Fate/eternal rising [another saga] 作:Gヘッド
今回は……、身のねぇ話です。
俺を覆うように張られた小結界のような空間。その空間に入り込んだもののベクトルや重力などを勝手に操作してくれるというお手軽魔術。
「めちゃくちゃこれ使えるじゃねぇか」
使ってみて分かる。これがあればグラムの力など全然怖くない。
……ああ、アーチャーめ。あいつは詰めが甘かったからこの宝石を使わなかったのだろう。別に俺たちのためにこれを残すとかそこまでのことは考えていないだろう。だが、それでも今の俺があいつのおかげで生き残れているというのはどうも癪に触る。
俺はセイバーを見た。彼女は宝石の存在を隠されていたことや勝手に使われたことに苛立っている様子ではなかった。安堵の表情を浮かべている。
「……アーチャーの形見なのに勝手に使っちった。悪い」
さすがに彼女の父親の形見を勝手に使ってしまったことには気がひける。
「ああ、別にいいんですよ、大事に至らなければいいんです」
彼女は微笑んだ。その微笑みは少しだけ俺の心を締め付ける。
本当だったらアーチャーの形見は彼女に渡すつもりだったのに、渡さなかったというのは悔やんでしまう。彼女が大丈夫と言っていても、俺からしてみれば大丈夫なんかじゃない。
宝石の不思議な力で張られた結界が酸素を通さないような気がした。段々と息苦しくなってくる。その苦しみを飲み込んで前を向いた。
グジグジと言っていてもしょうがない。通り過ぎた過去はもう不変のもの。使ってしまったものは使ってしまった。ならばそんな俺がすることは?
しのごの言わずに聖杯を掴み取ることに限る。それだけだ。
「人間ごときが……ッ」
アンドヴァリの呪いは歯を噛み締めた。歯を歯で噛み砕いてしまうほど力強く、苛立っているようである。
だが、すぐに攻撃しようとしてこない。やはりさっき俺に向けて放った剣が全て当たらなかったからだろう。これ以上俺に攻撃しても無駄だと理解したようだ。
しかし、敵は知らない。この魔術は一回限りであるということに。そして、制限時間までもある。つまり、早々にカタをつけなけらばならないということ。
両者睨み合う。互いに敵がどう出てくるか分からない状況だった。
だが、その状態が続けば俺を守る魔術結界は使用時間が過ぎてしまうなんてこともありうる。必然的に先手は俺たちだった。
俺たちは距離を詰めようとした。せめて三メートルほどの距離まで詰めたいものだ。
しかし、そう簡単に上手くいくものでもない。敵だってここで負けるわけにもいかないのだから。アンドヴァリの呪いはいつも通りに無勢に多勢で、慈悲なく攻撃してくる。その上で俺たちとはある一定の距離以上を置こうとした。
グラムの力はどうしても投擲という一点になりがちである。もちろん、それ以外にも攻撃方法はあるのだろうが、一番安全にグラムの力を最大限活かせる攻撃方法はそれなのだろう。だから、その攻撃方法に適した距離を置こうとする。中距離、七メートルから十メートルほどの距離にいて、変に近づこうとしない。堅実にチェックメイトを狙っている。だから、易々と距離を縮めさせないのだ。
もちろん、そんなことは百も承知。しかし、敵にはバレていなくとも制限時間があるのも事実。幸い敵の一番の攻撃方法である投擲、剣を放つということに関してはこの結界が守ってくれているので安心安全。
つまり、どうすればいいのかと言うと……。
「セイバー!この中に入れ!突っ込むぞ!」
正面突破、それのみに限る。
セイバーは俺の命令に従った。半径三メートルほどの結界の中に入り込む。それを視認すると、俺たちは距離を詰めようと走り出した。
「クソッ!」
もちろん追っかけられたら逃げるのが当然。アンドヴァリの呪いは俺たちに背中を見せて走り出した。
「あっ、逃げやがった!」
そりゃ逃げる。追っかけられたら逃げるに決まってる。この状況で距離を詰められたくはないから背中を見せて逃げるのは道理にかなってる。
だが、なんか結構イラつく。
「逃っげんな、ゴラァ!」
「無茶言わないでください!そりゃ、相手だって逃げますよ!」
何とも優しいセイバーはまた敵であるはずのアンドヴァリの呪いをフォローする。お前は本当に俺の味方なのかと問いたかったが、そこはもうセイバーらしさということで完結させておく。彼女の感覚は言葉では説明できない、矛盾を内包しているためだ。
