アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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 フリージアン小隊が発進したカタフラクトデッキで、フライトスーツに着替えた伊奈帆もまた発進準備をしていた。ざっと外観を点検しながらコックピットに乗り込んだ伊奈帆は補助動力装置(APU)で機体を立ち上げようとしたが、電装系統が起動せず、カタフラクトを下りる。

 

「カーム、オコジョ!」

 

 下では大慌てで発進準備に奔走する整備員たちがおり、軍属となってまだ板につかないカームと箕国起助が振り返る。

 

「こいつ、起動しない」

 

「悪い!システムチェック中だ!もう少し待ってくれ!」

 

 カームの言葉を聞いた伊奈帆は周囲を見渡し、放置された《スレイプニール》に目を止めた。システムチェックを待っている暇はない。あれで出よう。そう決意した伊奈帆は《スレイプニール》へ駆け寄った。その脇を四人の迷彩服の男たちが通り過ぎた。篠原たち自衛隊組だ。

 

「界塚伊奈帆、蛮勇は禁物だぞ」

 

 篠原はそう声をかけながら《雷電》のコックピットから垂れ下がった三角型の吊皮のようなホイストに足をかけて機体へ登っていく。彼らも出るのか。

 

《スレイプニール》に収まり、起動する。全周(オールビュー)モニターに光が灯り、起動画面に切り替わる。

 

「フォースフィードバック・チェッキングプログラムスタート。イジェクション・シート正常。敵味方識別信号(IFF)確認。戦術データリンク、アクティベート。システムオールグリーン」

 

 機体を立ち上げた伊奈帆は複雑な気持ちだった。結局《スレイプニール》だ。しかし慣れ親しんだ機体の方が都合が良い。

 

 姉と韻子の《アレイオン》も起動し、センサーヘッドのデュアルアイカメラに光が灯る。マスタング小隊は三機しかおらず、小隊編成ではないが、仕方ない。

 

『マスタング・リーダーよりマスタング22(ツー・ツー)。なおくんは練習機だから、マークスマンをお願いね』

 

 マスタング22が伊奈帆に割り振られたコールサインだった。

 

「了解、界塚准尉」

 

『ユキ姉でいいよ。通信おわり。以上。──マスタング・リーダー、界塚ユキ准尉、発進します!』

 

 不安を振り払うように明るい声で姉はエレベーターへと登った。それに韻子と伊奈帆も続く。

 

『二番エレベーター及び車両用エレベーター、上昇』

 

『全機対空迎撃態勢』

 

『アカギ小隊は待機』

 

 エレベーターが上昇するに従い、視界が明るくなる。すでに薄暮時期だ。太陽は水平線に沈んでいた。三人はマニュピレーターで掴んだ突撃銃を装填し、戦闘態勢を取る。

 

 

 

 

 種子島の丘の上に陣取った火星カタフラクト《ヘラス》。光沢のあるクリーム色の20メートルを越える機体に乗り込んだフェミーアン伯爵は全周(オールビュー)モニターごしにロケットパンチを操っていた。

 

「不幸者よのぉ。アルドノアドライブを持たぬ劣等民族よ。我が力に畏怖し、屈服し、絶望して死ね」

 

 蔑みを込めて吐き捨てたフェミーアンは再度ロケットパンチを煙を上げる二隻の軍用艦へ向かわせる。

 

 飛行甲板に展開したカタフラクト部隊が向かってくるロケットパンチの迎撃を試みる。

 

 

 

『撃て!』

 

 75mm突撃銃が一斉に弾幕を張る。三発に一発の割合で込められた曳光弾がレーザーのような火線を光らせてロケットパンチに向かう。

 

『分散したぞ!』

 

 フリージアン・リーダーが叫ぶ。六基のロケットパンチが分散してそれぞれ別々の方向から向かってくる。それを自衛隊の戦闘機が追尾し、ミサイルを撃ち込む。一基のロケットパンチがミサイルの直撃を受けて軌道が逸れたが、また戻ってこようと旋回を始めた。

 

『こっちの弾も当たっているのに……!』

 

 曳光弾がロケットパンチの拳に当たって飛び散る。弾かれている。

 

『マスタング・リーダーより各機。敵の装甲に徹甲(AP)弾は無効!榴弾(HE)弾に切り換えて、各個に攻撃』

 

 姉が指示を飛ばす。戦闘機が旋回し、ロケットパンチを追っていた。戦闘機は艦の真上を通って正面から飛んできたロケットパンチに向かって機関砲を撃つ。20mm徹甲焼夷弾(API)がロケットパンチの拳に叩きつけられるがロケットパンチは針路を変えない。パイロットが機体を引き起こしたとき、ロケットパンチが急激に《わだつみ》から戦闘機に向きを変え、その胴体を直撃した。

 

『ああっ!』

 

 ユキが悲鳴に近い声を上げる。戦闘機は火球となって爆散する。しかし高度を上げた拳の横合いから《しらね》の5インチ速射砲の砲弾が殺到した。拳は爆発で弾かれ、海に落ちた。

