アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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 20XX年。十五年前、地球・火星間の惑星間戦争はヘブンズ・フォールと呼ばれる火星と月を繋ぐハイパーゲートの暴走による月の崩壊という大災害により、一応の休戦を見た。

 ヘブンズ・フォールは両陣営、特に地球側に甚大な被害を与えた。月は砕かれ、それに伴う災害は各地で人口を半減させるほどの被害をもたらした。地球は休戦状態というかりそめの平和の中、先の戦争からの復興を目指している最中にあった。


プロローグ

 新芦原(しんあわら)市に向かう車中で篠原(しのはら)海斗(かいと)は眼を覚ました。無骨な軍用車の乗り心地はお世辞にも良いとは言えない。崩れかかった目の前の荷物を押し退けて腰を伸ばした篠原は、背中側にある車窓から外を眺め、地名の標識を認めた。

 

「新芦原か」

 

「お目覚めですか」

 

 高機動車を運転する、制服の上からコマンドセーターを着た秋山(あきやま)太一(たいち)二等陸尉が、兵員室を振り返る。幹部(士官)がドライバーをしているあたり、現在の自衛隊の人手不足の加減が分かる。

 

「ああ。よく寝たよ」

 

 篠原は眼を擦り、身なりを整えた。着ていた制服に出来たしわに顔をしかめながらも、ネクタイを絞る。

 

 防衛大学校を出てまだたった三年だ。二十五歳で一等陸尉という階級は、惑星間戦争以前ならあり得なかった。幹部候補生学校(OCS)幹部上級課程(AOC)での教育期間を考えれば現場での勤務はまだまだ足りず、経験不足だ。陸曹を経て三尉に任官したような叩き上げを前にするとまだまだ肩身が狭い。

 

「もう着いちゃいますよ」

 

 高速道路を降りるとその先にはもうすでに陸上自衛隊新芦原駐屯地の通信塔が見えていた。そこが篠原達の新たな任地だった。

 

『──四日後に控える火星ヴァース帝国第一皇女の親善訪問に向けて、ここ新芦原市では警備体制の強化が進められています。新芦原国際空港への連絡橋には今朝から検問が設置され、市内でもゴミ箱の撤去作業などが進められています……』

 

 ラジオから流れてくる声を聞いて、活気づく街の様子に篠原は納得した。四日後、ここ新芦原市の新芦原国際空港を経由してヴァース帝国の皇女による親善訪問が行われるのだ。決して友好な関係とは言えない地球と火星の関係だが、すでに四日後の歓迎のために日本と火星──ヴァース帝国の国旗が街のあちこちに掲げられ、飾り付けなどが行われている。

 

 その一方で、華やかな市街から少し離れると荒れ地が広がっており、未だに重機が整地のために動き回っていた。

 

「ヘブンズ・フォールから十五年か……」

 

 荒れた郊外に目をやって篠原は感慨深く呟く。

 

「早いものですね。自分は幼稚園児でしたよ」

 

「それだけ経っても復興は一向に進んでいない。おまけに自衛隊の連合軍への編入も未だに揉めている有り様だ」

 

 日本はその憲法のために地球連合軍への統合が未だに国会で議論されている。先の戦争では日本も攻撃を受け、自衛隊も地球連合軍と共に火星軍と交戦しているというのにだ。

 

「地球連合軍の進駐は認めても自衛隊を地球連合軍に組み込めないんじゃ、日本が攻められたときはどうなるんでしょうね」

 

「そこが怖いところだ。実際、日本だけに火星が攻めてきたって、ここを橋頭堡にされる訳にはいかないから地球連合だって日本を守るために戦うだろう。だが、本当にそれで良いと思うか」

 

「自衛官の多くはその矛盾を感じていると思いますよ。毎年、志願者は減って連合軍に流れてるんですから……」

 

 秋山の言葉に篠原は悲愴な気持ちになった。そうこう話しているうちに、二人を乗せた高機動車は陸上自衛隊新芦原駐屯地の営門をくぐった。

 

 この新芦原駐屯地は惑星間戦争以降に新設された陸上自衛隊の駐屯地の一つだ。ヘブンズ・フォールの災害で更地になったこの地の復興のために当時の市長が誘致したのをきっかけとされているものの、その一方で街から遠ざけるように郊外に位置している。

 

 駐屯する部隊は第3戦術機甲大隊。この時代において主力兵器の地位に君臨しつつある人型機動兵器──カタフラクトを運用する戦闘部隊だ。

 

 大隊といっても二個中隊分にも満たない──自衛隊の作戦単位は諸外国軍に比べるとほぼ一単位少ない──十六機とその予備機四機のカタフラクトしか配備は完了していない。地球連合軍と足並みを揃えられない日本の自衛隊では、供与された型落ちのKG-6《スレイプニール》をベースに国産開発された07式戦術歩行戦闘車《雷電》及びその次世代型の13式戦術歩行戦闘車《紫電》が採用され、運用されていた。

