「発令!第十一号作戦」顛末記・改   作:そらがく

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第六作戦「打通作戦!ステビア海を越えて」

某日・ステビア海カスダガマ島沖。

 

 太陽は傾き、空が、海が、世界が赤に包まれる時間。

 海上を航行する艦娘達は砲撃戦の真っ最中だった。

 砲撃音が轟き、火薬の匂いが鼻につく、水柱があちらこちらに出来ては消えていく。

 水柱の大きさからその威力は大型艦と言えど一撃で戦闘不能になりかねないものと分かる。

 一瞬の油断が致命に至る戦場。

 しかし、そこにあって、その艦娘は腕を組んで直立不動の姿勢で声高らかに笑っていた。

 

「ははは、いいぞ。どんどん撃ってこい。私はここだ!」

 

 大柄の体躯に日焼けした肌。黒を基調とした服装に、放漫な胸にさらしを巻いて、電探を兼ねた眼鏡を掛けた艦娘。

 属性詰め込みすぎのその艦娘の最大の特徴は、その艤装。

 46cm三連装砲と51cm連装砲。

 現在、艦娘が扱う砲塔で最大のものだ。

 

 彼女の名は武蔵。大和型二番艦にして帝国海軍最後の最新鋭戦艦。

 いわゆる艦隊の切り札。ちなみに姉の大和は未着任だ。

 

「武蔵、張り切るのは結構だが、敵方に出過ぎだ!」

 

 彼女の後ろを航行する旗艦の長門が無線を通してたしなめる。

 その瞬間、武蔵に敵の砲撃が着弾。爆炎が彼女を包む。言わんこっちゃない。

 「大丈夫か?!」と慌てる長門だったが、その煙の中に人影が映り、すぐにその煙の中から少しだけ煤こけた武蔵が姿を現す。

 艤装に多少の傷があるが、基本的には無傷のようだ。

 いや、頬に直撃したのか、口内が切れたらしく、少し腫れている。

 だが、武蔵は気にした風もなく、口に溜まった血をペッと吐き出す。

 そしてにやりと笑う。

 

「心配するな長門よ。この武蔵、これしきで抜かれる防御隔壁(バイタルパート)は持っておらんさ」

「まったく。抜かれなくとも傷はつく。提督がお前の修理費を見て胃を痛めてもしらんぞ」

 

 それに報告書に書く内容が増えると長門が愚痴をこぼすが、武蔵はどこ吹く風と言わんばかりに、敵方へと狙いを付けて徹甲弾を撃ち放つ。

 残っていた取り巻きの敵駆逐艦が爆炎をあげて轟沈。

 

「なに、提督は『最後だから遠慮はいらん。全力の単縦陣で叩き潰してこい』と言い切ったのだ」

「だからと言って少しは遠慮というものをだな」

 

 そう言いながらも長門も出し惜しみなく残弾すべてを敵艦隊へと撃ち尽くす。

 武蔵も負けじと巨大な砲塔に爆音を轟かせてから腕組みを解いて肩をすくめる。

 

「我々が遠慮しては、提督が張った見栄にケチがつく。だからこそ残りの資源を平らげる気で応えるのが我々の(いき)だろうさ」

 

 全弾を撃ち尽くす頃に、艦隊は敵の射程範囲より離脱。

 味方に大破した艦も出たが、敵にも今までない損害を出させた。

 悪くない状態だ。それを確認しつつ長門は苦笑する。

 

「平らげる前にカタは付けてもらわんとならんがな」

 

 勝てばすべてが報われ、負ければすべてが徒労。

 分かり切った事。だが、武蔵は焦りもなくまた腕を組む。

 

「分かっているさ。だが、今回の我々の出番は終わりだ」

「あぁ、我々の(・・・)は、な」

 

 彼女らが今組んでいるのは連合艦隊で第一艦隊だ。

 長門の前方に夕闇に紛れて何かが見えた。

 ややあって通信が入る。

 

「第一艦隊の皆様、お待たせしました。第二艦隊、再突入の準備ができました」

 

 軽巡の神通を中心とした変則水雷戦隊。第二艦隊だ。

 実は旗艦はプリンツ・オイゲンだが、実質的な指揮は神通が取っている。

 

「ああ、雑魚は散らしたし、戦艦水鬼(おやだま)にも徹甲弾を叩き込んだ。今度こそ頼むぞ」

 

