アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act23

相模湾、クルーテオ城

 

 

 スレイン・トロイヤードはクルーテオ城の中を走り、カタパルトデッキに向かっていた。手荒な真似をして聞き出した情報を元にスレインは向かうべき場所をすでに見据えていた。行き当たりばったり、我ながら計画性が無いが、今はこれ以外の最善の道が分からなかった。

 

「32Bまでは異常なし!」

 

「このフロアにいるはずだ、探し出せ!」

 

「見付け次第、射殺して構わん!」

 

 保安要員の声が響く。包囲は狭まりつつあった。焦るスレインが通路の角を曲がったとき、不意に目の前に銃口が突きつけられた。目の前から保安要員が飛び出してきたらタックルして押し通ろうと思っていたのに、思わず体が硬直し、足が止まる。

 

「デュクレール卿……」

 

 冷たい表情でオフィーリア・デュクレール子爵が片手で握った拳銃をぴたりとスレインの眉間に突きつける。冷や汗が吹き出した。

 

「どこへ行こうと言うのですか、スレイン・トロイヤード」

 

 囁くような、しかし迫力のある冷徹な声だった。保安要員たちの足音も近づいている。答えに窮しているとデュクレールは拳銃をさらに押し付ける。

 

「……通してください」

 

「質問に答えなさい」

 

 冷徹なデュクレールだが、スレインはデュクレールが、射殺の命令が出ているのにも関わらず、問答無用で撃たないことや他の保安要員を呼ばないこと、どちらの陣営なのか分からないことからまだチャンスはあると確信した。

 

「アセイラム姫殿下は生きておられます。ブラド卿が戦った地球軍の船に乗っておいでです。迎えに行きます」

 

「アセイラム姫殿下が……?」

 

 デュクレールの目が揺らいだ。保安要員たちの足音がさらに近づく。

 

「お願いします。通してください」

 

 スレインは恥を捨てて懇願した。今さら自分にプライドも恥もなかった。デュクレールはそれを見つめ、やがて拳銃を下ろした。

 

「方便で姫の名前を使ったのだったら、殺します」

 

 デュクレールは静かに宣言するとスレインの横を通りすぎ、歩いていった。スレインは汗を拭いながら見逃してくれたデュクレールに感謝し、走り出す。

 

「デュクレール卿!」

 

「こちらにはいない。何をしている、探し出せ」

 

 背後でそんなやり取りが聞こえてきた。スレインは信じられない気持ちでカタパルトデッキに急いだ。

 

 

 *

 

 

 

「自衛隊機ってさ、なんかこう悪役っぽい風貌だよな」

 

 御国起助は《雷電》を見上げながら言った。御国は地球連合軍の軍属となり、予備兵士補となっていた。

 

 あくまで予備役兵士の見習いとして教育を受けているという態だ。カーム・クラフトマンと共に《わだつみ》の整備隊に回された起助は地球連合軍の紺色の作業服を着てカタフラクトの整備に従事していた。

 

 格納庫の一角を占める陸上自衛隊機はそんな起助たちの注目の的だ。濃緑色を基調とする迷彩にモノアイ、丸みを帯びたフォルム。《スレイプニール》や《アレイオン》とは異なる。

 

「アニメの見すぎだよ」カームが肩を竦める。「月で発見された電気伸縮式特殊樹脂を使ってる俺たちの《スレイプニール》なんかと違って、その技術をベースにさらに発展させた電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)とかってのを使ってるんだ。日本人技術者は変態だぜ」

 

「日本はそうでなくっちゃ」

 

 起助はマイペースなことを言って《アレイオン》の代わりに格納スポットに収まる《雷電》を飽きずに見上げた。ここにいたアルダニティ小隊は全滅し、その代わりにやってきた《雷電》。地球連合軍が手も足もでなかった相手に斧を持って格闘戦を仕掛けた姿を見て、起助は言い知れぬ興奮を覚えたのを思い出した。

 

