男子高校生、幼馴染に恋をした。   作:変な顎

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ガチでガチ、今回は。

新クラスを確認して新しい教室に3人で行くことになったが、倉本のクラスは違う棟だった。

どうやらDクラスまでが西棟で、それ以外は東棟のようだ。

この学校は中庭を囲むようにコの字型に校舎が並んでいて。東西北にそれぞれ校舎が、南にはグラウンドがある。

つまり倉本だけ、教室が中庭の対岸の校舎にあるのだ。

すげえよお前、ハブられる事に関してはプロだろ。

昇降口をからすぐのところで別れる。

じゃあな倉本、忘れはしない。

…多分。

 

残った2人で教室に向かう途中、浅田がクラス替えに興奮した様子で、楽しそうに話しかけてくる。

「新しい教室どんなとこだろうね?」

こいつはどんなに些細な事でも、拾って勝手に楽しくなれる奴だ。

毎日が楽しそうで、そんな所が羨ましく思える。

「別に変わりないんじゃないか?教室なんてどこも似たような作りだしな。俺はどっちかって言うと担任の方が気になるな。」

担任の先生の名前は名簿に書いてありはしたが、名前だけではどの先生なのか全くわからない。

人の名前を覚えるのが苦手で去年のクラスメイトさえ覚えきれていない俺には当然の事だった。

流石に顔を見ればわかるけど。

 

昇降口近くの階段を浅田は2段飛ばしで勢い良く登った。

「あ、あった!ここだね!」

そう言って階段を登りきった所で浅田が振り向いた。

「そこか、昇降口が近くなって良かったな。」

「そうだね!去年は結構遠かったしね。」

二階の1番階段に近い部屋、そこが新しい教室だった。

浅田は1人、速足のまま新しい教室に入っていった。

「あ、待てよ!」

新しいクラスに一人で入って行くのは何故か緊張するから、出来れば浅田と並んで入りたかった。

俺は、あまり目立たないように後ろのドアから入った。

浅田と違って俺はシャイボーイなのだ。

 

 

新しい教室、さっきも言った通り去年の教室とあまり変わらない作りだ。

しかし、一歩足を踏み入れたとたん、強烈な違和感に襲われた。

これは今回だけの事ではなく、毎年、毎回の事だ。

やはり1年間も同じ部屋で過ごすとなると、細かい壁や床、黒板の傷とか、ロッカーの微妙な凹み具合などを無意識の内に覚えているのだろうか。

そのせいかは分からないが、俺はクラス替えのたびにこの違和感を感じていた。

 

俺はこの違和感が嫌いだ。

別に教室に対してだけの事じゃない。

TVやカレンダーのような毎日見るもの、髪型や、部屋の模様替え、挙げ句の果てには、RPGゲームのパーティーメンバーでさえ違和感を感じて嫌になる。そのせいでいつも属性強化型のボスに苦しむ。

 

毎日コロコロ変わる服装などは何とも思わないが、長く同じままでいたものが変わるのは好きでない。

言い換えれば、俺は変化が嫌いだ。

変わる事が怖いとすら思う。

変わった先、変わらなければ良かったと後悔するのが怖いのだ。

それは人間関係でも同じだった。

 

……だから俺は坂崎との距離一つも縮められないでいるのだろう。

 

教室にはもう結構な人がいたが、静かだった。

皆んなほぼ初対面だからだろうか、あまり会話などせずにスマホばかりをいじっている。

対して廊下は賑やかだった。

同じ部活や去年同じクラスだった者同士で集まって話をしているのだろう。

年度始め特有の空気が学校に漂っていた。

 

席は出席番号順で俺は1番窓際の前から6番目、後ろから2番目の席だった。

俗に言う『主人公席』ってやつか…

今年はモテるかも!

…ないな、去年も最初同じ席だった。

浅田はと言うと俺の3つ前だった。

『あさだ』で3番目⁉︎

このクラスどんだけ『あ』が多いんだよ。

少なくとも2人浅田より頭文字が若い人が居るのか。

それともあれか、数字やアルファベットが頭文字のやつがいるのか?

ないな、流石にそれは名簿を見たときに、もしいたなら気づいただろう。

にしても3人以上も各クラス出席番号1番並みの実力者が揃っているのか。

恐ろしいクラスだ。

 

「静かだね。」

「うおっ、あぁ、浅田か。まあ初日はこんなもんだろ。」

いきなり話しかけられたから驚いて変な声を出してしまった。

周りが静かでいつもより深く言葉の海に潜っていた。

 

しかし、こいつわかってて話しかけてきただろう。

その証拠にほら、浅田の口元は意地の悪い笑いを浮かべている。

むかつく。

 

「どうしたの?間抜けな声出して。」

そう言うと更に口角が上がる。

やっぱりわざとかよ。

「何でもねぇよ。」

 

口角?そう言えば今日は浅田がマスクをしていない。

こいつは重度のアレルギー持ちで、一年の半分はマスクをしている。

本人曰く食べ物には反応しないが、その他はなかなかキツイらしい。

それで、マスクを手放せないらしい。

ただ、マスクをしているのにも関わらず、よく鼻血を出してトイレに駆け込んでいるのを見る。

マスク意味あるのか?

