どうもこの小説を見ている人、はじめまして、主人公だ。
なんで自分から主人公とか言っちゃってんの? みたいな思いはあるだろうが、それは心の中に留めて聞いて欲しい、というか留めろ。
早速だが、この世には生まれ持っての才能というものがある。才能を持ったものは才能を持っていないものよりも有利に、楽な人生を送れることを約束される。そして、才能を持ちえなかったものは才能を持ったものには絶対に勝つことはできない。
努力すれば才能を持ったものにも勝てる、なんていうのは世迷言だ。
さて、俺がなぜこんなことをわざわざ言ったのか……それは、俺の目の前で次元犯罪者と仲良さそうに話している一人の女性が原因だ。いや、元次元犯罪者……と言った方が適切かもしれない。
「いやいや、君には感謝してもしきれないよ……四季崎玲奈」
「何言ってるのよ、私は別になにもしてないわ」
「ふっ……実に君らしい答えだな」
俺のような子供ですら、すぐにわかってしまうほどの有名人、ジェイル・スカリエッティは苦笑しながら話している。その話相手こそ、俺の母親である四季崎玲奈だ。
四季崎玲奈……九歳の時、地球という管理外世界より管理局に入った人物で、その時からお偉いさん方からも一目置かれていたと言われる、最強の魔導師。
今回の事件、名称はJS事件本当の名称をHD事件というらしい。それについて俺は詳しく聞いたわけではないが……母さんがジェイル・スカリエッティを操っていた本当の黒幕に気づき、たった一人で叩き潰したそうだ。
そんなこともあってか、ジェイル・スカリエッティはよく家に遊びに来る。母さんとも馬は合うようで、時々お酒を酌み交わしては楽しそうに談笑している。
「ん……君は」
ジェイル・スカリエッティが俺の存在に気づき、俺のほうを見る。
「どうも……」
俺は軽く会釈と挨拶を交わし、その場から退散しようとする。
「ちょっと待ちたまえ……君は四季崎玲奈の…」
「息子よ」
「む、息子? だが……」
「息子……なのよ、あまり深くは追求しないで」
母さんはジェイル・スカリエッティの言葉を遮る。その言葉は少し早口になっていて、語尾も強くなっている。
「そ、そうか……引き止めて悪かったね、名前だけでも教えてもらっていいかい?」
「……冬華」
俺は名前を告げると、その場から退散する。自分の部屋に逃げるように入り込み、いつもの場所……無駄にふかふかのベッドに体育座りになる。
「はぁ……」
なぜ才能の話をしたのか……それは言わずともわかるだろうが、最強の魔導師の子供。そのレッテルというのは予想以上に大きい。そして……それを裏切ってしまえば、どれだけの批判があるか……そんなもの、想像しなくてもわかることだろう。
それだけじゃない……なぜジェイル・スカリエッティがあの時、俺が息子と言われたことに動揺していたのか、その真実をぶっちゃけてしまえば、俺は性別医学上では……女、なのだ。
体だって紛うことなき女の体をしている。しかし……なぜ母さんは息子と言ったのか……それは、俺が性同一性障害だからだ。
体は女でも心は男。そんな状態でいるのと同時に、魔力の才能は何一つとして持っていなかった。
そんな存在を、周りの奴らはどう思うだろうか。期待していた奴らはどう思うだろうか……俺の知ったことではないが、ろくな事ではないだろう。
「はぁ……」
本日二度目の溜息……溜息をすると幸せが逃げるというが、幸せが枯渇している人が溜息をすると一体どうなるのだろうか。
「出かけるか……」
運がいいことに、今天気は曇っている。晴れている時は外出は控えたいが、今なら大丈夫だろう。
俺は、早速着替える。元はジャージにメガネというラフな格好だが、流石にこれで外に出るのはどうかと思い、無駄にフリフリがある可愛らしい服がたまたま目に入ったので着替えた。
「ちょっと出かけてくるよ……」
「あ……えぇ、いってらっしゃいね」
「気をつけて行ってくるといい」
「はい……」
母さんとジェイル・スカリエッティに見送られて外に出る。天気は相変わらず素晴らしいくらいに曇っている。
「いい天気だ」
俺は歩を進める。行き先などない、ただ暇つぶしに……あの家にいることを拒んだ自分が出来る。今唯一の行動だからだ。
そんな後ろ向きな自分が嫌で嫌で堪らないが、俺はそんな自分も嫌いじゃない……どっちなんだと自分でも思う。けど、そんな自分も悪くないと思うのだ。
「久々に……無限書庫でも行こうか」
俺は行き先を決め……歩き始める。心の行き先は、まだまだ決まらなさそうだ。
この物語は、迷いに迷う物語。自分に迷う物語。vividとは違う、hazyな物語。朦朧とした、はっきりとしない物語の開幕である。
皆さんお久しぶりです
アニスキが楠木蓮華となって蘇ってきました。過去作は気分によって書き進めますが、これからはこれがメインになると思います
皆さんよろしくおねがいします