アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act18 《アルギュレ》襲来

茅ヶ崎、クルーテオ揚陸城

 

 

「トリルラン卿が……死んだだと?」

 

 スレインからの報告を聞いたクルーテオは呆然と聞き返した。

 

「はい。隕石爆撃に巻き込まれて……」

 

「おのれ!戦局にまぎれて我が占領地を狙うものがいたとは……志を同じくする軌道騎士の誇りはないのか!」

 

 怒りを露にするクルーテオは激しい剣幕で怒鳴り散らした。トリルランを撃ったのは他ならぬスレインだ。この怒りの矛先が向くことを想像してスレインは息を呑んだ。

 

「それでヒューティア卿は何処(いずこ)へ」

 

「それが……行方が分からなくなっております。隕石爆撃に巻き込まれたのかは不明ですが……」

 

「なんということだ……。いずれ炙り出し、制裁をくわえてやる。ブラドを呼べ。地球の残党を狩り、この地を燃やしつくせ。姫の無念を晴らすのだ」

 

 残党どころか城を包囲するこの地の軍は依然激しい攻勢を仕掛けていた。占領した地域にも定期的な奇襲が行われ、兵の死傷者は増え続けている。

 

「伯爵。ア、アセイラム姫は……」

 

 喉元まで出かかった言葉をスレインは堪える。まだクルーテオ伯爵は敵か味方か分からないのだ。

 

「なんだ?」

 

「いえ。すでに占領した地でのさらなる破壊、アセイラム姫の気持ちを思うと……」

 

「ほう。貴様も姫の仇打ちに加わりたいと?」

 

「えっ?」

 

 突然、スレインは激痛を覚えた。ステッキで容赦なくスレインの顔面を殴打したクルーテオ卿は憮然とした顔でスレインを見下ろしている。

 

「わきまえよ、地球人。我らヴァースと共に戦える身分と思うか。十五年もの年月、いつしか我が手にとこがれ続け、砕けた月の影から無様に地球を見上げていた我々軌道騎士の切願を姫は、その命をもってかなえられたのだ。これは我々軌道騎士の戦だ。貴様の出る幕などない」

 

 スレインは痛みの中でも冷静に考えていた。

 

──この人も、姫の死を利用しようとしている。そもそもトリルラン卿はクルーテオ城の食客として招かれていた……トリルラン卿の言った「我ら一族朗党」……我ら……この暗殺計画には首謀者がいる。クルーテオ卿……いや、まさか……

 

 ヒューティア卿はどうなのだ?彼女はあれから姿が消えていた。《ニロケラス》が地面に落とされたとき、上空をエスカリオンは旋回していた。スレインはスカイキャリアの損傷を思い出した。あれは砲弾の類いではなく、何かが掠めた衝撃でエンジンを破壊されたのだ。《エスカリオン》の主兵装は極超音速のレールガン。スレインのスカイキャリアを意図して狙ったのなら彼女はアセイラム姫の生存を知って姫を守ろうとしたのかもしれない。

 

 アセイラム姫とヒューティア卿を探さなくては……

 

 

 *

 

 

 一応の決着を見たが、秋山と守住、それにユキは納得していない。篠原としてもただ問題を先送りにしたに過ぎないことは分かっていた。

 

 第五護衛隊群との合流後、やはりアセイラム姫の存在は明らかにするべきだろう。

 

 アセイラムはひとまず避難民の一人に紛れていた。《わだつみ》に移す民間人や装備を《わだつみ》の揚陸艇に乗せるために《あつみ》からLCACで補給基地へとやってきた篠原たちは補給作業を支援していた。入港できない《あつみ》は沖合いに停泊している。

 

「補給作業もあと一時間ほどで完了します」

 

 連合軍の下士官が伝えた。

 

「分かった、《あつみ》に伝えよう」

 

 そう応じた篠原は桟橋に立つユニスを見た。一人、漆黒の闇に塗りつぶされた海を睨むように見ている。ユニスは海上自衛隊の濃紺の作業服を着て、脱出の際から使っているコートを羽織っていた。完全に地球人に溶け込んでいる。

 

「どうした」

 

 篠原が声をかけるとユニスは一瞬振り返ったが、再び海に目をやった。

 

「お前には関係ない」

 

「つれないねぇ」

 

 篠原は構わず隣に立ち、海を見た。普段なら漁船やタンカーが行き交う賑やかな海は、静かな波音を立ててただ先行きの見えない今を表すように暗い。

 

 無遠慮に他人の領域に踏み込んでくる篠原にユニスは疎ましく思いながらもため息を吐き、話し始めた。

 

