アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

38 / 41
act36

「現在、地球連合軍及び自衛隊の緊急即応部隊が当旭川基地を目指し、急行中です。この作戦の主目標は、敵揚陸城のアルドノア・ドライブの停止による揚陸城の機能停止。及びヴァース帝国内の反政府クーデター勢力の首謀者と思われるザーツバルム、以降T・Z(タンゴ・ゼータ)の捕縛、もしくは排除」

 

 薄暗いブリーフィングルームでは《デューカリオン》の各級指揮官やパイロット達が、作戦指揮台となるコンソールを囲んでいた。作戦を説明するのは不見咲だ。反撃に備えた準備が始まっていた。

 

 アセイラム姫の安全が優先されたが、クーデターを目論み、和平交渉の妨げとなるターゲット・ザーツバルム(タンゴ・ゼータ)を確保、もしくは排除する戦略的及び政治的観点から反撃作戦が立案された。

 

「敵は揚陸城及び約一個軍団の戦力。(われ)は陸海空自衛隊統合任務部隊及び地球連合軍極東軍空挺旅団」

 

 コンソール上の地図に各戦力を表す部隊符号が表示された。

 

「まず先んじて、千歳より向かっている陸自第1空挺団及び連合軍空挺部隊が降下。降下誘導及び降下地点の対空火器を破壊します」

 

「作戦の第二段階は、揚陸城への突入及び重要目標であるタンゴ・ゼータの捕縛。《デューカリオン》も敵の攻撃を避けて二万メートルまで上昇。カタフラクトによる高高度降下低高度開傘による空挺作戦を実行します」

 

「問題は先行する空挺部隊が敵の対空火器を制圧できるかです。すでに地上からも部隊が向かっていますが、敵の迎撃を受け、攻めあぐんでいるとのこと」

 

「そこは彼らを信じましょう」

 

 マグバレッジが言った。

 

「揚陸城に降下後は揚陸城対空施設を破壊し、キーとなる姫殿下の進入を全力で援護します」

 

「待ってください。姫殿下っていうのはアセイラム姫のことですか」

 

 自衛隊のパイロットの一人が質問する。

 

「他に誰がいるんだ」

 

 不満そうな海野がそのパイロットを睨んだ。

 

「姫殿下は、ヴァースのプリンセスですよ!?日本では皇族に相当します。それが戦闘に加わるんですか」

 

 他の隊員達も同じように反対の姿勢だった。

 

「姫殿下が自ら志願なされたのだ。全員が全員納得していないのは承知だが、姫殿下の協力なくしてこの作戦は成り立たない。敵のアルドノア・ドライブを止めなくては数の優位も簡単に覆されることになりかねないのだ。分かったか」

 

 そのパイロットは納得してはいなくともそれ以上の不毛な議論は辞めた。

 

「……姫殿下はどうやって揚陸城へ?まさか空挺降下させるわけにも行きますまい」

 

 篠原が聞いた。空挺とは、旧軍の「空中挺進」または「空輸挺進」を略して「空挺」と称されているが、「挺進」は「身を捨てる」という意味である「挺身」と書かれる場合があり、危険を顧みず自身の身を捨てて敵陣中に降下する姿を形容した語でもある。それだけ危険の高い空挺作戦を、この作戦の要となり、そして兵士とは違い、替えの利かない国際級の重要人物にさせるわけにはいかなかった。

 

「攻撃前に安全な地域に先んじて降下してもらいます。護衛はウミギリ小隊が」

 

 水陸機動団の隊員達が頷く。

 

「本作戦は非常に危険度の高い任務となります。参加は志願にしますか?」

 

「通常通りです。全員最初から覚悟はできています」

 

 篠原が言うと、背後の日比谷達も頷いた。

 

「フリージアン小隊も全員行きます」

 

 隊長機は《ヘラス》に撃破されているが、三人のパイロット達の士気は高かった。

 

「私も参加させてもらいたい」

 

 フライトスーツを身に着けてパイロットの一人としてブリーフィングに参加していたユニスが口を挟んだ。

 

「フリージアン小隊は一機、欠けている。《雷電》を貸そう」

 

 海野が言った。フリージアン小隊のパイロット達がユニスを見て頷く。

 

「感謝する」

 

 ユニスは頭を下げた。

 

「よし、全員かかれ!」

 

 

 *

 

 

 北海道旭川に向けて千歳基地より緊急即応部隊を乗せた輸送機が次々に離陸していた。

 

 そのなかでも、陸上自衛隊の特殊部隊である特殊作戦群を乗せたC-2輸送機が編隊の先頭に位置していた。

 

「本機のパスファインダー小隊展開後、三十分で空挺団本隊、その後間を開けず、カタクラフト隊が降下する」

 

 特殊作戦群と第一空挺団団本部の降下誘導小隊の隊員たちは高高度降下低高度開傘に備えている。

 

「敵の対空砲が健在の中、白昼の降下だ。覚悟はいいな」

 

