アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act9 戦場の少年たち

 守住はトンネルの中に入ると輸送車を止めた。

 

『──アカギ01(マルヒト)、こちら10(ヒトマル)だ、状況を送れ。繰り返す、アカギ01、アカギ01、こちら10。応答せよ──』

 

 無線は雑音混じりに中隊本部からの通信が入るが、こちらからの送信はジャミングで届かなかった。

 

 守住はサイドブレーキをかけるとグローブを脱いで手のひらの汗を戦闘服で拭う。正直言って死ぬほど恐ろしかった。敵火星カタクラフトは確実にこの輸送車を追っていた。もし、柏木准尉や野村三尉の《雷電》が敵に立ち塞がらなかったら──

 

『──放送、放送。敵は市街地で何かを捜索している模様。アカギ残存機は敵を引き付け、フェリー埠頭への接近を阻止せよ。各隊はフェリー埠頭を死守されたい。以上、放送終わり──』

 

 無線は一方的に告げられて切れた。放送は、応答の必要のない通信で、司令部も早々に通信障害の排除が難しいと判断したようで、応答を求めなかった。

 

「敵はまだ私たちを追ってきてるみたいですね」

 

 網文が呟いた時、再び無線に雑音と共に通信が入る。

 

『……こちら鞠戸……聞こえるか、界塚?』

 

 連合軍のオープンチャンネルだ。網文が「鞠戸教官……」と呟く。

 

『火星人はお前を追っている……フェリー埠頭への攻撃はまだ無い……出来るだけ奴を引き付けて……でも無茶はするな!必ず生きて帰れ!』

 

 恐らく界塚准尉に向けてであろうこの無線も一方的に切られる。網文が不安な顔で守住を見た。

 

「大丈夫だ。君は皆を安心させてやってくれ」

 

 守住は輸送車を降りるとボディアーマーのMOLLEに取り付けたポーチから双眼鏡を出した。トンネルの出口を見る。

 

 運転しながらも戦闘の様子は見ていた。柏木准尉と野村三尉は撃破された。篠原一尉と日比谷准尉、そして連合軍の界塚准尉が戦っているはずだが、街は静まり返っている。

 

「守住三曹」

 

 輸送車から降りてきた少年が守住に話しかけた。北欧美人と共に輸送車に乗り込んだ、界塚准尉の弟、界塚伊奈帆だ。

「どうした?」

 

「状況は?」

 

「あまり良くないようだ」

 

 たった一機の火星カタクラフトに五機で挑んだにも関わらず、柏木准尉も野村三尉もやられた。戦闘の音が聞こえない所を見ると、味方は全滅した可能性すらある。あの篠原一尉がもし死んでいたら、と考えると守住は挫けそうになる。だが、この少年はまさに家族が、姉が戦っていたのだ。不安なはずだが、彼は圧し殺したように冷静だった。

 

「……君のお姉さんも戦っていたらしいね」

 

「はい」

 

 無表情に見えてその目には力強い、決意のようなものが宿っていてトンネルの出口を見つめていた。

 

「何も保障は出来ないが、無事を祈ろう。共同溝があるだろう?そこを通って学校に向かおう。そこで助けを待つんだ」

 

 守住は車に戻ろうと歩き出す。

 

「学校には──」

 

「ん?」

 

 伊奈帆の呟きに守住は振り返った。

 

「格納庫には練習機があります、火器演習の弾薬も」

 

 伊奈帆は真っ直ぐ守住を見つめていた。

 

「……まさか戦うなんて言う気じゃないだろうな」

 

「そのまさかです。敵はまだ僕らを追ってきています。僕らが囮になって時間を稼げれば避難民を乗せたフェリーが脱出できます」

 

「……無茶だ」

 

 だが守住は、ここにいるのが篠原であったら間違いなく避難民を助けることを優先するであろうという確信があり、否定することは出来なかった。それどころかその提案が、まだ年端もいかない高校生から発せられたことに強い衝撃を受けていた。

 

