「おお、よく来てくださった。私は鍛治で刀などを作っておりまして、つい先日、この都に着いたばかりなのですが……」
俺は今、先程依頼された鍛治氏の工房に居る。そこで今回の依頼主である鍛治氏と話している。
「その道中、私の娘が妖怪に襲われて……う、ううぅぅう…………」
「落ち着いて下さい。要するにその妖怪を討ち取って仇を取ってほしい。ということですね?」
「お、おお……そう、そうなのです……是非ともお願いいたします……!」
「ええ、約束致します。貴方の娘の仇は俺が取ります」
「は、はい……是非とも……!この都の対魔師でも5本の指に入るといわれる実力を持つ貴方に……」
「そうですか……」
俺はお茶をすすり、考える。
鍛治氏は自分の娘が妖怪に殺されるところでも思い出したのか、号泣する。
俺が鍛治氏を慰めると、涙を拭い、縋り付いてくる。
はっきり言って、気の毒だとは思うが、自業自得だと思う。自分の娘を殺されたからといっても、それはこの都に来たからだ。
最も、彼の娘が自分の意思で来たのかは定かでは無いが。
それでも、この都に来たという事実は変わらない。
何がいいたいのかといえば、この都に来たのが運の尽き。そう考えている。ましてやその娘の仇を取ろうなんざ、どうかしているとしか思えない。
……まあ、この部分は、俺に実際に娘が居ないからだろう。だが、自分の家族が居なくなるという悲しみは分かってはいるつもりだ。
それに……妹紅は死にはしないが、悲しませる奴は……いや、止めよう。いずれは俺もその原因になるのだろうし。
兎に角、仇打ちなんて不毛だとしか思えない。それは言わないがな。でないと金が貰えない。
「それで、その妖怪はどの様な妖怪なのですか?」
「それなのですが……」
鍛治氏は口籠る、こういう場合は大抵がそこら辺に似たのがよくいるような物か、強い妖怪のどちらかだ。
まあ、大抵は後者だが、それは襲われたせいで、強大に見える一種の錯覚に近いものが多い。時たま本当に強い妖怪の場合もあるが。
「その妖怪はーーー鬼です」
「な……」
鬼、それは生まれついての強者。その特徴は、何よりも怪力。
その一点に尽きる。只々、強大な力を持ち、小細工は使わない。ーーー否。
全てを薙ぎ払い、蹂躙する。
そんな恐るべき妖怪だ。俺は昔、鬼が他の妖怪と闘う所を見たが、はっきり言って、勝てない。それに尽きるだろう。
「……それはまた何とも……本当に鬼なのですか?」
「ええ、確かです。赤の着物を身に纏い、捩れた両角。あれは鬼です」
「そうか……」
「やはり難しいですか……」
鍛治氏は悲痛な表情で俺に縋る。
相手が鬼となれば、俺が勝利できる確率は限りなくゼロに近い。
勝てるとしても、それは鬼が戦っているときになんらかの失態を行う。といった奇跡。僅かな確率。運に頼るしかない。
鬼はそれ程に強大な存在。
「そうだな……先程、貴方の娘の仇を取る。とは言ったが、どうやら、それは無理だ」
「そう……ですか……」
「……」
「仕方がありませんね……貴方も自分の命が惜しいのでしょう。私でも、鬼と戦えと言われても、断りますから……いえ、いいのです。今日は態々訪ねて下さって、有り難う御座いました」
「いえ、此方も力になれなく、申し訳無い」
「いえいえ」
そのような言葉を交わし、立ち上がる。
が、立ち上がろうとしたその時、俺の体は横に倒れた。
…………………………如何なっている?体が上手く動かない。
「ハァ……やっと効いてきましたか……貴方の体は毒が効かないかと思いましたよ」
「………………な」
鍛治氏は、倒れた俺を見て、ほっと、ため息を吐いた。今、なんと言った?
