Fate/eternal rising [another saga]   作:Gヘッド

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とりあえずパニックってます

 身体が熱い。血管の中を煮えたぎった血が流れているようである。俺の身体から湯気が出ている。これは冬の外気と俺の身体との温度差による結露だろう。

 

 剣を握る手からどっと魔力が溢れ出た。別に魔力を出そうと思っていたわけではないのだが、どうやら異常に魔力を得てしまったらしい。身体の中に収容できない魔力が無意識に外に出てしまったのだった。

 

 頭上を見上げる。そこには何千とある剣の塊が俺に向かって落ちてきている。剣が視界を邪魔して夜空に点在する星を見ることができないくらいだ。このままいけば俺は押し潰されてきっと即死だろう。

 

 さっきまでの俺はこの状況で無理だと諦めていた。結局俺はアンドヴァリの呪いに勝てないのだと。ここで俺は死ぬのだと。確かに一度は謎の殺意によって力を得て、形成逆転、勝利まであと少しのところに追い込んだ。だが、あれは一過性の微かな希望にすぎないのだと思い知った。やはり俺と相手との間には圧倒的戦力差があったのである。

 

 しかし、今は違う。さらにもう一歩踏み込んだからか、行ける気がするのだ。

 

 俺の身体から溢れ出る魔力が剣を伝っていた。この漲る力はどこからやってくるものなのか俺は分からないが、そんなことどうだって良いのだ。

 

 軽く上から下に剣を振り下ろした。腰が入っておらず、力も入れていない本当に軽い振りであった。ふわりと首の後ろから下に向かって動かしただけである。

 

 しかし、どうだろうか。俺が剣振った瞬間、上空にある剣の塊が真っ二つに割れたのだ。その二つに割れた塊は俺を避けるように落ちた。

 

 二つの塊が落ちた時、物凄い地響きと鉄の音がした。特に金属の音は酷く、俺の耳を突いてきたが、その時の俺には音が聞こえなかった。ただ、ずっと首を反らせ、顔を空に向けたまま動けなかった。

 

 それはあまりにも衝撃的だったから。なんてったって、俺が何もしていないのにあの塊が斬れたのだ。いや、まぁ、確かに剣を振りはしたものの、あんな振りは斬ったとはいわない。もちろん、斬らないつもりでもなかった。斬ろうという気はあったが、本当に斬れるとは思わなかったのである。だから、俺は唖然と晴れた視界を見ていたのだ。

 

 星が見える。月が見える。隠されていた夜空が突如俺を照らした。穏やかに、しかしどこか鈍色(にびいろ)の空のように見えたのだ。雲があるわけでもなく、霞んでいるわけでもない。ただ、俺を照らし出す光はあまりにも弱く、かき消されてしまっているかのようだった。

 

 俺と敵との間にあった鉄の塊が一掃され、互いに目を合わせた。すると、敵は眉を顰めた。

 

「何だ、その力は?」

 

 その表情はさっきまでの追い詰められ、怒り狂ったような表情ではなかった。俺のことを不思議と思いつつも、かといってその興味に喜ぶ様子もない。ただ未知の力、想像外の出来事に不機嫌を表しながら冷静に考えていた。

 

「お前、本当に人間か?」

 

 アンドヴァリの呪いが冷静に考えた末の言葉だった。それは至って本気で、敵としてはそうとしか思えないのだろう。

 

「何言ってんだ?人間様に決まってんだろーが」

 

 もちろん、そんなことがあり得るわけがない。いや、仮にそうだったとして、俺はセイバーを召還できるだろうか。答えは否だ。できるわけがない。この聖杯戦争、人間のみしか召還できないのであって、もし人間でないのなら俺の隣にセイバーはいない。

 

 だがしかし、敵は顔を一切変えなかった。

 

「そうか。なら、なぜお前の体は光っている?」

 

 その言葉に俺は耳を疑った。急に何を言い出すかと思えば、俺の身体が光っていると言うのだ。

 

 何を馬鹿な。そう鼻で笑いながら自身の手にちらりと目をやった。

 

「……うわっ、光ってる」

 

 この時初めて気づいた。自身の身体が光っている事に。

 

 いや、厳密に言えば俺の身体が光っているのではなく、俺の身体から溢れ出た魔力が光っていた。ドロリとまるで融解した粘り気のある液体のような俺の魔力は結構強い光を放つ電球を直視しているかのようだった。あまりの光の強さに俺は目を細めてしまった。

 

「え?何これ?」

 

 まさかの展開に当の本人である俺自身が驚き、いや、それを通り越してドン引きの域に入っていた。

 

