アルドノア・ゼロ──旭日のカタフラクト   作:グロウラー

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act37

10(ヒトマル)より各車、我に続け!』

 

 吹雪の中、一輛の90式戦車改が雪煙を巻き上げ、旭川の雪原を走り出す。それに三輛の戦車が横隊に展開しながら続く。

 

『目標、揚陸城対地火器。小隊集中行進射、弾種対戦車榴弾(たいりゅう)、指名!』

 

 小隊長は無線に向かって吠えながら、タッチ画面で目標を指定する。改良改修によってスラローム射撃を可能としている90式戦車改の各車が目標を捕捉し、砲身がぴたりと据えられる。

 

『撃て!』

 

 地形を利用しながら60キロ以上の速度を発揮して進む四輛の90式戦車改(B)が55口径120mm滑腔砲を斉射した。一子乱れぬ砲声と砲炎が雪原を吹き散らし、榴弾を撃ってくる砲台が120mm多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)の直撃を受けて吹き飛ぶ。

 

『前方で停止中の第2小隊を超越する!』

 

 第2小隊は攻撃を受けて二輛が被弾し、その場に踏み留まって射撃していた。その脇を通り抜けて第2小隊を追い越し、前進する。傾斜を駆け降りた所で、揚陸城の砲台から放たれた榴弾が小隊長車に直撃する。

 

『小隊長!』

 

『10、被弾なれど損害軽微!全車、煙弾発射!前進して間合いに入れ!各車各個に撃て!』

 

『こちらサヴァー中隊、自衛隊、援護する!』

 

 地球連合軍極東軍のカタフラクト中隊が、自衛隊を援護する。戦車では仰角が取れない位置の砲台に向かって《ズミヤー》と《アレイオン》が75mm突撃銃を連射しながら走り、雪原を疾走する。

 

 さらに何機かは203mm無反動砲を担ぎ、連射する。大口径の榴弾砲の弾幕に火星軍の防御設備が吹き飛ばされた。

 

『サヴァー中隊、感謝する!』

『こちらヴァローナ隊!スペツナズを誘導する』

 

 無線の内容は苦戦しながらもなんとか優勢だった。そんな中、アセイラム姫を乗せたカタフラクト隊が後方に降下していた。

 

『ブラボーシエラ、こちらウミギリ。降下完了。異状なし。送れ』

 

『ウミギリ、こちらブラボーシエラ。了解。所定の位置まで前進。じ後、待機せよ。送れ』

 

『ウミギリ、了解。終わり』

 

 筆文字の楷書で、肩部装甲(ショルダーアーマー)に参と書かれた複座型の三番機の後席に乗り込んだアセイラムは上昇していく《デューカリオン》の艦影を見送っていた。願わくばかの少年達が無事でありますようにと祈る。

 

 *

 

『現在、高度2万メートル。水平飛行に移行。進路、高度を維持』

 

 減圧された格納庫内でカタフラクト隊は降下に備えていた。酸素マスクを着用した隊員が最終チェックを行っている。後部ランプドアが開かれた。

 

『物投に備え』

 

 反重力デバイスを備える《デューカリオン》には多少のウェイトの変化も飛行には支障はない。ロードマスターは手持ちぶさただ。

 

『コースよし、コースよし』

 

『投下、投下!』

 

『スケアクロウ、投下』

 

 ランプドアから次々にデコイが投下される。同時に垂直発射機からもデコイが射出される。

 

『カタフラクト隊、降下用意!』

 

 ランプドアの縁に立った酸素マスク付きのフライトヘルメットを被った誘導員が誘導棒を持ってカタフラクトを降下待機位置まで導く。

 

《雷電》と《紫電》の装備である大盾には追加装甲が施され、連合軍のカタフラクトにも装備されていた。

 

「全機、機体点検。報告」

 

 篠原は無線に声を呼び掛けながら自機の最終チェックを済ませる。各機から報告が入り、準備が整う。デコイの投下が完了した。

 

 *

 

