヤモンドとガラス玉』だっけ」

「『乙女失格』は、わたしだけじゃないよ!?」

「上げて落とすとは、諏訪夫妻め、やるやないか!」(無視)

「ねえ、みんな聞いてる!?」

「なーはやてー、もう芸人ネタはいーからさー……」(無視)

「ちょっとー……」

「リインは聞かないほうがいいと思うのですよ……」(無視)

「聞くにしても、一人じゃ相手にならないしね……」(無視)

「その上、あの二人を一緒に相手するのではな……」(無視)

「それならさ……、みんなでお話ししようか……?」

 

『『『ひいっ!?』』』

 

「何なの、その反応……。ねえ、何?」

「い、いや……」

「その……」

「とっ、とりあえず保留や! 折を見て聞くとしよ!」

「ああ! それより、ティアナが知り合いだったとは、奇遇だな!」

「そっ、そうですね!」

「幸せそうな笑顔だったな、うん!」

「みんな、誤魔化してるみたいだね……?」

「な!? んなことねーぞ!?」

「そっ、そういえば! はやてっ、『星天の王』『星光の女神』って、何か知ってる!?」

「え!? あ、そやな! あの二人とは知らなかったんやけど……」

 

 

 

 

 

 

 

新暦69年(6ねんまえ)、某所にて

 

 

 

 

 お兄ちゃんが死んだ。

 魔導犯罪者と戦って、亡くなったっていう話だ。

 だから今、お兄ちゃんのお葬式をしている。

 

「お兄ちゃん……」

 

 いつも元気なあたしが好きだと言っていたから、大声あげて泣きたいのを我慢している。

 お兄ちゃんの好きなあたしでいなくちゃ、お兄ちゃんの妹だもの。

 

 なのに――――

 

 

 なんで、お兄ちゃんを悪く言うの。

 情けないとか、役立たずだとか、なんで、そんなこと言うの。

 耳が汚れる。止めて。止めて。お兄ちゃんを、悪く言わないで。

 耳をふさいで、しゃがみこみたい。

 

 そんな事を思っていた時、その子たちが現れた。

 

「いい年した大人が、言って良い事と悪い事の区別も付けられないのですか?」

「ここは死者を悼む場所です。貴方の様な人間がいて良い場所ではないですよ」

 

 突然現れた、二人の子ども。あたしよりちょっと年上くらい?

 

「自分のした事を棚に上げて、よくもそう悪し様に言えるものですね」

「何故その人が死んだのか、知らない振りですか?」

 

 お兄ちゃんを悪く言っていた大人が、真っ赤になって怒っている。

 

「目障りな局員のデバイスに子飼いのデバイスマイスターを使って細工し、違和感を気にする間も与えず緊急出動要請。罠を仕掛けた廃墟に追い詰めて殺害か。よくもそこまでできるものです」

「くだらない小細工で任務を妨害、しかも犯罪に気付きかけていた局員を口封じに殺すとは。人としての最低限の良心すら無いようですね」

 

 お兄ちゃんを悪く言っていた悪者が、真っ青になって狼狽(うろた)えている。 

 

「自分たちは地上本部所属の査察官です。そこの恥知らずの事でここに来ました」

「公金横領。機密情報漏洩。最新装備・質量兵器の横流し。証拠は挙がっています。レジアス・ゲイズ中将署名入りの令状もここに」

「巧妙に正体を隠していたようですが、やっと尻尾を掴めました。違法魔導師自身、貴方のお得意様だったと言う訳だ」

「共犯者は全員捕らえましたよ。後は貴方たちだけです」

 

 あたしの前で、悪者が悪態を吐きながらポケットに手を入れて、手帳のような物を取り出した。……え? 大きくなった? デバイスなの!?

