アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act29 謎の戦艦

 三面六臂こと《ヘラス》が撃破され、重傷を追った搭乗員の火星騎士が《あかぎ》の医務室へ搬送された。大破した《ヘラス》のアルドノア・ドライブは辛うじて破壊を免れており、自衛隊により機体ごと回収されていた。

 

 機関を喪失した《わだつみ》は護衛艦に曳航されて壊滅した連合軍種子島基地の埠頭に接岸していた。島内を捜索していた陸自部隊は島内に地球連合軍の隠し船渠(ドック)を発見。さらに中に眠る巨大な戦艦を発見するに至った。

 

「この艦は……」

 

 マグバレッジ艦長は副長の不見咲と《しらね》艦長の海野(うんの)洋介(ようすけ)二佐と共にそのドックに入っていた。《ヘラス》に乗り込んでいたフェミーアン伯爵の意識が戻らず尋問できない今、彼女がどこからやってきたのか分からず、いつ来るやもしれない敵の脅威を警戒し、《わだつみ》や《しらね》の乗員は地下施設内に避難していた。

 

 海野は防衛大卒、今年三十八歳のがっしりとしたスポーツマンの体格で、髪はオールバックでまとめ、肌はそれなりに甲板に出ているらしく陽に焼けていた。

 

 この男が自らの艦を《わだつみ》にぶつけて押す決断をした艦長だった。

 

「現在施設内を検索中ですが、記録上、艦としては完成しているようです」

 

 二人に続いて歩く《しらね》の先任伍長が報告した。

 

 まるでその存在を秘匿するように地下ドックで建造されたその戦艦は完成後、進水もせずに艤装まで施されたようだ。

 

「道楽で作るには高すぎますね」

 

 不見咲が呟いた。とんでもない予算が投じられて建造されたのは確かだ。潜水艦や宇宙船のように気密を守る設計で、スクリューはなく複合サイクルエンジンと思われるものが搭載されている。

 

「OKです。船内の安全を確認!」

 

 ドック内に声が響く。船底にはウェルドックのようなカタクラフト格納庫に通じるランプドアが設けられていた。

 

 敵の形跡はなかったが、念のため船内を《しらね》の護衛艦付き立入検査隊と水陸機動団の隊員で調査していたのだ。

 

 MP7短機関銃を持った陸自隊員と共に三人はこの艦のブリッジに向かう。

 

「積載されている弾薬類は使用できます。即応砲弾も。アレイオン(KG-7)の予備部品まで積載されていました」

 

 通路を進みながら海野に立入検査隊の隊員が報告する。

 

「使う気は満々だったらしいな」

 

 海野が呟く。同じ地球連合軍の所属でありながらこの種子島の秘密基地について一切の情報を持たなかったマグバレッジと不見咲は戸惑うばかりだった。

 

 先任伍長と立入検査隊の隊員に案内されてブリッジに入る。すでに《しらね》の艦橋要員の士官と下士官が数人ずつ入って調査していた。

 

 ブリッジ内は水上艦と異なる配置で、甲板や張り出し(ウィング)に出ることが前提とされていないため、ドアもなかった。艦長席の背後の壁には《DEUCALION》と打たれた看板が掲げられている。

 

「《デューカリオン》、この艦の名……」

 

「こんな立派な艦がなぜ出撃もせずに放置されているのでしょう?」

 

「搭載されている機関はディーゼルでも核反応炉でもありません。アルドノア・ドライブです」

 

 先任伍長の言葉に海野は振り返る。

 

「アルドノア・ドライブだと……」

 

「それがこの艦がここに放棄された理由ですか」

 

 落胆の息が漏れる。アルドノア・ドライブを操ることが出来るのは火星人だけだ。

 

「記録ではアルドノア・ドライブ搭載を前提としながらも各種装備の試験の際は外部電源で実験していたようです。それで肝心なアルドノア・ドライブを乗せても起動できなかったと」

 

「道楽じゃないか。地球連合はこんなポンコツを作って実験する金があるのに何をしていたんだ、一体」

 

 海野が苛立ち紛れに呟く。マグバレッジたちへの批判ではなく、強襲揚陸艦を単艦で運用するような地球連合軍司令部に対する反感だった。

 

「予備電源、補助動力装置は生きています。どうにかアルドノア・ドライブを起動できれば……」

 

 動けなくなった《しらね》、《わだつみ》の乗員、そして避難民を運ぶことが出来る。むしろ強力な戦力としての運用も可能だ。

 

「北海道から技術者を呼ぶか」

 

 皮肉を言いながら海野は艦の航法装置などを眺めている。マグバレッジは重い口を開いた。

 

「起動できる人間が一人、います」

 

 

 *

 

 

 懐かしい夢を見ていた。甘く切ない、そして年を重ねた今も決して忘れることのない思い出。スレインは目を開けて現実を思い出すことを躊躇した。しかし意思とは関係なく意識が無理矢理覚醒させられる。

 

「どうだ?少しは話す気になったか?」

 

