アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act21

 待機していたMH-60Jヘリで直ちに《あつみ》に戻った篠原たちは飛行甲板下の格納庫(ハンガーエリア)でカタクラフトを立ち上げていた。《雷電》の武装をチェックし、レーダーを対空モードにした篠原は護衛艦のVLSから発射された三発の対空ミサイルが敵を落としてくれることを願ったが、それは叶わなかった。

 

『《わだつみ》に降りやがった!』

 

『くそ、《わだつみ》を援護しろ!』

 

 無線に声が飛び交う中、エレベーターで甲板上に移動する。

 

「どうなってる、状況は?」

 

 篠原は機器をチェックしながら《あつみ》の指揮所(CP)に呼び掛ける。

 

『敵機はカタフラクトを分離、離脱。降下したカタフラクトは《わだつみ》甲板に着地した。現在《わだつみ》艦載機が交戦中』

 

 聞き取りやすい声の女性海上自衛官(WAVE)の管制官が応えた。どうやら敵は単機で強襲揚陸艦の甲板に乗り込んできて暴れているらしい。その無茶苦茶ぶりに半ば呆れながら篠原は最終チェックを済ませた。

 

『アカギ、こちらCP。敵カタフラクトを排除せよ』

 

「アカギ01、了解した」

 

 篠原はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のバイザーを目の位置へ下ろした。このバイザーに映像が投影されることにより、本来死角の位置も見通すことが出来る。これは戦闘機のシステムを応用したものだ。

 

『アカギ01、こちらシリエジオ』

 

 突然、無線に入った低い男口調の凛とした女の声に篠原は耳を疑った。

 

「シリエジオ……?」

 

 聞き覚えのない符丁(コールサイン)に思わず聞き返すが、相手は無視してそのまま続けた。

 

『敵はブラド卿専用機の《アルギュレ》だ。アルギュレは防御力は低いが、その分機動性に傾倒する近接戦闘向けだ、強力なビームサーベルを装備している』

 

「ビームサーベルか……港で交戦した敵か?」

 

『ブラド卿はプライドが高い。恐らくリベンジマッチのつもりだろうが、単機で船に降りるなど愚の骨頂。こちらを侮ったことを後悔させてやれ』

 

「……了解した」

 

 篠原は鼻でため息を漏らす。やれやれ、心強い助っ人を得たようだ。

 

「アカギ各機、戦闘用意。敵は港で交戦した火星カタクラフトだ。全機徹甲弾装填」

 

『了解!』

 

 三人から声が返ってくる。アカギ02の日比谷に加えて新たにアカギ03の樋口二尉とアカギ04の城山(きやま)三尉が篠原の小隊に配属されていた。

 

 樋口二尉は元水陸機動団所属で、水陸機動団内の戦術機甲中隊で《雷電》を運用してきた経験がある。城山三尉は今年から実戦部隊に配備されたばかりの初任幹部だが、積極的な性格で貪欲に技術を吸収している前途を期待された男だ。

 

「艦長、艦を《わだつみ》に近づけてください。移乗します」

 

『おいおい本気か』

 

 呆れた艦長の声が返ってくる。飛行甲板で準備されていたAH-1Z戦闘ヘリが離陸し、《あつみ》は《わだつみ》に近づく針路を取った。戦闘の様子がはっきりと光学で捉えられる。

 

「アカギ各機、我に続け」

 

 篠原はそう言うと飛行甲板上で助走の態勢に入った。

 

『“モビルスーツ”で走り幅跳びなんて……』

 

 日比谷が嘆くような声を出す。

 

『誤射は勘弁だぞ……』

 

 甲板で交戦する連合軍のカタフラクトが突撃銃を連射していた。流れ弾が飛んでくる。

 

『危険です!』

 

「行くぞ!」

 

 篠原は飛行甲板を蹴って機体を跳躍させると同時に背部の安定翼を展開、バーニアを噴かして飛距離を稼いで《わだつみ》に飛び移った。甲板に片足から着地して何歩か進んで膝をつき、制動する。

 

『マジかよ……小隊長に遅れを取るな、続け!』

 

『うぉぉ!男は気合いだ!』

 

 悲鳴に近い声を上げて三機が続く。無事甲板に降り立つと目の前で連合軍機の《アレイオン》が火星カタフラクト《アルギュレ》のビームサーベルのような剣で切り捨てられた。

 

『アルダニティ小隊全滅!』

 

「散開しろ、各個に撃て!敵を囲むぞ、流れ弾を《あつみ》に流すなよ」

 