 

《スレイプニール》に比べて装甲が増強され防御力が高まった地球連合軍の次世代型カタフラクト──KG-7《アレイオン》とは異なり、日本のカタフラクトは二足歩行機動を生かした機動性能と地上戦での汎用性が重視されている。

 

 この第3戦術機甲大隊に配備されているのは、《雷電》二個小隊分八機と予備機二機、《紫電》二個小隊分八機と予備機二機だった。

 

 格納庫で寝かされる《雷電》をさっそく見に行った篠原は、その姿を見て口許が緩むのを禁じ得なかった。

 

──やっぱり自分も男の子だな。

 

 陸自の戦車などに施されるものと同じ濃緑色の森林迷彩が施された《雷電》は色だけで《スレイプニール》や《アレイオン》とは根本的に異なる。さらに外観も一つ目のように見える単眼(モノアイ)式の光学センサーの頭部に赤外線受光部を根元にしたトサカのようなマルチブレードアンテナを備え、まるで戦国時代の鎧のようなスカートアーマーにショルダーアーマーなど、全体的に曲線的なシルエットの機体は昔見ていたロボットアニメの敵役に似ている。自衛隊員たちは国産カタフラクトのことを密かに「モビルスーツ」と呼んでいたりした。線は細いが、複眼(デュアルアイ)で直線的なシルエットの《アレイオン》と比べると、やはり日本のカタフラクトは敵側の機体だ。

 

 秋山は起立した《紫電》の巨躯を見上げていた。《紫電》は《雷電》をベースとしており、外観は似ている。元々《雷電》のアップデート用の技術実証機として開発された《紫電》は、その完成度の高さから量産が決まり、宇宙での運用も行われている。次世代型と銘打たれているだけあり、機体には市街地戦闘用のUCPと呼ばれるグレー基調のデジタル迷彩が施されていた。

 

「一機で90式戦車(キューマル)が三輛調達できます」

 

 整備小隊の陸曹が声をかけてきた。四十近いベテランの一等陸曹で、カーキ色のツナギのフライトスーツを整備服として着て、中帽(ライナー)と呼ばれる作業用のヘルメットを被っている。

 

 整備員の多くは官品の迷彩作業服ではなく、汚しても良いように私物のツナギを作業服として使っていて、黒や紺色、グレーやODなど色とりどりで、厳正な服装が定められた陸自の中でも独特な雰囲気がある。

 

 篠原たちに改めて敬礼した一曹は檜山(ひやま)と名乗った。この第3戦術機甲大隊の整備小隊の先任陸曹だった。

 

「大事に乗るよ」

 

 秋山はそう言ったが、早く乗りたくてうずうずしていることは誤魔化しようがない。節操のない奴め。

 

 二人は機体をじっくり見て回ると格納庫を出た。異動してくるのは二人だけではない。新たな中隊の新編のためにも予備のパイロットがさらに六人着隊する予定で、四日後に着隊式が行われることになっていた。

 

「見ました?新品ですよ。入魂式がこれから行われる機体に乗るなんて夢みたいです」

 

「俺は《雷電》なんだけどな」

 

「使いなれた機体が一番かもしれませんよ」

 

 そんな会話をする二人の前に大型のトレーラーが駐屯地内を進んできた。OD色の自衛隊車輛と違い、黒光りする日本の道交法などまるで気にしない車体の幅で、すぐに地球連合軍の車輛だと一目で分かる。トレーラーはフェンスに囲まれ、イグルーの形をした掩体が並ぶ弾薬庫地区に停まった。

 

 駐屯地内でも警備が厳重な弾薬庫地区から、実弾を込めた89式小銃を銃口下向き姿勢(ローレディ)で保持した完全武装の警衛隊員が出てくると、そのトレーラーから乗員が降りてきた。

 

「弾薬受領に参りました」

 

 乗員は三十代後半と見られる男と、大学生くらいに見える女の軍人だ。連合軍が陸自の駐屯地から弾薬を受領するということは、その用途は──

 

「学校、ですかね」

 

「だろうな」

 

 国連主導で樹立された地球連合に加盟しながら戦力の統合を図らない日本の、またしても中途半端な政策。地球連合の政策に協調し、有事に備え、特定の公立高校において軍事教練とも言える防衛学を取り入れているのだ。

 

 公立高校で学生にカタフラクトの操縦や実弾射撃を行わせているなど、現役の自衛官である篠原達にしてみれば眉唾な話だ。彼らは有事になれば自衛隊ではなく、地球連合軍の兵士として徴兵に近い「動員要請」を受けて戦わなくてはならない。

 

「まったく、不条理だな」

 

 その言葉に秋山も小さく頷くのだった。

 

 




紫電とか雷電は、まぁ想像にお任せします。実はロボットアニメはあんまり詳しくないんで、色々意見していただけたらありがたいです。



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