アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act16 キルゾーン

 篠原たちの乗る《エスカリオン》も空自の戦闘機から攻撃を受けそうになったが、篠原らが火星カタフラクトを鹵獲して乗り込んでいることを国際緊急周波数で伝えると戦闘機にエスコートされ、進行中の作戦をパイロットから伝えられた。

 

「そんな、危険だわ……」

 

 界塚は顔を強張らせた。

 

「援護できるか?」

 

 カタフラクトや戦闘機と交戦するスカイキャリアを指差して篠原が聞いた。

 

「……やるしかない」

 

 ユニスは《エスカリオン》をスカイキャリアに向ける。スカイキャリアはなんとか空自の戦闘機からの攻撃を凌いでいた。高度が低すぎて戦闘機は攻めあぐんでいる。

 

「すまないな、トロイヤード」

 

 そう呟き、トリガーを引くとマッハ八の超音速で放たれた弾体がスカイキャリアの翼を掠めていた。直撃させなくてもマッハ八で飛ぶ弾体の強烈な衝撃波はマッハコーン(円錐形の衝撃波)となって斜めに広がっていき、衝撃波の破壊力を伝播する。見えない巨大なハンマーに叩かれたスカイキャリアの左エンジンは火を噴き、スレインは咄嗟にスカイキャリアの左エンジンをカット、失速して墜落することを避けるため、残った右エンジンの出力を上げて上昇、離脱を図る。

 

 手負いのスカイキャリアを執拗に攻撃する空自の戦闘機はカラスのようだった。

 

「よくやってくれた、感謝する」

 

「まったく……味方に弓を引くとは私も……」

 

「煙幕を乱すな、高度を上げろ」

 

「っく……命令するな」

 

 篠原の物言いに苛立ちながら旋回し、《ニロケラス》を追う。恐らく良心の呵責に苛まれそうになったユニスの気を逸らすためだ。

 

 トリルランの《ニロケラス》はカタフラクトを切り離したトレーラーを追い掛け回していた。トレーラーと《ニロケラス》の距離は広がりつつある。

 

「まずい、跳躍するぞ」

 

 *

 

 守住は背後を振り返った。引き離し過ぎたかもしれない。火星カタフラクトがついてきていなかった。

 

「どこへ行ったか分かるか?」

 

「分からない。見失ったのかも」

 

 ライエが答える。

 

「まずいな、もうすぐKZ(キルゾーン)だ」

 

「危ない!」

 

 セラムが叫んだ。影が不意にかかったかと思うと目の前に火星カタフラクトが着地した。衝撃で飛んできた破片がフロントガラスを直撃する。

 

「掴まれ!」

 

 守住は咄嗟にハンドルを切り、路肩の街路樹に激突する。シフトレバーを操作しようとするが、悠長に後退している余裕はない。

 

「降りろ!煙弾を撃て!」

 

 無線機を掴んで飛び出す。ライエとセラムが煙弾を撃ち、三人は走った。

 

「もうすくだ!頑張れ!」

 

 ボディアーマーを着ていても鍛えられた足は二人より早い。煙幕で一瞬こちらを見失った火星カタフラクトが追ってきた。

 

『ネズミが……!往生際が悪いと言っている!』

 

 ヒステリックに叫ぶ男の声が響く。やはり敵のカタフラクトはバリアを張っていない部分がある。

 

「ここだ!急げ!」

 

 守住は振り返ると火星カタフラクトはもう目の前に迫っていた。

 

『手こずらせおって……』

 

「逃げろ!」

 

 そこで突然セラムが立ち止まって振り返る。

 

「何をしている!」

 

『見苦しいな今になって命乞いとは……』

 

「控えなさい!目に余る狼藉、許しません……!」

 

「ヴァース第一王女の名において……」

 

 守住が駆け寄ろうとした時、彼女が光輝いた。目映い光が収まった時、そこには金髪の白いドレスを着た少女が佇んでいた。

 

 *

 

