取り調べを終えた彼の前に現れたのは十師族の一角を担う家の長女だった。
「いやぁ、藤宮さん、お手間を取らせて申し訳ありませんでしたなぁ」
あの後。警察署に連れて行かれた俺を待っていたのは取調室でのしつこいまでの尋問だった。
「いい加減にしろ」や「黙りか」と、まるでドラマのような取り調べの中で、一切黙秘を貫いていた俺に、たった今釈放の言葉が降りた。
目の前にいる腹の出た中年の男がガハハと笑う。
本当にそう思うのなら先程まで取調室に閉じ込められていた時間を返して欲しいものだが、生憎と時間は戻らないし、男が「本当に」そう思っていないのは笑顔を貼り付けた表情を見れば分かる。
目が笑っておらず、むしろそこには俺に対する侮蔑と畏怖が織り混ざっていた。
「藤宮さんも人が悪い。『赤坂』の関係者ならそうと言ってくれれば良かったものを」
「『赤坂』の関係者だと知ったらアンタ達は俺を無事に解放したのか甚だ疑問を感じるのだが」
「ええ、もちろん無事に解放はしますよ。我々は『霞ヶ関』の一員とはいえ、力はまるで無い。お宅らと事を構いたくないのが本心ですよ」
そんなものかと思う。
「それにしても俺が良く『赤坂』の人間だと分かったな」
「貴方のことを調べていたらいきなり其方さんから連絡がありましてねぇ。『ウチの犬が其方に居ないか」と言われてウチの上層部はパニックでしたよ」
「犬に首輪とリールが付いているのが分かったんだ。もういいだろう」
「ええ、お時間を取らせましたな。ああ、そうそう。貴方が今度転入なさる学園の関係者からも、こちらに連絡がありましたよ」
「…そうか」
「ええ~、なかなかいらっしゃらないからと近隣の署に片っ端から連絡を入れたそうですよ? おかげでうちの署長もさんざ嫌味を言われたと言っとりました」
「俺の荷物は何処にある」
「既に出口まで運ばせていただきましたとも、ええ。何でしたら入り口までご案内しましょうか?」
「俺のような犬のために国民の血税を使う必要はないだろう」
男の答えに首を振り、部屋を出る。男の声はこれ以上俺と関わりたくないという本音が滲み出ていた。
出口に着くと、先程まで俺を尋問していた警官が俺の荷物を足元に置いて立っていた。
「重たいな、君の荷物は」
ふう、と溜息を吐き俺の荷物を指し示す。俺が荷物を背負いなおすと「それにしても」と警官が関心したように言う。
「良くそんなに重たい荷物を持ってあんな所から此処まで歩いて来れたな」
「あぁ。これよりも重たいものを運んでいたこともあるからな、これくらいは余裕だ」
「どんなことをして来たんだ君は。…………なぁ、君。君はもしかして、魔法科高校に入るのかい?」
警官が真剣な表情をして聞いてきた。その問いに俺は頷く。
「何の因果か知らないがな。今まで通っていた学園から編入という形で入学することになった」
「どういう意味だよそれ。編入という形で入学? 良く分からないんだが」
「それは俺が知りたい。全く、自分の事ながら面倒だなと思う」
ふうん、と言って俺の肩を叩く警官。
「それよりもどうして俺が魔法科高校に入ると分かったんだ」
「あぁ……悪いとは思ったのだが、荷物の中から冊子が覗いていたから少しだけ見てしまった。その冊子が魔法科高校のパンフだったから、もしかしてと思ってな」
「そうか。まぁ見られて困るものでは無いし、隠すことでもないか。アンタの言う通り、俺がこれから行くところは魔法科高校だ。……よりにもよって、という感はあるがな」
「まぁ、それも人生ってヤツじゃないか? 何事も経験だろ。…………頑張れよ」
そう言って警官は自分の業務へと戻っていった。
同時に俺に向かってクラクションが鳴らされる。
振り向くとそこには黒い車。その車から女性が出てきた。
「御勤めご苦労様でした」
そう言って形だけの敬礼をして笑う女性。
黒くフワフワと巻いた長髪をした小柄の女性は、こちらへ向かってきた後、これまたフンワリとした笑みを浮かべた。
「全くだ。不審者と呼ばれるのはまだしも、被疑者確保協力者から取調室にて犯罪者予備軍扱いとはどうなんだ」
「それはそうよ。こんなにも重たそうな荷物を背負っているんだもの」