 武蔵がそう呼びかけると、静かだが、芯の入った返事が返ってくる。

 

「お任せください」

「あぁ、期待している」

 

 長門がそう言いつつ敬礼すると、返礼した神通がそのまま軽く右手を挙げる。

 

「神通より第二艦隊全艦に通達します。単縦陣のまま最大戦速を維持。並びに夜間砲雷撃戦用意。交戦圏内に入り次第、照明弾投擲。各艦、持てる限りの火力を敵艦にお願いします。これで最後にしましょう。以上です」

 

 柔らかい口調でありながら有無を言わせない気迫が言葉の端々(はしばし)から伝わってくる。

「プリンツ・オイゲン、了解です(ヤボール)」「秋月、お任せください」「雪風、がんばります」「ハイパー北上様の本領発揮だよー」「きゃー、北上さんかっこいいですわっ!」

 しかし、ベテランぞろいの第二艦隊の各艦は、即座に了解(?)の返事が返す。

 気合いは十分のようだ。

 

 そして第二艦隊は攻撃を終えた第一艦隊とすれ違い、入れ替わりで深海棲艦の居る交戦海域へと食らいつくがごとくになだれ込む。

 そして照明弾によって夜闇に浮かび上がるその背中達を眺めながら、武蔵は確信した。

 

「勝ったな」

 

 

 ややあって、武蔵の通信機に北上が有効打をぶちかまし戦艦水鬼を海底に叩き込んだという報告が歓声と共に入る。

 

 かくして、第十一号作戦は、文句ない成功で幕が落ちた。

 

 

     ◇◇◇

 

 明けて提督執務室。

 提督は作戦成功の報告を聞き終えると自室のベットへと倒れ込んだ為、不在。たぶん、しばらく起きてこないだろう。

 鎮守府内は全体待機命令が解除され、最小限の即応人員と遠征組を残して全員休暇に突入。

 そんなわけで、そこには二人の人影しかなかった。

 

「これが甲勲章か。なかなかにいいものだな。しかし流石にこの長門も疲労を覚えたぞ」

「腐っても最終作戦・・・ 激戦の連続(ボスラッシュ)。もう甲評価では完遂できないかと思ったのです」

 

 長門と電であった。

 長門は休暇であっても朝が早い。報告書を速攻で書き上げて参上したわけだ。

 電は提督不在中の代理だ。

 何故か、速攻で大本営から甲勲章が送りつけられており、不作法承知で長門はそっと蓋を開けてそれを見ていた。

 

強敵連戦(ボスラッシュ)。確かにそうだな。戦艦棲姫、空母棲姫、戦艦水鬼。我々は遭遇しなかったが、泊地水鬼。そうそうたる面子だ」

「特に空母棲姫には何度も煮え湯を飲まされましたのです」

 

 頷く長門に電はげんなりとした表情を見せる。

 確かに空母棲姫によって撤退を余儀なくされた事も何回もあった。

 

「ははは、そうだな。この私にしてみれば、戦艦水鬼が出てきてうれしかったぞ」

「でもあれは前回のトラック島でも最後の親玉として立ちふさがったのです」

 

 首を傾げる電に長門は「いやいや」と首を振る。

 

「我々の場合は敵が撤退直前で最強状態で合間見える事は無かったからな。おかげで我々の評価は丙だった」

「甲評価は()に恐ろしき難易度だったと聞き及んでいるのです」

 

 駆逐艦の電にしてみれば、甲だろうが丙だろうが、どっちでも良かった。

 しかし、長門は戦艦の艦娘だ。強敵と相見えるのは、自分の存在意義に直結する。

 雑魚をいくら吹っ飛ばしたところでそれは何の名誉でもない。

 

「今回はその雪辱の意味もあったのだ。前回も第四作戦でもモタモタして資源を使い果たさなければ・・・」

 

 海域駐留捜索(ゲージ回復掘り)を強いられたこの鎮守府で言う通称「雲龍の悲劇」だ。

 

「長門さん、『たら、れば』は言ってもしょうがないのです。『何を選択したか』が大事なのです」

 

 雲龍の着任が無ければ烈風601も無く、そうであれば今回の作戦の航空戦でもっと苦戦したと予測される。

 前回の選択は間違いなく生きている(・・・・・)