 目の前の赤い制服、金髪のクルーテオ卿が霞んで見える。薄れていた意識の混濁が晴れ、徐々に現在の状況が思い出されてきた。種子島でデュクレール子爵の《フェルミ》に捕まり、城に連れ戻されたスレインは意識が飛ぶほどの苛烈な拷問を受けていたのだ。

 

「貴様の目的は何だ。何の為にあの島へ行った?」

 

 黙秘を貫くスレインを見たクルーテオは電撃を加える。電流が体に走り、激痛でスレインは海老反りになる。悲鳴を堪えても口からは声が漏れだし、スレインは吊るされたままもがいた。

 

『そのくらいにしてはいかがか?クルーテオ卿』

 

 モニターには通信画面が表示され、ザーツバルム伯爵にもこの光景は屈辱にもライブ中継されていた。

 

「劣等民族に情けは必要なかろう。ザーツバルム卿」

 

『死んでしまっては元も子もない。身の危険を省みず、皇帝に謁見などよほどのこと。その真意を知りたい』

 

「真意?こんな子供に考えなどあろうものか」

 

 クルーテオは散々自分の顔に泥を塗ったスレインに対して激しい怒りを燃やしていた。

 

 これはもう、自分の運命は決したかもしれないなとスレインは心の中で自嘲気味に思った。

 

『クルーテオ伯爵。種子島に地球軍が展開しています。偵察機からの映像ではフェミーアン伯爵の《ヘラス》が撃破されたことが確認されました』

 

「なんと……フェミーアン伯爵を劣等人種どもが……?貴様何を見た、答えろ!」

 

 ぐったりとしたスレインは何も答えられない。

 

「時間の無駄か」

 

 クルーテオは拳銃を抜くとスレインへ向けた。

 

『待たれよ。クルーテオ卿』

 

 ザーツバルムは焦るように止めようと声をかけるが、怒りに燃えるクルーテオには届かなかった。

 

「早く吐け」

 

 そう言うとクルーテオは無理矢理スレインの口に拳銃を捩じ込む。

 

「そうすれば楽にしてやろう」

 

 誰が吐くものか。こいつらの好きにはさせない。最後の意地を通す時だ。スレインは抵抗の目を向ける。

 

「ならばもっと苦しめ」

 

 加虐的に頬を吊り上げたクルーテオの合図でさらなる電撃がスレインを襲う。スレインは声にならない声で絶叫した。

 

 

 

 *

 

 

「この艦の名前は《デューカリオン》、アルドノア・ドライブを装備しています」

 

 マグバレッジが説明する相手は火星の姫、アセイラム。アセイラムは落ち着いた様子で話を聞いていた。

 

「承知の通り、《わだつみ》の他、自衛隊の艦艇も一隻、航行不能になり、戦力は大幅にダウンしています。全員で北海道へ向かうのは非常に厳しいと言わざるを得ないでしょう」

 

《しらね》の艦長、海野も説明には立ち会っていた。肯定するように海野も頷く。

 

「そこで、この《デューカリオン》なのですね」

 

「はい」

 

 マグバレッジはタブレットを渡す。

 

「《デューカリオン》は単艦での戦闘力は勿論ですが、飛行能力を有しています。北海道への航海の大幅な時間短縮も可能と思われます」

 

「失礼」

 

 マグバレッジの言葉を遮り、海野が口を挟んだ。

 

「回りくどい言い方は性に合いません。要約して言っても良いですかな」

 

 そう問う海野だが、有無を言わさない声色だった。マグバレッジは渋々頷いた。

 

「ようするに、我々は戦力を失った。北海道に行きたいが、時間もかかるし、とても安全とは言えない。だから《デューカリオン》を動かし、北海道へ向かいたい。しかし《デューカリオン》にはアルドノア・ドライブを使ってるので、我々には起動できない。アセイラム姫殿下、協力していただけませんか、という話です」

 

 海野の無駄を省いた説明にマグバレッジは不満そうな顔をする。

 

「私がこの艦のアルドノア・ドライブを起動すれば良いのですね?」

 

 対するアセイラムは真っ直ぐ海野を見つめた。海野は一瞬目を丸くすると呆れた表情を浮かべてアセイラムを見返す。

 

「良いのですね、ってアンタ……分かってるのか。俺たちはマーシャン……じゃなかった、ヴァース帝国の敵なんだぞ」

 

 一国の皇女に対する物言いでは無かったが、海野にとっては我が子のような小娘だ。気の迷いなのかと疑いたくもなる。

 

「私はあなた方を……友達だと考えています。心配には及びません」

 

 その言葉を怪訝そうに聞く海野、興味深そうにアセイラムを観察するマグバレッジにアセイラムは順に顔を向けた。

 

「分かりました。ブリッジにご案内します」

 

 マグバレッジは不見咲に頷くと、アセイラムを艦内へと案内した。護衛の陸自隊員たちを伴ってアセイラムはブリッジに向かった。

 

 

 

 

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