「考えていた。これからどうなるのかと」

 

「早いところお姫様を安全な火星に連れ帰りたいんだろう?」

 

「当たり前だ。地球人は信用ならない。だが、《エスカリオン》を連続して飛ばせる距離は限られている。ここからならクルーテオ伯爵の揚陸城までなら余裕だが、トリルラン卿を差し向けたクルーテオ伯爵はこの一件に関与している可能性は否定できない……」

 

「名前を言われても覚えきれないぞ。トリルランってのは新芦原で撃破したカタクラフトの操縦士だな」

 

「ああ、トリルラン卿は食客としてクルーテオ伯爵の元にいた。……とすればザーツバルム伯爵も……」

 

「おいおい……話が見えんぞ」

 

 その時、警報が鳴り響いた。砲声が夜空にこだまする。市街地からだ。

 

「敵襲だ!」

 

「総員戦闘配置!」

 

「一番艇、発進準備!」

 

 補給作業に当たっていた隊員たちが走り出した。

 

「近いぞ!」

 

 篠原とユニスは急いで一番艇へ向かった。市街地方面では爆発音が響いている。甲板へ舷梯を使って登ると艇橋構造物の外側の階段から見張り員らが立つ艇橋(ブリッジ)張り出し(ウィング)へ登り、艇橋に入った。

 

「アパルーサ小隊が会敵した。襲撃だ」

 

 艇橋は大騒ぎになっている。篠原はなんとか艇橋に入って艇長を務める中林少佐を見つけた。

 

「少佐、状況は?」

 

「敵カタクラフトは一機だ。今、アパルーサ小隊が交戦中だ。本艇もすぐに出港して洋上からSSMで攻撃する」

 

 その間にユニスは通信手から敵の特徴を聞き出していた。

 

『う、うわああっ!!──』

 

「アパルーサ33!」

 

 中林がヘッドセットに呼び掛けるが、虚しい空電音が鳴るだけだ。中林は篠原を見る。

 

「アパルーサ小隊がやられた、外のハンガーに予備機がある。すぐに出てくれ」

 

「分かりました」篠原は頷くと敵のカタクラフトの情報を聞き出そうとしていたユニスの腕を掴んで艇橋の張り出し(ウィング)に出る。

 

 梯子を下ろうとした時、肌が強烈な熱を感じた。振り返った時、青白い光の刃が真っ直ぐ飛んでくるのが見えた。

 

「危ない!」

 

 咄嗟にユニスを抱えて横へ飛んだ瞬間、艇橋に光の刃が突き刺さった。艇橋の振り出し(ウィング)から叩き落とされ、真下のキャットウォークに張られたネットに篠原はユニスを庇って背中から落ちる。肺から息が抜け、激痛と共に喘ぐ。視界が歪んだ。一瞬意識が薄れる。

 

 気づいたときにはユニスの怜悧な顔が不安の色に染まり、至近距離から篠原を覗き込んでいた。

 

「だ、大丈夫か!しっかりしないか!」

 

 ユニスに抱え起こされる。艇橋は粉砕されていた。艇橋の要員は全員死亡だ。

 

「大丈夫だ、立てる……」

 

 篠原はなんとかユニスに支えられて立ち上がる。こちらに光の刃を放ってきた火星カタクラフトが悠然と歩いて向かってきた。

 

「馬鹿、俺を置いて逃げろ……」

 

「いいから急げ!」

 

 体中が痛むが、今はそれを嘆くのも惜しい。ユニスに叱咤され、引きずられるようにして揚陸艇から降りて二番艇へ向かう。火星カタクラフトは艇橋を破壊したビームサーベルを取ると揚陸艇のSSM発射管を凪ぎはらって誘爆させた。爆発に二人は煽られて地面に倒れる。

 

「くっ、《アルギュレ》か……」

 

 ユニスが呻いた。ユニスに肩を担ぎ直され、進む。

 

「あの格納庫だ」

 

 シャッターが開け放たれた格納庫には《アレイオン》が寝かされて格納されていた。胸部にハッチがある《雷電》や《紫電》と違い、このカタクラフトは頭部がせり上がってコックピットに収まることになる。

 

「君は一番艇へ。姫殿下を頼む」

 

「分かった、頼むぞ」

 

「ああ」

 

 篠原は乗り込むとすぐさま起動する。

 

「電圧、油圧、温度、回転数……よし。フォースフィードバック・チェッキングプログラム、スタート。IFF確認……」

 

 篠原はすべてのチェックを終えると機体を起立させた。ヘッドマウントディスプレイを装備しないが、自衛隊の《紫電》や《雷電》も連合のカタクラフトがベースになっているので基本は同じだ。

