高校生らの操る三機の《スレイプニール》が《あつみ》の
避難民を乗せたCV-22Jオスプレイを格納していた《あつみ》では火星カタフラクトの到来に一時大騒ぎになった。
「小隊長、ご無事でしたか!」
《エスカリオン》から降りた篠原たちに駆け寄ってきたのは秋山と日比谷だ。《あつみ》に無事乗り込んでいたことに篠原は安堵する。
「ああ。彼女は界塚ユキ准尉、こちらは“民間人”のユニスだ。俺の遠縁でな、偶然街にいたところを保護した」
「しかしこれは……」
一同が茫然と見上げる《エスカリオン》はどう見ても火星のカタフラクトだ。
「敵が放棄したのを鹵獲した。放棄された理由などは分からない。甲板に降りたらアルドノア・ドライブが停止してしまった。解析を頼む」
「はっ」
檜山一等陸曹は威勢よく敬礼したが、そのあとは《エスカリオン》を茫然と見上げるばかりだ。
「状況は?」
「連合の《わだつみ》が民間のフェリーを安全な航路へ脱出させています。《あかぎ》以下第五護衛隊群がそれを支援中です」
「そうか」
艦橋の水密戸をくぐろうとした時、警報が鳴り響いた。直後に腹の底に響くような轟音が空を覆う。
「なんだ、あれは」
「隕石……?」
乗員たちが見上げる先には粉々になった無数の隕石が光の筋を引いて地表に向かっている。
「隕石爆撃だ……」
ユニスが低く呟いた。その苦渋に満ちた顔は彼女もこの攻撃を本意としないのだろう。
「迎撃しきれなかったようです」
秋山が厳しい表情で呟いた。洋上の護衛艦や地上発射型の迎撃ミサイルで破砕された隕石が新芦原市に降り注いだ。そのソニックブームの音が洋上にいる輸送艦にまで聞こえてきた。
「街が……」
界塚が呟く。巨大な爆発が新芦原市で起きた。衝撃波が艦にまで伝わる。
「嘘だろ……」
「なんてこった」
乗員たちは呆然とそれを見上げている。空は爆発で巻き上がった塵によって真っ暗に染まっている。巨大なキノコ雲が上がっていた。
「畜生、マーシャン(火星人)どもめ」
乗員たちの声がユニスの耳には辛いはずだ。篠原はユニスと界塚を連れて艦内に入った。
「日比谷、人払いを頼む」
「了解」
日比谷准尉が敬礼して応じると篠原は秋山の案内でユニスと共に居住区の倉庫に入る。
「野村と柏木は残念でした」
秋山が言った。
「ああ。……彼らがいなかったら民間人を守りきることは出来なかっただろう」
「良い奴らでした」
異動してきたばかりのまだほとんど苦楽を共にしていない。まだお互いを知る機会はあると思っていた。
「ああ。かけがえのない仲間だ」
篠原は頷くとユニスを見た。ユニスは頷き、コートを脱ぐ。
「……火星の騎士ですか」
秋山はユニスの服装を見て目を丸くした。濃灰色の詰襟の制服。見紛うことのない火星の騎士だ。
「彼女の協力があってここまでたどり着けた。このことは内密にな」
「……大丈夫なんですか」
「火星騎士の誇りに誓って」
ユニスが胸に手を当てて言う。その真剣な目を見て秋山は半信半疑ながらも今は信じることにした。一応腰の9mm拳銃の存在を意識する。
「早く姫殿下に会わせてほしい」
「姫殿下?」
「ああ。新芦原の戦闘の最中、アセイラム姫らしき人物を確認した。LCACに乗ってるはずだ」
「生存を確認?ですが、あのパレードで……」
「ああ。だが、彼女は間違いないと言ってる。パレードで死亡したのは影武者かもしれない」
「火星の姫君が生きているならこの戦争は止められるかもしれませんね」
「ああ。彼女もそう考えている。秋山は界塚准尉と共に彼女の服を用意してくれ。俺は大隊長と話してくる」
「了解」
「恩に着る」
ユニスが瞑目して頭を下げた。篠原は一応、ユニスを部屋に留まらせると外で待っていた日比谷にここを見張っておくように頼んでブリッジに向かった。
「まったく、生きていたと思ったら火星のカタクラフトに乗って帰ってくるとはな。恐れ入ったよ。篠原一尉」
大隊長の小林一等陸佐がブリッジにはいた。《あつみ》の艦長、岸和田一等海佐もだ。
「お騒がせしました」
篠原が頭を下げると小林は笑う。
「無事で何よりだ」
「我々はこれからどうするのですか」
「海自はこのまま避難民の後送を支援する。その後は東京湾に向かうだろう。これより本艦は《わだつみ》の揚陸艇と補給基地のある港へ向かう。隕石爆撃のせいで海上は酷い有様だよ」
「この様子では通信もまともにできなさそうですね……」
「電波妨害に加えて隕石爆撃で舞い上がった砂塵がひどく、十数マイルの通信でさえ届かない。界塚准尉もしばらくは本艦に留まってもらうことになるだろう。まあ美人は貴重だからな、返したくはないが」