敵との追いかけっこ状況。前方をちょこまかと走り回る後ろ姿、届きそうなのに届かない背中はせせら笑うかのようでイラッとくる。どちらかと言うと俺たちの立場の方が相手に合わせなければならないので、俺はあんまり追いかける側は適していないのだ。ましてや俺の後ろにいるセイバーにも歩幅を合わせなければならない。それがなんかもう、じれったくてじれったくて。
「あの、セイバーさん?もうちょっと早く歩けませんのっ⁉︎」
「それこそ無理ですよ!ヨウと私の歩幅が同じだと思いますか⁉︎」
「よし、じゃあ置いていくか」
「なんてヒドい‼︎この結界の外に出したら私がどうなるか分かってますよね⁉︎」
「全身蜂の巣、ブンブン」
「分かってて置いていくだなんて!人でなし!」
「それが俺だからねっ!」
もちろんさすがにセイバーを置いていくだなんてことはしない。あくまで冗談である。
いや、まぁ、確かにこの状況でどうすればと考えたときに一番最初に思いついた方法がセイバーを置いていくという非道極まりない行為だという時点で、俺は救えないクソ野郎、もとい人でなしなのは自他共に認めている。
とりあえずどうしようか。セイバーの歩幅に合わせていたらグラムに追いつかない。かといってセイバーを追い出したら剣で風穴を開けられるだろう。
頭を悩ませながらも追いつけない追いかけっこをしていたら、背後から何かが倒れる音がした。
「あいたっ!」
不吉な声だ。
険しい顔で俺は振り返る。すると、予想通り、前のめりに倒れこんでいる。
「おい、お前何しとんだ?」
ゴミクズを見るようにように険しい顔で目をくれてやる。彼女は手のひらを地につけて肘を伸ばし身体を起こした。おでこを両手で隠しながら涙目で俺を見つめてくる。
「うっ、い、痛い……」
そんなこと見て分かる。どうせ土から出た木の根の部分に足をつまずかせたのだろう。
「おお、そうだな、痛そうだな。ヨシ、じゃあ立て」
「ヒドい!なんて理不尽!」
彼女は何かを乞うように見つめてくるのだが、あいにくその心の悲しみに似合う慈愛の心を持ち合わせていない俺は眉間にしわを寄せた。
「いや、今このときに理不尽⁉︎ざけんなよ、俺が言いたいわ。何でこんなときにこけんだよ!」
「ううっ、だってその結界の中に入れって言われて、でもヨウ私のこと気にしてくれないから……」
しょんぼりと落ち込むセイバー。そんな彼女に対して鋭い眼光で睨みつけた。
「え?でもこの状況ですよ?それなのに台無しにする気ですか?最後の一歩ってときに諦めるのか?そんなクソヤローは死んでくださいだわ」
「うわぁぁ!ヨウヒドい!」
「今回ばかりは俺、悪くない!圧倒的にお前が悪い!」
正直に言って、今回ばかりは俺は悪くない。絶対にこけた、そして挫けたセイバーが悪い。
俺はアンドヴァリの呪いを倒す前にセイバーに一撃くらわそうかと考えたが、それはよしておいた。
セイバーの機嫌が非常にめんどくさ〜いのである。これ以上彼女の機嫌が変になってしまったらどうしたものか、制限時間を過ぎてしまい勝率が格段に下がってしまう。
この頃若干強情になってきた彼女には頭を悩まされる。目の前でいじけているのだからこれまためんどくさい。とりあえず俺は謝る気はないし、謝りたくもない。
無理やり立たせようとすればさらに機嫌を損ね、置いていけば蜂の巣になるかもしれない。
「……あっ」
俺の頭の上にある豆電球がピカリと明るい光を灯した。聡明な俺の頭がこんな事態にぴったりの案を編み出した。
俺は膝を曲げて腰を落とした。少し前かがみになって、手を腰につける。
「……ふぇ?」
セイバーは俺の後ろ姿を見て目を丸くする。どうやらピンときていないようだ。
「おんぶだよ、おんぶ。乗れ」
そうだ、セイバーをおんぶで担いで逃げる敵に追いつこうという案だ。
「……え?いや、無理ですよ。さすがにそれは無理ですって。案外グラムの身体が丈夫なのか敵は速いですし、私を担いで追いつきますか?」
セイバーが言おうとしていることも分かる。どうせセイバーを担いでしまったら足が遅くなるのではないかと。
「ああ、そうだな、お前重いしな」
ここで軽く彼女をいじくってみる。