 

「機体が重い……!」

 

 歩く感覚は《雷電》の比ではないほど鈍重に感じる。

 

 どうやらアパルーサ小隊は壊滅したらしい。マシンガンに装填し、センサーヘッドだけ出して影から窺う。

 

 金属色の火星カタクラフトが青白いビームサーベルを持って堂々と歩いてくるのが見えた。

 

 篠原は影から飛び出すとアサルトライフルを連射し、焼夷榴弾を叩き込む。しかし火星カタクラフトがそのビームサーベルを振るうと砲弾が空中で次々に炸裂していく。

 

「なんだこいつ、ジェダイか」

 

 距離を詰められたら終わりだ。一連射して効果が無いのを確認すると建物に沿って走る。その時、二番艇からもカタクラフトが起き上がった。オレンジ色の練習機《スレイプニール》。乗り込んだ人間は誰だ?と思ったとき、通信回線が開いた。

 

「界塚か!」

 

 オレンジ色の《スレイプニール》がアサルトライフルを連射する。しかしビームサーベルが振るわれると次々に弾が炸裂した。

 

「下がれ!弾は駄目だ、届く前に弾が破壊される」

 

(HE)弾が駄目なら、徹甲(AP)弾はどうです』

 

 界塚機が素早くアサルトライフルの弾倉を交換し、AP弾に切り換えて連射する。が、火星カタクラフトはビームサーベルを突き出してそれを小刻みに動かす。弾の軌道が変わり、あちこちに跳ね散っていく。

 

『弾頭が蒸発して弾道が弾かれてる。ライデンフロスト現象か……なんて熱量だ』

 

「ライデンフロスト?」

 

 界塚に続いて篠原も弾倉を交換し、AP弾に切り換える。もう一機、学生の操縦する《スレイプニール》も加わった。

 

「挟撃するぞ」

 

 界塚機の弾倉交換を援護しようとした時、敵カタクラフトは界塚機に向かって突進した。素早くスラスターとスタビライザーで滑るように回避するが、アサルトライフルを破壊されてしまう。

 

「界塚!」

 

 篠原がアサルトライフルを構えるが、界塚機が射線に重なり、撃てない。篠原はアサルトライフルを後背に回しながら格闘用ナイフを抜き、突撃する。界塚機はなんと腕で敵の腕を押さえ、振り下ろされるビームサーベルを食い止めていた。しかし力負けし、界塚機が跪く。が、そこへ海上輸送用コンテナが火星カタクラフトに叩き付けられた。ガントリークレーンが旋回して振り回したのだ。

 

「なっ……」

 

 火星カタクラフトのセンサーヘッドは半分潰れている。まさかの奇抜な攻撃だった。火星カタクラフトは動きを止める。

 

「あいつ、すごいな……──弾幕を張れ!」

 

『は、はい!』

 

 篠原はこの機を逃がさずに学生、カーム・クラフトマンと共にアサルトライフルを撃って火星カタクラフトの動きを止める。弾幕を防ぎきれず、逸らしきれなかった砲弾が火星カタクラフトに当たっていく。さらに海上から砲弾が飛んできた。

 

『《わだつみ》だ……!』

 

 強襲揚陸艦《わだつみ》から速射砲が発射され、砲弾が次々に火星カタクラフトへ降り注ぐ。さらに《わだつみ》の艦上に展開したカタクラフトが射撃する。激しい弾幕に晒された火星カタクラフトは動きを止めた。

 

 さらに《あつみ》を飛び立った二機のAH-1Zヴァイパー戦闘ヘリが向かってくる。

 

「畳み掛けるぞ」

 

 ヴァイパーの機首下部に備わる三つの砲身を束ねたガトリング砲の20mm機関砲が連射され、スタブウィングに吊った70mmロケット弾が釣瓶打ちに放たれる。篠原たち三機のカタクラフトからの銃撃と《わだつみ》と《あつみ》の艦載機からの攻撃を火星カタクラフトは防ぎ切れず、後退を始めた。

 

「逃がすか!」

 

 篠原は追撃に転じるが、無線に《あつみ》より通信が入った。

 

『全部隊へ。《わだつみ》との合流を果たし、補給作業等当初の目的を達成した。以降は敵の逆襲に備えて警戒、負傷者の後送を完了次第撤退する』

 

 篠原は背中を向けて離脱する火星カタクラフトを見て舌打ちを堪えた。背中を強打したときの痛みが戻ってきた。




今年の更新はこれでラストです。皆さま、よいお年を。
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