アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act28 共闘

「まもなく当揚陸城は日本列島のスキャン可能空域に入ります」

 

 ザーツバルムは揚陸城の司令部区画で地球を俯瞰するモニターを眺めていた。

 

「探知エリアに入り次第、スレイン・トロイヤードが奪取したスカイキャリアを捜索せよ」

 

 ザーツバルムはオペレーターに指示しながら思案した。

 

──アセイラム姫は生きています。僕はこの目で見ました──

 

 皇帝に直訴した少年、スレイン・トロイヤードの顔が浮かんだ。もし先回りできなければ状況を覆されかねなかった。

 

 その少年が今度はクルーテオ伯爵からスカイキャリアを強奪して脱走した。つくづく飽きさせないな、と皮肉ごちる。

 

 スレインは今のところ、アセイラムの安否を知る唯一の存在だ。敵の手に落とす訳にも行かない。

 

──こちらも切れるカードを切っておく必要がある……

 

「ザーツバルム様。当該機を発見しました。日本列島南西、種子島上空。現在、フェミーアン伯爵のカタクラフト《ヘラス》と交戦中の模様」

 

 何気なく聞いていたザーツバルムは目を見開いた。

 

「何!?種子島だと!」

 

 

 *

 

 

 

「大尉!鞠戸大尉!」

 

 島の影の断崖付近に押しやられた《わだつみ》のカタフラクトデッキでは《アレイオン》に搭乗したものの、PTSDの症状を再発させた鞠戸がコックピットから引きずり出されていた。

 

 過呼吸に陥る鞠戸をカームと起助が見ている中、起動した《アレイオン》に向かって私服の少女が乗り込もうとしていた。

 

 ライエ・アリアーシュ。彼女の瞳には復讐の炎が灯っていた。

 

「火星人は……敵」

 

 呟きながらコックピットの操縦桿を握った彼女は《アレイオン》を動かし始めた。

 

 *

「ちょっとなおくん!」

 

 韻子のハンドガンで曳光弾を三発上空に撃ち、火星の攻撃機に合図した伊奈帆にユキは悲鳴に近い声を上げる。

 

 弟の行動は姉のユキの理解力の範疇を超える。

 

『どうするつもりだ』

 

 篠原一尉が低い声で伊奈帆に問う。

 

『さっきからあの三面六臂はあの場所から動いていません。同じ攻撃を繰り返すだけです。きっとあいつの武器はあれだけなんです。あとは……。援護をお願いします』

 

 ──まずいこれは暴走モードだ。誰の声も聞かずに自分の判断を信じて決断している!ユキは自らの教えを実践する弟を止めようとするが、伊奈帆の乗る《スレイプニール》は飛行甲板を蹴り、着艦アプローチのような飛行を開始した火星の攻撃機と合わせようとしている。

 

「ちょ……なおくん!」

 

『伊奈帆!』

『おい、何をする気だ!』

 

 韻子も篠原も叫ぶが、返事もなかった。伊奈帆はバーニアと安定翼を使って埠頭を走り出し、まるで息を合わせたような連携で火星の攻撃機から下がったアームフックに飛び乗った。

 

「うそでしょ……」

 

 ユキは愕然とする。相手を信用しているの?面識があるはずはない敵だ。

 

『火星の戦闘機に乗っていったぞ……』

 

 篠原すら驚きを隠せない声を漏らす。火星の戦闘機は上昇し、高度を上げていく。

 

『接触回線オープン。手身近に行こう。そちらの兵装は?』

 

 伊奈帆の声が無線を通して聞こえる。火星のパイロットとコンタクトを取ろうとしていた。

 

『榴弾砲の残りは20発ほど。そちらは?』

 

『HE弾9発。それで最後だ』

 

「なおくんやめて!それは火星の……」

 

『ごめん、ユキ姉。あとで』

 

 伊奈帆はそう言って一方的に通信を遮断した。独断専行どころの騒ぎではない。さっきまで軍法を勉強していたばかりでしょう!