「使命を果たし、天命を全うします」

 

「生きて報国だ、忘れるな」

 

『降下二十分前!』

 

 機内の減圧が開始された。

 

 

 *

 

 

 それから二十分後、MC-4自由落下傘で降下しながら地上に兵員の存在を認めた特殊作戦群(SFGp)の古森一尉はAACサプレッサーをねじ込んだM4特殊小銃を銃のうから取り出すと落下傘の操作トグルから手を離して射撃した。

 

 二発の弾丸が砲台のそばにいてこちらを呆然と見上げていた兵士を捉える。5.56mm弾は肉を切り裂き、骨を砕き、撃ち抜かれた兵士は派手に後ろに転がるように倒れた。スリングで銃を体に預け、すぐさまトグルをつかむと、引いて減速し、着陸滑走するように地面を走った。落下傘を切り離し、そのまま駆け出し、砲台の壁に背中を預ける。

 

 同じように射撃しながら降下した隊員が前方回転受け身を取りながら落下傘を切り離している。派手な登場だ。

 

 古森が背中を預けた砲台は対空砲台だった。機関砲の銃身はまだ下を向いていて、仕事をしようと今まさに動き出した。

 

06(マルロク)!」

 

 自分の符丁を呼ぶ声に振り返ると使い捨ての対戦車ロケット弾M72 LAW E6を構えた黒瀬二曹がいた。この砲台を破壊する気だ。古森は急いで離脱して物陰に隠れると黒瀬はM72を叩き込んだ。砲身下に直撃した成形炸薬弾(HEAT)が砲塔内に爆発のエネルギーを伝え、砲塔が炎上した。

 

 さらに降下してきた仲間たちが合流する。

 

「03、先頭を進め。02は殿だ」

 

「行くぞ!挨拶は撃ってからにしろ!」

 

 言葉通り彼らは前進しながら撃ち続ける。降下誘導小隊の隊員たちは彼らの後に続くが、折曲式の89式小銃を撃つ必要はなかった。

 

 まるでマシーンのごとく彼らは銃を撃ち、全ての弾丸に無駄はなかった。その姿に味方ながら畏怖の念を抱いた降下誘導小隊の隊員たちは揚陸城の葉のような構造物を進んで幹を目指した。

 

 揚陸城ではサイレンが鳴り、戦闘要員が次々に飛び出してくる。

 

「敵だ!」

 

「二時方向」

 

 叫ぶザーツバルムの私兵を特殊作戦群の隊員が冷静にHK416を単射で撃ち、射止める。敵の動きを外科手術的射撃技術で止めても彼らの足は動きを止めない。絶えず進み続ける。

 

「砲台を、レーザーでマーク!」

 

「前へ!」

 

 サプレッサーによって減音された銃声がバスッバスッと鈍く響く。撃ち抜かれた火星人を跨いで幹までたどり着くとドアを瞬く間に爆破してしまった。

 

 突入し、流れ込む特殊作戦群の隊員たちを見ながら降下誘導小隊の隊員たちは降下に必要な情報を電子妨害下でも届きやすい衛星通信で送信した。

 

 *

 

 その情報は揚陸城へ向かうC-2輸送機のコックピットに届き、ロードマスターを通じて降下長へ伝えられていた。C-2輸送機六機の編隊は旭川基地手前で旋回し、待機している最中だった。

 

「一番機、行くぞ!行くぞ!行くぞ!」

 

「応っ!!」

 

「降下用意っ、立てぇっ!」

 

 輸送機の機内で隊員たちが準備し、輸送機は旋回をやめて旭川基地へのアプローチコースに戻ろうとしていた。そこへ空挺軍第98親衛空挺師団が到着した。十機もの大編隊を組んだIl-76キャンディッド輸送機が自衛隊機を追い抜く。護衛機はSu-35S戦闘機。

 

「あれは極東軍(ロシア)か……?」

「アプローチ待て。連合軍機を先に行かせろ」

 

 輸送機は再び旋回する。しかしその機内では空挺隊員たちが着々と降下の準備を整えていた。

 

 自衛隊機を追い抜いて旭川へのコースに乗った地球連合軍のIl-76の後部ランプが開く。パラシュートが機外へと伸びて膨らみ、機内から《アレイオン》や《ズミヤー》などのカタクラフトが死をも恐れずに飛び出した。

 

「Честь и Родина превыше всего(名誉と祖国は全てに勝る)!」

 

「Ураааааааа(万歳)!」

 

 それに続いて空挺隊員たちも機外へ身を投げる。落下傘が花開き、旭川の空に舞う。

 

 その輸送機編隊に一機の火星カタフラクトが襲いかかった。

 

『火星カタフラクトが接近!紅いやつだ!』

 

『輸送機に近寄せるな!』

 

 Su-35S戦闘機が輸送機を守るべく火星カタフラクトを攻撃する。火星軍の平たいグライダーのような輸送機の上に立つ火星カタフラクトは、前腕だけが妙に膨らんだ腕を持ち上げ、戦闘機に向ける。