「ええ、そうですね、私は女性として結構重いですし……」
と、まさかのここで顔色一つ変えずに普通に返された。予想外の反応に仕掛けた本人である俺が困ってしまった。
あれれ?ここは普通こんなこと言わない?「そ、そんな重くないですから!」とか、「デリカシーゼロです!怒りましたよ!」とか。俺はそういう反応を楽しみにしていたのに。
そう言えばこいつは山育ちの他人と接したことは極端にゼロに近かったような気がする。そうか、こいつは自分のファッションとか身体のこととかあんまり考えないタイプか。
「うっわぁ〜、幻滅ぅ〜」
「ええっ?なんで私、幻滅されないといけないんですか!」
俺たちがこうして楽しくお話をしている最中もやっぱり敵さんは逃げる逃げる。
セイバーはそのことに気づいたのか慌ただしく俺を叩いて敵を指差した。
「あああっ!ヨウ、見てください!もうあんなところまで行ってますよ!」
「うん、知ってる」
「知ってるじゃないですよ!どうするんですか⁉︎」
「いや、セイバーが話すからだろ」
「ここで私のせい⁉︎まさかここで罪をなすりつけます⁉︎」
「何言ってんだ。それが俺だろ?」
「ダメだ、何も言えない」
セイバーは深いため息をつきながら俺の肩に手をかけた。
「残念だったな、俺みたいなマスターで」
「ずっと思ってます。セイギの方が百倍良かったです」
「えっ?俺あいつに負けてるの?」
「ボロ負けですよ」
「お前さ、散々人のことヒドいとか言ってるけど、あながちお前もヒドいよ」
「マスターがこんな人だからですよ」
「おお、一理ある」
彼女は俺に全体重を委ねた。そして、俺の手のひらに彼女は太ももを乗っける。
「……おっほ、柔らかい」
太ももを揉む。
「やめてください!」
怒られた。
「ふっ、俺がお前の太ももごときで興奮するとでも?」
「それはそれでなんか悔しいですね」
俺だって節操無しではない。しっかりとそういう礼節とかそういう堅苦しいことは理解しているつもりだ。
「よっこらせ」
俺は立ち上がった。
するとその時だ。俺の頭がもう一度聡明になったのだ。しかも今度はさっきの比ではない。圧倒的に人智を超えた神のごとき頭脳回路にある煩悩が巡り巡った。
「こっ、これは……!」
立ち上がった俺は一歩も歩き出すことができない。踏み出そうとしていた右足は石化してしまったように一ミリも動かない。
いや、動かなかった。この状態で俺は動かなかったのである。
そんな俺を彼女は不思議そうに見て、どうしたのかと尋ねた。
「いや、ちょっと重大なことを忘れていた」
そうだ、俺にとってこれほどまでに大事なことはなかろう。由々しき事態である。これを忘れていただなんて、そんなことを忘れるだなんて。
「ぐっ、これは神が俺に課した試練かっ⁉︎」
「……いや、だからどうしたのですか?」
彼女はそう尋ねながら俺の顔を覗こうとした。
「ぬががあぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
俺のかつてない叫び声が響き渡る。そして、吐血した。
「えっ、ど、ど、どどどうしたのですか?」
状況をまったく理解できていないセイバーは小パニック状態である。あわあわと俺に担がれながら動くので、その度に俺は神が課した試練に耐える。
「ぐはっ、や、やめろっ!セイバー、それ以上動くなっ!」
「えっ?で、でも、よく分かりません。ヨウは敵の攻撃を受けた様子はなかったのに……」
「はっ、そりゃそうだろうよ……。お前からじゃよく分からないかもしれないが、俺からだとすげぇ分かるんだ」
「と、とりあえず、私を下ろしてください手当をしないと」
「いや、そんな必要はねぇ。だって、この攻撃は結構良いもんだぞ」
「……は?」
「ああ、感じるぜ、俺の背中越しにお前の柔らかいおっぱい……」
「……へ?」
そしてその瞬間、彼女は事の重要さに理解し、赤面しながら自身の胸を全力で隠した。
「なっ、何見てるんですかっ⁉︎」
「見てねぇよ!感じただけだ!」
「十分ですよ、見てるも感じてるも一緒です!まさか、こうさせようと企んだんですねっ⁉︎」
「普通に名案を思いついたから実践してみたらある意味で名案だったってだけだ。どうして俺が企んだことになってる?」
「日頃の行いが悪いからですよ!」