 その数分前、上空でトレーラーを見ていたユニスは息を呑んだ。トレーラーの目の前に降り立った火星カタフラクトが守住たちに迫る。

 

「援護できないのか!」

 

 篠原が焦った声で叫ぶ。

 

「駄目だ、私のレールガンでは奴の次元バリアは……」

 

 ユニスは逃げる三人を追うトリルランの《ニロケラス》を見て拳を握り締めた。

 

 しかし《ニロケラス》の動きが突然止まる。ユニスが拡大すると一人の少女がニロケラスに向き直っていた。

 

「何をしているの……!早く逃げて!」

 

 界塚が叫ぶ。

 

「ヤツの前に出る!」

 

 ユニスは《エスカリオン》を加速させた。その時、ズームした画面に光が映り、姿を変えた少女が映る。

 

「あれは……」

 

 ユニスは息を呑んだ。姫殿下……?

 

 

 *

 

 

「下がりなさい!無礼者!」

 

『馬鹿な!そんな馬鹿なぁっ!』

 

 後ずさった火星カタフラクトを見て網文韻子は引き金を引いた。120mm弾が火星カタフラクトに吸い込まれる。

 

 守住は咄嗟にセラムを庇って伏せたが、爆風すらも火星カタフラクトはそのバリアで分解していた。

 

 さらに駆け付けた陸自の軽装甲機動車から84mm無反動砲による煙弾が足元に撃ち込まれる。

 

「今のうちに安全圏へ!」

 

 三人の前に飛び出した《スレイプニール》に乗る界塚伊奈帆は声を張り、射撃する。75mm弾が火星カタフラクトの中に消えていく。

 

『無駄だ!《ニロケラス》の防御は鉄壁!貴様らなんぞに……』

 

 伊奈帆を攻撃しようと踏み出した《ニロケラス》の足元で強烈な爆発が起きる。

 

「何事だ!?」

 

『タンゴ・キロ、KZに入った!』

 

 踏み込んだ地面が炸裂し、強烈な激震に見舞われた《ニロケラス》の中でトリルランは動揺していた。足の裏には接地のために次元バリアは張られていない。

 

「くっ!だが、足の裏の対策など勿論のこと!無駄だ!」

 

 と、足を進めると再び爆発が襲う。

 

 避難民脱出を援護したUH-1Y多用途ヘリが無数の対戦車地雷を事前に散布していたのだ。バリアの張られていない足へ、主力戦車の装甲も破壊する強力な爆発が集中した。

 

「このぉ!下等人種がこざかしい真似を!」

 

 構わず進もうとした時、別の爆発が起きた。周囲の地面が炸裂して火柱が上がり、マンホールが跳ねて消火栓から水が吹き出す。

 

「なに!?」

 

 第3戦術機甲大隊の施設小隊が地下の共同溝とそれを支える柱にコンポジションC4高性能爆薬を仕掛けていたのだ。柱を完全に粉砕した爆発エネルギーは密閉された共同構で膨れ上がって上へと向かい、道路と共同構の継ぎ目から地上に噴出した。《ニロケラス》の足場は共同構方向へ崩落し、地雷の動揺から立ち直っていなかった《ニロケラス》は転倒して次元バリアで地面を削りながら地面に落ちていく。

 

「おのれぇぇ!!」

 

 トリルランは慌てて次元バリアを解除する。しかし《ニロケラス》の形をそのままくり貫いた穴の中で《ニロケラス》は動くこともままならずもがくことになる。

 

「お前のバリアには弱点がある。足の裏にはバリアは張れない……そんな事をすればお前は立つことさえ出来なくなる」

 

 30メートルほどの穴を見下ろした伊奈帆は呟きながら自ら落とし穴──文字通り墓穴を掘ったトリルランを見下ろす。

 

「しかし転がしてしまえばバリアによって地面に沈んでいくことになる。お前のバリアはその無敵さ故に墓穴を掘ったんだ」

 

 陸上自衛隊の隊員たちや韻子やカームのカタクラフトが集結する。

 

「地球人を甘く見たな……」

 

