酷い光景だ。
少年は自分の見ているものが夢だと、すぐに悟った。
彼の目の前に広がるのは、戦の光景。辺りからは怒号や悲鳴が飛び交い、ぶつかり合う金属音が鳴り響き、大地は血で染めあげられていた。それは、もの言わぬ骸と化した『人だった』ものが原因なのだろう。血なまぐさい殺し合いは、過激さを増していく。
ああ、またこの『記憶』か、と漠然と思う。何度も繰り返す、見慣れた記憶の欠片。
彼の家系は少々特殊であった。
一族は先祖からの記憶を自分のこととして受け継いでいる継承者。過去の歴史と次代への想いを、託された未来へ紡ぐ。それが代々、脈々と受け継がれる。本来ならば。
だが偶然、もしくは必然のもと異変が起きる。
少年が受け継いだモノは数多くの戦いの記憶と圧倒的な破壊の力。もはや少年は継承者にして殺戮の遂行者となっていた。
こんなもの望んでない。どうして自分だったのか、とやりきれない想いは確かに存在する。
だが、それだけだ。
何十、何百、あるいは何万かもしれない戦いの記憶を幼少期の頃から見続けていたのだ。少年の常識を非常識で侵食していてもおかしくはなかった。
そんな時だ。
一人の兵士が少年の存在に気づいた。鋭い目つきで睨み、そして剣を掲げて突っ込んでいく。同様に周りにいた兵士たちも後に続いた。
―――もうやめてくれ。
他人の記憶とはいえ、自分の記憶と同じようなものだ。
その戦場に立っているのは、記憶の持ち主だった者ではなく少年で。当然、迎え撃つのも少年自身。
体が少年の意思とは関係なくゆっくりと動き出す。
《―――たったひとりで駆け抜けた数多ある戦場の記憶》
不意に鈍い音が鳴る。見れば、率先して突っ込んでいた兵士の喉を黒く煌めく刃が貫いていた。
そして、貫いていた剣…刀を容赦なく横に振り抜くと、男は屍と化す。動かなくなったそれを見て、少年は目を僅かに細めるが、それも一瞬のこと。次の瞬間には、視線を前へ向けていた。
雄叫びを上げながら迫り来る兵士の大群を静かに見据える。仲間が殺られたと言うのに、誰一人としてその足を止めようとはしない。
戦場なのだ、当然だろう。だが、少年にはそれが少し悲しかった。
そこで再び、少年の体は記憶の道筋を辿るように、突き動かされる。
《―――運命の縛鎖に囚われた少年は…》
数千もの兵に対抗するのは、たった一人の少年。勝敗など見えている。多勢に無勢とはまさにこのことだろう。
しかし、勝利の女神…否、死神が手を貸したのは少年にだった。
戦場を疾駆する一つの影。そのスピードゆえに人影は霞んでいる。
だが次の瞬間、男たちの首や腕が地面に次々と転がって鈍い音をたてた。男たちは声をあげることすら許されず、最後には身体にさえも深い切り傷を刻まれる。
《―――継承者にして遂行者。故に…》
少年と兵士たちが対峙して数分。殺し合い、とも言えないそれは、もはや一方的であった。
血に染まる大地で猛威をふるう少年を見て、思わず誰かが息を呑む。ついには逃げ惑う者さえでる始末。だが、それももう遅い。
一度抜き放たれた刃に、彼らは逃げられなかった。
そして、数時間後。
そこには少年ただ一人が立っていた。
刀を地に突き立てた彼の足元を見れば目を背けたくなるような屍骸が大地を埋め尽くしている。少年の顔や服は血でぐっしょりと濡れていた。
もはや地獄と化した戦場を見つめるが、その瞳には光が灯っていない。
《戦場に残るは、圧倒的な破壊の痕―――》
これは、後世まで語り継がれる英雄譚と同じく未来へと紡がれし軌跡。
望まぬ記憶と宿命を背負わされた少年は、その瞳に何を写し出すのか。
やってしまった……。
ついに書いてしまったよ……。
魔弾の王と戦姫が好きで書いてしまいました!!
初投稿で、まだまだ未熟者ですがどうぞよろしくお願いします!
感想やアドバイスなどありましたらじゃんじゃんして下さい!