提督と鎮守府と時々艦娘   作:sssn

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あめ降る日には傘を指す

萩野の艦隊では演習後の密かなお楽しみがあった。

それはおやつである。間宮のアイスほど上等ではなく。各地の珍しいものでもない。

ただ提督がそこら辺で買ってきたおやつだがそれらが艦娘達の楽しみだった。

昨日はわたがし。その前はタバコみたいなラムネ菓子。

「はい、それじゃあならんでー」

萩野の号令で艦娘達は仲良く一列に並んでいく。

彼女の右手には今日のお菓子が入った籠があり、艦娘達の視線はそれに釘付けになっている。

中身が見えないように布がかけられたそれからは白く、細い棒が覗いている。

「はい、お疲れさま。今日のおやつは」

もったいつけて布を摘まみ萩野はゆっくりと中身を披露する。

「ロリポップキャンディー」

一斉に艦娘達の黄色い声が上がる。

透明なフィルムに包装された色とりどりな棒付き飴に彼女達はすぐに群がる。

早く早くと急かす艦娘達の頭上にそれを掲げ取ってみろと萩野は笑う。

ぴょんぴょんと、必死に飛び上がる艦娘達はとてもカワイイ。

なかにはそんなもの要らないと顔を背けるもの(主に暁や不知火、朝潮)が居たが、近づけてやると仕方ないなと受け取ってはその顔に笑顔がほころぶ。

にやにやして眺めてやるとはっとしたあと顔を赤くして照れ隠しなのかハムスターか何かのように大きく口を開けて頬張っては逃げるように去っていく。

可愛い。

そのために身銭を切ってる甲斐があるのだとほくそ笑む。

「ん?」

大体配り終わったあと、萩野は首をかしげる。

人数分用意していたはずだが数が足りない。

物欲しそうに見上げる彼女にあげるものはとはたと考えて、

「叢雲、飴摘まみ食いした?」

と傍らに控える秘書艦の叢雲に声をかけた。

彼女もまた、飴ちゃんに心を奪われて口に含んで顔をほころばせている一人だ。

「ふぁ?ひょんひゃふぁへはいへひょ」

「うん、口から出してから喋って」

「ぷぁっ。そんなわけないでしょ!どうしてあたしが食べないといけないのよ」

「¨¨¨¨」

「違うわよ!食べてないわよ!」

「うん、知ってる」

ただからかいたかっただけ。

怒った顔もカワイイと言えばはぁ?と無表情になるからしないけどもと。

ぽんぽんと萩野は叢雲の頭を撫でてからならどうしてと首をかしげる。

と、そこで気がついた。

誰だこいつ。

「¨¨¨¨」

「¨¨¨¨」

叢雲も同じことをに気がついたようで二人して顔を見合わせる。

「ねぇ、飴ちゃん無いの?」

黄色いサイドポニーを揺らしながら口にくわえた白い棒を上下させて、彼女は萩野に問いかける。

笑顔で聞いてくる彼女にもうないよと伝えるのはとても心苦しいものなのだけど。

「¨¨¨¨君は、誰?」

そもそも萩野はその子を知らない。

駆逐艦なら大体覚えているし何より来ている服がセーラー服やそういった類いのものではなく。ただのTシャツだ。

「飴子だよ。ねぇねぇ飴ちょうだい」

そもそも艦娘ですらなかった。

とはいってももう飴がない。

「叢雲」

「¨¨¨¨何よ。これはあげないわよ!」

「いや食べ差し上げるのはどうなのかな。間宮の所で飴買ってきて」

「¨¨¨¨」

「パフェ」

「しっかたないわねぇ?ちょっと待ってなさい」

はてさて、これがちょろいのか、それとも萩野がちょろいのか。

「ちょっと待っててね」

「待つよ!」

飴子、と言ったか?

彼女は食べ終わったのか袋を取り出してぺっと棒を吐き出した。

「ああもう」

「わぷっ。自分でできるよぉ」

口元から涎が垂れている。

それをハンカチでごしごし。

 

「にしても¨¨¨¨ほんとに誰なの?」

鎮守府にやってくる人間は大体大本営の人間だがそれは40代くらいのおっちゃんおばちゃんが多い。

それも萩野の様な提督ではなく配達とか、そっちの人たちだ。

「だからー飴子だよ!」

「うんそれはわかったから」

何かあったかなとポケットを、探るがあいにくそういった駄菓子は切らしていた。

あるのはタバコくらいか。

とはいっても、すごく吸いたいのだけれども。こんな小さな子の前で吸うのもどうなのか。

といいつつもその指は自然に1本取り出してくわえているのだけれども。

 

