英雄学校に一般人が入学します 作:千葉 知覧
ついこの間までこの景色を見ることなんて少しも考えたことがなかった。自分にはその資格さえもなかったのだから。
しかし、今目の前に広がっている光景を見て、改めてこれは夢でもなんでもない現実だと思い知らされた。
神が人間を造り出してから数千年、何人もの英雄たちによって守られてきたこの世界。そして、今も英雄たちはこの世界を守るために戦っている。
そんな英雄達を世に送り出しているのは、イギリスにある『キャメロット』と呼ばれる英雄の卵を育て上げる場所。通称『英雄学校』、目の前にあるものがそれだ。
今日からこの学校に入学することとなった
「久しぶりだね、瑞祈」
「久しぶり、ユーク」
「君がこの学校に入学すると聞いたときは本当に驚いたよ」
「俺もようやく実感が湧いてきたところさ。まあ、これからよろしく頼む」
「こちらもこそ、よろしく」
瑞祈に話しかけてきたこの美男子の名は、ユーク・ペンドラゴン。かの大英雄アーサー王の血を受け継ぐ家系の長男だ。あいさつを済ませユークと一緒に歩き始める、少し話している間に人が集まってしまっていた。なにせイギリスで一番有名と言っても良い家系に加え美男子というのもあり、お近づきになりたい人は多いだろう。そこで瑞祈は冗談っぽくユークに話しかけた。
「相変わらずモテモテだな、王子様」
「冗談はよしてくれよ瑞祈、僕は王子でもなんでもないんだから。周りが勝手に言ってるだけで、本当に困ったもんだよ」
「事実、アーサー王の血を引いてる訳だから間違いではないんじゃない?」
「家系で見ればそうだけど、今は王族じゃないんだけどね」
こんなことを言っているが、彼の家は今でもイギリスで随一の資産を持っている。さらに言うとこの学校の学院長を務める家系でもある。ちょっとした会話をしつつ教室へ向かい、ユークとはクラスが違うためじばしの別れとなった。ユークはA組、瑞祈はD組だ。
教室に入ると既に何人もの生徒がいた。黒板に貼られている席の場所を確認して自分の座席に向かう、席に座ると隣に座っていた女子生徒に話しかけられた。
「ねえねえ、アンタってあの王子様とどういう関係なの?」
「王子様? あぁ、ユークのことか。別にただの友達だけど」
「へぇー、そうなの。でもあなた名前からして日本人でしょ!? どこでそんな出会いがあるのよ」
「ユークが日本に来たときに旅行のガイドを務めたんだ」
「ガイド!? ていうかそんな嘘っぽい話、誰が信じるかっていうの!」
「嘘じゃないって、なんなら本人に聞いてみてくれ」
ガイドを務めたのは事実だが、ユークは別件で日本を訪れていた。これはあまり人には話してはいけないことなので、適当に濁すことにした。それよりもこの女子生徒、名前も言わないでさっきから何様のつもりなんだ。向こうはなぜか自分の名前を知っていたが瑞祈は彼女の名を知らない、とりあえず聞いてみることにした。
「ていうか、あんた何なんだよ。名乗りもせず次から次へと」
「あぁ、ごめんなさい。アタシはアレクシア・リシャール。フランスの知将オリヴィエの血を引く家系なの、よろしく」
「俺は橘瑞祈だ、よろしく」
茶髪の髪を肩までのばしているアレクシアは、かわいいというより綺麗は顔つきをしていた。英雄の血筋は美男美女が多いと聞くがどうやら本当らしい。
ここ『キャメロット』には有名な英雄の血筋を持つ人が多く入学してくる。むしろほとんどがそれに該当し、瑞祈のように一般人から入学できることはほとんどない。
「それでアンタはどこの家系なの? 日本の英雄ってアタシあんまりわからないのよね」
「すまないが、俺はそういう家柄とかないんだ。一般人上がりってわけ」