小林は笑みを浮かべて言った。
「篠原一尉、君は休みたまえ。いつ何時戦闘になるか分からん」
「分かりました」
「それと……君が気に病む必要は全くない」
小林の言葉に篠原は頷き、ブリッジを下がった。
*
艦尾のウェルドッグに収容されたLCACから降りた守住は緊張した顔でセラムを見つめていた。彼女は火星のプリンセスだった。今は穏やかな顔で私服と茶髪に戻っているが、どう対応したら良いのか、全く判断が出来ない。一方でセラムは妹のような年齢の少女と合流し、微笑んでいる。その顔を見て、作業服を着ていなかったな、と別のことに腹を立てて気を紛らわせた。
『艦長より達する……本艦はこれより第五護衛隊群と合流のため、連合軍補給基地に向けて航行する。なお通信手段は封じられ、本艦は孤立状態である。第二種警戒態勢を維持、対空見張りを厳となせ』
艦内放送が響いた。カタフラクトは学生たちの乗っていた《スレイプニール》も含め、全機が補給整備を受けて再び戦闘が出来る態勢を取るためにウェルドッグは慌ただしくなる。
カタフラクトから降りた界塚伊奈帆が歩いてきた。
「先程はどうも、界塚伊奈帆さん」
「いえ」
淡々と話す伊奈帆は彼女が変身した姿を見たはずだ。複雑な表情をする守住を見ても伊奈帆は顔色を変えない。
「よければ艦内を案内していただけませんか?」
伊奈帆が守住を振り返る。言葉の意味を察した守住は「分かった、任せてくれ」と応え、エデルリッゾと現場に居合わせたライエを伴い、艦内へと進んだ。
守住の案内で入った倉庫でセラムは改めて向き直った。エデルリッゾが反対するのをとどめてセラムは再びホログラムによる変装を解く。
「改めて初めまして。私はアセイラム・ヴァース・アリューシア。ヴァース皇帝の孫娘です」
それに動揺しない伊奈帆を見て守住は格の違いのようなものを思い知る。
「先ほどのはホログラムを利用した光学迷彩の一種だそうです」
「王女はパレードの日に暗殺された」
鋭く伊奈帆が切り込んだ。セラムは動揺しない。
「姫様はあの日、体調を崩されたのです。それを理由に懐疑派の護衛隊長が影武者を」
どうやら侍女らしいエデルリッゾが説明する。
「皇帝である御爺様が私の無事を知ればこの戦争はすぐにでも終わるでしょう。できるだけ早くヴァースと連絡を取りたいのです」
「ここからは難しい。ジャミングで遠距離通信はできない。でも連絡できる場所まで連れて行くことはできる。ユキ姉たちに相談してみよう」
「いけません!ヴァースのスパイが紛れ込んでいます!恐らく暗殺者の仲間です。姫様はそのスパイに命を狙われたのです!」
エデルリッゾが伊奈帆に強く反対した。その時、誰かが倉庫のドアを叩いた。守住が振り返りとセラム、もといアセイラムは再びホログラムによる変装をし、姿を民間人に戻す。
「誰か」
守住はドアに近づきながら腰の9mm拳銃に手をやった。先程までスパイの話をしていただけに緊張する。伊奈帆もアセイラムを庇うように前に立った。そこへ意外な声が聞こえた。
「守住か、篠原だ。そこに界塚准尉の弟はいるか」
「篠原一尉?ご無事だったのですか」
思わず守住は扉を開ける。篠原と秋山、そして界塚ユキ准尉と見慣れぬ栗色の髪を後ろで纏めて黒いコートを着た長身の若い女が立っていた。
「なんだ、お前にまで心配されていたら立つ瀬が無いな」
「すみません……」
「まぁ、いい。入れてくれ。少々厄介な話だ」
*
篠原は秋山と界塚ユキを伴って倉庫に入る。
「なお君!」
「ユキ
ユキと伊奈帆が再会を果たしたらしく、ユキについては安堵した様子だ。
「無事で良かったわ。もう無茶ばかりするんだから……」
「ユキ姉こそ、怪我もないみたいで良かった」
「大変だったんだから、私だって。でも本当によくやったわ。これも優秀で気立てのいい美人教官の指導の賜物ね」
そんな冗談を飛ばして微笑むユキに篠原と秋山は苦笑する。そんな中、後から入ったユニスが部屋の中を見渡してコート姿の少女に目を向ける。途端に顔色を変えた。
「姫殿下……!」
「ユニス?」
少女が前に進み出る。ユニスは少女を見ると感極まったように顔をくしゃくしゃにして泣くのを堪える。
「姫殿下……!もう……お会い、できないかと……!」
「ユニス、私も貴女に会えて本当に嬉しい……!」
少女はユニスを慰めるように優しく抱き締めた。
二人の感動の抱擁を見ていた篠原と秋山は顔を見合わせて肩を竦める。先ほどまで警戒していた伊奈帆の表情もそれを見て晴れたようだ。