 

 それを見た子供たちが取り押さえようとしたけど間に合わない! 咄嗟に女の子があたしに手をかざすと、あたしの足元に魔法陣が描かれ、あたしを淡い桃色の光が包み込む。防御魔法!? そして悪者の手帳が光ると、いきなり周りが暗くなった。

 

「え……?」

 

 再び明るくなると、周囲の様子が一変していた。

 等身大の人形? そう見えるものが沢山転がっていて、頭や手足が欠けていたり、胴体が千切れていたりして赤い液体を流している……まさか、死体!? そして周囲を虫が飛び回ったり這い回ったりしていて気持ち悪い。とっても臭くて、汚くて、まるでゴミ捨て場だ。

 

 そんな事を考えていたら、凄い怒鳴り声が聞こえた。その声のした方を見ると、さっきの悪者がいた。その場所だけは悪趣味でけばけばしい装飾がされ、金ぴかに光っている。何か、咄嗟に発動させたので巻き込まれたとか色々言っている。

 

 

《……を使ってますね。……紛い物……》

《……の夢か、……できるか?》

《……、任せてください》

 

 そして気が付くと、あたしの前にさっきの子供たちがいた。何か目で話し合っている雰囲気だけど、何? そんな事を考えてたら、二人から風が吹いてきた。

 

「わっ!」

 

 風が吹き抜けると、周囲の様子が一変していた。

 空はいつの間にか夜になり、星が輝いている。星降るような夜空、って表現が良く似合いそう。

 足元は水面? 地面は消え、見渡す限り水面が広がり、輝く星を映している。時折、子供たちの足元から小さな波紋が起きて、輪となって広がっていく。

 とっても綺麗だけど、どこの光景だろう……。

 

「幻覚魔法のようですが、まさか干渉できた上に簡単に制御を奪えるとは。プログラムがお粗末過ぎますね」

「だからと言って、こんなの相手に態々この光景を見せてやる必要は無いんじゃないか?」

「……あまりに見苦しく汚らしい光景に拒絶反応を起こしたのか、勝手に……」

「……まあいいか。汚染されないうちに片付けよう」

「はい。あ、どうせですから、あの台詞を言ってもらえますか?」

 

 女の子が悪戯っぽく微笑みながら言った事を聞いて、男の子が焦り出した。どうしたのかな。

 

「あのって、え? あれを!? クイントさんとメガーヌさんが面白がって作り上げた、あれ!?」

「ええ。淳志の格好良い所を見せてくださいな」

「恥ずかしいんだがなぁ……」

「頑張って下さいね。お・う・さ・ま」

「はいはい、我が女神の仰せのままに」

「もう……」

 

 何か妙な事言ってるけど、この光景は二人が作ったらしい。周りの人たちも感嘆の声を上げている。

 

「俺たちも今使ったから言う資格は無いかもしれないけど、精神に干渉する魔法での無差別攻撃は重罪だ」

「あんな精神汚染するような魔法を使うなんて悪足掻きは止めて、大人しく投降しなさい」

 

 悪者がデバイスを使って何か攻撃しようとしていたけど、女の子の撃った魔力弾に弾き飛ばされた。強いんだな……。

 

「晃生」

「はい」

 

 男の子が合図すると、女の子は小さく頷いて服装を変え、(デバイス)を持って空へと昇っていく。男の子はそれを見送っていたけど、何か諦めたように頭を振ると、悪者に向き直った。何故だかちょっと顔が赤いけど、何なんだろ?

 

「この星空と湖の世界に紛れた咎人(とがびと)よ、これが最後の警告だ」

 

 詩を詠むように男の子が言葉を紡ぐ。その様子はまるで主演俳優のよう。そっか、格好良い所って、これなんだ。うん、今は間違いなく、彼がこの世界の王様だ。

 

「これ以上、罪を重ねるな。さもなくば、法の裁きの前に我が女神が裁きを下す事になる」

 

 だけど、悪者の答えは拒絶だった。本当に見苦しい。慌てて起き上がると、男の子に向かって攻撃魔法を撃ち始めた。でも男の子は慌てる事無く、片刃の剣を振るっては全て弾き返している。