「戦いましょう、あの火星カタクラフトと」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 相模湾の揚陸城に対して攻撃を仕掛けた地球連合の第7艦隊が保有する艦艇の四割を失うという壊滅的な被害を受けて撤退したため、海上自衛隊は海上からの攻撃は潜水艦からのアウトレンジの巡航ミサイル攻撃のみに絞り、各地の避難民の疎開を支援していた。

 

 日本の最後の砦は北海道だ。北海道には陸自、海自、空自の戦力が集結し、北海度の防衛とこれからの反撃に備えつつあった。主戦場となる地域は首都圏を中心とした地域と予想されている。周辺地域から民間人を逃がすために海自第五護衛隊群は太平洋側を担当して防衛に当たっていた。

 

 その第五護衛隊群の旗艦、あかぎ型航空護衛艦の一番艦である《あかぎ》戦闘情報指揮所(CIC)。第五護衛隊群司令、菅原海将補は戦況が表示されたLSD(ラージスクリーンディスプレイ)を睨んでいた。

 

 戦況図には敵の一隊が突出して新芦原市に進軍したことが表示されている。

 

「新芦原駐屯地からの報告はまだか?」

 

「新芦原駐屯地の部隊は現在疎開を実施中です。フェリー埠頭に接岸し、収容作業を行っている《あつみ》からの報告では陸自の前哨部隊が敵と交戦し、一個小隊が壊滅、敵が市街地に居座っているとのことです」

 

 副長が答えた。

 

「火星カタフラクトか」

 

「詳細は不明です」

 

「インテグレーターを飛ばせ。対空見張りを厳に」

 

「了解」

 

 菅原の指示は即座にオペレーターによって伝えられ、《あかぎ》の飛行甲板で実行に移されつつあった。

 

 全長三百メートルに達する長大な飛行甲板と艦載機発艦用のカタパルトを有するあかぎ型の外見は誰が見ても航空母艦のそれだ。それでも日本国海上自衛隊が保有する戦闘艦はいかなる能力を有していても護衛艦であり、このあかぎ型もそれを貫き通している。

 

 あかぎ型航空護衛艦はヘブンズ・フォール以降の防衛閣議で計画されたひゅうが型航空護衛艦に続いた二世代目の航空護衛艦、空母ならぬ空護(くうご)で、多用途任務に対応するべく様々な能力が与えられた。

 

 航空自衛隊のF-35J戦闘機二十六機の他、対潜哨戒ヘリなど五十機近い艦載機を乗せることが可能で、今は十六機のF-35J戦闘機の他、TF-1高等練習機八機、E-2D早期警戒機一機、ヘリやティルトローター機、それに無人偵察機が搭載されている。

 

 飛行甲板ではRQ-21インテグレーター無人偵察機が準備され、専用のカタパルトの展開も済んでいた。

 

 カタパルトに五人がかりで運ばれて設置されるとインテグレーターはエンジンを始動。カタパルトにて射出された。

 

 

 

 *

 

 

 

「アイツ、弾を跳ね返すのではなく、全部吸い込んでいました。弾だけじゃない、アクティブセンサーの信号もアイツに当てると返ってきません」

 

「どういうことだ」

 

 芦原高校の校舎内の会議室で守住は伊奈帆ら高校生と共に話し合っていた。ここに共同溝を使って逃れてきた守住らはただ救援を待つことを良しとしなかったのだ。

 

「赤外線も音波探知もレーダーも全部ダメ」

 

 イスに逆向きで座り、背もたれに手をかけた伊奈帆の同級生であるカーム・クラフトマンがまさにお手上げとばかりに溜め息を吐いた。

 

「エコーが戻らなかったんです」

 

 網文が言った。

 

「参っちゃいますよ」

 

 オコジョというあだ名で呼ばれる箕国(みくに)起助(おきすけ)も頭の後ろで手を組んで嘆いた。

 

 伊奈帆を除く一同は落胆の色が強い。

 

「運動エネルギーだけじゃなく、電波もレーザーも吸収される……きっとそれが、あの壁の特性なんだと思います」

 

「壁……?」

 