「あと、あんなフニャフニャした敬礼なんてあるか。軍の勧誘ポスターの水着のお姉ちゃんのほうがまだ気合が入ってる」
「むぅ、何? 早速のお仕事をねぎらってるのに」
「ねぎらわれるほど社会に貢献した覚えはない」
「うぅ……八つ当たりが酷いわ…」
そう言ってヨヨヨと嘘泣きをする女性。そんな彼女にため息をつく。
「全く…アンタは一体何しにきたんだ」
「もう。乗ってくれたっていいじゃない。まあいいわ。乗って。目的を遂行する方が最優先、でしょ?」
そう言って女性は脇に停めてあった車のドアを開ける。
「まあ、それは確かに」
俺は呟いて車に乗り込んだ。
警察署から車を走らせる。車は高速道を走っていた。
「びっくりしたのよ。時間になっても現れないし、これは何かあったのかと思って連絡したら案の定警察の厄介になってるし。急病で倒れたのかと思っちゃった」
広い車内にも関わらず、何故か俺の隣に座る女性。彼女の匂いが鼻腔をくすぐった。
「病気だとは思ってなかったはずだろ」
「どうしてそんなことが言えるのかしら?」
「真っ先に警察署に連絡したろアンタ。病院じゃなくて」
「それは、貴方の事だから倒れる前に何とかするとは思ったけど。貴方の体の事を気遣っているのだから、素直に聞けばいいのに」
「天気予報と情報伝達は正確な方が世界のためだ」
「むぅ~…」
ふくれっ面をして言葉を続ける。
「第一、ここにだってキャビネットは通ってるんだから、それで来ればよかったのに歩いてくるんだもの。それも聞いてびっくりしたのよ。ヒマラヤにでも上るような大荷物背負ってるって」
「悪い、キャビネットは嫌いなんだよ」
「だからって歩いてくるなんて常識外れも良いところだわ」
「あー……」
「どうしたの?」
「学園の皆には言わないでもらえるか。妙な先入観を与えることになりかねん」
「ふふ、変なのが来た、って警戒されるかもしれないわね」
「そういうのは警官相手で十分だ」
「…やっぱり職質受けてたのね…」
「着いたわよ」
更に暫く走ったところで車は止まった。女性が楽しげに口を開く。
「どうかしら? 魔法科高校の中では一番古いけど、それでもそんなの感じないでしょ」
「立派だな。とても学園には見えない」
四階建ての校舎。それが横に長く続いているその様は、校舎というよりもある種の西洋の議会所を連想させるようなものだった。
「もう…これからここが貴方の母校になるのよ?」
「来たばかりだぞ。無理を言うな。そんなもの言ったらそれこそ嘘になる」
「素っ気ないわねぇ。想像力って大事だと思うのだけど」
大げさにため息をつくと、下手な劇団員の如く、両手を大仰に広げながら
「ようこそ、魔法科第一高校へ」
そういって満面の笑みを浮かべるのだった。
どんな学校にも生徒会という組織はあり、生徒会室もある。この学園も例に漏れずあった。今俺は、その生徒会室の中にいた。
「そこに座って」
その中にあるパイプ椅子に腰かける。俺が座ったのを確認してから彼女はその正面に腰を下ろした。
「生徒会長の七草真由美です。ようこそ魔法科第一高校へ。初めまして。…それとも、お久しぶりね、の方が良いかしら、藤宮君」
「便宜上、初めまして、じゃないのか?」
「…そうね、確かに」
クスリ、と笑みを浮かべた彼女――真由美は傍らに置いてあったパンフレットを取り出した。
「まあ、貴方の事だから大丈夫だとは思うけど、一応説明するわね」
細い指でページをめくる。
魔法科第一高校。正式名称は国立魔法大学付属第一高等学校とよぶこの施設は全国に九校設置されている、魔法技能師(魔法師)の養成を目的に設立された国策高等学校・国立魔法大学付属高校の一つだ。九つある魔法科高校の中で第一高校は卒業生の65%が国立魔法大学へ進学している最難関の高等魔法教育機関として知られていて、それは優秀な魔法師を最も多く輩出しているエリート校だということだが、魔法教育だけでなく、それ以外の教育のレベルも全国上位クラスと評価されている。
そんな説明の後で、真由美は
「貴方は二年生、一科に入ってもらいます。入学してからは自由に振る舞ってもらって構いません」