 ──そんなことを思い出していた起助は格納庫の端にいる火星の宣戦布告後、妙に意気消沈した北欧美人に目をやった。すっかり伊奈帆が夢中になっているので、初めて垣間見た伊奈帆の新たな一面を応援してやろうとは思っていたが、肝心な伊奈帆の姿がない。

 

 美人を励ますくらい、友人を裏切ることにはなるまい。起助はそう思って軽い調子で近づいた。

 

「セラムさん、どうしたのさ。元気ないようだけど」

 

 話しかけられたセラムは暗い顔で床を見つめていたが、驚いて起助を見上げた。こりゃ伊奈帆がぞっこんな訳だ、と起助は思う整った顔立ちにドキッとしながら隣に立つ。

 

「……伊奈帆さんのご友人の」

 

「起助だよ、皆からはオコジョって呼ばれてるけど」

 

 名前もまだ認識されていなかった。そんな脇役に成り下がったつもりはなかったのだけど。

 

「なんかあったの、伊奈帆と」

 

「え」

 

「いや、元気ないなと思って」

 

「それは……」

 

 セラムの顔が曇る。

 

「こら、またオコジョは目を離すとナンパしてる」

 

 韻子の声にびくっと背中を伸ばした起助はそちらを振り返る。相変わらず何を考えているか分からない無表情の伊奈帆もそこにはいて、しかし目だけはロックオンしたようにぴたりと起助を向いている。

 

 ──誤解だ、話せば分かる

 

 ──ふうん

 

 アイコンタクトでそんなやりとりをした錯覚を覚えながら起助の回りに友人たちが集まってくる。

 

 伊奈帆と韻子はまだ作業服などの支給を受けられず、学校の制服の上からジャケットを羽織っている。伊奈帆は別口でもらったのか私物なのか、左肩に旭日旗、胸には何処かの部隊のワッペンがベルクロで張られたグレーのナイロン製でいかにも軍用なフライトジャケットだった。

 

 韻子は高校のスカートと官給品の内側がオレンジ色のオリーブグリーンのジャケット姿で、その違和感が逆に彼女のすらりとした健康的な足を強調していた。学校では見る女子にも飽きず、韻子を異性として意識したことは特に無いつもりだが、女日照りの今は見境がないらしい。

 

 単純すぎる自分の脳みそに呆れる起助は天井を見上げた。

 

「なんで俺はパイロットじゃなくて整備員なんだよ。羨ましいぜ、二人とも」

 

「だってカームは操縦、赤点じゃん」

 

 韻子の鋭い一言にカームはうっと声を詰まらせる。

 

「整備だって立派な戦争よ。整備員がいないとカットは動かないんだから」

 

「格納庫にいたんじゃ、あいつらをぶっ飛ばせねえだろ!」

 

 勇ましいなぁ、自分にはここが精一杯だ。起助は内心で苦笑した。

 

「まあ、そう気張るなって」

 

 そこへやってきたのは鞠戸大尉だ。一同は敬礼する。鞠戸が答礼し、一同は手を下げた。志願するに当たって敬礼などの動作は教育を受け、階級の教育も受けた。今まで軍人の階級といえば鬼軍曹だの大佐だの中尉くらいしかしらなかった。──鬼軍曹は階級ではない──だらしない鞠戸も女神の界塚ユキ准尉も意外と偉い士官なのだなと改めて思う。

 

「この15年、実戦を経験したやつはいないんだ。経験したやつはみんな死んだ。火星のやつらもな。てことは敵も味方もみんな、おまえらとおんなじ童貞だ」

 

「みんなじゃありません」

 

 伊奈帆が答える。

 

「伊奈帆。ま……まさか……」

 

 カームの焦る様子を見て、おいおい話を聞いてなかったのかいと起助は苦笑した。そこでセラムの顔が曇っていることに気がつく。

 

「鞠戸大尉は生き残った。そうでしょ?」

 

「そっちの話ね」

 

「スコアブック上は違う。俺が書いた種子島レポートは握りつぶされた」

 

「種子島……レポート?」

 