 

「確かに頭では分かっているのだが・・・」

「結果に満足しない姿勢はいいと思うのです。でも今ぐらい過去の失敗より、目の前の成功を喜ぶべきなのです」

 

 そう笑顔で告げる電に長門もくすりと笑う。

 

「その通りだ。しかし編成次第でああもするりと抜けるとは、やはり海戦は奥が深いものだな」

「なのです。当初の編成も悪くは無かったと思うのですが・・・」

「意地でも金剛、比叡を使おうとしたのがまた裏目に、か」

 

 第四作戦でうまく行った編成をベースに験担ぎに金剛姉妹を盛った編成だ。

 しかし、それでも最初の方は上手く行っていたのだ。

 

「なのです。しかも最終局面(ラストダンス)前までは割と上手い具合にハマっていたから問題点がまったく見えなかったのです」

 

 最終局面(ラストダンス)。つまり、敵も援軍を呼んで防御を固めた状態になってから、有効打を叩き込めなくなった。

 それを思い出して長門はふむと頷く。

 

「まさか、第二艦隊に戦艦を入れるのが悪手だったとはな」

「なのです」

 

 電もうなずき返して、手元の編成表を見直す。

 最終局面(ラストダンス)直前までの編成は、第一艦隊は、摩耶、長門、武蔵、陸奥、比叡、加賀。第二艦隊は神通、夕立、天津風、金剛、大井、北上。つまり水上打撃編成だ。

 空母機動部隊での編制は結局最後まで組まなかった。

 

「しかし、夜戦までもつれ込む事は想定していたが、最終局面(ラストダンス)で完全に火力不足だったな」

「はい。摩耶さん、天津風さんが対空必中(カットイン)装備で加賀さんが烈風満載(キャリアー)。大井さん、北上さんが甲標的に魚雷積みだったのです」

「正直、戦艦勢は全員徹甲弾を装備して問題ないなかった筈なのだがな。でも夜戦突入しても敵が残り過ぎていた」

 

 加賀が制空権を確保していたので、弾着観測射撃も問題なく出来きていた。

 代わりに加賀自身は攻撃機を積んでいなかったので、直接的な戦力にはなっていなかったが。

 

「そして、千歳さんと飛鷹さんの投入と第二艦隊の大改造なのです。」

「ああ、突破編成は、第一が千歳、武蔵、この長門、陸奥、霧島、飛鷹。第二が、オイゲン、神通、秋月、雪風、大井、北上だったな」

「なのです。龍驤さんが懸念していた練度が全体的に低い軽空母の最終作戦へのガチ投入なのです。防御を考慮して1人は旗艦に据えたのです」

 

 それにプラスして艦隊司令部を軽空母に置くのが定石(セオリー)だが、それを持ってくる大淀は未だに未着任だった。

 

「ふむ、烈風満載(キャリアー)だった加賀が抜け、開幕爆撃が可能になったので幾分安定した印象だったな」

「なのです。練度が低いと言ってもお二人とも7割から8割の仕上りだったので結果は上々だったのです」

 

 強いて言えば、辛うじてその二人だけが、その練度であり、他は目も当てられない。

 その事実は知っていたが、過剰な戦力など期待してない長門は頷く。

 

「で、第二は大幅に変更か」

 

 一番、重要な改善点だった。

 正直、夜戦に絡まない第一艦隊は前座だ。

 最後の夜戦での乱戦(ルーレット)を制した方が勝つ。

 そこで電は指を二本、掲げる。

 

「主な変更は2点。戦艦である金剛さんを外し、幸運艦でもある重巡オイゲンさんを砲雷一撃必殺(カットイン)仕様で旗艦に」

「あぁ、旗艦だと一撃必殺(カットイン)が狙いやすいからな」

「なのです。そして逆に重雷装巡洋艦(ハイパーズ)のお二人の装備を魚雷一撃必殺(カットイン)仕様から連撃仕様に変えた事なのです」

「夜戦であの火力は戦艦である身としては、少し反則ではないかと思うな」

 

 戦艦の出る幕がないではないかとすねる長門に電は苦笑する。

 

「駆逐から見れば戦艦も十分に化物なのです。後、細かい事を言えば、第一艦隊から摩耶さんを外した代わりに、第二艦隊に秋月さんを入れ、対空必中(カットイン)をお願いする形になりました。後は雪風さんを入れた事でしょうか。ただ正直、駆逐艦のお二人は高練度なら誰でも良かった気がするのです」

