魔弾の王と戦姫〜その瞳に映る世界〜   作:おおぱち

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第三話 いざ、王都シレジアへ

「そうか、わざわざ報告ありがとうマトヴェイ」

 

「いえ、私もこちらに用がございましたので好都合でした」

 

現在、戦姫アレクサンドラ=アルシャーヴィンと謁見しているのはたくましい肉体に陽の焼けた肌が映える、髪の短い男―――マトヴェイ。彼はリプナの港町で船『誇り高き白イルカ(ゴルディベルーガ)』号の船長を務めている。

 

その身体つきもあって黙っていれば威圧感があるのだが、丁寧な言葉遣いがさらにその凄味を感じさせた。

 

「時にアレクサンドラ様。気になる話を耳にしたのですが」

 

「なんだい?」

 

サーシャは彼からの報告書から視線を外し、マトヴェイへと移す。

 

「何でもたいへん目にかけている食客の少年がいるそうですね。町で噂になってますよ」

 

どこかからかうように言うマトヴェイの言葉が示しているのは、先日の『昼寝事件』なのだが、当事者であるサーシャが、その姿を多くの人に見られていたとはつゆ知らず、頭にはてなを浮かべながら応じた。

 

ちなみに、レグニーツァの住人達の間で色々と誤解を招いているのは、また別の話である。

 

「ああ、アランの事か。別に噂になるような事をした覚えはないんだけどなぁ。まぁ目にかけているっていうのはあながち嘘でもないけど」

 

「ほう、アレクサンドラ様がそれほど気に入っておられるとは……一度お目にかかりたいものです」

 

「なら出会っていくといいよ。丁度僕も彼に用があるんだ」

 

そう言い立ち上がるサーシャを目で追いつつ、マトヴェイは質問をする。

 

「そういえば、その少年は今どこに?」

 

サーシャは言葉で答える代わりに視線で応じる。マトヴェイは不思議に思いつつも、サーシャの視線を辿っていく。すると、窓から見えるそこは、城壁のそばにある屋外の訓練場だった。

 

突然どうしたですか、そう言いかけたが人ごみを見つけて目を凝らす。

 

「あ」

 

何とも情けない声が体躯のいい男から漏れた。公宮の中に設置された訓練場で、三十、四十の兵の中央に、食客アランの姿があった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話

『いざ、王都シレジアへ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィン、と金属音が響く。回転しながら宙高く舞っていた剣が上空できらりと陽光を反射したかと思うと、訓練場の石畳に突き刺さった。直後、剣を手放した兵の首筋にピタリと剣先が向けられていた。

 

しばらくの間、沈黙が訓練場を覆った。見物人の兵や通りかかった侍女は皆口をぽかんと開けて立ち尽くしている。それもそうだ、屈強な兵を相手しているのは少年で、一人で四十人抜きを達成したのだから。

 

「―――勝負あり、でいいかな」

 

注目の的になっていたアランは、剣をしまうと、わっと歓声が巻き起こった。

 

すげぇ、やりやがったよ、と口々にアランの今までの攻防を講評しはじめるのを聞き、アランはため息を呑み込んだ。

サーシャを助けた時にいた三人の若い兵(年はアランとそう変わらない)に頼まれ、渋々剣の訓練に付き合うことになったのだが、それがどういう訳か他の兵の視線を惹き、模擬試合を申し込まれ、挙句の果てに『腕の立つ少年に勝てる者はいるのか!』という一種のイベントのようになり今に至ったわけだ。

 

模擬試合とはいえ衆人環視の中で自分の剣技を見せるのは、あまり好きではない。

 

剣を借りていた兵に返すと、刀の入った袋を加えて飛んでいるフェルにゆっくりと歩み寄る。それを受け取ると、背後から誰かに肩をつつかれた。

 

「君もすっかりみんなの人気者だね」

 

「茶化さないでくれ、サーシャ。俺がそういうの苦手だって知ってるだろう」

 

やや意地悪そうな笑みを浮かべるサーシャにアランは呆れつつも、彼女の一歩後ろで控えている大きな体格の男が目に入る。

 

「そうだ、アラン。君に紹介したい人がいるんだ」

 

サーシャの言葉を合図に、男が前進してアランと対面した。

 

「はじめまして。マトヴェイと申します」

 

「アラン=クロスフォードです。よろしくお願いします」

 

互いに手を取り合った所でアランが言葉を重ねる。

 

「―――水夫の方なんですね」

 

何気ない様子でアランは言った。その言葉にマトヴェイは一瞬きょとんとして、それから問いかけてみる。

 

「なぜ、私が水夫だとお分かりに?」

 

「筋肉のつき方やその肌の焼けよう、何よりあなたからは潮の香りがしましたので」

 

マトヴェイは目を瞠った。彼は自分にある僅かな情報から水夫だと判断したのだろう。頭も切れるが、鼻もいいものだ。

 

「すみません。気分を害されたのなら謝ります」

 

「いえ、そのような事はありません。ただ……戦姫様があなた様のことを気に入られるのがわかったような気がします」

 

目をぱちくりさせるアランの様子が少しだけおかしく思えた。先ほどまで屈強な兵を手玉に取っていたというのに、今では年相応の少年のような彼が本当におかしく思えたのだ。

 

「今度機会があれば、私の自慢の船『誇り高き白イルカ(ゴルディベルーガ)』号にお乗りください」

 

「いいのですか?」

 

「はい。楽しみにしております」

 

そこで再び手を取り合った後、マトヴェイは用があるらしくその場から立ち去っていった。遠ざかる彼の背を見送ると、アランは今も自分の隣に立つサーシャに話をふる。

 

「それで?サーシャは俺に何か用があるんじゃないのか?」

 

「よくわかったね。実はさ、僕はこれから王都に向かうんだ」

 