「15年前、ヘブンズフォールで崩壊した月の破片が一番最初に落ちた場所」

 

「ああ。だが、月より先に落ちてきたものがあった。火星のやつらだ。その火星の化け物みたいなカタフラクト相手に俺たちは時代遅れの戦車で挑み、全滅した。その直後にハイパーゲートが暴走。時空振でヘブンズホールが起きて、火星のやつらは戦場ごと……」

 

 鞠戸は拳をぱっと開いた。

 

「物的証拠は何もない。俺のレポートは狂気で書き立てた妄想ということになった」

 

「でも事実でした。火星のカタフラクトは地球の技術をはるかにこえています」

 

「どっちだろうと結果は同じだ。なにしろ地球にはアルドノア・ドライブはないからな」

 

 アルドノア・ドライブ……起助は口の中で繰り返し、顔をしかめる。

 

「戦う前からそう悲観しなくても」

 

 そう背後から声をかけてきたのは自衛隊の整備員だ。四十を越えるかという、ベテランらしい落ち着いた雰囲気。迷彩服の胸ポケット上に縫い付けられたネームには檜山と書かれている。

 

「実際、すでに二機の火星カタフラクトを倒したんです。多大なる犠牲は払いましたが、火星と地球では圧倒的な物量の差がある。勝てなくても負けなければ良いんですよ」

 

 男はそう続けて学生たちを見た。

 

「大人が子供の前でそんな弱音を吐いてはいけないですよ、大尉どの」

 

「でも事実ですよ、軍曹」

 

 鞠戸は肩を竦める。

 

「火星と戦うことが特別な戦争だと私は思いません。戦う相手は人間です。エイリアンじゃない」

 

 檜山軍曹はそう言うと学生たちに笑いかけて通り過ぎ、陸自のカタクラフトへ向かった。そのあとを追うように守住三曹が歩いてくる。

 

「あ。守住三曹」

 

「なんだお前ら、志願しちゃったのか」

 

「これで同じ職場ですね」

 

 カームが笑うと守住も苦笑した。

 

「いつまでここにいるかは分からないよ。でもまぁ、何かあれば気軽に声をかけてくれ」

 

「了解ッス」

 

 起助は笑顔で敬礼する。新芦原で助けてくれた守住のことをここにいる一同は頼れる兄貴分のように思っていた。

 

「気軽っつーのはフレンドリーに接しても良いけどな、親しき仲にも礼儀ありだ。志願して兵隊になったなら正しい言葉遣いでな」

 

 苦笑しながら守住はそう言うと歩いていく。起助は改めてその背中に尊敬の眼差しを送るのだった。

 

 

 

《わだつみ》の直援には自衛隊から護衛艦《しらね》と一個カタクラフト小隊が就くことになった。

 

 しらね型ヘリコプター搭載護衛艦《しらね》はやや旧式の部類に入る護衛艦だが、ヘリ三機を搭載・運用できる余裕がある。

 

 すでに《わだつみ》の艦上にあった篠原の率いたアカギ小隊こと第1小隊の四機の《雷電》をそのまま派遣することとなり、予備機と予備品や武器装備、整備員、予備搭乗員らも輸送ヘリで《わだつみ》へと運ばれた。

 

 予備の搭乗員は第2小隊から秋山と、秋山のバディの荒川弘貴三等陸尉だ。篠原と日比谷、樋口二尉と城山三尉が正規搭乗員としてアサインされているが、コンディションによれば予備が乗る。または《わだつみ》の予備機で出る。

 

 正式に乗り込む篠原たちは自衛隊から地球連合軍のマグバレッジ艦長へ指揮権が一時的に移ることとなった。

 

 とは言っても日本の排他的経済水域を出るまでは第五護衛隊群が責任を持って《わだつみ》を送り届ける。

 

 その《わだつみ》の飛行甲板で界塚伊奈帆はタブレットを眺めていた。志願して予備兵士補としての任官を果たした伊奈帆は制服から難燃素材のごわついた作業服を着て編上靴を履いていた。連合軍の服が足りなかったので自衛隊からの貸与品だ。着なれない作業服の上からこれまた救助してくれた海自の航空科員からもらったフライトジャケットを羽織った伊奈帆の姿は小柄な兵士のようにも見える。