「あ!シガレットだ」

「これは煙草だよ」

「それなら私も持ってるよ!」

「はぁ!?」

つい声を荒げてしまった。

こんな小さな子に煙草を持たせるとはいったい誰だ。と、その小さな子の前で煙草を摘まむのは萩野なのだけれど。

言うが早いか飴子はポケットをごそごそと漁って、ぽろぽろと床に飴ちゃんを溢しながら箱を取り出す。

中にはいってるのはラムネ菓子か。

なんだそれかと萩野は安堵の息をつく。

いや確かに最初にシガレットと言っていたけれども。

「はい、お姉さんにもあげる!」

「あ、ああ。ありがとう飴子ちゃん」

ああ、笑顔が眩しい。

いつからこんなに汚染されてしまったのか。

シガレットを受け取ってくわえてお返しにと先程叢雲にしたように頭をぽんぽんと撫でる。

「萩野さんだよね?」

「ん?そうだけど」

あれ、いつ自己紹介したっけ?と頭に疑問符が浮かぶ。

と、そこで思い付く。

「¨¨¨¨提督かな?」

「¨¨¨¨?そうだよ?」

そういえば最近若い子でも希望者には門を開いてるとか会議で言われてたような気がする。自分には関係ないとスルーしてたけどもいやでもまさか?

駆逐艦ほどしかないこの少女が提督とはにわかには信じられない。

「えーっと秘書艦の方は?」

「加賀¨¨¨¨じゃないや。大和なら演習後の片付けにいったよー?泣きながら」

「大和¨¨¨¨か」

「お姉さんどうしたの?」

「え?」

覗き込んでくる飴子の瞳に大きく萩野の顔がうつりこむ。

その顔の、目からは大粒の涙がぽろぽろと溢れ落ちていた。

同時に胸に激痛が走る。ああ、まだ、乗り越えれていないんだ。

「いや、目に、ごみが入ったみたい」

左手を軽く胸元に起き、押さえながら涙をぬぐう。

「ほら、あんた!買ってきたわよってどうしたのよ!」

「叢雲!萩野が突然泣き出して!」

「なんでもない、から」

叢雲が戻ってきた。

駆け寄ってとんとんと背中を叩かれてようやく自分が膝をついてることに気がついた。

「なんでも¨¨¨¨な、¨¨しょ」

気がついたときには視界が狭まって、世界が斜めに歪んで見えていた。

意識の端で、声が聞こえる。もう聞こえないはずなのに、その声だけが鮮明に聞こえて。

懐かしい声で、萩野を呼ぶ声が。

 

ーー

 

はっと目が覚める。

堅苦しい提督指定の制服からラフなパジャマに姿が変わっていて、寝ているのも滅多に使用されない少し床の固いベッドの上だ。

何があったと体を起こして回りを見渡すと飴子提督の姿があった。

「おはようはぎのん。まだ寝てなきゃダメだよ」

そう飴子は言うと萩野の肩を押さえてベッドに押し倒す。

萩野の体は抵抗もできずにベッドに沈められる。

「ごめんなさい。私知らなくて¨¨¨¨」

「¨¨¨¨気にしないで。あんなの誰にもわからないから」

萩野自身、名前だけであそこまで拒否反応が出るとは思わなかった。

だからこそ、そこまで謝られても困惑する。

何よりこんな小さい子の顔を曇らせるのは忍びない。

「叢雲から、聞いたの。はぎのんに何があったかって。だから、ごめんなさい」

「¨¨¨¨そんなこと気にするならそのはぎのんを止めてほしいかな」

「それはやだ」

「なら止めなくていいから気にしないように」

そこでようやく飴子の笑った顔がみれた。

釣られて萩野の顔にも笑みが浮かぶ。

「よーしじゃあ私も一緒に寝るー!」

「ちょっ!?」

辞めなさいと止める前に飴子は萩野の上に飛び乗っていた。

胸、もとい肺が飴子の体によって圧迫されて脳がくらくらと酸欠に陥る。

「はぎのんおっきいよね」

「けほっいや、枕にしないで。いやそんなことより帰らなくて大丈夫なの?」

「もう遅いし」

言われて窓の外をみると満月が空高く上っている。

昼前からずっと寝てたのかとようやく気がついた。

「それじゃあおやすみー¨¨¨¨」

「ああ、もう¨¨¨¨」

早速すやすやと寝息をたてる彼女の口に飴の棒が入ったままなのに気がついて、そっと抜き取る。

握られたままの手にはロリポップキャンディ。

はぁ、とため息をついて明日食べようね、と囁いて。

しばらく身動きをとらずにいたらいつしか萩野も眠っていた。

 

ーー

後日談。

飴子と寝たことがばれて大和に襲撃された

 

 

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