一方真由美は懐かしさを感じていた。
今回は長いです、よ?
side 七草真由美
「会長、どうして二科生なんかに遠慮なんかをしているのですか」
あの騒動の後。
私、七草真由美は生徒会室にて副会長を務めている服部刑部少丞範蔵、通称はんぞーくん(この呼び方は私だけだ)に問い詰められていた。
「どうしてって、仕方がないでしょう、こちらはアポをとってなかったんだから。それにはんぞーくん、その発言は生徒会役員として見逃せない問題発言よ」
それとなく釘を刺す。その言葉に彼は「失礼します」と言って引き下がった。それでも、彼の表情は納得のいっていない表情を浮かべていた。
本来であるならば、今頃新入生総代である司波深雪さんに生徒会への勧誘を行っていた筈だった。筈、というのはまあ、実現しなかったからだけど。
はんぞーくんからすれば彼女に外せない用事があったのなら仕方のないことだと割り切れていた、だがその理由が納得できるものではなかったのだろう。
彼女が言った理由、それは「二科生の兄と一緒に下校したかったから」。私からすればそれくらいのことで目くじらを立てることでもないだろうと言いたかった。
だが目の前の彼は違ったらしい。彼の感覚からすれば「二科生は補欠。補欠はそれらしく自分たち正規の生徒に遠慮してしかるべきなのだ」だろう。
(……全く。こんな下らない選民思想はとっとと取っ払いたいのだけど。中々染み付いた意識を変えるのは難しいわね)
内心ため息をつく。模範となるべき生徒会の役員からしてこうなのだから、道のりの難しさは推して知るべきだろう。
まあ、彼が苛立っている理由も分からなくはないのだけれど。
今年の新入生ははんぞーくんのような意識を持っている者たちの従来の価値観に真っ向から対立する人物が二人もいたのだから。
一人は先ほども話題に上っていた深雪さんの兄、達也君。
入学成績の七教科平均が九十六点。とくに魔法理論魔法工学の双方においては合格者の平均点である七十点を大きく上回っている。当然、ここだけ見れば彼は文句なしの主席なのだ。
だが、彼は二科生にいる。それはひとえに実技が苦手だったから、という理由に他ならない。
そしてもう一人、おそらくこちらのほうが苛立ちの度合いが大きいだろう。
一年A組に「編入」してきた藤宮敏也。
彼の本気を知っている私からすれば「あ、コイツ手を抜いたな」と分かるような成績で総合八位に収まっている。
こんな中途半端な順位なのは実技だけ力を入れて筆記試験を「ワザと」手を抜いて受けたからだ。
しかもその実技に至っても「適当に」という前置詞をつけて力を入れていたのが
そうとう適当にやったのだろう、教師陣は「コイツは一科にするべきなのか、二科にするべきなのか」と相当悩んだらしい。
それだけならばまだいい。はんぞーくんが苛立つ理由は無いだろう。
彼が苛立つ理由、それは彼の履歴、そして「美浜学園」に所属していた事に他ならない。はんぞー君は「彼が美浜学園から来た」という事実だけを知っている。そしてその美浜学園のことも恐らくは少なからず知っているのだろう。
彼の事情を少なからず知っている私はともかく、美浜学園にいたことは彼にとって決して小さくないリスクになって付きまとうだろう。
……あの『封鎖された楽園』から来たのだから。
「はんぞーくん」
目の前にいる副会長を呼ぶ。
「深雪さんの生徒会勧誘については継続していきます。だけど、不和をもたらすようなことだけは止めてね」
言葉に含めたのは達也君と藤宮君への偏見の解消。
不承不承ながらも頷いてくれたはんぞーくんに私も頷き返す。しかしながら、その表情は未だ不満気だ。
「……会長」
「何かしら?」
「……『はんぞーくん』という呼び方、辞めてくれませんか?」
それは、変える気のない呼び方への懇願だった。
はんぞーくんが部屋を出た後。ふうとため息をついて椅子に深く座る。顔を天井に向けて思い出したのはこの前の一年生が引き起こした騒動だった。
「……あの殺気」
あの殺気は間違いなく彼が放ったものだ。放った理由はおそらく騒動の鎮静化。摩利ですらも硬直したあの殺気を浴びせられた一年生はさぞ恐怖だっただろう。
一度浴びせられたことのある私だって固まってしまったのだ、それだけ彼が放った殺気は凄まじかったといえる。
それでも。
私はあの時、不謹慎にもあの殺気に懐かしさを感じていた。『あの時』に感じたものと同じ殺気。
あの時は私を助けるために放たれたものだった。今回も、たぶん、誰かを助けるために放たれた殺気。
あの時を思い出すように目を閉じる。彼と初めて会ったあの日を思い出すように。
思わず口元に笑みを浮かべていることに気づかず、私は思い出に浸っていた。
同時にああいう方法でしか他人との距離を掴めない彼を少し悲しく思った。
side 真由美 end
side 達也
「ここに来るたびに思うのですが」
早朝の寺社。
ここでの組手はもはや俺と深雪の習慣となっている。
今日も例にもれず、師匠――九重八雲の弟子数人との組手を終え、朝食と休憩を取っているときのことだった。
「先生が由緒正しい忍術の家系であるということは重々承知しておりますが、気配を消して背後に忍び寄るというのは伝統とはかけ離れているとはお兄様も思いませんか?」
深雪が話しているのはここに来た時の恒例(?)ともなっていること。師匠が深雪の背後に気配を消して忍び寄り話しかけることについてだった。