 男の子はやれやれと言いたげに頭を振ると、小さく呟いた。

 

「晃生」

 

 その呟きに応えるように女の子がデバイスを構えると、彼女の足元に魔法陣が描かれる。

 

『集え、明星(あかぼし)

 

 女の子の声が響き渡ると、夜空の星が輝きを増した。そして空の星が全て、流星のように女の子のデバイスの先へと下へ集まる。綺麗……。

 

 悲鳴のような叫び声がしたかと思ったら、悪者の部下達が慌てた様子で浮かんでいる女の子を攻撃し始めた。けど、みんな弾かれている。というか、彼女のデバイスの先の光球に吸収されてるみたいだけど?

 

『全てを焼き消す(ほむら)となれ!』

 

 デバイスを魔法陣が取り巻き、その先の集まった光でできた光球が膨れ上がる……って、え? もしかしてこれが、話に聞いた事のある『集束砲』っていうものなの!?

 

『ルシフェリオン、ブレイカ―――!!』

 

 空から降ってきた光の柱に悪者が押し潰された。悲鳴も絶叫も轟音に紛れ、何も聞こえなかった……。

 

 

 

 凄かった……。ぼんやり見ていると周りの景色が元に戻った。応援に駆けつけたらしい地上部隊の制服を着た人たちが、気絶した悪者とその部下に手錠を掛けて連れて行く。

 そしてさっきの子供たちがあたしの前に並んで立って、頭を下げた。何で……?

 

「すみませんでした。令状を待たずに行動を起こすべきでした」

「お兄さんが亡くなられたのは地上本部……いえ、私たちの怠慢です」

 

 そんなことない。貴方たちは、お兄ちゃんの仇を、討ってくれた。

 

「貴女のお兄さんは立派な方だと聞いていました」

 

 寂しそうに笑う、素敵な男の子。どきっとした。

 

「もう貴女のお兄さんを悪く言う輩はいません」

 

 悲しそうな笑顔の、綺麗なお姉さん。ありがとう。

 

「だから、我慢しないで」

「もう泣いてもいいんです」

 

 そう 二人が、優しく言うから、あたしは、もう、堪えられず、に…………。

 

 そんなあたしを、二人はいつまでも抱き締めてくれていた……。

 

 

 

 

 

 

「……と、まあ。そういうことがあったのよ」

 

 説明を終え、周りを見る。聞いていたみんなは感心したような顔をしている。

 

「でも、かなり有名そうな出来事なのに、なんで聞いたこと無いんだろう?」

「関係各所じゃ確かに有名だったわ」

 

 普通はそうよね。こんな事件の噂が広まらない筈が無い。

 

「それじゃ、何で?」

「『闇の書』って、知ってる?」

「フェイトさんに聞いた事があります。10年前にそれに関係する事件が起こったって」

「大勢の魔導師が協力して解決したんですよね」

 

 あたしも淳志さん達に聞いた事がある。でもその事件解決の詳細は機密扱いらしくて教えてくれなかった。

 

「噂なんだけどね。闇の書を消滅させる為に、闇の書固有の魔法なら効果があるかもしれないって事で、管理局が色々と研究していたらしいのよ。その時捕まった元幹部は、その研究成果から闇の書を再現しようとしていたっていう事なんだけど……」

「え?」

「それって物凄く危険なロストロギアなんでしょう!?」

「危険な機能が有るからね。『危険でない闇の書の主に選ばれたら、強力な魔導師になれる』。そんな欲を出した結果らしいわ」

「うわー……」

「『幾つもの世界を消滅させた闇の書を、管理局が再生しようとした』。一部の暴走とはいえ、そんな噂が立ったら致命的よ。だから緘口令が敷かれたの」

 

 自分は大丈夫だと言う根拠の無い独り善がりな妄想で、危険な物を作ろうなんてね。本当に救いようが無いわ。

 でも淳志さんと晃生さんの二人なら、本物の闇の書が有っても制御できそうな気がするのよね……。

 