 

 駆逐艦は火力より耐えて大破にならないことの方が役目だった。

 正直、適切に雑魚を散らし、重雷装巡洋艦(ハイパーズ)が生き残っていれば何とかなる戦いだった。

 とは言え、前哨戦に空母棲姫(くうぼおばさん)の対戦があった事を長門は指摘する。

 

「対空は敵の主力艦隊手前の空母がやっかいだったというのもあるだろう。秋月は本当に働き者だな」

「未だにおにぎり一つで大はしゃぎするのはちょっとやめて欲しいのですが、ともかくオイゲンさんといい、前々回の渾作戦での着任艦は破格過ぎたのです」

「うむ、そうだな」

 

 長門は思い出して深く頷いた。

 あの頃は部隊が出来立てで、艦隊が形を成していなかったが、それでも頑張ったかいがあった。

 

「ともかくなのです。再編成後は主力前の夜戦開幕のK地点で完全勝利ができるぐらいに安定しまくったのです。無傷の戦艦棲鬼が北上さんの一撃だけで沈んだときは開いた口が塞がらなかったのです」

 

 そう言って苦笑する電。誰もが「なんじゃそら」と思った事件だった。

 

「まぁそれでも再編成後の5回目か、突破できたのは」

「なのです。しかし目に見えて安定度が変わったので、もう編成で迷う事なく突撃できたのです」

 

 感慨深く頷く長門に満面の笑みで答える電。

 結果は知っての通り、目の前の甲勲章がすべてを語る。

 

「新たな着任は秋津洲か。どうにも掴み所のない奴だな」

 

 海域突破時に着任したのは水上機母艦。本人は飛行艇母艦と言い張るが、着任当時は飛行艇は持ってこない始末。

 無論、2(スロット)分ほど別途確保していたが、そもそも攻撃機ではない。

 何よりも戦闘艦ではないので当たり前なのだが、死ぬほど弱かった。

 水上機母艦なのに大発も積めないので遠征にも不向き。

 同じ非戦闘艦である工作艦「明石」のような特殊な技能もない。

 皆が「どうしよう、この艦娘(ひと)」と思ったが口にはしない。

 ただ本人は明るく「大艇ちゃんが居れば大丈夫かも!」とのんきにしていた。

 その事を思い出して電は愛想笑いするしかなかったが、ふと思い出す。

 

「酒匂さんも何気に着任したのです。これで阿賀野4姉妹は残り能代さんだけなのです」

「リットリオの妹であるローマの捜索は?」

 

 この時点で未着任は大和、ビスマルク、ローマ、能代、大淀、伊401、谷風、高波の8名。

 設立一年も立たない艦隊にしては上出来だろう。

 

「この海域で迷子になっているとの話でしたが、捜索隊はまだなのです」

「まぁ、敵の勢力も弱まった。これからゆっくり探せばいいだろう」

 

 長門はその点は楽観視していた。

 後は倒せる敵なら、見つかるまで倒すだけ倒せばいい。

 だが、電は苦笑いをする。

 

「でも資材がもうボロボロなのです」

 

 第六作戦まであった上に、途中で磯風捜索(ほり)までしたのだ。

 資源が心許ない領域まで減っていた。

 長門も思い出したらしく腕を組んで少し考えたが、妙案など浮かぶはずもない。ならば正攻法しか残らない。

 

「それは遠征班の帰りを待つしかないか。しょうがない。今日はゆっくり休ませて貰おう」

「はい、お疲れ様なのです!」

 

 長門を見送った電は一つ伸びをすると窓を開ける。

 空は五月晴れの快晴で、目の前の海は穏やか。

 暖かな海風が、脱力して窓枠に両腕を預ける電の頬をなでる。

 

 しばらくはこうして居ようと電は決めた。

 

 ある初夏の一幕であった。

 

 完




 エタらず、完結までようやく書けました。
 驚異の鈍足でしたが、最後までつき合ってくださった方はありがとうございました。
 意外と手間取ったけど、状況を決めて書き始めるとキャラが走り始める不思議。
 いや、艦娘達がしっかりキャラ立ちしてるお陰なんですが。

 さてお次はどうしようか。
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