アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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 第五護衛隊群は補給作業を終え、種子島を出港していた。

 

 二隻が減った代わりに艦隊の中央には巨大な艦影があった。

 

 戦艦《デューカリオン》。大気圏外への離脱能力と大気圏への突入能力を有する往還宇宙船でもある《デューカリオン》は空中に浮き、飛行していた。

 

「まさか飛ぶとはな。ここには私ではなく、空軍の人間を置いた方が良さそうだ」

 

 船務長の席に着いた海野が苦笑した。

 

「宇宙“船”ですから海軍の管轄では?」

 

 マグバレッジが微笑みながら訪ねた。乗員たちの顔には初めて余裕が戻っていた。

 

自衛隊(うち)じゃ宇宙の管轄は航空自衛隊(空自)ですね。でもやっぱり船なら船乗りが動かさないと」

 

 地球連合軍は統合軍制で、陸海空軍の軍種が統一されており、区別は無い。

 

「操船には慣れたか?」

 

 海野が地球連合軍の紺色の作業服に着替えたニーナ・クラインに尋ねた。ニーナは髪の毛を後ろでアップにしてまとめ、すっかり垢抜けた格好になっている。新しい船には若くて頭の柔らかい人間を使った方が良いという理論で彼女が操舵士の一人として操舵を担当していたが、彼女はすでにこの艦の操舵に順応し始めていた。

 

「船と違って三次元ですが、反応はセンシティブです。感覚的な操縦が可能になっていますね。もう慣れてきましたよ」

 

 自信に満ちた表情でニーナは海野に微笑んだ。

 

「最大船速で進めば護衛艦は追随出来ない。習熟訓練が完了したら《あつみ》から艦載機を受領して真っ直ぐ苫小牧を目指しましょう。まぁ、港ではなくても旭川にも直接付けられそうですが」

 

 海野が苦笑した。

 

 この《デューカリオン》は、先の戦闘で大破した《わだつみ》と《しらね》のクルーで運用されていた。今はそのクルーたちの訓練が行われ、彼らの練度次第では単艦で行動、北海道に向かうことになる。

 

「時間ですね」

 

 マグバレッジが腕時計を見て呟いた。副長の不見咲が頷くとヘッドセットのマイクを口元に寄せた。

 

「教練対空戦闘用意、教練対空戦闘用意」

 

 アラートの鐘の音が艦内に鳴り響いた。

 

 

 

《わだつみ》と《しらね》の乗員たちが《デューカリオン》運用の習熟錬成訓練に励んでいる頃、篠原は艦内のカタフラクトデッキにいた。

 

《雷電》の数は水陸機動団の機体を加えて十二機となっていた。水陸機動団の《雷電》は細部仕様が変更されており、頭部のブレードアンテナの形状やショルダーアーマー、背部のランドセルなどが違う。水陸機動団からも整備班が加わっており、整備要員の数は充実していた。

 

 さらにフリージアン小隊、マスタング小隊の《アレイオン》八機、《スレイプニール》一機がこの格納庫内には収まっている。可能な限り機体を詰め込むために限られた容積を使っている格納庫内にスペースの余裕はなく、整備エリアでは《アレイオン》が今も整備を受けている。

 

 浮いている航空機の機内だと言うのにまるで空母の艦内だ。

 

 操艦要員は今、対空戦闘訓練を行っていて、艦内放送はそれを実況していた。

 

 起立した状態で格納された自身の乗機を見上げていた篠原の元へ秋山がユキや伊奈帆らと共にやってくる。

 

「やっとLOの任務を解かれたか」

 

「本当にやっとですよ。種子島の時はどれだけ歯痒かったことやら」

 

 秋山は口を尖らせるように言った。秋山は連絡幹部の任務を解かれ、ようやく歩行戦闘車の操縦士に復帰となる。

 

「秋山さんって戦闘狂なんですか?」

 

 韻子が引いたように聞くと思わず篠原とユキは吹き出した。

 