セイバーは嫌そうに睨んでくる。しかも、薄っすらとではなく露骨に。
「何でセイバーはそんなに嫌そうにするんだ。男の子の肌に密着しているという時点でそもそもお前もアウトなような気がする」
そんなことを言ってみたら彼女の顔の紅潮は耳の先まで広がってゆく。
「う、嬉しくなんかありません!別に、そんなこと、か、考えてもどうってことありません!」
そうか、嬉かったのか。
「分かった。この戦いが終わったら抱いてやる。俺の人肌でこの冬の寒さから守ってやろう」
「なんでそうなるんですかっ⁉︎それに、抱くってどっちの意味ですか⁉︎」
「そりゃぁ、もう……。あっちだろ」
「もう、ふざけてないでさっさと行ってください!」
あまりにいじりすぎたのかめっちゃ機嫌が悪い。
「女扱いされて嫌なのか?」
「そういうことじゃないですけど、時と場所を考えてください。ほら、もう敵があんなところに行っちゃったじゃないですか」
セイバーは真っ暗な森の先を指差した。
「えっ?いや、ごめん、見えないわ」
「見えますよ、ほら、あそこに」
セイバーの指差す方向を目を凝らして見てみるが全ッ然見えない。これはきっと山育ちの彼女だからの技なのかもしれない。
「よし、セイバー、お前は俺に敵の場所を教えてくれ。俺にはよく見えないからな」
「ええ、良いですけど……やっぱり追いつくんですか?私を担いで?」
「ああ、そこは大丈夫。不安材料といえば、お前のおっぱいくらいかな」
「そこはもうしょうがないです!おんぶなんですし!」
「それもそうか……?そうなのか……?」
年頃の男の子である俺にはそんなことで納得したくはなかったが、彼女の言葉を使うに時と場所を選ばねばならない。今この状況でそんなおっぱいおっぱい言っていられない。
「よし、行くぞ」
俺は目を閉じた。
ゆっくりと息を吸う。気管に冷たい空気が入り込んできた。俺の肺の中でその空気から酸素だけを取り込んで、血脈に乗せる。そこに俺は魔力も注ぎ込んだ。魔力回路から血管へと流し、魔力による身体強化を図る。ヘモグロビンは酸素を連れて身体中を回る。それに同伴して魔力も隅々まで根を伸ばす。組織と組織の隙間にまで染み込んだ魔力、
ゆっくりと息を吐いた。肺にたまった二酸化炭素を体外に押し出す。肺の下にある横隔膜はぐっと上がり、胸骨は元の位置に戻る。
血潮に流され巡った魔力は俺の細胞に深く絡みつく。一度命じればその魔力を伝い細胞は著しく強化される。細胞の集合体である筋肉や肺、骨や血管の強度は通常の何倍になるであろうか。
デメリットは特にない。強化は魔術の中では初歩中の初歩。失敗するとしても失うものは魔術の行使に使用した多少の魔力ぐらいで、大した問題でもない。
そして、強化すれば敵にも追いつくことができるであろう。きっとそこは大丈夫。今までなんだかんだありながらも魔術の鍛錬もしていたのだから。剣術だけではないのだ。もちろん、二刀流といっても魔術に関しては中途半端だし、セイギの本気を見てしまったあとはどうしても偉そうなことは言えないが、これくらいなら俺でもできる。
俺は目を大きく開いた。その目に映るのは覚悟と闘志である。
「滾れ、
魔力回路を全開放させた。そして、身体の隅々まで細胞に絡みついた魔力を使って魔術を発動させる。絡みついていた魔力は隣の細胞とも絡み、繋がり、そして溶けてゆく。
力が湧いてくる。今ならチーターにでも競争で勝てそうな気がする。
ただ、一つだけ、一つだけ大きな不安要素があるのだ。それはあまりにも大きな不安要素。この作戦を失敗に持ち込んでしまうほどのものなのだ。しかし、この作戦にこの不安要素は付き物であり、切り離すことなんてできやしない。
俺は走り出した。そして、大きく叫んだ。
「おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁいッ‼︎」
不安要素、それはセイバーのおっぱいである。
「恥ずかしいからやめてくださぁいッ!」
ほんと、今回は身のねぇ話でした。
なんでしょうね、私はこのような話が得意と言いますか、書きやすいと言うのか、とりあえずこんな流れになっちゃいますね。ぶっちゃけ、いつも通りですけど。
次回はちゃんと戦いますよ!ハイ、戦います!
……多分ですけど。