「でも緘口令が敷かれているのに話して良かったんですか?」

「緘口令はデバイスに関してよ。大した性能も無かったらしいし、事件そのものは話しても構わないわ。それでも皆、自粛したらしいけど」

「そうなんですか……」

「それに、さっきの話の幻覚魔法を使ったデバイスだけどね。魔力供給源かどうかはよく分からなかったけど、レリックみたいな魔力結晶体が表紙に付いてたのよ。もしかしたら似たような事が有るかもしれないから、部隊長に確認して話す許可をもらっておいたの」

 

 でもあたしはそんな可能性が有ると思っていただけで、本当に起こるとは信じてなかった。だから後日、魔力結晶体が組み込まれたガジェットの存在を知って驚くことになる。

 

 

「でも、それが諏訪二佐たちとの馴れ初めですか……」

「まあね、あの二人のおかげであたしは立ち直れたようなものね」

「ふーん」

 

 そうでなかったら、ただ兄さんの死に囚われ、誰も信じず、ただ強さだけを求めていたかもね。そう考えると、この脳天気馬鹿(スバル)がいたこともあたしには良かったのかしら。

 

「色々お世話になったし、返しきれない借りもできちゃったしね……」

「あれ、ティア? ひょっとして、これがティアの初恋なのかなあ?」

「ばっ、馬鹿スバル! 誰もそんなこと言ってないでしょう!?」

 

 前言撤回! こいつなんていないほうが良かったわ!

 

「でぇもぉー、そうなんだよねぇー!?」

「~~~~~~~~~~~!!」

 

 もう、言葉が出ない! ただ、感情の命じるまま、このニヤケ面を! ぶん殴るだけよ!

 

「いっ、痛いって、ティア、ご免、あたしが悪かったから!」

「べっ、別にそういうのじゃないんだからね! 解った!? 馬鹿スバル!」

「ティアナさん、素敵な人を好きになるのは、別におかしな事じゃないと思いますよ?」

「うんうん、そうだよね!」

 

 キャロ!? あっ、あたしはそんな夢見る乙女じゃないわよ!?

 

「わたしにも、そういう素敵な出会いが欲しいです……」

「キャ、キャロ!?」

 

 エリオ……。僕じゃ駄目なのか!? なんて小声で言っているけど、本人に言ってあげなさいよ。

 

「エリオ君、どうかしたの?」

「いっ、いや、何でもない!」

 

 エリオ……。頑張りなさいよ、道は険しそうだけど。タラシっぽいのに、変な所で天然なのよね……。

 

「キャロ、エリオはね、ティアの好きな人()っちゃ駄目だって言ってるんだよ」

「この馬鹿スバル、懲りてないようね……!?」

「べっ、別に構わないじゃない!? 諏訪二佐だってティアみたいな可愛い子に好かれて悪い気はしないだろうし!」

「でも、結婚してるんですよね?」

「「あ……」」

 

 ………。

 

「エリオ君、無神経だよ!」

「い、いえあの、その、僕、ご免なさぃ……」

「テ、ティア! 大丈夫! ティアにも良い人見つかるよ! ………ティア?」

 

「……大丈夫、まだ大丈夫よ……略奪愛って言葉があるじゃない……ランスター(あたし)弾丸(あい)は、どんな相手のハートだって撃ち抜くんだから……!」

 

「ティアァァァァァァ!?」

 

 

 覚悟してくださいね!

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「闇の書関係という事で、私が聞いたのはこんなとこやな。あ、その研究データはリンディさんに頼んで厳重に管理してもらっとるんで安心してや……なのはちゃん?」

「……何で」

「ど、どうしたんや、なのはちゃん?」

「何で!? わたしだって同じ事はできるよ! なのに何でそんな素敵な二つ名が、わたしのじゃないの!?」

 

「(気持ちは分かるけどな)」

「(悪魔と女神なのですよ)」

「(今更どうにもならぬな)」

「(なのは、ご愁傷様だね)」

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