日本、新芦原市
「夜明けだ。行くぞ」
黒いロングのトレンチコートを羽織った上からMP7A1を一点式スリングで吊ると篠原は呼びかけた。薄明時期。陽の光が闇夜を照らし、明るくなり始めている。薄寒く、息は白くなった。
白い火星カタクラフトは放置していくしかないだろう。破壊に必要な白燐手榴弾も爆薬もない。これから先、捕虜となるであろうヒューティアの身を案じながらも立たせた。火星の制服は目立つのでヒューティアにも黒いロングコートを着せている。
「行きましょう、篠原大尉」
「一尉だよ界塚准尉」
「すみません」
界塚もまたベージュのロングコートを羽織り、グロック19自動拳銃を握っている。ヒューティアは昨日の夜から大人しくしている。手錠のタイラップは緩めていた。朝食のおにぎりも綺麗に平らげており、捕虜とは思えない食欲だった。三人が歩き出そうとした時、北の方角で乾いた破裂音が聞こえた。
「ん?」
篠原よりも先に界塚が音の方向を特定した。
「信号弾?」
赤の信号弾が三発打ち上げられ、落下傘でゆっくりと落ちていく。
「戦闘開始……?学校の方だわ」
界塚が茫然と呟く。
「まさか」
火器演習のために弾薬類は学校の弾薬庫で管理され、学校には武装したカタクラフトが残っている。まさかそれを使って脱出するつもりか。
篠原の脳裏に昨日の光景が浮かんだ。
「くそ。守住のやつ、何を考えている!急ぐぞ!」
「はい!」
篠原と界塚は走り出す。だが、ヒューティアは立ち止まり、《エスカリオン》を見上げている。
「彼らは市民を逃がそうとしているのか?」
「そうだろうな」
篠原は今はそれどころではなかった。時間が惜しい。
「……一飯の恩だ。手を貸そう」
篠原にヒューティアが向き合う。その眼は嘘偽りのない輝きで篠原を見つめていた。
「……なに?」
*
カタクラフト輸送用のトレーラーが走りだし、二機のオレンジ色のカタクラフト、《スレイプニール》が続く。守住はトレーラーのハンドルを握っていた。隣にはダークグレーの作業服に、自衛隊の
一方でセラムと名乗った栗色の髪の少女は大した緊張もなく、渡されたダネルMGL-140グレネードランチャーを抱えていて、赤い髪の少女、ライエはむすっとした顔で車窓を眺めている。
守住は戦闘に当たって全員に作業服と中帽の着用を命じていた。ひらひらした制服では何かに挟んだり、巻き込んだりする恐れもあり、肘膝を防護できない。しかし、あのカタクラフトと戦うに当たって本当に必要なのかと学生たちから不満は噴出した。
そこら辺はまだ子供らしい。
『作戦開始』
高校生とは思えない冷静な声が無線に響く。伊奈帆だ。
「落ち着いてるな……」
思わず口に出しながらも作戦通りの経路にトレーラーを進めた。連合軍のカタクラフト輸送用トレーラーも自衛隊のそれと大した違いはない。というよりも日本の企業が製造しているため、ハンドルも右だった。
セラムは改めて物珍しそうにグレネードランチャーを見ているが、指は指示した通り、用心金の中には入れず安全装置はしっかりとかけている。
「使い方は大丈夫ですね?」
「セフティを外して撃つだけ、簡単よ」
作業服の上からグレネードランチャーの弾を携行するためにベストを着たライエが答える。セラムもこちらを見て頷いて見せた。
*
篠原の言う民間人たちは煙幕を張り、《ニロケラス》の鷹の目を逆手にとって行動を開始したようだ。ユニスは自分から提案したことだが、自分が信じられなかった。まさか地球人に、姫殿下の敵に力を貸すとは。
『トレーラーだ!位置を教えろ、奴はどこだ!』
『南西方向、街の中心部に向かっているようです!』
「奴は何を血眼になってトレーラーなんざ追い回してるんだ」
「私が知るものか」
何を考えているのか知らないが、トリルランとトロイヤードは民間人を追っているようだ。トリルランは相当気が立っているのか、声を荒らげている。
その時、空に向かって打ち上げられる火線が見えた。トロイヤードのスカイキャリアが地上のカタクラフトと交戦しているようだ。
「あの航空機をやれるか?」
「まったく無茶を言う……!」
上からのしかかるようにして乗り込んでいるのは篠原だ。反対側には界塚がいて《エスカリオン》のコックピットはすし詰め状態になっていた。レールガンの照準を合わせようと旋回する。
スカイキャリアは旋回し、対地攻撃態勢に入ろうとしていた。突然コックピットに警告音が鳴る。
「なんだ?」
「航空機だ、マッハ0.8。四機向かってくる」
「回避しろ」
上昇し、離脱を開始すると二機編隊の戦闘機が下方を通り過ぎた。
「F-35……空自か!」
篠原が声を上げる。戦闘機がスカイキャリアに対してミサイルを次々に発射。スカイキャリアと交戦を開始した。地上ではさらなる作戦が繰り広げられつつあった。
*
自衛隊は守住たちがもたらした情報を元に救出作戦と敵カタクラフト撃破を目標とした攻撃を開始した。
街中に軽装甲機動車が二輛ずつ、四組展開し、火星カタクラフトに向かう。上面ハッチから顔を出した隊員は火星カタクラフトの前に軽装甲機動車が飛び出すと12.7mm重機関銃M2を連射し、50口径弾を撃ち込む。
『命中!効果なし!』
『構わん、敵の注意が引ければ良い!』
もう一輛の軽装甲機動車から身を乗り出した隊員は84mm無反動砲M3を構えると発射する。後方爆風と共にSMOKE 469B発煙弾が火星カタクラフトは足元に打ち込まれ、炸裂。さらに軽装甲機動車も発煙弾を発射し、煙幕を形成する。
「ちょこまかと!」
トリルランは自衛隊のしつこい攻撃に苛立っていた。自分が追うのはあの忌々しいネズミだ、この雑魚どもを相手にしている暇はない。上空を飛ぶ戦闘機がスカイキャリアを攻撃しており、トロイヤードはもはやあてにならなくなった。煙幕の中を無理矢理突っ切ってトレーラーを最後に確認した方向へ向かう。
*
「あいつ、メチャクチャ……!」
スレインのスカイキャリアと交戦する網文韻子は思わず叫んだ。道などお構いなしに建物を消し去りながらダンゴムシはずんずんと進んでいる。空は援軍のお陰でなんとかなりそうだが、煙幕の効果は薄れつつあった。
『くそ、もっと高度を上げて戦ってもらえないと気流が乱れて煙幕が……!』
カームは空中戦を見て呻く。
『こちら第3戦術機甲大隊!巡察03、所定の配置に就いた』
「了解!こちらも準備よし!」
『こちらセイバー16。避難民を回収した、離脱する!』
その間に避難民を乗せた二機のCV-22Jが離陸し、離脱した。それを援護していたUH-1Y多用途ヘリは次の任務を開始する。
*
『
『各位は03を援護せよ。03、こちら00』
守住は無線を取った。
「こちら03」
『そちらの予想通り敵カタクラフトは03を追っている。うまくKZ(キルゾーン)に誘い込め』
「03、了解」
守住は答えながら二人の少女の顔を見た。二人とも平静そのもので、怯えはない。守住は少し勇気付けられたような気分だ。
ここからが正念場だ。
話が全然進まないぜ……
そして姫様のホログラムってどーなってんだろうという疑問が。二期でレムリナになったりもしてたんで、あの私服にしか着替えられない訳じゃなさそうですよね。