 

「基本は練習機と同じ。出力が高くても、重力と地盤強度が同じなら重量度が増えた分だけ俊敏さが下がる……か」

 

 自分でリストした《アレイオン》と《スレイプニール》の性能緒元を比較していた伊奈帆は我知らず呟いた。自衛隊の《雷電》のスタートダッシュの俊敏さは両機とも上回っていた。可能なら日本の機体に乗ることが出来れば良いが、それは叶わない。自衛隊は少年兵になりうる年齢の人間は採用しない。そして自分の目的からも自衛隊に入っては遠ざかる。

 

「……慣れるしかないな」

 

 諦観した伊奈帆はタブレットを下ろした。フォークリフトのミラーから飛行甲板の縁に並ぶ資材の間に、セラムの姿を認めた伊奈帆は疲れた表情を見せないよう心持ち顔を引き締めてフォークリフトを降りた。

 

 セラムことアセイラムは見飽きることがないように、艦の修理資材の箱に腰を下ろして輝く瞳で空を見つめていた。その姿だけでも絵になる。

 

「いらしたのですか、伊奈帆さん」

 

 近づいてきた伊奈帆に気づいたアセイラムは穏やかな声色で話しかけた。

 

「ええ」

 

 伊奈帆は短く応え、アセイラムの横に並ぶ。

 

「本当に……綺麗」

 

 アセイラムは感嘆の声を漏らす。

 

「青い空は珍しいですか」

 

「はい。……お勉強ですか」

 

「復習を少し。……でも役に立つかどうか」

 

 伊奈帆にしては珍しい後ろ向きな発言にアセイラムは伊奈帆の顔を見た。

 

「どうしてですか」

 

「僕らはアルドノアを持っていないから……」

 

 伊奈帆の呟きにアセイラムは伊奈帆が戦うことに関する勉強なのだと悟った。

 

「どんなものなんですか、アルドノアって」

 

 伊奈帆は任官してから鞠戸と篠原の話を思い出していた。──アルドノアが無いから勝てない、鞠戸はそう言う口ぶりだった。

 

「アルドノアは……ヴァース、あなた方が火星と呼ぶ惑星の古代遺跡で見つかった、超文明のテクノロジー。それに初めて接触し、目覚めさせた地球人がレイレガリア・ヴァース・レイヴァース博士。私のお祖父様、現ヴァース皇帝です」

 

 静かにアセイラムは語り出す。それを伊奈帆も静かに聞いていた。

 

「遥かなる時を越えて起動したアルドノアは、お祖父様を正統な後継者として認識し、アルドノアの起動因子をお祖父様の遺伝子に焼き込んだのです」

 

「ということは」

 

「はい。生まれながらにアルドノアを起動出来るのはお祖父様と、その子孫だけ。お祖父様は騎士たちに主従の契りを交わすことでアルドノアとその起動因子を貸し与えました。騎士たちはその力を利用して強大な城とカタクラフトを作り、植民地を統治しました。そして荒れ果てた火星の大地を開拓した者が次に求めたのが、地球です」

 

 アセイラムは先程とは違う目で青い水平線を見つめる。

 

「光を屈折し、海と空が青く見えるほどたくさんの水と空気を持つ私たち人類発祥の地……」

 

「それは違います」

 

 伊奈帆はアセイラムの言葉を遮る。

 

「空が青いのは屈折じゃなくてレイリー散乱の影響です」

 

「え……?でも、光の屈折だとスレインが」

 

「空が青いのはレイリー散乱、雲が白いのはミー散乱。その人の勘違いです」

 

 それを聞いたアセイラムは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

 

 

「青春してるなぁ」

 

 艦橋のウィングでそれを眺めていた篠原はポツリと呟いた。ここから見ていればただの若い少年少女が言葉を交わしているようにしか見えない。

 