「篠原一尉、でしたか」
伊奈帆が聞いた。
「ああ、伊奈帆君だろう。話は聞いている」
「事情をご存じで」
「まぁ、そうだな。君も厄介なことに首を突っ込んでしまったな」
篠原の呟きに反応した少女が篠原たちに振り返る。
「申し遅れました。私はヴァース帝国第一皇女、アセイラム・ヴァース・アリューシアです」
光と共に服装と髪形ががらりと変わる。そこには白いドレスに金髪の気品のある少女が佇んでいた。
国賓級のVIPだ。篠原と秋山は踵を鳴らして敬礼する。
「日本国陸上自衛隊所属、篠原一等陸尉です」
「同じく秋山二等陸尉です」
「え、ええと地球連合軍の界塚ユキ准尉です!」
ユキも慌てて敬礼する。その様子にアセイラムがくすりと笑い、場が和んだ。
「姫殿下、彼らは今のところ我々の味方です」
ユニスが言い、アセイラムは頷く。
「今すぐ姫殿下のご無事を皇帝陛下にお伝えしましょう。私の《エスカリオン》で……」
「安全なのですか」
伊奈帆がそこに口を挟む。
「なに……?」
「ユニス、この方は界塚伊奈帆さん。私の命の恩人です」
「私はユニス・ヒューティア。姫殿下に仕える火星騎士だ。姫殿下を守ってくれたことに感謝する」
「ではヒューティアさん、セラムさんを連れ帰るおつもりなのですか」
「ああ。この不毛な戦争を終わらせなくては」
「本当に安全なのですか。ヒューティアさんが向かった先にセラムさんの命を狙う者がいないという保証は?」
「それは……」
「それに関しては俺も伊奈帆少年と同じ意見だ。ここが安全とは言えないが、わざわざ敵の巣に戻るような真似をすればもっと危険じゃないか。皇女を暗殺し、事実を握りつぶそうとする者の思う壺になるぞ」
「しかし……」
「彼女の生存を発表するのは安全で火星に確実に伝えられる場所である必要がある。日本の長距離通信設備は降下した揚陸城からの攻撃であらかた破壊された。首都機能を移した北海道か、他には地球連合本部のニューヨークか、もしくは地球連合軍の司令部があるロシア北東のノヴォスタリスクだな」
篠原は情報端末のタブレットを取り出すと地図を表示した。どこもここからでは遠い。
「《あつみ》は第五護衛隊群と合流後は相模湾に降りた揚陸城の攻略作戦に当たる。君たちはこのままなら連合司令部を目指す《わだつみ》に移ることになるだろう」
その画面を一同は食い入るように真剣に見ている。
「このまま安全に連合軍司令部までたどり着けるとも限らないわ。この事実を明らかにして自衛隊の護衛などを取り付けるべきでは?」
ユキが言う。
「そうですよ。我々だけの手におえる話では……開戦の原因ともなったアセイラム姫の生存が明らかになれば火星騎士の大義名分も失われます。一刻も早く戦争を終結させないと」
秋山もユキに続く。
「地球側にも火星のスパイがいるかもしれない。アセイラム姫の命を狙う者に正体を明かすわけにはいかない」
伊奈帆が言った。
「姫殿下はどのようになさるおつもりですか?」
篠原はアセイラムに話題を振った。彼女の意志がもっともこの場では重要だ。
「これ以上私の存在を知る人間が増えるのは得策ではないと思います。出来ればこの話は内密に……」
07式戦術歩行戦闘車《雷電》
戦術機甲大隊の他、第一空挺団、水陸機動団でも運用される汎用性が高い純国産カタクラフト。
擲弾発射機付きの75mm突撃銃が主兵装。
左腕にバトルアックスを格納可能な大楯を装備。裏側には弾倉を携行可能。格闘用ナイフを足首に装備する。
イメージは0080ポケ戦のケンプファー。肩のなんか無駄にトゲトゲしてるのは無くて、侍の鎧っぽいスカートアーマーが付いているみたいな感じです。基本の塗装は陸自戦車に施される野戦迷彩。水陸両用戦仕様は洋上迷彩や砂漠迷彩を施す場合もある。
13式戦術歩行戦闘車《紫電》
《雷電》をベースとした自衛隊の新型カタクラフト。運動性などは非常に向上。《雷電》のアップデートを行うのに必要な技術実証機として開発されたが、完成度が非常に高かったため、量産に至った。
戦術機甲大隊の他、航空自衛隊戦術航空宇宙群にも配備され、宇宙でも運用される。
武装は基本、《雷電》に同じ。スカートアーマーにグレネードを装備する。
宙域での戦闘にはエクステンショナル・アンカーアレスターを装備し、デブリでの戦闘に置いて高い運動性能を発揮。
イメージはSEEDのゲイツR。基本はUCP迷彩を施されている他、宇宙で運用される《紫電》は洋上迷彩を施す。