しかし、倉本にも困ったものだ。
俺は自分の部屋のベッドにダイブしてアグレッシブなため息をついた。
面倒事を回避するためにさらなる面倒ごとを引っ張りこんでしまった。
いや、倉本がああなったら何がなんでも諦めないだろうし、手伝う他無かったわけだが…。
にしても、面倒臭い。
あいつは少し可愛い女の子がいるとすぐに惚れる。
可愛くなくても惚れる。
話しただけで惚れる。
多分女ってだけで惚れる。
超危険、あいつの周りに女子は近づかないほうが良い。
それは女子の為になるからでもあるし、俺と浅田も助からでもある。
多分あいつの目には、全ての女子が10年に一度、100年に一度の美少女並に美化されて映っているのだろう。
あのボジョレー野郎が。
ただ、本当に好きなのかどうかは置いておいて、人を好きになったと他の奴に打ち明けられるのは正直羨ましく思っている。
俺は、もし人に打ち明けてしまって受け入られなかったら、と考えると怖くて動けない。
でも、1人で悶々としているより、誰かに話を聞いてもらった方が楽なのも知っている。
だから俺は考える。
あの2人に「好きな人がいる。幼馴染を好きになってしまった。」なんて打ち明けたらどうなるだろうかと。
きっと、浅田なら「やっぱり!そんなんだと思ったよ。お盛んだねぇ!」とか、得意げに茶化などしながらも親身に話を聞いてくれるだろう。
あいつはそう言う奴だ。
倉本も、きっと…いや、あいつは茶化すだけ茶化して周りに言いふらしまくるだろうな。超危険。
あいつだけには言わないようにしよう。
にしても、俺は坂崎と幼馴染で家も近い。
それなのに会わない、話さないなんて、脈が有る無い以前の話だよなぁ。
いつから話さなくなったんだっけ。
高校入る時か?中学の時か?
こうなる前は仲が良かった。
けどそれは、昔の話で今となっては俺の事をどう思っているのかなんて分からない。
……いや、大体分かるか。
多分何とも思っていない。
それが一番堪えたりする。
俺はまた大きなため息をついた。
それに続いて何かが喉を振るわせる。
「坂崎…。」
うっわ、声に出てた、キモッ。
俺は恋する乙女かよ。
前半はあってるのかもしれないけど、それならそれで余計に自分で自分に鳥肌がたった。
あーもう。今日はもうこれ以上考えないようにしよう。
じゃないと自分がキモくて耐えられない。
「寝よ。」
俺は電気を消してベッドに潜った。
「兄ちゃん、起きて!」
…心地よい世界に雑音が飛び込んできた。
もう朝か。朝め、性懲りもなく毎日毎日やって来やがって。
「早く起きてって!」
体を揺らされながら起きろと催促される。
「わーったよ、起きる起きる、だから部屋入ってくんな。臭い。」
弟が部屋に起こしにくる。
これ以上悪い目の覚まし方はない。
これが超絶可愛い妹なら最高なんだが、残念ながら妹はいない、いるのは弟だけだ。
「俺は臭くねーし、部屋入らねーと兄ちゃん起きねーじゃん。」
「んな事ない、それに俺は一人でも起きられる。だから起こしに来なくても平気だぞ。」
俺は用心深いので、万が一のためにアラームを三重にセットしてある。
これで起きないはずがない。
マジ策士。
「それはないね、だってもう8時前だし、起きられてないじゃん。」
前言撤回。
俺、一人じゃ起きられねぇや。
「アラームかけたんだけどなぁ…。」
ぼやきながらベットから起き上がる。
とりあえず時計で時間を確認する。
なるほど、弟の言う通り8時ちょっと手前だった。
急いで支度して、すぐに家を出れば遅刻する事はない時間だ。
学校が近くて助かった。
俺は過去最速で支度して家を出た。
流石に2日目から遅刻はしたく無いからな。
自転車で学校までかっ飛ばす。
時間はギリギリだが、登校に使う道は田んぼ道なので見渡しが良くて人も少なく、おまけに何処までも真っ直ぐでスピードをだせる。
…間に合う!