王都か、それはまた。戦姫も大変だなと思いつつ、まだ話を続けているサーシャの言葉に耳を傾ける。

 

「今回は特に大切な公務って訳じゃないから一人で行こうとしたんだけど…先日の事もあってか、「護衛を一人はお付け下さい」ってうるさくてね」

 

「いや、それは仕方ないんじゃないのかな…」

 

「で、人選は僕に任せるって言ってくれたから……推薦しておいたんだ」

 

「へぇー、よかったね。主がいう事を聞いてくれてみんなも安心できる」

 

「他人事のように言うけどアラン。君の事だからね?」

 

「そうかそうか、俺か…………………は?」

 

「だから、僕が推薦したのは君なんだよ」

 

一時思考の停止。

 

そして―――。

 

 

 

「何だってぇえええええええええ!!?」

 

 

 

アランの叫び声は無情にも空に消えていく。

 

「みんな納得してくれたし、さっそく行くよ」

 

「いやいやいや、おかしいでしょ!?ただの旅人の俺に、戦姫様の護衛なんて務まるわけない!」

 

「レグニーツァ兵四十人を相手にして無傷で勝った君に言われても説得力ないよ、それ」

 

「な……」

 

悔しいもので、戦闘に長けていてもこういう場面に経験の浅いアランは、言葉を返すこともできず口をぱくぱくさせた。間抜けな顔をしているのは言うまでもない。

 

そんなアランを見て、サーシャは勝ち誇るようににまっと笑った。

 

「じゃあ、用意を整えて城壁前でね」

 

彼女には勝てないな、と思いながらアランは力なく頷いた。

 

 

 

◇――――◇

 

 

 

本日の天気薄曇り。

レグニーツァから王都シレジアまでは距離がある為、一晩宿で止まった訳なのだが、昨夜は珍しく寝つきのよくない晩で、今は睡魔が絶好調だった。

さらに薄曇りも天候と相まってか、アランの気分はかなり低調だ。

それもこれも黒髪の女性が原因。ひと部屋しか借りれなかったからといって、よく平気で男の隣で寝られるよ。

 

そんなサーシャといえば、王へ謁見がすみしだい、友人を連れてくるから待っていてほしい、と言い残し姿を消した。

相変わらず慌ただしい日程だな、と思う。少なくとも、アラン自身は経験したくなかった。

 

いつもの黒いマントに身を包み、シレジアの王宮の廊下をふらふらと歩くアランと幼竜のフェルは、庭園が騒がしいのに気づき視線を移す。

 

すると―――。

 

 

「発育不全!!」

 

「品性下劣!!」

 

 

罵詈雑言を浴びせあっているのは二人の少女。サーシャも美人だが、睨みあっている二人も違うタイプ美少女だ。前者は銀色の長い髪と大きな紅い双眸を持ち、後者は蒼い髪を短く切りそろえたショートに髪と同様の色の双眸を持つ。両者とも、瞳から眩しいほどの光を放っている。

 

「なんだと!!」

 

「なによ!!」

 

――訂正しよう。眩しい光ではなく、正しくはギラりとした殺気のこもった光であると。

 

よし、何も聞かなかった事にしよう。そう思って立ち去ろうとした時、不意に彼女たちがそれぞれ持つ不思議な装飾の剣と槍が目にとまる。

その武具から発せられる雰囲気が、サーシャの双剣バルグレンに酷似しているように感じたからだ。

 

もし、そうなのだとすれば、彼女たちはジスタートが誇る戦姫であるのだろう。しかし、模範であるべき彼女たちが白昼堂々喧嘩などしていていいのだろうか。

 

(んー…サーシャの武具もそうだったが、彼女たちの武具も何故か見覚えあるんだよな……)

 

彼女たちの剣と槍を見つめながら、そんな事を考える。

 

自分は戦姫と会ったのもサーシャが初めてだった。なら、考えられる可能性としては、自分の中に存在する他の者の記憶に彼女、もしくは先代たちを知る者がいたということのみ。

 

ただ、不意に落ちない点もある。アランが受け継いだ記憶は先祖から続く数多くの戦闘経験、だが、これはいうなれば個人的な記憶。今まで嫌というほど見せられた記憶とは一転し、どこかひどく懐かしいと思えるものだった。

 

「ん?」

 

「え?」

 

ぼんやりと彼女たち(彼女たちの持つ武具)を眺めるアランを他所に、睨みあっていた二人が異変に気づく。知らせたのはそれぞれ銀髪の少女はそよ風、蒼髪の少女は微かな冷気であり、二人はそろって一斉に妙な視線をこちらへ送るアランへと視線を移す。

 

「……あの黒ずくめは何者なんだ?」

 

「私が知るわけないでしょう。――けど、一つわかる事はあるわね……あの人……」

 

先ほどまでの喧嘩はどこへやら、二人は顔を合わせると、

 

「「怪しい」」

 

二人同時に同じ事を言うと、同時に二人はアランの元へと歩みだした―――。

 

「おい」

 

「ねぇ」

 

鋭い声の囁きで我に返ったアランは、目の前で威圧感を放つ少女二人に思わず身じろぎする。

 

「貴様……」

 

「何者なの?」

 

近くで見れば見るほど美しい容貌なのだが、それ以上に彼女たちが纏う殺気という名のオーラに、アランは息を呑み、顔を青ざめさせる。

フェルといえば、そんな主を見捨てるかのようにアランの頭の上で身を丸めていた。




今回は予想以上に長くなりそうだったので、一旦切りました。

ようやく他のキャラ達も出せました!
私的ですが、エレンやミラの喧嘩は好きです(笑)

次回も他のキャラが出ますのでぜひ見てください。

感想やアドバイスなどありましたらよろしくお願いします!
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