 揚陸城直上から降下してくるカタフラクトを揚陸城は察知し、対空弾を打ち上げ始める。地上から接近する連合軍部隊は対空火器に全火力を集中した。

 

「始まったな」

 

 前席の操縦士、池城一尉が呟く。まるで花火のように揚陸城の頭上で砲弾が炸裂し、どす黒く吹雪く雲を蹴散らす。

 

 アセイラムを守るために、他の連合軍が戦っていても戦闘に加入出来ないウミギリ小隊は、先のスパイが艦内で暗殺を企てた事件で新城の席が空いており、三機編成だった。

 

 対空弾がデコイを撃ち抜き、次々に赤外線デコイやレーダーを欺瞞するチャフが拡散する。

 

『降下が始まるぞ……03、ECMを開始。支援しろ』

 

「ECMを開始します」

 

 背後のセントラルコンピュータのファンの音が強くなる。

 

『全機、前進用意』

 

 

 *

 

 

『マスタングリーダーより各機。吹雪でレーザー通信の見通しが悪い上に揚陸城の近くはジャミングが強くなるわ。上陸までは指示に頼らず各個に戦って』

 

 姉が降下前の最後の指示を行う。開かれたランプウェイから飛び出そうと各機が準備を整えていた。

 

「マスタング11、了解」

 

『マスタング22、了解』

 

『マスタング33、了解』

 

『マスタング44、了解』

 

『位置につけ』

 

 篠原がやけに冷めた声で号令をかけた。足下の誘導員の誘導に従い、ランプウェイの縁まで進み出る。そこに立つともうメインカメラから眼下を見下ろすことが出来る。地表は厚い雲で覆われており、見通すことが出来ない。すでにデコイを迎撃しようと揚陸城は対空戦闘を行っていて、曳光弾が打ち上がっていた。

 

『降下!』

 

 号令が無線に響き、信号が赤から青に変わった。誘導員が端に立って敬礼して見送る。全機がランプドアから飛び出していく。

 

 飛び出した瞬間、浮遊感を感じ、機体は重力に従い、地上に向かって落ちていく。あっという間に高度計の数値が下がっていく。

 

『各機、姿勢制御!安定、安定!降下速度、隊形を保て!』

 

 篠原の怒声が響く。カタフラクトはコンピュータによって自動で姿勢制御を行う。降下速度は最も降下が早い機に合わせ、隊形を維持する。

 

 フリーフォール。まさにただ重力に身を任せて落ちていく。大盾を構えていても目の前を曳光弾が飛び交い、砲弾が炸裂していては心もとなかった。

 

『当たりませんように、当たりませんように、当たりませんように……』

 

 韻子が唱えるようにオープンチャンネルに呟いている。

 

『そんなに怯えてると、かえってやられるぞ』

 

 ベテランらしくマスタング33のダネフ曹長がアドバイスする。

 

『えっ?』

 

『弾は臆病ものが好きなんだ。堂々としてれば 弾のほうがよけていくも……』と語りだした所にダネフ曹長の機が爆ぜる。

 

『マスタング33‼』

 

 韻子が絶叫したが、ダネフの《アレイオン》は爆煙の中から姿を現す。

 

『……大丈夫だ、嬢ちゃん。まだ生きてる。リーダー、こちら33。盾に被弾した、両腕大破。戦闘継続不能』

 

『アカギ01よりマスタング33。降下は続行。隊形を崩すな』

 

『了解。……さっきのは訂正するよ、嬢ちゃん』

 

 盾と自信を失った《アレイオン》の前に一機の《紫電》が出た。

 

『マスタング33、盾になる。落下傘を開くときは離れてくれ』

 

 ダネフ曹長の前に出たのは秋山だった。

 

『かたじけない』

 

 そんな中、伊奈帆はデコイを盾にして他の機よりも降下率を上げて落下する。

 

「僕のオレンジ色を目印にして」

 

『なおくん早い!』

 

 姉が悲鳴を上げる。

 

「デコイを盾にして降下。目標は雲を抜けた直後。ギリギリまで降下して。減速する」

 

『降下速度を落として隊形を維持しろ。開傘しても索が外れるぞ』

 

 篠原が怒鳴るが、伊奈帆は生き残ることを優先した。対空弾が引き裂く雪雲を突き抜ける。同時に目の前のデコイが撃ち抜かれてキラキラとアルミ被膜されたグラスファイバー片が舞い散る。

 

「目標確認」

 

 落下傘を開く。強烈な制動がかかり、機体が軋んだ。何かが割れる音が聞こえる。

 

 まずいか……?