「アイツの表面を覆っているエネルギーフィールドだよ。バリアって呼んでもいい」

 

 カームの問いに淡々と伊奈帆は答えた。

 

「バリア……」

 

 網文は絶句する。まさに無敵の敵だ。打つ手がない。守住は昔見たアメリカ映画を思い出す。火星人ではない本物の宇宙人とアメリカ軍が戦う映画だったが、強力なシールドで攻撃が通用せず、アメリカ軍は当初ボロボロに壊走するはめになる。敵がビーム兵器を装備していないだけで、大した違いはない。

 

「物質も音も電波も、触れるもの全てを吸収するバリア……でもさ、それならアイツはどうやってバリアのこちら側を見てるんだろう」

 

「どういうことさ」

 

 箕国が聞く。

 

「外からの情報を全部バリアで遮断してるんだよ。もしかしたらアイツはバリア越しにこっちを見ることも聞くことも出来ないのかも」

 

「それって」

 

 守住は腰を上げる。

 

「はい。僕の考えではあの裏側は真っ黒に見えるはず」

 

 伊奈帆の分析に守住は呆然となった。決して荒唐無稽な推測ではない。

 

「でも、だったらどうしてアイツの攻撃は当たるの?」

 

「確かに。見てねーんならどうやって狙いをつけてんだ?」

 

「アイツ、目の前にジャンプしてきたよ」

 

 網文、クラフトマン、箕国が次々に呟く。

 

「アイツは逃げる僕たちにビルの向こうから正確に攻撃してきた。でもあれだけしつこく追ってきた癖に僕らがトンネルに入ったとたん、あっさり見失った」

 

「自衛隊とかと戦ってたからじゃ?」

 

 箕国の言葉に伊奈帆は首を横に振る。

 

「きっと、バリアの外側を見ていたのはアイツじゃない。アイツは視界を確保するために恐らく上空に別のカメラを用意してるんだと思う。こんな感じに」

 

 伊奈帆は手に持つタブレットPCを操作して背後のモニターに航空写真を表示した。

 

「だからどんなに引き離されても僕たちを追ってこれたし、トンネルに入ったら見失った。バリアを張りながら前を見ることが出来ないからだ。今もアイツは僕たちを空から監視しているはずだ」

 

「なるほどな。逆に言えばこうして屋根の下にいる限りは完全ってわけだ」

 

「でも外に出た途端に見つかる。多分チャンスは……一回限りでしょう」

 

 守住はその言葉に唇を固く結んだ。その時、守住の無線が受信した。

 

『──こちら──聞こえたら──を──』

 

 ほとんど途切れ途切れだ。守住は即座に送受話器を取る。

 

「こちら芦原高校、巡察03、守住三曹!」

 

『──よく聞こえな──』

 

「繰り返す、こちら芦原高校。現在民間人二十三名と共に避難している!応答を!」

 

『──を知らせ──』

 

 無線はそこで途切れた。守住は慌てて屋上に走る。車両無線機のアンテナは屋上に設置してあった。上空を友軍機が飛んでいるかもしれない、そう思って屋上に出るが、一応敵の目を気にして上空を見上げる。

 

 はるか上空を飛ぶ無人偵察機の姿が見えた。自衛隊の運用するインテグレーターだ。あれが無線を中継している。

 

「こちら芦原高校、繰り返す、こちら芦原高校!」

 

 アンテナの指向性を無人偵察機の方へ向けるが、雑音しかもはや入ってこなかった。

 

「くそっ」

 

 だが、守住は無人偵察機の他にも何かが浮遊していることに気づいた。

 

「あれは──」

 

 

 




オコジョはしれっと生きてますよ。

ひゅうが型護衛艦は史実とは異なり、大型化。カタパルトを一基装備した軽空母になっています。
この空護に乗っけるための艦上航空隊が空自には新編され、第101飛行隊、第102飛行隊、第103飛行隊が厚木基地、岩国基地にそれぞれ展開している設定です。
TF-1高等練習機についてはまた登場する際に解説を。
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