「へぇー、じゃあアンタは『New Age』って訳ね。まぁ、とにかく貴族出身のヤツには近づかないことね」
「どうして?」
「そういうヤツは大抵、血の繋がりを気にしてるヤツが多いってことよ。まあ、『|キャメロット(ここ)』で生活してたらいずれ分かるわ」
『New Age(新世代)』これは血に関係なく、英雄の資格を授かった者達のことを指している。それに対して古の英雄の血を引く者は『Ancient Blood Relatives(古の血族)』頭文字をとってABRとも言われる。新しい世代の英雄達の特徴として戦法の柔軟性が上げられる。ABRは血による制限がある。それは血に由来する武器しか扱えないというもので、ユークの場合は剣と槍は使えるが弓は扱うことができない。その点、新世代の英雄はその縛りが全く無いので多くの武器を扱えるという利点がある。
「まあ、アタシはそういうの気にしないから安心なさい」
「なんか上から目線なのが気になるが、感謝するよ」
アレクシアと少し打ち解けたところで、教室のドアが勢い良く開いた。そこから金髪の男子生徒が瑞祈を見るなり、のそのそと近づいてきた。アレクシアと瑞祈は顔を合わせ、互いに何かやったのかと訪ねるが二人とも心当たりはない。ついに自分の目の前にやって来た。
「てめえ、どこの英雄だ」
開口一番がこれだ。訳がわからないままになっていると、その金髪は続ける。
「ユーク・ペンドラゴンとどういう関係だ。あいつに東洋人の知り合いがいるなんて聞いたこともない」
また、それかよ。と今日二回目の質問をされる。仕方なく質問に答えるとする。
「ユークとは日本の観光ガイドしてあげただけで、友達だよ。あと俺は残念だけどどこの英雄でもない」
これを聞いて、金髪の表情がガラリと変わった。さっきまでとは一転、なぜか笑顔になっていた。
「そうか、そうか良かった良かった。だよなだよな」
そして、なぜか納得している。というか金髪は何に納得したのか?
「いきなり悪かったな。俺はフレッド・カークランドよろしくな」
「俺は橘瑞祈、よろしく」
「騎士道とサムライは似てるとかがあるからな俺は好きだぞ日本」
「そ、そうか。なら良かった。それより何で俺に怒ってたんだよ」
「え? ああそれはな俺はヤツのライバルでな、新しいライバルだったら先に潰しておこうかと思っただけだ。だけどお前がただの友達なら問題なしだ」
まるで意味わからないことを言っている金髪ことフレッドは、顔つきはどこかユークに似ているが、性格がまるで違っていた。ユークのライバルと言っていたから、おそらくユークの知人なのだろう。
「ちょっと、アンタ達アタシを忘れんじゃないわよ。というか本当に失礼ねそこの金髪、レディファーストでしょ普通」
お前が言うかと心の中のでツッコミを入れたくなったが、ぐっと我慢してアレクシアとフレッドの会話を眺める。二人は騎士道がどうとか言っているが良くわからなかった。二人が口喧嘩はその後も続いた。
いつの間にか、教室の座席はほとんど埋まっていてた。時計を見ると入学式の時間が迫っていた。瑞祈が時計を見たのとほぼ同時に教師と思われる男が教室に入ってきた。それを見て、騒がしかった教室は一気に静まり返る。そして男性教師が話始めた。
「諸君入学おめでとう。今日からここのクラス担当となったジョエル・クロフォードだ。私は近接戦闘の指導を担当している、授業が始まればすぐ会うことになるだろう。それでは入学式へ行くから準備しなさい」
その後、各自制服を整えて入学式の会場へ向かい入学式が始まった。学院長の祝辞から始まり、新入生を代表してユークが舞台の上に立った。会場全体の視線がユークに集まっている。ユークは大きく息を吸って話始める。