 次の瞬間、一斉に火器が火を噴いた。奥底で転がるトリルランのカタクラフトに向けて75mm弾や84mm無反動砲弾、110mm対戦車擲弾が撃ち込まれる。大量の弾丸がバリアを解いてもがく《ニロケラス》に叩きつけられ、炸裂する。

 

《ニロケラス》はアルドノアの輝きを失い、沈黙した。

 

 *

 

「……やったか」

 

 篠原がその様子を見ながら呟いた。

 

「良かった……」

 

 界塚も胸を撫で下ろす。しかしユニスはそれどころではない。

 

「姫殿下……まさかそんな」

 

 生きている。敬愛するアセイラム姫が。ユニスは今すぐにでもあの場に向かいたかった。

 

「今のはなんだったんだ、あの女の子は……」

 

「間違いない、アセイラム姫殿下だ」

 

 ユニスの言葉に驚いた界塚が振り返る。

 

「アセイラム姫?でもアセイラム姫はパレードで……」

 

「死んでいない、あそこにいる!とにかく降りるぞ」

 

「待て待て!落ち着くんだ。今おかしなことをしたら君もあそこにいるお姫様らしき人も危険だ」

 

 その時、戦闘機が無線に呼び掛けてきた。

 

『リングレイス01よりシエラ(篠原)、対空警報だ。本空域より離脱する』

 

「対空警報?」

 

『衛星軌道上のデブリに人為的な操作による軌道変更が行われている模様。地上部隊も離脱する』

 

「そんな……!」

 

 界塚が声を上げる。三機のカタフラクトは自衛隊と共に海岸に向かおうとしている。

 

『これより《あつみ》へ誘導する。我に続け』

 

「シエラ、了解。感謝する。──あの二機に続いてくれ」

 

 篠原は戦闘機と交信する。ユニスは流行る気持ちを鎮め、篠原に従った。

 

 

 

 *

 

 

 

 人々が立ち去った少し後、スカイキャリアの応急修理を終えたスレインは、トリルランを回収しようとしていた。穴の奥底で完全に破壊された《ニロケラス》を見たときは冷や汗をかいたが、穴の奥底で早く助けろと喚くトリルラン卿を見たときはそんな冷や汗をかいたことに損を覚えた。

 

 破壊されて転がっていた電線を使ってトリルランを引き上げるスレイン。しかし当の本人は開口一番に彼を叱責した。

 

「今まで何をしていた!?」

 

「スカイキャリアの修理を……」

 

「案内しろ、今すぐここを離れる!」

 

 苛立ち焦るトリルランにスレインは内心辟易としていた。だが、今はそれを気にする場合ではない。

 

「お待ちください!アセイラム姫が、生きておられます!」

 

「知ってるよ!」

 

 トリルランの言葉にスレインは「え……?」と立ち止まる。

 

「だから殺すのだ!今度こそ確実にな!」

 

 何を言っているのだ、トリルラン卿は……?

 

「どこまで愚かなのだ、劣等人種!“あれ”を生かしておけば我等一族郎党逆賊であろうが!」

 

 呆然としているスレインに詰め寄ったトリルラン。その言葉にスレインの理解は追い付いていなかった。

 

──まさか、そんな

 

「行くぞ」

 

 歩き出したトリルランの腰のホルスターにスレインは飛び付き、拳銃を奪う。

 

「貴様、なんのつもりだ……?」

 

 トリルランはゴミでも見るような目をスレインに向けて振り返る。

 

「よこ──」

 

 乾いた破裂音が鳴り響き、トリルランは呻き声を漏らし、信じられないという顔をして腹を押さえる。トリルランの制服には赤黒い血がすぐに染み出す。内臓を撃ち抜いていた。硝煙の伸びる拳銃を構えるスレインは動揺と沸き起こる怒りに震える声でトリルランに問う。

 

「あのパレードは……姫さまを暗殺しようとしたのは……」

 

「後悔……するぞ」

 

 否定しないトリルランの憎悪の目にスレインは引き金を必死で絞った。

 

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