「覗き見は感心しないぞ」

 

 そう言ったのは女騎士ユニスだ。相変わらず紺色の作業服の上から黒いコートを羽織っていた。長い栗色の髪が海風で艶かしくなびいている。彼女はいつも影ながら姫の側に控えていた。

 

「そうだな。マナー違反だ」

 

 篠原は体の向きを変えて柵に寄りかかって雲の流れを見上げる。

 

「こんなところで油を売ってるのか、お前は」

 

「見ての通り暇なんだ。仕事が無いのが苦痛に感じる人間では無いと思ってたんだが、このご時世だしな」

 

「なら少し話をしないか。今後の事だ」

 

 ユニスは真剣な目で見てくる。その実直な物言いに少しからかいたい気もしたが、それは堪えて顔を引き締めた。

 

「お姫様の事か」

 

「ああ。この船が連合本部までたどり着き、月面基地とコンタクトを取ることが最初の目標だ」

 

「そうだな」

 

「そんなにうまくいくと思うか?」

 

「君はどう思っている?」

 

「妨害が無いことを祈るが、偶然や敵の無能を期待しては自分の身を守ることなどできない」

 

「……敵とは、言い切ったな」

 

「姫殿下を脅かす存在は例えヴァースの同胞だろうと敵だ。新しい剣が必要だ。どこかの誰かのお陰で私の身分は保証されたが、さすがに身分を証明できるものが何もない状況では志願しても地球軍のカタフラクトに乗ることは出来ない」

 

 ユニスの《エスカリオン》は《あつみ》に乗せられたままだ。《あつみ》が北海道まで輸送し、あとは千歳の研究施設で解析されるだろう。

 

「《アルギュレ》との戦いを見た。出来るなら日本のカタフラクトが良い」

 

 電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエーター)など最新の技術が使われている日本のカタフラクトは特に機動性能が高い。その分、一機辺りの単価は高くついているが。

 

「余剰機はない。予備のパイロットは必要だが……」

 

 パイロットは限りなく不足している。自衛隊ではカタフラクト操縦士となるための陸曹歩行戦闘車操縦学生課程教育が設けられ、三等陸曹以上の隊員が入校し、陸上自衛隊のカタクラフト操縦幹部候補生となる制度を設けてパイロットを確保していた。同等のヘリコプターパイロットとなる陸曹航空操縦学生課程でさえ、毎度人数が割らないように部隊は試行錯誤している。

 

「地球のカタフラクトも操縦できるのか?」

 

「無理ではないはずだ」

 

「なら少し見てみるか」

 

 篠原はユニスを伴って飛行甲板下の格納庫に向かう。濃緑色の巨躯を聳えさせる《雷電》五機が、全滅したアルダニティ小隊の定位置に収まっている。整備に当たる檜山一曹が篠原の姿を認めて振り返り、敬礼した。篠原は檜山にユニスをスウェーデン軍の予備役だったと紹介してシミュレーション用にスタンバイを頼んだ。機付長の守住がやってきて早速取り掛かる。

 

「なるほど、予備役か」

 

「予備役といっても軍人だ。立ち振舞いでばれないようにな」

 

「無茶を言うよ、まったく」

 

《雷電》の右肩のショルダーアーマー部分には普段は施されない、国籍を表す白い縁の入った日の丸の国籍マークがペイントされていた。

 

「準備が出来ました」

 

 檜山が言った。篠原とユニスは《雷電》のコックピットに乗り込む。

 

 篠原はシミュレーション用のプログラムを点検するとユニスと場所を変わった。

 

「モニターではなくHMDバイザーにメインカメラの映像が投影される。目の動きを読み取ってくれるからこの頭部も目の動きに連携する。本来死角の部分も見通せる」

 

 フライトヘルメットを被せ、バイザーを下ろす。ユニスは頭が小さいので大分緩いが、気にしない。ユニスは驚きの溜め息を漏らした。

 

「これは……なかなか」

 

 ペダルの操作や操縦桿(スティック)、手のマニュピレーターの操作などを軽く教えただけでユニスは学んでいく。

 