結論から言えば、間に合った。余裕で。
始業30分以上前に着いてしまった。
今日は朝から進路オリエンテーションなるものがあるらしく、始業がいつもの8時45分より30分も遅い9時15分からだった。
昨日ホームルームで先生が言っていたようだが、全く話を聞いていなかったから、そんなこと知る由もなかった。
なんだよ。
急いで損した。
返せよ俺の貴重なカロリー。
さて、だいぶ時間が空いた。
教室には人も少なく、やることもないので浅田が来るまで机に突っ伏して寝る事にした。
が、すぐに起こされる。
「ムラっちじゃん!早いじゃん!」
うるせぇ、この煩さは倉本だな。
「時間間違えただけだ。どうせお前もそうだろ?遅刻だと焦ってきたら日程が普段と違ったって。」
俺はゆっくり顔を上げた。
「そうなんよ!初日から遅刻はヤベーから、急いで学校来たのにだーれも居ないし、暇だったからうろついてたんよ!」
倉本は同じ間違えをしている仲間を見つけて嬉しそうに言った。
因みにムラっちってのは言うまでもなく俺のあだ名で多分こいつしか使ってない。
浅田と言い、こいつと言い、あだ名で呼ぶのは構わないが統一してもらいたい。
時々呼ばれても分からなくなる時がある。
「で?何しに来た。」
「いや、何も?ちょっと見に来ただけだし。あ、そうだ暇だしトランプでもやらね?」
倉本はポケットからトランプを取り出し返事を待たずにカードを配り始める。
お前は普段からトランプ持ち歩いてんのかよ。
カードを赤と黒で分けて配ってるので、スピードでもやろうとしているのだろうか。
俺はトランプ遊びは嫌いじゃない。
むしろ大好き。
しょうがないから俺は乗ってやる事にした。
いつの間にかカードは全て配られ、倉本は赤いほうのカードたちをシャッフルしていた。
カードを切り終え交換し、いっせーのせの合図でゲームを始める。
対戦中倉本は、チラチラと俺を見てくる。
恐らく、昨日の事を話したいのだろう。
あの後、俺も浅田も面倒くさがってろくに相手をしてやらなかったからな。
だから具体的に何を手伝えばいいのかも、誰を好きになったのかも聞いてい無い。
手伝うと言ったからにはキッチリやろう、んで、直ぐに終わらせよう。
面倒臭い事は手早く終わらせた方が楽だしな。
その為には詳細を聞かないといけない。
俺は、いつ話し出すのかと身構えていた。
山札も薄くなってきた。
倉本がなかなか切り出さ無いので俺から尋ねる事にした。
「昨日言ってた好きな人ってなんて人だ?」
倉本は急に聞かれ動揺を隠しきれずに少し手元を狂わせた。
が、直ぐに平静を取り戻し、言った。
「太田さんって人。ポニーテールで背は平均くらいの子。あっ、8出せねぇ!」
太田さんね、聞いた事ねぇや。
「で、なんで好きになったんだ?挨拶でもされたか?」
「いや、まだ話してねえし。ぱっと見だよ。」
「話してすらねぇのかよ。」
「まあな、マジもんの一目惚れってやつよ。」
今度は倉本から一切動揺を見て取ることができなかった。
何かが違う。
言い表せないが、今までとは明らかに違う。
こんな倉本は知らない。
「で?どうするんだ?また告白するのか?それと俺たちに何を手伝えって言うんだ?」
「告白するつもりだよ、もう少ししたらさ。それと、手伝いってよりは、後押ししてもらいたいって言うか、勇気を分けてもらいたいって言うか……。ね。あっムラっちもう山札無いん⁉︎やっべ負ける!」
いや、「ね」なんて言われてもね。
俺はカードを全部出しきってから言った。
「じゃあ、今回は俺らがやる事は特に無いんだな?それなら打ち明けなくても良かっただろうに。」
倉本は負けて悔しそうに残ったカードを放り出し、少し恥ずかしそうに言った。
「せやね、今回は今までと違って少し背中を押して欲しいって思っただけで、具体的に他にしてもらいたい事があるってわけでもないから、まだ言う必要は無いかもしれないなとは思ったんよ。だから俺も珍しく言うか言わないかで迷った。今までなら、もっと軽い気持ちでムラっち達に相談出来たのにさ。でも、今回だけは違った。言いにくいってーか、恥ずかしかったてーかさ…。それでも、やっぱ知っといてもらいって思ったんよ。2人だけにはさ。」
自分で珍しくなんて言うのか。
適当だった自覚はあったのか。
言ってる事は回りくどいからか、少し分かりにくかった。
ただ、本人なりに真剣に考えているという事は伝わった。
何処か俺と似たような事を考えている事も。
去年1年こいつと居て、感じた事のなかったものを今、こいつから感じる。
なんて声を掛けたら良いか迷っていると倉本は座り直し、俺の目を見て続けた。
「マジ、なんだよね、今回は。」
相変わらず、使っている言葉は軽い。
ただ、倉本の眼の奥にはその言葉を信じても良いと思えるものが映っていた。
それは多分、俺にはないものだった。
「……分かった。トランプ勝ったし、後でジュースでも奢れよ。」