 

 ユキは怒りながらも伊奈帆にもしものことがあったらと不安が過る。

 

 伊奈帆の飛び乗った攻撃機にロケットパンチが迫る。指を広げ襲い掛かるそれを、攻撃機に乗り込んだ伊奈帆がライフルで射撃する。徹甲榴弾が広げられた手のひらに直撃し、充填された炸薬を炸裂させ、弾体の破片がその拳を破壊する。拳が破壊されたロケットパンチは推力を失って海に落ちた。二つ目の撃墜だ。

 

『……アカギ01、前進する。マスタング隊、我に続け』

 

「ですが……」

 

『俺達大人が頼りないからガキの背中を見ることになる。アイツばかりに無茶をさせられるか』

 

「……了解」

 

 篠原の言う通り、もう結果は神のみぞ知るだ。ここでうだうだしていてもしょうがない。

 

「──まったく相変わらず無茶なんだから。……前進するわよ」

 

『いいんですか?』

 

「いいのよ。あの子の無茶って大体正解だから」

 

 これはユキも認めたくはないことだ。ユキは篠原に続いて前進する。篠原と日比谷の《雷電》は隙無く突撃銃を四周に構えて警戒していた。

 

 空で戦う伊奈帆のことを案じていると、伊奈帆が呼び掛けてきた。

 

『ユキ姉!』

 

 後ろから迫るロケットパンチを誘導するように伊奈帆を乗せた攻撃機が飛ぶ。伊奈帆が何をしたいのか瞬時に悟ったユキは突撃銃を構える。

 

「都合の良い時だけ頼るんだから!……進路そのまま!」

 

 伊奈帆の乗った攻撃機を追って目の前を通りすぎるロケットパンチに照準、《雷電》二機が膝撃ち姿勢を取り、ロケットパンチのエンジンが見えた瞬間、四機は斉射する。

 

 曳光弾が飛び交い、ロケットパンチに当たる。後部のロケットエンジンに榴弾が命中して炸裂するとエンジンは火を噴いて落ちていく。海に落ちたその腕は二度と浮いてこなかった。

 

「よし、三機目を撃墜」

 

 さらにTF-1戦闘機が追い込み、火星の攻撃機が放った砲弾がロケットパンチのエンジンを破壊するのが上陸の間際に見えた。

 

『急げ!各機、間隔100メートル。一列縦隊、02は殿を』

 

『02、了解』

 

 もう手入れされなくなって久しいアスファルトの荒れた道路を四機は走る。

 

『こちらアカギ01、ウミギリ。攻撃に加入する。送れ』

 

 走りながら篠原が無線で呼び掛けた。

 

『アカギ01、こちらウミギリ03』

 

 呼び掛けに応えてぬっと森の中から濃緑色を基調とする迷彩の《雷電》が出てきた。反射的に攻撃しようとするほどユキはその姿に焦った。森の中に同化する迷彩の機体の中で唯一モノアイが怪しく光っている。

 

『こっちだ。ついてこい』

 

 陸自水陸機動団のカタクラフトが攻撃位置まで誘導してくれた。斜面を遮蔽物にして死角から接近する。

 

 自衛隊は火星カタクラフト一機を新たに合流したユキたち四機を含め、十二機で囲んでいた。

 

『右翼に展開しろ。攻撃開始、二分前』

 

 篠原とその僚機の《雷電》が山の中に伏せる。ベッタリと胸を地面に押し付け、突撃銃を構える。ユキと韻子もそれに倣った。

 

『狙撃班が敵の目を潰すと同時に攻撃を開始する。全隊、待機せよ』

 

 海では未だに戦闘機とロケットパンチが戦っている。弟の身を案じた時、『射撃用意』と無線に声が響いた。

 

 

 

 

 伊奈帆が今度は《わだつみ》へのコースを取る。もう馬鹿のように拳は追ってこない。前からと後ろから、挟み撃ちにする気だ。

 

『させん』

 

 戦闘機のパイロットが上昇し、離れる。レーダーを見ると後ろから迫るロケットパンチを追い抜かせて、背後を取ろうとしていた。

 