マスクをしていなければそれなりに顔は良いのに、勿体無い、分けろ。

「それより今日はマスクして無いんだな。花粉、平気なのか?」

「今日は初日だし薬飲んで来たんだよ。よく人は第一印象が大事だって言うし。」

どこか得意げに、いや、もろドヤ顔で言われても…。

「無理だろ、去年あんだけ騒いどいて今更第一印象なんて。同じクラスだったやつも居るんだし。そっから広がるだろう。」

「なんとなく気付いてたけど、やらないよりはマシだよ!」

ポジティブだな、こいつ。

それと良い加減ドヤ顔やめれ。

 

「けど、お前顔にマスクの後が付いててだせぇぞ。日焼けか?」

上半分と下半分の色が明らかに違う。なにこれ、面白い。

浅田はムッと頬を膨らませる。

やめろ、それは女子がやってこそ可愛いんだ。

男がやっても誰も喜びやしねぇ。

 

そうやって、浅田と適当に時間を潰していると、チャイムが鳴り、間もなくして担任の先生が教室に入ってきた。

 

学年主任の先生だった。

 

やっぱり目付けられてるなこりゃ。

授業中あんだけ騒いでいれば当たり前か。

後で聞けば倉本のクラスの先生も学年副主任だったらしい。

ブラックリストに載ってるな、俺ら。

 

「こんにちはー!今日からこのクラスの担任になります、笹本です。よろしくお願いします!」

笹本先生はtheおばちゃんと言った風貌をしていて、温厚で明るく、ノリの良い性格だ。

そのため生徒からの人気はズバ抜けて高い。

良かった、遅刻してもそんなに怒られなさそう。

 

その後は淡々とホームルームが進み、あっという間に放課後になった。

 

「笹本先生で良かったね!遅刻しても怒られなさそう!」

お前は俺か。

考えてる事が全く同じだよ。

怖えよ。

「そうだな、朝ものんびり寝てられる。」

「オムオム朝弱いもんね。」

「俺は悪くねぇ。オフトゥンが俺を離してくれないんだよ。俺、オフトゥンにモテモテだから。」

「オフトゥンならしょうがないね。」

 

また適当な話をしていると、倉本からメールが届いた。

何だろうか、どうせ一人寂しくなってカラオケに行こうとかそんなんだろう。

 

『カラオケ行こう』

 

やっぱり。

本当にわかりやすいやつだ。

わかりやすすぎてちょっと怖えよ。

まぁ、行くけど。

 

 

30分後

駅前のカラオケにやってきた。

カラオケ久しぶりだな。声出るかな。

受付は全部倉本に任せて、俺と浅田は後ろで話していた。

倉本、数少ない活躍の場面。

 

「ほいコップ。アイスで良かったよな?あ、オムオムはホットだよな?」

受付が終わったようで、ドリンクバーのグラスを渡してきた。

ホットか、こいつ、割と気がきくな。

 

「何号室だ?」

「207。」

「了解。」

「了解。」

 

なんかこう言う短い会話って、どこか厨二心をくすぐられるようで、ちょっと好きだったりする。

 

部屋に入るなり倉本が切り出した。

「なぁ、ちょっと話があるんだわ…。ちょっと良い?」

割と真剣そうな顔で言われると、普段が普段なだけに少し心配になる。

「どうした、改まって。」

「いいよ、言ってみて?」

2人でそう言うと、倉本は恥ずかしそうに口を開く。

あれ、なんかデジャヴ。

そう言えば前にもあった気がする。何度も。

浅田が目をこちらへ向け、やれやれと言った表情を浮かべている。

やはりデジャヴなんかじゃないみたいだな。

「実は…好きな人ができた。」

「またか。」

浅田と完全に台詞が被った。

「なんて言うの?一目惚れってやつ?」

俺たちが呆れてるのに続けやがった。

「まてまて、お前、何度目だ?一目惚れ。去年も4~5回してなかったか?」

去年もこいつは「一目惚れした!」といっては、すぐ告白して振られていた。

こいつの「一目惚れ」は「あの子かわいくね?」と同異義語だ。

すっかりその事を忘れていた。

忘れられやすいんだなこいつ。

 

「いやいやいや!今回はガチでガチなんだって!去年のとは違うんだって!何かこう…見た瞬間にビビッと来たっていうか…!マジで過去にないくらいの恋なんだよ!」

それ、毎回毎回言ってるよな。

今回はガチ、今回は前回よりガチって…。ガチのインフレが過ぎるんだよ。

お前はあれなのか?ボジョレヌーボーなのか?

 

「言えば言うほど胡散臭いぞ。見てみろ。浅田なんて呆れてか、もう話しも聞かずに歌う曲探し出したぞ。」

「ひどい!マジなんだって!今回は!」

こうなるとこいつはしつこい。

どう断っても、okと言うまで引き下がらない。

もう適当に折れてこの場を凌ぐしかないかな。

「ようするにまた、手伝って欲しいってんだな?」

「え?マジ?手伝ってくれる?」

「はいはい、手伝いますよ。浅田も一緒にな。」

浅田は、はぁ⁉︎と言わんばかりに俺の顔を見てきたが、スルーした。

そうでもしないと、おれの善意が痛む。

 

浅田は去年こいつのこれを手伝って一度ひどい目にあっている。

簡単に言えば、一目惚れされた女子をききまわっていたところ、自分の彼女に浮気したと勘違いされ、喧嘩になったのだ。

だから浅田が嫌がるのも当然だろう。

悪い浅田、あとでアイス奢るから許せ。

 

 

こうして、俺らは、また、こいつの恋のキューピットを演じる羽目になったのだった。

 

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