喋りながらページをめくっていた。その指が止まる。その指は緩やかに胸の前で組まれ下を向いていた彼女の視線は俺の方へと向き直った。
「どうかしら…? こちらとしてはあなたのお望み通り、出来るだけ「美浜学園《あちら》」とはそれなりの関係を持った学園のつもりなのだけど」
「質問がある」
「何かしら?」
「ここは…普通の学園なのか」
「……」
真由美の口が閉じた。暫くの無言の後、再び口が開かれる。
「…ええ」
柔らかい笑み。嘘をついているような打算はなさそうだった。
「貴方があの時に言った希望…覚えているわ」
真由美は立ち上がり、窓際の方へと歩いていく。
「『普通の学園に入って、普通の学園生活が送りたい』」
学園のなにもかもが高すぎる環境。そんな中に俺が入る。明らかにそれが示していたものは『異常』そのものだった。
「でもね、貴方も分かっているとは思うけど、貴方自身の事を考えると、ここしか条件が合うところが無かったの」
「…だろうな」
「私はあくまでも、ここは普通の学園だと貴方に言うわ」
ただ、ちょっと偏差値が高めだけどね、と言いながら真由美が振り返る。
「だから貴方もここで普通に過ごしてくれたらなと思うの。周りの皆と同じように、ね」
そう言った真由美は笑顔だった。
「分かった」
だから俺も頷いて見せる。その反応を見て笑みを広げた真由美は「よし」と言うと俺の方へと近づき、俺の腕に自身の腕を絡める。
「折角だから私が学園を案内してあげるわ。入学式よりも先に、ね」
「案内をしてくれるのはありがたいが、どうして腕を組む必要がある」
「だって、会うのは本当に久しぶりなのよ? これくらいしたって罰は当たらないわ」
そう言ってむくれる彼女は『生徒会長』ではなく『七草真由美』としてそこにいた。
「改めて久しぶりね。藤宮敏也君」
「数年ぶりだな」
その言葉に俺は軽く頷き、さりげなく腕を解こうとして―――失敗した。
「もう、どうしてそんなに逃げるの? 私と歩くのはそんなに嫌なのかしら?」
「そういう問題じゃない。アンタは今は『生徒会長』という肩書で接しているつもりなのだろうが、はたから見れば『七草』の女と腕を組んでいる男に見えるだろ。アンタの立場からすればそれはマズいんじゃないか」
「大丈夫よ。今の時間は入学式の準備で在校生はあまりいないから」
何が大丈夫なのだろうか。
「とにかく行きましょ。この学園の良いところをたくさん紹介するわ」
そう言って俺の腕を組みながら先を行こうとする真由美に呆れながらも彼女の言う事に従うのが賢明だと判断し、その後は彼女に案内をされながら魔法科高校の一足早い生活を始めるのだった。
どうも、OKiharaM78です。
第二話で魔法科レギュラーキャラが出てきました。とは言っても、今のところ立場はあの学園の学園長…。
……だ、大丈夫! 彼女にだってヒロインになるチャンスはある! 有る筈だ! …あると良いなぁ…(オィ
さて次回、いよいよ達也君が出てきます(出せるのか?)。
お待ちください。
追記
グリザイア、魔法科と二つの作品をくっつけているこの小説。
もう一つ二つの作品をくっつけることを考えております。
今のところ考えている作品はAqua plusの「Routes」を候補に挙げております。
「これ以上は無理だろう」「今のままで様子見にしておいたほうがいい」「いいぞもっとやれ(作者の苦労? 何それおいしいの?)」など、ご意見お願いします。
今後「クロノスリベリオン」の世界観も入れるべきか
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構わん、続けろ
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無理に入れなくても良いんじゃね?
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そんなことよりヒロインの出番増やせ
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この作品入れてみて?(感想欄にて)