 島が左側に見え、正面左の断崖の影に《わだつみ》と《しらね》がいる。二隻の護衛艦も同じように潜んでいた。

 

「シリエジオ」

 

『準備は良いぞ。飛び込んでこい……!』

 

 頼もしい力強さの籠ったユニスの声を伊奈帆は信じた。

 

「コウモリ、もっと低く……!」

 

『無茶ばかり言う……!』

 

 しかしカタフラクトを乗せても火星の攻撃機の機動性能は想像以上だ。

 

 戦闘機に終われてロケットパンチは逃げ出す。正面からもう一機のロケットパンチが向かってきた。

 

「今だ」

 

 影に隠れていた《わだつみ》の飛行甲板から一斉に曳光弾が飛んできた。弾筋が伊奈帆たちのすぐ近くにも掠め、水柱が上がる。太平洋戦争時に米艦へ低空から這い寄る零戦の気分だ。まるで自分達が狙われているようだが、大量の弾幕は正面から迫るロケットパンチのエンジンを捉えた。制御不能になったロケットパンチがすぐ横を掠めとんでき、海に落ちた。

 

「残り一機……!」

 

 伊奈帆はGに耐えながらロケットパンチを目で追う。伊奈帆とコウモリを援護した戦闘機を先に潰そうと戦闘機を追うロケットパンチに《わだつみ》の方向から放たれた一発の砲弾が直撃した。エンジンを撃ち抜かれた最後の一機は呆気なく海に墜ちて水柱を上げる。

 

『火星人は……敵』

 

 低く呟いた少女の声に伊奈帆は聞き覚えがあった。ライエ・アリューシアの乗り込んだ《アレイオン》が飛行甲板でライフルの射撃姿勢を取っている。最後の一機を撃ち落としたのは彼女の狙撃によるものだった。

 

 

 

「ボーティス、マラクス、ロノウェー、ハルファス、ラウム、ヴィネ……わらわの子らをよくも……!」

 

 一方フェミーアンは怒りに震えていた。すべての拳を破壊された今、攻撃手段を失ったにも等しい。

 

「ならば奥の手……」

 

 そこまでフェミーアンが口にしたとき、コックピットのオールビューモニターが一斉に消えた。

 

「なに?」

 

 戦端を開いたのは火星カタフラクト《ヘラス》から一キロほどの射撃位置まで接近した普通科隊員の持つ対物ライフルだった。

 

 六名のM109ペイロード25mm対物ライフルが同時に発射され、装甲車も破壊する25mm徹甲弾を放つ。発射された六発全弾が《ヘラス》の各所に位置する光学カメラを正確に捉え、破壊した。

 

「なにごと!?」

 

 目を完全に失ったフェミーアンが驚く間に次なる攻撃が始まった。火星カタフラクトの周囲で砲弾が炸裂し、破片が《ヘラス》を叩く。

 

 洋上の護衛艦による艦砲射撃だった。さらに陸自の《雷電》が突撃銃のアンダーバレルの擲弾銃を迫撃砲のような曲射火器のように撃つ。

 

 弾道を描いて飛んでいった砲弾が火星カタフラクトの周囲で炸裂した。

 

「こ、この……!」

 

《ヘラス》は爆発の衝撃波や破片を受けてたまらずたたらを踏む。コックピットが激震に見舞われ、外の光景を映さなくなったオールビューモニターに警告のメッセージが灯る。

 

 敵の目を奪ったことを確信したカタフラクト隊を率いる山中三佐は攻撃を開始した。

 

『全機、攻撃開始!』

 

 潜んでいた《雷電》、そしてユキたちの《アレイオン》などのカタフラクト十二機が一挙に立ち上がって突撃銃を据銃した。各機の75mm突撃銃が火を噴き、薬莢をばらまく。発射された砲弾は全て《ヘラス》に殺到し、時おり跳弾した曳光弾が闇夜に跳ね飛んだ。

 

 普通科隊員たちも一斉に84mm無反動砲M4(カールグスタフ)や110mm個人携帯対戦車弾(LAM)を発射する。

 