この鍛治氏は、毒といったか?そんな物いつの間に……あ……
「ああ、その顔は気がついたようですね。お茶に毒を盛らせて貰いました。しかし……即効性の毒だというのに、なかなか効かないのですから……内心ヒヤヒヤでしたよ?」
「な……ど……」
「無理に喋る必要はありませんよ、舌……いえ、全身が痺れているのですから」
「…………くぁ…で……」
……確かに、鍛治氏の言う通りに、全身が痺れて、舌すらマトモに動かす事が出来ない。よっぽど強い毒を使ったんだろう。
鍛治氏は、そんな俺を見て、優越感に浸っているのか、饒舌に喋る。
「何故こんな事をするのか、冥土の土産に教えて差し上げましょう。……こちらを見てください」
鍛治氏はそう言って、工房だろうか。そこに繋がる扉を開ける。
俺はその扉の向こうにある光景に目を見開く。
そこは、地獄。
そう表現するのが相応しいだろう。
床には、大量の着物が無雑作に落ちている。そして、その部屋の奥。
そこは、大きな釜の様な物がある。恐らくは刀などを作るときに、鉄を溶かす設備だろう。
だが、その釜に入っているのは、溶けて赤くなった鉄ではなく、人間だろうか。
まだ溶けきっていない骨や肉からそう予想出来る。
「この釜に入っているのは方々は、人間です。それも、私がこれまでに依頼した対魔師の方々です。……なぜ、その方々がこんな事になっているのか、それは、勿論鬼を倒す為です」
……矢張りか……大体想像は出来ていた。ここの所、対魔師が戻って来ない事が多い。だが、対魔師は妖怪と戦う危険の多い仕事だ。
依頼中に命を落として帰って来ないなんて、ざらにある。最近はそれが多いが、こんな事もあるだろう。という程度の認識しかして居なかった。
だが、違う。
今まで戻って来なかった対魔師は、ここで溶かされたのだ。
「勿論、人間が鬼を倒すなんて、よっぽど強くない限り、不可能です。ですが、私は考えた。鬼を倒すには如何したら良いのか。そして、ある結論に辿り着いたのです!それは、人間を贄とし、武器を作る。そうして出来た武器は最強の武器となります。そんな話を聞いた私は、早速行動に移しました。「素材」となる人間は、なるべく霊力の高いものが良い。その点対魔師は都合がいいのです」
成る程……霊力も一般人よりもあり、更にいつ死んでもおかしくない仕事だ。
確かに都合がいい。
「そういうわけでして、貴方も素材として差し上げましょう。……ああ、ご安心を。貴方で、素材集めは終わりですから」
鍛治氏はそう言って、俺に手を伸ばす。
その時、頭によぎったのは、走馬灯でも、こんな所来なければ良かった。という後悔でも無い。
ただ一つ。
ーー妹紅ーー
俺が今世で、前世でもしたことの無かった恋。
思い人。
彼女の顔であった。
「死ぬなよ」
その言葉が俺の耳によぎる。
そうだ。俺が死んだら、彼女は悲しむだろう。
「…………オ……オオォォオオオオッ!!」
「なっ!?」
俺はあらん限りの力を振り絞って、鍛治氏の腕を振り払う。
恐らくは、効くのも速いが、効果が切れるのも速いのだろう。そういう毒だ。というか、即効性の毒は大体がそうだ。
そして、その鍛治氏の家の扉を突き破り、走る。
走る。とにかく全力で走る。
そんな俺を見て、何事かと戸惑う人もいれば、逃げ惑う人もいる。
だが、そんなのは一向にかまわない。気にもしない。
目指すは俺の家。
彼女がいる家。
そして、俺の家の扉を開ける。
そこに居たのは。
「ん?どうした、随分と早かったな?」
ーーーー馬鹿か、俺は。
ああ、クソッタレが。
俺は何故帰ってきた?今、帰ってきても、死ぬというのに。
妹紅の目の前で死ぬ。
それだけは避けていたというのに。
だというのに。
ーーーーああ、クソッタレが。俺は本当に馬鹿野郎だ。
「お、おい。どうした!?」
妹紅が、何時もとは違う俺の様子に気が付いて、心配そうに手を伸ばしてくる。
やはり、お前は優しい。
ーーーーすまない、妹紅。
「……え?」
妹紅は、何が起こったのか分からないのか、呆然としている。
それもそうだろう。俺は、妹紅の腕を斬ったのだから。
居合い。一線。音速。宙を舞う腕。飛び散る血飛沫。
「な……んで……」
妹紅は、相変わらず呆然としている。
「て……」
舌が上手く回らない。
それでも、言わなくてはならない。
「で……出テケ……!」
「……え」
ああ、クソッタレが。
俺は本当にーーーー
「出て行け!」
「ーーーーッ」
大馬鹿野郎だ。
妹紅は、走る。道を。脇目も振らずに走る。
ああ、糞が。本当に、俺は何をーーー
「……あ」
そこで、俺の視界はぐるり。と反転する。
恐らくは、動き回ったせいで、毒が回ったんだろう。
「妹紅ーーー好きだった」
書いていて思った。
獣の槍……
ま、ほぼ同じなんですけどね。
次回は、土日に別の小説を投稿。
……しかし、この先どうするかね。
さっさと幻想入りするか、幻想入りまで、グダグダやっていくか。
アンケートでもやろうかな?