 散開しつつ、全機が一斉に撃つ。港での戦闘と同様に《アルギュレ》はビームサーベルで弾丸を撃ち落とし、徹甲弾を弾く。篠原は煙弾を擲弾発射機に装填し、期を窺う。そこへエレベーターが上昇してきた。爆発反応装甲(リアクティブアーマー)を装備した練習機の《スレイプニール》だ。

 

『篠原一尉ですか』

 

 無線に通信が入る。驚いたことに伊奈帆が乗り込んでいた。

 

「危険だ、下がってろ!」

 

 篠原は一喝するとそちらを一瞬振り返った《アルギュレ》を見逃さずに煙弾を撃ち込んだ。《アルギュレ》の足元に着弾した煙弾から白煙が吹き出し、甲板を覆う。瞬間、スラスターを使って加速した篠原は《アルギュレ》に肉薄した。

 

 左腕前腕に固定された大盾からトマホークを抜いて煙幕の中から《アルギュレ》を叩き切る。

 

 が、横凪ぎに振るわれたトマホークは空を切った。《アルギュレ》は信じられない反射速度で後ろに飛び退いた。

 

 *

 

 ブラドは自ら格闘戦を挑んできた地球人の濃緑色の一つ目のカタフラクトに驚いていた。特徴的なのは盾を装備していることだ。サムライでも意識したのかという鎧のような曲線を多用したデザインは禍々しくも見える。あと数瞬、回避が遅れていたら機体を両断されていた。煙幕の中での戦闘は光学センサーの索敵能力が優れる敵が有利だ。

 

「ふん、小癪な」

 

 ブラドは吐き捨てると自らも敵の土俵に乗って戦ってやった。煙の中から戦斧が振り下ろされる。それを素早く下がって回避したところへ一つ目カタフラクトが戦斧と盾を構えて煙の中からさらに突進してきた。

 

「っち!この地球人がぁ!」

 

 ビームサーベルを振るうと“一つ目”の構えた盾がビームサーベルを受け止めることなくあっさり溶断し、一つ目はバーニアを噴かして飛び退いた。その戦闘の余波で煙がわずかだが晴れる。

 

 ブラドが畳み掛けようと踏み込むとそこへすかさず弾幕が張られる。弾をビームサーベルで弾きながらブラドは一つ目に突進する。

 

「調子に乗るな!!」

 

 畳み掛けるように連撃に持ち込む。が、今度は宿敵と認めたオレンジ色が飛び出してきた。

 

 腕で受け止めようとするのを見て、その無謀さを嘲ったのもつかの間、その腕が炸裂した。

 

「なっ!」

 

 爆発で弾かれた腕が下から掴まれ、動きを止められる。もう一方の腕を振り下ろしたが、再び爆発が起き、腕を弾かれる。なんだ──一体!?

 

 *

 

 篠原は融解した盾を棄て、トマホークを構える。伊奈帆が《アルギュレ》の腕を押さえていた。

 

『あの爆発は……』

 

 どこでどうやってモニターしているのか知らないが、“シリエジオ”が呟いた声が無線で伝わった。

 

「ERA──爆発反応装甲だ。爆発でビームサーベルを持つ腕を弾いたんだろう」

 

『やるな……!今がチャンスだ、畳み掛けろ!』

 

「ああ!」

 

 篠原はスラスターを全開で《アルギュレ》に突進し、トマホークを縦に振るった。強い手応えを感じる。トマホークは日本刀のように綺麗に切れるわけではなく、叩き切る用途で用いられる。《アルギュレ》の左腕が上腕部で切断され、切り落とされた腕が飛行甲板に転がっていた。《アルギュレ》は《スレイプニール》から掴まれた腕を振り払うとすかさず距離を取った。

 

 先程より動きが慎重になった。警戒している。そこへ日比谷たち三機が絶やさずに弾幕を張る。弾種混合で、空中で榴弾が炸裂し、徹甲弾があらぬ方向へ飛ぶ。しかしその防御を抜けた徹甲弾が《アルギュレ》の外殻を抉っていく。

 

『一尉、自分があの火星カタフラクトを押さえます』

 

「無茶するな、蛮勇は禁物だぞ」

 

 篠原と伊奈帆は両翼から一斉に突撃する。《アルギュレ》が弾幕を凌ぎながら伊奈帆に向かう。

 

 伊奈帆が爆発反応装甲の残る腕で再びビームサーベルの腕を弾き、《アルギュレ》の右腕を掴んだ。その一瞬の隙に篠原はトマホークを振るって《アルギュレ》の足を薙いだ。トマホークが《アルギュレ》の左足を捉え、切断する。左足を切り捨てた瞬間、伊奈帆の《スレイプニール》がスラスターを全開にして《アルギュレ》を掴んだまま跳躍する。