 

 とにかく射撃し、敵の対空砲を攻撃する。

 

『高度900!各機、距離離隔。遠隔開傘する。衝撃に備えろ』

 

 他の機は篠原の遠隔操作で開傘する。その時、減速していた機体がふっと落下した。落下傘の索が切れたのだ。

 

 しまったと思った時、無線に声が飛び交う。

 

『伊奈帆!』

 

『予備傘を開く、衝撃に備えろ』

 

 篠原の遠隔操作で即座に予備傘が開いた。なんとか機体は安定を取り戻した。

 

『無茶するな、阿呆。お前の機体は旧式な上、コンフォーマルアシストも積んでるんだぞ。たまには大人の言うことを聞け』

 

「はい、すみません」

 

 篠原は空挺部隊出身だった。篠原の恨み言を聞き流しながら伊奈帆は《スレイプニール》を着地させ、同時に攻撃を開始する。発射したミサイルが周囲の対空砲を破壊する。

 

「マスタング22、上陸地点確保」

 

『マスタング22を目視、接近中。無茶しないでなおくん』

 

「少しでも対空火器を潰しておけば後続が楽になるから」

 

『ちょっと待って。私達を助けるためだって言うの?』

 

『貴重な電波でごちゃごちゃ言うな。アカギ、降下地域(LA)到着。各小隊、報告。うちは四番機がやられた』

 

 篠原がいつになく冷徹に指示する。列機を失ったことに怒っているらしい。

 

『ハルナ、全機降下、異状なし』

 

 秋山が報告した。

 

『マスタング小隊、一機被弾中破。他は異状なしです』

 

『フリージアン小隊、フリージアン13を喪失。他は異状なし』

 

 フリージアン小隊は一機を失ったが、ユニスは無事だ。部下を失った篠原の苦しみは伊奈帆にも理解できた。しかし空挺作戦は常に危険と隣り合わせなのだ。これだけの機が無事に揚陸城に降下できただけでも僥倖。伊奈帆はむしろさらに損害が出ると思っていた。

 

 各機は揚陸城の施設を攻撃する。《紫電》と《雷電》は無反動砲を撃ち込みながら進む。

 

「おかしい。通信がやけにクリアだ」

 

 伊奈帆は違和感を感じる。

 

『ESMを確認しろ。これはECCMの効果じゃない』

 

 篠原もまた違和感に気付いたようだった。

 

 

 *

 

 

『ウミギリ、こちらブラボーシエラ。降下部隊、対空陣地制圧。ウミギリ、前進せよ。送れ』

 

『ブラボーシエラ、こちらウミギリ。了解』

 

『頼むぞ、ウミギリ。何があっても同乗者を守れ。必ずだ』

 

「命に変えても」

 

 池城一尉は皆まで言わせずに答えた。

 

「殿下、荒っぽい操縦になります。舌を噛まないように気をつけて下さい」

 

「おかないなく」

 

 アセイラムは振り返った池城一尉に頷き、把手を掴み、ペンダントを握り締めた。

 

『ウミギリ……前へ!』

 

 ウミギリ小隊が前進を開始する。

 

 *

 

「頼むぞ……」

 

 それらの様子をモニターしていた鞠戸は思わず拳を握り締めた。この場にいる全ての部隊が一丸となって行動している。全員の意志が大きな力となり、敵うはずのなかった火星軍を圧倒しようとしていた。各々が個を捨て、己の使命を全うしようとしていた。

 