「この……アルドノアも持たぬ劣等人種が……!」

 

 カタフラクトも隊員たちも絶え間なく弾幕を張る。《ヘラス》の機体が抉れ、足が引きちぎられ、満身創痍の機体からは伝導液が鮮血のごとく飛び散る。

 

 いささかオーバーキル過ぎる攻撃は三十秒とかからなかったが、「撃ち方待て」がかかった頃には《ヘラス》は蜂の巣になり、無惨な骸を晒していた。

 

 文字通り蜂の巣になって転がった火星カタフラクトに対し、全機はなおも警戒を緩めず包囲したまま二機の《雷電》と普通科隊員たちが近づいた。

 

 残りの全機は接近する二機に銃線が重ならないように位置を変えつつ援護し、別方向からの逆襲にも備えていた。

 

 接近する《雷電》がショルダーアーマーのサーチライトを使って《ヘラス》を照らし、油断なく普通科隊員が近づく。ユキと韻子も突撃銃の銃口を下げず、警戒する中《ヘラス》のコックピットが普通科隊員の油圧カッターで割り開かれた。中では飛散したモニターの破片を腹に食い込ませ、血で顔を濡らした虫の息の火星騎士の女が意識を失っていた。

 

「火星カタフラクトを撃破した……!」

 

 その宣言はやがて歓声に変わった。

 

 

 

「火星カタクラフトは撃破された」

 

 伊奈帆は接触回線を維持したまま言った。

 

「武装を解除してこちらの指示に従え、コウモリ」

 

『……!』

 

 通信回線の向こう側のまだ顔も知らない相手は息を飲んだようだった。

 

『……このまま指示に従うわけには行きません』

 

「この状況でこちらの指示に従わなかったらどうなるかぐらい分かるだろう?」

 

 伊奈帆の冷徹な問い詰めにも相手は食い下がる。

 

『それでも……聞きたいことがあります。地球軍の船に、アセイラム姫が乗っていますね』

 

「……姫は死んだ。だからお前たちは攻めてきたんだ」

 

『自分は見たのです!アセイラム姫は、生きています』

 

「ならなぜお前たちは攻撃を?……その生きている姫とやらを助けたいなら、なぜ攻撃してくる」

 

『それは……』

 

「答えろ」

 

 伊奈帆は鋭く問う。

 

『姫に、会わせてください』

 

「僕の質問が先だ」

 

『もしかして……姫を利用するつもりですか?』

 

「もし仮に姫が生きていたとして……姫を利用するとはどういう意味だ」

 

 相手は口を閉ざし、伊奈帆の《スレイプニール》に向かって機体に備わる砲口を向ける。伊奈帆もまたライフルを向けた。

 

「姫の味方で無いなら君は……敵だ」

 

『僕は姫の味方です!姫に会わせてください!』

 

「ならば指示に従え」

 

 伊奈帆は緊張を解かずにトリガーから指を離さずにいた。その時だった。

 

『警告!アンノウン一機、低空より高速接近』

 

 空自の戦闘機のパイロットが早口で怒鳴る。

 

「回避しろ」

 

『あれは……』

 

 次の瞬間、火星の攻撃機の翼が両断された。左右とも黒い霧に一瞬だけ包まれ、綺麗に切断される。

 

『なっ……!?』

 

「なんだ……?」

 

 グライダーのようなものに跨がった真紅のカタフラクトが両手を広げて迫ってくる。伊奈帆が咄嗟に火星の攻撃機から離れた瞬間、グライダーに跨がる真紅のカタフラクトが見えない力で攻撃機を引き寄せて腕でキャッチした。伊奈帆は種子島の山の傾斜地に不時着し、木をなぎ倒しながらなんとか止まる。

 

 グライダーと真紅のカタフラクトは翼を折られた攻撃機を回収するとあっという間にその空域を離脱していった。

 

「あいつは……」

 

 伊奈帆は飛び去っていった深紅の火星カタフラクトの方向を睨み続けていた。

 

 

 

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