 

『なんだ……!?』

 

『機体の制御が……!』

 

 二機のSu-35S戦闘機が突然、機首を跳ね上げられ、そして今度は機首を地面に向かって振り下ろす。

 

『失速した!アンコントロール!』

 

 二機の戦闘機が座席を射出され、火星カタフラクトは輸送機に一気に近づくとIl-76へ手を向ける。

 

『うわああああ────!』

 

 輸送機も同様に機首を跳ね上げられ、振り下ろされると胴体を真っ二つにへし折られて墜落する。飛び降りようとしていた空挺隊員たちは機体からばらまかれ、運の良いものは落下傘の開傘に成功するが、大半はまとめて地上に叩きつけられた。

 

 さらに揚陸城からの迎撃も激しさを増す。対空火器に射抜かれた輸送機が火を噴いて落ちていく。

 

『恐れるな……!任務を完遂しろ!』

 

『地球に降りたことを後悔させてやれ!』

 

 輸送機のパイロットたちはそれでも愚直に進入針路を維持する。対空弾にコックピットを撃ち抜かれ、パイロットたちの体が粉砕され、コントロールを失った輸送機が落ちていく。

 

 着地した地球連合軍極東軍の空挺兵たちは揚陸城の対空火器制圧を目指して侵攻を開始する。

 

 同時に空挺団を援護していた航空自衛隊も敵防空網制圧(SEAD)を開始。F-15EJ支援戦闘機が揚陸城に対地ミサイルを撃ち込んだ。

 

 火星軍も必死の抵抗を見せる。対空ミサイルが自衛隊の支援戦闘機を撃ち落とし、対空砲も地上から迫る《アレイオン》に向けられ、前進する《アレイオン》を蜂の巣にした。地上部隊は戦車などと共同し、揚陸城へ向かう。

 

 その間にも《デューカリオン》は高度を上げていた。

 

 第二波の航空自衛隊の輸送機編隊が揚陸城に迫っていた。揚陸城のヴァース帝国軍兵士の一人、ランツァ兵士長は対空砲台にいたが、その様子に顔をしかめた。

 

 劣等人種と皆で侮り、楽観していたが、流石に敵の拠点だ。山ほど敵はやってきて、蟻のように群がっている。他の場所に根を張った揚陸城の者たちは容易く制圧していったそうだが、ここは状況が明らかに違った。今も地上から地対地ミサイルが飛んできて次々に砲台を破壊していた。いつここに飛んできてもおかしくはない。

 

 自律型の対空砲台だが、侵入してきた地球連合軍のコマンド部隊が砲台とレーダーとのネットワークを破壊しようとしているため、砲台の維持のためにランツァは砲台にいた。

 

 西側の砲台はほとんど破壊されたらしく、地上の敵が移動していた。対空砲は新たに迫る輸送機を狙う。

 

 輸送機から無数の熱デコイが一斉にばらまかれた。強力なIRジャマーも発せられている。対空砲の照準が外され、弾幕が当たらない。

 

『目視照準で撃て!敵のミサイルにレーダー塔を破壊された!』

 

 上空を飛ぶ戦闘爆撃機の仕業だった。鬱陶しいカトンボめ!

 

 ランツァは射撃指揮官の言葉を聞き、砲手として対空砲を操作した。機関砲の弾幕を張る。しかし照準画面の映像は激しく乱れた。フレアに、アルミ箔、電子妨害まで行われていた。

 

 各砲台が各個に射撃している。輸送機はもう頭上だった。

 

 *

 

「コースよし、コースよし……用意、用意」

 

「青!」

 

「降下、降下、降下!」

 

 C-2輸送機の両側面の空挺ドアから次々に空挺隊員が吐き出される。死を恐れない精兵。精鋭無比と自ら名乗る空挺隊員たちは砲弾の飛び交う空のただ中に飛び出していく。

 

 時速250キロ、高さにして340メートル。東京タワーの上を走る新幹線から身を投げるのと同義だ。

 

 空挺隊員たちの丸い落下傘は次々に揚陸城の葉の部分に転がるように三点着地を決めて降り立つ。

 

 彼らの動きは速い。銃納から89式小銃を引っ張りだし、落下傘を棄てるとすぐさま集結して動き出した。彼らの前に降りていた地球連合軍の兵士と合流し、揚陸城の防空火器を制圧すべく動き出す。

 

 無数の空挺隊員は揚陸城の周囲に降下すると一斉に揚陸城を目指して前進した。それはもう獲物に群がる働き蟻のような様相だった。彼らを地上で生き残り、なおも攻撃を続ける戦車や装甲戦闘車、カタフラクトが援護する。

 

 C-17J輸送機がさらにカタフラクトを投下した。《雷電》が落下傘に吊られて二個小隊分、八機投入される。揚陸城の迎撃火器を特殊作戦群と空挺部隊は片っ端から破壊して回っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。