 ドクターストップで出撃することの出来ない鞠戸は心の底から彼らの武運を祈っていた。

 

 その時、艦に衝撃が走った。

 

「なんだ!?」

 

「攻撃です!艦尾に被弾!」

 

「光学センサーに反応!敵機急速接近!艦尾より直下通過!レーダーに感なし!」

 

「ステルスか?」

 

「対空戦闘、艦橋指示の目標!対空ミサイル、発射始め!」

 

 動揺し、浮き足だった艦橋でマグバレッジが即座に指示を出す。

 

「短SAM発射用意よし──」

 

「あれは……」

 

 艦橋の目前に敵カタフラクトが迫っていた。

 

「近い……CIWSで──」

 

 海野が言いかけたその時、目の前の敵カタフラクトがミサイルを発射した。再び艦に強烈な衝撃が走り、爆発音が響き渡る。艦橋の風防が砕け散り、シャッターが風防部分を覆う。艦橋の乗員も何名かは投げ出され、衝撃に打ちのめされた。

 

「被弾した……」

 

「被害を知らせ!」

 

 額から血を流しながらも座席にしがみついた海野が怒鳴る。艦が大きく傾斜しようとしていた。

 

「右舷に被弾!反重力デバイス、2番から7番が停止。推力低下!高度を保てません!」

 

「右舷第三ブロックで火災発生、死傷者多数!」

 

「二番砲塔弾庫外殻大破!火災発生!」

 

「ダメコン急げ!応急要員を被害箇所へ!反重力デバイスを再起動しろ!補助動力を──」

 

「全エネルギーを推力モーターへ。目標、揚陸城。この船で直接乗り込みます」

 

「はぁ?!」

 

 マグバレッジの言葉に海野が復唱を忘れてすっとんきょうな声を上げる。《デューカリオン》は艦首を下げて揚陸城に向かって落下していく。

 

 *

 

「敵の抵抗を排除しろ!」

 

 篠原は無線に向かって怒鳴りながら、レール上を移動する列車砲型対空砲に向かって突撃銃を連射した。75mm砲弾の直撃を受けた対空砲が吹き飛ぶ。地上から接近するアセイラムを連れたウミギリ小隊も間も無く合流するが、揚陸城は激しい抵抗を続けていた。

 

『被弾した!マスタング44、行動不能!』

 

『脱出しろ、44』

 

《雷電》に乗り込むユニスが呼び掛け、被弾して擱座した《アレイオン》の前に出ると搭乗員が脱出する時間を稼ぐために盾になる。

 

「幹の部分まで躍進するぞ。ここにいては的になる」

 

『篠原、孔を開ける。手を貸せ』

 

 ユニスが呼び掛け、大盾の裏に備わる、十基の吸着型機雷を繋げた連結型機雷兵器(チェーンマイン)を床に張り付けた。床に孔を開けて突入路を作るつもりだ。

 

 ユニスの意図に気付いた篠原もチェーンマインをユニスの仕掛けた位置に投げつけて設置する。

 

 ユニスが遠隔で起爆し、強烈な爆発が起きた。

 

 盾を構えて機体を守った篠原が爆発地点を確認するとカタフラクト一機が飛び込むのは余裕な穴が開いている。

 

『中に入れ!急げ!』

 

 ユニスは左腕の大盾と破壊されたマスタング44の《アレイオン》を盾にしながら中に突入するカタフラクトを援護している。

 

「全機、突入!急げ!」

 

 篠原が呼び掛けると他の機も次々に穴へ飛び込み始める。

 

『界塚准尉、三時の方向!』

 

 突然、韻子が悲鳴を上げる。センサーヘッドを向けると雲を突き抜けて《デューカリオン》が降ってこようとしていた。

 

「あれは……《デューカリオン》!?」

 

 対空砲を受けながら《デューカリオン》が揚陸城へと突っ込んでいく。

 

 巨大な質量を持った《デューカリオン》が揚陸城に激突し、揚陸城自体に強烈な衝撃が走った。

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