 光っていた。それも強い光で、目を閉じてもその残光はまぶたの裏にあるくらい。

 

 何なのだろうか。いつの間にか急に光り出したのだろう。よく分からない。気がつかなかった。目の前の危機を乗り越えることで精一杯だったから。

 

 身体は十分に動く。特に差し障りはない。強いて言うのなら、身体が少し熱いと感じるくらいだろうか。

 

「……え?まじで、これ何なん?」

 

 と言ってもそれと言った緊急事態ではない。しかし、人間の視覚への依存は甚だしく、別にそんな大した問題でなくても、目が捉えたようにしか人間は受け取れない。

 

 そんな俺の目が捉えたのは自身の身体から光が放たれているということ。

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ」

 

 軽くパニックを起こしてしまうのもやむなし。

 

 俺の頭の中は収拾がつかなかった。突然の事態、そう言えばまだ聞こえはマシだが、俺からしてみればこの世の地獄並み。敵に「俺人間だから!」と堂々と言ってからの矢先の人間引退宣言みたいな。

 

 もっとも、そんな視覚からの情報を信じれるわけもなく、瞼をぐっと力強く閉じた。

 

 そう、さっき見たものはただの幻、実際は特に何の変化もなく楽しく人間をやっていると心の中で五回暗唱した。きっと、気の疲れから出たのだろう。ほら、連日夜まで起きてたし、なんか謎の力とか手に入れたし。うん、きっとそう。

 

 ……瞼を閉じていても光が見える。

 

 いやいや、何を言っている、俺!そんなはずあるわけなかろう!だって俺人間だよ?発光する人間なんかいる?いないだろ?そう、大丈夫!

 

 俺は僅かに瞼を開けた。一ミリにも満たないほど小さな、まつ毛が見えてしまうぐらいに。そして、俺は事を理解してゆっくりとまた瞼を閉じる。

 

「……って、ウオォォォォおおおオォォォイ‼︎何じゃこりゃ‼︎俺の身体が光っとる!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ、マジでヤバイ!」

 

 本格的にパニックに陥る。何もかもがわけが分からず、どうしてこうなったのか俺の頭の中の記憶を絞り出した。

 

「ああ、悪魔みたいなのと話をしたような、してないような……?」

 

「悪魔?なんだそれは?」

 

「なんか力をあげようっていうから、下さいって感じでもらったんだよ……多分」

 

 確かにそんなような話をしたことは覚えているのだが、正直言って幻聴かもしれないし、そもそもこの歳になって悪魔とか言うのは恥ずかしい。もう中二病は卒業したのだから、そういう類のことはあまり口にしたくないのだ。

 

 しかし、敵はそれを嘲笑う様子もなく、素直に受け止めていた。俺の身体を見つめて、ため息を吐く。

 

「なんだ、そういうことか」

 

「そういうこと?どういうことだよ⁉︎」

 

「何、大したことじゃない。ただ一つ疑問に思っていたのだ。人間であるはずのお前が不意に突然強くなるのが不思議だったのだ。しかも一度や二度じゃない。死の淵に立っていたのに、それが少し経てばその面影もなく戦っている。それはあまりにもおかしな話で、当然疑問を抱いていたが……。いやなんだ、そんなことだったのか」

 

 アンドヴァリの呪いはらしくない笑みを見せた。愉快そうに、しかし何処か諦めたような笑みだった。それはまるでテスト後に色々と終わった人の表情に似ている。

 

「ああ、分かった分かった。確かに理解した。フハハハハハハ、なんだ結局、私たちはお前を彩るお飾りに過ぎなかったということか」

 

 そして段々と笑みが変わってゆく。ユーモア溢れる笑みから段々と狂気というものが増してきた。笑えば笑うほど、その狂気に笑みは汚染されてゆき、最後には笑みですらなくなった。

 

「ならなおさら虫酸が走るッ!私がこんな奴のお飾りだと⁉︎笑わせるな、所詮はただの人間の端くれのために死ねと⁉︎んなことに従うものかッ‼︎この晴らせぬ怨念を、世界の破壊を現実のものとするまで私は死ぬわけがなかろうよ!」

 

 敵は自身の中で俺の存在に納得をつけた。しかし、それを詳しく俺に説明してくれないので、結局自分が何なのかはよく分からなかった。

 

 敵は剣をまた異世界から呼び出してきた。今度は空を覆い隠すほど、万とある剣を取り出してきたのだ。しかもそれを今度は猶予なく、この世界に顕現させるや否やすぐさま俺に投げつけてきた。どうやら敵は本気で俺を潰す気らしい。今までの力が四分の三ほどであろうか。そして、今はガチ本気とでも言うくらいか。

 