 

「はっ?」

 

《スレイプニール》はそのままバックパックを投棄し、コックピットを射出させて《アルギュレ》ごと海に飛び込んだ。

 

《アルギュレ》と《スレイプニール》が水没する。瞬間、機雷に接触したのかと思うほどの爆発が起き、水柱が上がった。

 

「なんだ……!?」

 

『……水蒸気爆発だ、《アルギュレ》のビームサーベルが災いしたな。こんな海のど真ん中に降りてくるとは、愚かな……』

 

 “シリエジオ”が苦々しい声で呟く。

 

「それを狙ったのか。まったく最近の若者は無茶をしやがる……」

 

 捨て身の戦法は誉められたものではない。篠原は半ば呆れて開いた落下傘に吊られたコックピットブロックを見つめていた。

 

 

 *

 

 

 謁見を終えたクルーテオが謁見の間に戻ってきた。珍しく感情を露にして苛立っている。

 

「話にならん!何を考えておられるのだ、陛下は。肉親を殺されたのだぞ」

 

 誰ともなしに言ったクルーテオに部下はなんと返答すべきか図りかねた様子だった。

 

「調査団を組織せよ。陛下の仰せのとおり 姫暗殺の経緯を詳しく調査するのだ」

 

「はっ」

 

 クルーテオが謁見の間を去っていったのを見たスレインはその隙に忍び込む。露見すれば、否確実に露見するが、事実を明らかにするにはこの方法しかない。生唾を飲み込んで覚悟を決めたスレインは中央の石柱を握る。

 

 空間が歪み、一瞬で皇帝の居室のそばにスレインは出た。ホログラムの技術だ。

 

「ここは……」

 

 スレインが呟いた時、嗄れた声が前から聞こえた。

 

「誰だ?」

 

 その声の主こそ危険を犯してまで直訴にやってきた相手、レイレガリア・ヴァース・レイヴァース皇帝。スレインは居住まいを正す。

 

「スレイン・トロイヤードです」

 

「スレイン……?おお、久しいな」

 

 皇帝は声を上げた。スレインの父、トロイヤード博士と皇帝は交流があった。スレインはそれにかけたのだ。

 

「はい」

 

「ここになんの用だ?」

 

「皇帝陛下にお伝えしたいことがあります」

 

 スレインは顔を上げ、皇帝を見る。

 

「アセイラム姫は生きています。僕はこの目で見ました」

 

「ほう……」

 

「地球と戦争をしたいばかりに、アセイラム姫を殺そうとしたのは軌道騎士です。でも、暗殺は失敗してアセイラム姫は今、地球のどこかで生きています」

 

「そなたの言うことが誠であれば、なんと嘆かわしい」

 

「一刻も早くこの戦争をとめてください。そして、アセイラム姫を救出してください」

 

「うむ……ただちに取り図ろう」

 

「ありがとうございます。皇帝陛下」

 

 スレインは顔色を明るくして頭を下げた。ホログラムのスレインの姿が消える。

 

 途端にレイヴァース皇帝は穏やかな表情から厳しい表情へと一変する。

 

「貴公の言ったとおりだな。ザールバルム伯爵」

 

 その言葉と共に暗幕から入れ替わりで出てきたのは赤い軌道騎士の制服、ザーツバルム伯爵であった。

 

「地球人は信用なりません。至る所にスパイが紛れ込んでおり、隙あらばヴァース転覆をと、企んでおります。大切な姫を失い、心を痛めておられる陛下を空ごとで惑わそうなど 言語道断。皇帝陛下、卑しき種族に、どうか正義の鉄槌を」

 

「うむ……」

 

 ザーツバルムの言葉にレイヴァースは静かなる決断を下し、目を閉じた。

 

 

 

 

「ヴァース帝国皇帝、レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの名において、改めて宣戦を布告する。地球を攻撃せよ。わが血族に仇なすものを、焼き払え」

 

 

 

 

 

 




 実際、アルギュレはなんで揚陸艦なんかに降りてきたんですかね。ちょいと頭に血が登りすぎじゃないですか。
 普段は宇宙にいる上、火星に海がない軌道騎士たちはそうした知識がないのかとは思いますが、あんな強力なカタフラクトに乗る強力な戦闘単位の騎士なのに稚拙な行動だなぁと思いながら見たのを覚えてます。今回は伊奈帆くんもちゃんと活躍させました。

あと、爆発反応装甲でビームサーベルのプラズマを弾くってどういうこっちゃと理解できなったので、表現を変えてます。
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