 

 そちらに目が向いた瞬間、艦首にいたフリージアン小隊機が襲われた。ロケットパンチの直撃を受けて胴体部から上を持っていかれる。

 

 無線に断末魔の悲鳴が響き、コックピットの胴体部分をロケットパンチに握りつぶされて爆散する。

 

『フリージアン32(スリーツー)!』

 

『広がれ!密集すると狙われるぞ!』

 

 さらに《しらね》にも拳が襲いかかる。艦首の単装速射砲に拳が横合いから叩きつける。アルミ缶のように砲塔のシールドが潰され、砲も粉砕される。砲弾が次々に送り込まれていた砲塔は爆発し、砲塔へ運ばれていた弾薬が誘爆する。二番砲塔もその爆発で破損し、機能を失った。

 

『《しらね》が……!』

 

『構うな、弾幕を絶やすな!』

 

『こちらシリエジオ』

 

 突然、謎のコールサインが無線を通して伊奈帆の耳に飛び込んできた。自衛隊か?

 

『敵の拳は、巨大分子となって硬度を増す。榴弾を近接信管モードで使用し、針路を偏向しろ』

 

『誰だ、官姓名を名乗れ』

 

 フリージアン・リーダーが問い詰める。

 

『言っている場合か。──来るぞ!』

 

 鋭い頭の覚めるような女の声が言う。この声を伊奈帆は知っていた。火星カタクラフトの拳が向かってくる。

 

『当たれぇー!!』

 

 フリージアン・リーダーが叫ぶ。榴弾が次々に近接信管で炸裂し、ロケットパンチが針路を逸れたが、そのまま艦底部付近を掠めて水中に没した衝撃で《わだつみ》は揺さぶられた。

 

『くっ……あっ──』

 

『フリージアン・リーダー!』

 

 フリージアン・リーダーの《アレイオン》が動揺から立ち直る前に襲い掛かってきたロケットパンチに吹き飛ばされて海に叩き落とされた。胸部装甲が衝撃で潰れ、海に没した《アレイオン》の搭乗員の生存は絶望的だった。

 

 

 

「浸水発生!艦首艦底部で浸水!」

 

「隔壁閉鎖はまだか!」

 

 CICではマグバレッジが指揮を執っていた。艦橋の四周を確認する光学カメラの映像がラージスクリーンに表示されている。まさに満身創痍の《わだつみ》と《しらね》、そして飛行甲板で戦うカタフラクトたちの姿が見えた。

 

 接岸するか揚陸艇を使ってカタフラクトを種子島に展開させなくては。マグバレッジが考察する暇もなく、敵は襲いかかってくる。

 

『上空の敵機、急降下。側面からも三機接近。遠距離から加速して速力をためているようです。ブリッジ直撃コース!』

 

 しかしそのロケットパンチは爆発を受けて軌道を反らし、海に没する。

 

『命中!次!140度!』

 

 敵のロケットパンチを観測する韻子が叫ぶ。伊奈帆はセミオートモードにした突撃銃を撃ち、的確にロケットパンチの軌道をずらしていた。

 

 さらにロケットパンチが海面に突っ込む。

 

『次、来るぞ!左舷だ』

 

『次!左舷、315度!』

 

 シリエジオ──ユニス──とユキの声を聞いて方位315へ素早く砲身を伊奈帆は振り向ける。ブルパップ方式の突撃銃は全長の割りに砲身が長く、単射での射撃精度は高い。放たれた砲弾は拳の正面からやや外して直撃し、その爆発が拳の軌道を反らす。

 

 海面にぶつかってバウンドしたロケットパンチはもう一度海面に当たって海中へ突っ込んだ。

 

 さらに突っ込んでくるロケットパンチに対し、艦首側はフリージアン小隊の残機と《むらさめ》と《しまかぜ》が射撃し、直撃から突っ込んでくるロケットパンチに伊奈帆たちが対応する。

 

『命中!ラスト!』

 

 直上から突っ込んでくるロケットパンチに素早く射撃する。が、残弾を示すカウンターは残り二発でゼロだった。慎重に狙いを定めた最後の砲弾がロケットパンチに直撃する。しかし、

 

「不発……?」

 

 砲弾の信管不良か、神のいたずらか。砲弾が充填された装薬を炸裂させることはなかった。

 

『ダメ……』

 

 ユキが呻く。フリージアン小隊の生き残りは艦首側から向かってくるロケットパンチに対応している。

 

 が、突然ロケットパンチの横合いで炸裂する。ロケットパンチは寸前で針路を偏向され、海面に突っ込み、水柱が上がる。

 

『あれ、生きてる……?』

 

 韻子の間の抜けた声に伊奈帆は砲弾の飛んできた方にメインカメラを向ける。自衛隊の戦闘機ではなかった。

 

「あれは……」

 

 新芦原でも見た火星の攻撃機がこちらに機首を向けて飛んで来る。細く長い主翼とキャノピーを持たないコックピット。

 

「火星の戦闘機が援護した……?」

 

 

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