 もちろん、そんなことで怖気付くわけがない。しかし、やはり万とある剣を一人で相手するのはさすがに無理がある。それも、途切れなく剣を放ってくるので幽々のような大技は使えない。

 

 早くも八方塞がりという状況だ。

 

 しかし、その時俺の左手が勝手に動き出したのだ。力も入れていない、左手を動かす気はなかった。脳が左手を動かそうとしたのでもない。しかし、左手は自発的に剣を握り、そのまま放たれた剣を一つずつ確実に叩き落としてゆく。足もその左手に合わせるように動き出した。

 

「ぬわっ、何だ?」

 

 まるで自分が操り人形にでもなったかのようであった。特に俺の脳は四肢を動かそうとしてもいないのに、その四肢が命令なく動くのだ。唯一自由に動かせた右手で左手を押さえたものの、左手の力は人間の力の比ではなく軽く払われてしまった。

 

「は?は?はぁ〜⁉︎」

 

 何が何だかよく分からない。身体から溢れ出る魔力は太陽のように眩しく光り、左手は剣を握り俺の意思を無視して暴れ出しているのだから。

 

 もちろん、俺の心の中に現れる感情は恐怖である。見たことない、知らない、感じたことのない現象を目の当たりにして、しかもその体験者が俺となると恐怖しか湧かない。

 

 人とはこの先どうなるのかをある程度予測しながら生きていくのである。では恐怖するのはどういう時か。それは予測が外れた時などではない。そんなことは人生を生きてる上で何度でも、数えるのが馬鹿馬鹿しく思えるほどある。

 

 恐怖するのは予測ができない時である。ある程度の予測とはつまり松明を手にして暗闇を歩くことなのであり、道に落ちている小石にぶつかれば、あ〜ぶつかっちゃった程度で済む。しかし、予測のない、つまり松明のない暗闇は小石がぶつかっただけで恐怖が湧くのである。

 

 予測があれば予測通りにならずとも何故そうなっているのか理解できる。予測がなければ何故そうなっているのかさえも理解できず、その現象を頭で捉えられないので恐怖に駆られるのだ。

 

 この状況も予測のできない事態。それに溢れる恐怖は顔に現れてしまっているのだろう。

 

「おい、お前、本当に分からないのか?自分が何でそうなってるのか?」

 

 敵は呆れ顔で俺を見てくる。しかし、本当に分からないのだ。

 

「はぁ〜、それはそれは、さすがに少し同情してやろう。何も知らぬ聖杯戦争に参戦したなど可哀想にもほどがあるな。人間にはイラつきもするが、私も同じような身だからな。一つ教えてやろう」

 

 敵は優しい言葉をかけておきながらも攻撃の手を緩めない。

 

「さっきお前が言った悪魔の某との取引があったな?あれはモノホンの悪魔といっても過言じゃないぞ」

 

「えええっ⁉︎マジ?」

 

「ああ、大マジだ。その悪魔の目的が何だかは知らぬが、お前、(じき)に存在が消えるぞ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、さっきの恐怖心は消えたが、別の恐怖心が芽生えた。

 

「俺の存在が消える?」

 

「ああ、今はその途中段階というとこだろう。今はまだ右手と口を動かせるようだが、時が経てばそれらも思い通りにならなくなり、いつしか脳もそれに喰われる」

 

 その言葉は本当なのだろうか。

 

「まぁ、お前なぞは簡単に殺せるが、その悪魔某とは非常に分が悪い。だから、それに喰われるまでにお前を殺す」

 

「はぁ?ちょっと、待てって!戻る方法は?」

 

「んなものあるわけないだろう。悪魔だろうが何だろうが、契約を結んだのだから切れるわけがない。大丈夫だ、殺すが痛みぐらいはなるべく与えない。ほら、動くな」

 

「いや、だから身体の自由がきかないんだって!ああ、もう右手も動かしにくくなってきた!」

 

 右手が冬の寒さにやられたようだった。氷点下十度くらいのところに手袋なしでいる時みたいに、手を動かせない。力を入れても動くのは数センチ。これはもう悪魔の某による汚染が結構進んでるということだろう。

 

 相変わらず敵の方からバンバンと容赦なく剣が飛んでくる。もちろん俺が動かしているわけではないが、俺の左手がそれら全てを悉く屠って行く。

 

 ヤバイ、これはさすがにヤバイ。現状が現状なだけにヤバすぎる。身体の感覚が段々と麻痺してゆくようである。動かせたはずの筋肉が動かせなくなってゆくのだ。もう今となっては左手と両足の感覚はほぼゼロである。視覚というものがなかったのなら、切断されているのではとも考えられるほどに。

 

 それはもう恐怖でしかない。自分というものが失われていくのはどんな感覚だか分からないから。

 

 俺はそれを必死で止めようとした。かろうじて動く右手でまた左手首を掴んだ。必死に、全力で自分の左手首を握りしめる。しかし、これほどまでに俺の力はあったのだろうかと思える力で俺の右手の妨害をものともしない。

 

 ならば、今度はと、俺は自分の顎を本気で殴った。脳を揺らして気絶させるためである。もちろん、敵の目の前でそんなことするのはどうかとも思うが、その時は結構テンパって正常な判断ができなくなっていた。

 

 ……いや、だって、自分の存在が消えちゃうかも何だよ?嫌じゃない?