「人をなんだと思ってるんだね、君は!」

 

 秋山が心外とばかりに声を上げる。

 

「それより早くライエちゃんを出してあげてくださいよ。私たちを助けようとしてくれていたのに、あんまりです」

 

 ライエ・アリアーシュは軍属でない身でありながら、無断で地球連合軍の《アレイオン》を動かし、武器を使用したとして地球連合軍の憲兵(MP)に拘束されていた。

 

「それ自衛隊の俺たちに言う?」

 

 困った表情を浮かべた秋山から韻子は篠原に目を向ける。

 

「お願いします」

 

「……界塚准尉」

 

 篠原はユキを向くとそれまで外野の顔をしていた界塚がうろたえた。

 

「え、私ですか」

 

「界塚准尉は本属でしょう。なんで君たちも界塚准尉じゃなくて真っ先に我々にいってくるかな」

 

「言いましたよ。そしたらユキさんが……」

「おい」

 

「いやー、その……准尉ってそんなに偉くないし、部外から口挟まれた方が……なんて」

 

「自衛隊が地球連合軍にケチつけるわけにはいかんでしょうが」

 

 篠原は呆れながらも、結局マグバレッジに相談することにした。

 

 

 

 訓練を終え、士官室で成果報告を受けていたマグバレッジの元へ篠原は訪ねた。

 

 士官室にはマグバレッジの他、不見咲や船務長となった海野、数名の海自と連合の士官がいて、すでに書類などをまとめていた。訪ねてきた篠原にマグバレッジが振り返る。

 

「なんでしょう」

 

「拘束されている民間人の件なんですが。例のカタフラクトを無断で使用した……」

 

「ああ、彼女ですか。身分を証明できる書類や保護者が居ないので予備役には出来なかったのですが……」

 

 マグバレッジの言葉に篠原の顔色が暗くなった。

 

「カタフラクトをあれだけ操縦できて志願するなら簡単な審査だけで予備兵士補として採用することにしました。それでその件は不問ということで、今人事と面談しているところですよ」

 

「そうですか……」

 

「しかし身分証明出来ない未成年者を兵士ってのはいかがなもんでしょう」

 

 篠原を見ていた海野が聞いた。

 

「私も好きで兵士を集めているわけではありません。現役のパイロットですら次々命を落としている現状で素人同然の若者たちを戦わせるのは心苦しい。ですが、我々には他に選択肢がない」

 

 マグバレッジが言ったとき、士官室のドアがノックされた。

 

「マグバレッジ艦長、ヘイワーズ伍長です」

 

「入りなさい」

 

 マグバレッジが入室を許可すると人事担当の若い女性下士官と件のライエが士官室に入ってきた。篠原の顔を見るとライエは意外そうな表情を浮かべる。

 

「ライエ・アリアーシュ」

 

「はい」

 

「予備兵士補としての採用を条件に今回の件は不問とします。今後は地球を守る戦士の一員として共闘しましょう」

 

「はい」

 

 ライエは淡々と受け答えている。

 

「君の意思はどうなんだね」

 

 腕組みをした海野が突然聞いた。

 

「意思……ですか?」

 

「君は戦いたいのかね」

 

「……私は……火星人を倒します」

 

「それは家族や友人を守りたいからかね、それとも復讐?」

 

 海野の言葉にライエの瞳が揺れた。

 

「答える必要がありますか」

 

「個人的な興味だ、面接じゃない。答えたくなければ構わないよ」

 

 ライエは海野を睨むように見ていたが、やがて目をそらした。

 

「……退室を許可します」

 

 マグバレッジの言葉で、ライエはヘイワーズ伍長に伴われて士官室を出ていった。これから被服交付などを受けることになる。

 

「彼女の両親はいないんだってな」

 

 海野が冷めた表情で篠原に聞いた。

 

「ええ……」

 

「ありゃ復讐が図星って顔だったな」

 

 海野の呟きに篠原は不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

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