「伝統であるかはさておき、『忍び』だからといって会う人会う人に忍び寄るという話は聞いたことがないな。師匠はそこのところをどうお考えで?」
俺がそう聞くと師匠はアハハと笑う。
「いやぁ、『忍び』に忍ぶな、なんて話、土台無理なものだよね。それは君たち、水の中で泳いでいる魚に泳ぐなと言っているようなものだね」
「あくまで伝統、と」
「伝統だね」
悪びれた様子もなく言い放つ師匠に俺と深雪は顔を合わせて苦笑する。
「そういえば達也君、先ほど僕との組手の最中に何か言いたいことがあったそうだけど何かあるのかい?」
話題を逸らすように師匠が聞いてくる。何故分かったのかと聞きたいところだが、「それはホラ、忍びだからね僕」とあっさりと言い返されそうだったため用件だけを聞く。
「ある人物について知りたいのですが、師匠なら知っているのではないかと」
「……人物かい? 誰について知りたいのかな?」
この人物の情報網なら知っているであろう人物の名を口にする。
「………藤宮敏也、いう男なのですが」
その名を聞いた途端。
「………」
先ほどまで浮かんでいた師匠の笑みが消える。目つきも心なしか厳しいものへと変わった。
「お兄様、どうして藤宮さんのことをお聞きになりたいのですか?」
深雪が空気の変わった師匠に代わり俺に尋ねる。俺は深雪に顔を向け、口を開いた。
「深雪、この前の放課後のことを覚えているかい?」
それはこの前、一科生と俺たちが言い争いをした時のことだった。少し硬くなった表情を浮かべた深雪が無言で頷くのを見て言葉を続ける。
「あの時発せられた殺気、あれは周囲から発せられた殺気ではなかった。帰り道を塞がれた学生たちが放つ殺気というにはあの殺気は濃すぎる」
そう。あの時俺たちに向かって浴びせられた殺気は尋常ではなかった。俺が持つ『精霊の眼』を使わなくてもハッキリと分かる濃密な魔力を練った殺気。禍々しいほどのそれは彼を中心として渦を巻いていた。
「あれほどの殺気を放っておきながらも、生徒会長らが来た時にはあっさりと霧散していたというのもおかしい。もしもあれが集団で発せられた殺気だとしたら、場を纏められる人物が来ても不満を持つ者が少なからずいるはずだからだ。それにあの二人ですら硬直するほどの殺気を放つ者だ。相当の人物だろう」
「あのお二人さえ硬直させるほどの実力、ということですか?」
俺の言葉を引き取って深雪が言った。深雪の言葉に頷く。
「お兄様は藤宮さんが危険人物、だと仰るのですか?」
「そうとは言わないさ。あの殺気が放たれたタイミングを見ても、あの騒動を収めようと放たれたものだとしか思えない。特定の人物に向けて発するのならばもっと前から感じていてもいい筈だ。それなのにあの時あの場所にいた生徒達は誰しも皆初めて感じたような態度だった。つまりあの殺気はあの騒動を無理やり落ち着かせる為に放たれたものだろうね」
少々強引だが、と付け加える。
「……まあ、当然といえば当然なのかもね」
先程まで口を閉じていた師匠が口を開いた。当然。そう言った師匠の言葉に深雪が首を傾げる。
「師匠、当然とは?」
ああいや、と言って師匠が笑みを浮かべて手を振る。だがその笑みは明らかに先ほどまで浮かべていた笑みとは違っていた。
「達也君、彼を知ってどうするのかな?」
唐突に師匠が聞いてきた。その問いに俺は答える。
「…深雪にとって敵になるのならば、俺が倒します」
そう断言した。深雪の敵は俺にとっても敵。それが俺に残された「唯一の感情」からくるものだった。横で「そんな…お兄様…」と深雪が頬を紅潮させているのを見て師匠が笑う。作り物の笑みではなかった。
「それについては大丈夫だと思うよ? 断定は出来ないけどね……彼について知りたいのなら、『美浜学園』について調べてみると良いんじゃないかな」
美浜学園。初めて聞く単語に俺と深雪は首を傾げる。
「これについては僕から聞くよりも自分で調べてみたほうが良いかもしれないね。恐らく表面上のことでしか分からないと思うけれど、それでも彼のことを知りたいと思うのなら『封鎖された楽園』を知るべきだ」
敏也のことを知っているような口ぶりで師匠は言葉を閉じた。
side 達也 end
…オイ! 主人公どうした主人公! 作者テメェどういうつもりだ!
ゴメンナサイゴメンナサイどうしても出せなかったのですハイ。(土下座)
お久しぶりです。
今回はどうしてもサイドを書きたかったのです。あのとき達也君たちは何を感じたのかを自分のアホみたいに拙い文章力でできるだけ表現したかったのです。
次回はちゃんと主人公出します。ストーリーも進めます。遅筆なのは勘弁してください。
感想などをくれると作者が喜びます。もちろんアドバイスも歓迎します。
ではまた次回にお会いしましょう。
今後「クロノスリベリオン」の世界観も入れるべきか
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構わん、続けろ
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無理に入れなくても良いんじゃね?
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そんなことよりヒロインの出番増やせ
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この作品入れてみて?(感想欄にて)