 

 俺の拳は頬骨の下、テコの原理とか何とかでとりあえずちょーどいいところに入った。俺の顔は三十度ほど回り、その瞬間視界がスッとボヤけた。所々に黒い斑点が見え、段々と大きくなる。血の気がなくなってゆく。

 

 ぐらりと俺の体勢が崩れた。立っていられなくて、俺は膝をつき、前のめりに倒れた。しかし、すんでのところで人間であるがゆえの反射神経が働いた。手を前に出して、衝撃を手で受け止めた。

 

 手が擦れた。擦り傷ほどで済んだが、傷口に土が入ってしまってヒリヒリする。そのヒリヒリする痛みが俺のボヤけていた視界を鮮明にしてゆくのだ。

 

 俺のパンチが甘かったのか、気を失いかけたが最後の最後で気を取り戻してしまった。

 

「うっ、気持ち悪りぃ……」

 

 柔道で絞め落とされた時のことを思い出す。それと似たような感覚で、視界がチカチカして、まともに対象物を見ることができない。しかもそれが中途半端だからか、非常に大きな苦痛がジワジワと殴った所に居座っている。

 

 やはり自分で自分の顎を殴るというのは難しいものである。体重移動で力を入れるということができないから、どうしても右手の素の強さでしか流れない。しかも、その右手さえ全然力が入らないのだ。失敗するも当然である。

 

「くっそ……」

 

 折角痛い思いしたのだから、せめて成功してほしいものである。悪魔の某が俺の身体を乗っ取るのを諦めるとかできてほしいものである。

 

 膝をついた。顔を上げて立ち上がろうとする。

 

 その時、俺の右腕が上がらなかった。身体を持ち上げようと、手を地面につけて立とうとしたのだが、右手が地から離れなかったのだ。

 

 俺は視線を下に戻した。

 

「えっ?」

 

 その瞬間、俺の背筋はピンと固まった。視線は地面へと向けられ、背を丸めたまま動けなかった。

 

 何故なら、それは俺の右腕に剣が突き刺さっていたからであった。しかも、それは敵が放った剣などではない。俺の左手が手にしていた剣が俺の右腕を地面に釘付けにしているのだから。

 

 その光景を見るや否や、ただでさえパニック状態に陥っていた俺はさらに深入りした。

 

「うわああぁぁぁぁぁッ‼︎腕が、腕がッ!」

 

 腕を貫いた剣は俺の心も貫いた。腕が貫かれた、それだけなのに俺は気が動転してしまった。それもそうだ。だって、貫いたのは敵の剣ではなく、俺の剣なのだから。俺の左手が俺の右腕を突き刺したというのは何とも鵜呑みにできない。俺の頭はイかれてしまったのではと思えば、それこそ俺の頭を狂わす元凶になった。それになにより、痛みを感じない。それがまた恐怖だった。痛みの神経回路までも悪魔某に汚染されてしまったかと思うと、居ても立っても居られないという気持ちだった。

 

「気を確かにしろ、平静を保て!」

 

 敵がそう叫んでいた。しかし、その声はもう遥か遠くから聞こえるような小さなものでしかなく、動転していた俺にその言葉は無意味だった。

 

 そして、俺の意識が慌てふためくことで、隙を見せた。

 

 ゆらりと視界が揺れる。瞼が急にガクンと重くなり、全身の力が抜けていくような気がした。

 

 そして、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—————この永き地獄に終焉を」




はい、なんか敵が敵じゃなくなって、また新たな敵が生まれて……。どうなるんでしょうね(笑)

いや、まぁ、アンドヴァリは一応敵なんですけど。

それはそうと、作者滅茶滅茶焦ってます。六月までに終わらせる予定なんですけど、若干微妙。物語もそろそろと終盤に差し掛かってきているので、終わるっちゃ終わるんですけど……。

はい、気合いで終わらせます。

さて、次回は身体を何者かに乗っ取られたヨウくん。それを何とかしようと奮闘します。
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