「同じ《雷電》の一個小隊と四対一で戦うぞ」

 

 シミュレーションを設定し、篠原はコックピットを降りた。モニターされているシミュレーションを見るとユニスは真っ正面から突っ込んで先頭を進む一機と撃ち合いを始める。

 

 が、林内に伏せて射撃態勢を取っていた二番機に敢えなく狙撃される。頭部メインカメラを失ったところを一番機のトマホークに粉砕された。

 

「なんだこれ」

 

 あっさりと撃破されたユニスは呆然としていた。

 

「シミュレーションの敵だが、俺たちの戦術通りに動いている。真っ正面から馬鹿みたいに挑んでも勝てんぞ」

 

「……もう一度だ」

 

 ユニスは今度は市街地へ隠れると一機ずつ戦い始める。が、接敵するや敵《雷電》は後退して一度間合いを切る。それを追うと二機目に挟撃され、さらに三機目、四機目が次々に飽和攻撃を行う。ユニスは激しい弾幕を浴びて大破した。

 

「……どうする?」

 

「……一対一で頼む」

 

 ユニスは遂に折れた。《雷電》同士の戦いが始まる。複合装甲の楯で弾幕を防ぎつつ、ユニスは翼側へ回り込む。接近戦に持ち込みたいらしい。弾が切れた瞬間を見計らって飛び出すと楯からトマホークを引き抜いて敵《雷電》に叩きつけた。咄嗟に武器を手放した敵《雷電》は楯で防ぎつつ、足首からKバーと呼んでいる格闘ナイフを抜いて反撃してくる。楯でそれを弾き、ユニスはトマホークを振るって右手を叩き切った。逃げに転じようとした敵《雷電》のコックピットにトマホークを横凪ぎに叩きつけ、敵《雷電》を破壊する。シミュレーションでも生々しい映像だ。

 

 ユニスはバイザーを上げて篠原を見た。

 

「……言いたいことは?」

 

「いや、初めての機体をまるで体の一部のように使いこなしているな。見事だ」

 

「……、」

 

 褒められたユニスは何故かそっぽを向く。篠原はそんなユニスの仕草に口許を緩めた。──照れているのか。

 

「人馬一体という言葉が日本にはある。日本の操縦士なら自然とそれを目指すものだが、これがなかなか難しくてな。俺も初めは本当に思い通りに機体を操れなくて苦労したよ」

 

「私もこれで騎士の端くれだからな。それなりの鍛練は重ねてきた」

 

 ユニスはコックピットを降りた。篠原はタブレットに記録されていた四対一のユニスの結果を削除すると一対一での結果を保存し、檜山に見せた。

 

「……これは見事ですね」

 

「シミュレーションだがな。……彼女も予備の搭乗員として控えさせたい」

 

「地球連合では、無いのですか?」

 

「彼女は日本国籍を取ってる」

 

「分かりました。装具を用意しておきます」

 

 檜山は律儀に敬礼して約束してくれた。

 

「よくもまあ嘘がすらすらと」

 

「俺の嘘は分かりやすい、檜山も方便だと理解してるさ」

 

 篠原は肩を竦めた。

 

「……疑われないのか?間諜じゃないかと」

 

「さあな」

 

 篠原が肩を竦めるとユニスは呆れた。

 

「まぁ、助かったよ」

 

「役に立てたかは分からないがな」

 




 制服が足りないから学校の制服でって……とんでもないなぁと思って敢えて自衛隊の服を学生たちには着てもらってます。
 工場とかでミニスカ、膝小僧露出なんてありえんですから。機械に巻き込んだり、火傷したり、引っ掛かったり、危険極まりない……

 というのは建前で、本音はミリタリーな格好をやっぱりしてもらいたいからです。やっぱり自衛隊が見てるところでそんな容儀はさせません。
 自衛隊は服装容儀には特にうるさいようです。皆きっちり戦闘服から制服まで着こなしますしね。服務規律の一歩目って感じなんですかね。
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