ユークの新入生代表の言葉は完璧なスピーチで、拍手喝采だった。さすがというべきで、女子生徒の多くはユークにさっそくうっとりとしていた。スピーチを聞いてフレッドは「さすがは俺のライバルだな」と呟いていた。
入学式が終わった後、教室に戻ってそのまま解散となった。瑞祈はアレクシアとフレッドと教室を出ていた。
「そういえば瑞祈の兵種ってなんなんだよ?」
「俺は弓兵だな。まあ、武器に固執する必要もないけどな。今は弓しか使えない」
「弓となると後衛か、俺と組んだらバランスいいな」
「フレッドは何の兵種なんだ? アレクシアが剣士だってのは分かるんだけど」
「俺も剣士だ。剣の腕ならユークにだって負けない」
「アンタすごい自信ね。あのアーサー王の一族に勝てるわけないでしょ!! アタシでも勝てないわよ」
フレッドの自信に溢れた答えを聞いて、彼は大物かそれともバカなのか、どちらかだなと瑞祈は思った。
三人で校舎を出ると目の前に人だかりが出来ていた。人だかりの中心を見ると、ユークがいた。おそらく一緒に帰りたい女子生徒が集まったのだろう。ユークは四方八方から話しかけられていて、体温に困っているみたいだ。友達として助けてあげたいが、あの人だかりに突っ込む勇気はなかった。「すまない」と心の中ので謝って、その場を後にしようとした。
しかし「おーい、瑞祈」とユークが叫んだせいで、周りの女子生徒の視線が瑞祈に集中した。ユークが人を掻き分けて出てきた。
「今日、僕の家に来ないか? 父さんが瑞祈に会いたいって言ってるんだ。昼食もご馳走するよ」
「そ、そうか、なら行かして貰うけど・・・・。今言うべきことじゃなかった気がする」
「えぇー、でも今言わないとそのまま帰っちゃうでしょ。ていうか瑞祈見て見ぬふりしてたし」
ユークと話していると女子の視線が痛いほど刺さっている。アレクシアは少し離れたところからこっちを見ている。一方のフレッドはむしろ近づいてきた。
「よお、ユーク。お前の唯一のライバルのお出ましだぞ」
「おお久しぶりだねフレッド。相変わらず元気そうで良かったよ」
「卒業までにお前を倒してやるからな。首洗って待ってろよ」
「ああ、一緒に頑張ろう」
二人のこの差はなんなんだろう。本当にライバルなのか本格的に怪しくなってきたが、というより話が少し噛み合ってない。
結局、瑞祈とフレッド、アレクシア、ユークで帰ることになった。瑞祈とアレクシアは学校の寮から通うのに対して、ユークとフレッドは自宅から通っている。フレッドも自宅からということは、イギリス出身なのだろう。アレクシアとフレッドはユークに昼食を誘われたが、アレクシアは丁寧に断り、フレッドは「ライバルの飯は食わない」と言って別れた。
瑞祈とユークはユークの自宅へ向かって歩いている。ユークはこの学校に入るを楽しみにしていたようで、授業が楽しみだと言っていた。それに対して瑞祈は不安でいっぱいである。周りはABRばかりで自分は一般上がり、入学式時点で既に差があるのだから。
「いいよな、ユークは元から強いからいいけどさ。俺は他の人より劣ってるんだぞ、不安でいっぱいだ」
「そんなことはないよ瑞祈、瑞祈だって特別なもの持ってるじゃないか」
「それは学校では役に立たないだろユーク。いっそ普通に進学すれば良かったかも」
「まあ、そう言わないでよ。父さんも瑞祈の入学、本当に喜んでたんだから」
この学校に入学式を強く薦めたのはユークのお父さんであり、彼に言われなければ入学することはなかっただろう。彼に会うのも久しぶりだ。しばらく歩いて、ついにユークの自宅に到着した。
ユークに続いて、瑞祈は大きな門を通り抜け中へと入っていった。
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