『我らがアセイラム姫の平和への切なる祈りは悪辣なる地球人共の暴虐によって無残にも踏みにじられた!』
モニターに映る赤い制服の男は溢れ出す感情を抑えることなく、激情に任せるように叫んでいた。
『我らヴァース帝国の臣はこの旧人類の非道に対し、断固正義の鉄槌を下さねばならない!』
男の名はザーツバルム。火星騎士にして伯爵の位を持つヴァース37家門が一人である。彼は言う。
『時は来た。今こそ歴代の悲願たる地球降下の大任を姫の無念に乗せて、義を以て果たすべし』
それを見上げていたユニス・ヒューティアは拳を握りしめていた。
「クルーテオ様、反応炉出力97%、発進準備完了です」
オペレーターの声にヒューティアは振り返る。赤い制服を着た金髪の男、ザーツバルムと同じくヴァース37家門の一人にして軌道騎士、クルーテオ伯爵が司令室に入って来た。
「ヒューティア卿。心情は察する。姫の地球行きをお諌めしきれなかったのは、このクルーテオの不徳……」
「いえ、クルーテオ卿の所為ではありません。元はと言えばこの私が……」
ユニスはアセイラム姫に仕える直属の騎士だった。アセイラム姫の幼少期より共に過ごしたユニスはアセイラム姫の最大の理解者であり、友人であり、家族に等しい存在だった。親善訪問を止められなかったのは他でもないユニスなのだ。
「ヒューティア卿、かくなる上は、武をもって弔意を示すのみ」
その言葉にユニスは胸の苦しさ思わず俯いた。敬愛する姫様が望んだ平和は彼女の死によって、こうも脆くも崩れ去ってしまう。これでは姫様はまったく報われないではないか。彼女の素晴らしい志がこんな形で終わるとはユニスも思っても見なかったのだ。
「はっ……」
「他の諸侯に遅れを取るな、揚陸城降下開始。目標……日本!」
姫の仇を打つという決意をしたユニスの心は揺れていた。アセイラム姫が望んでいたのは何よりも平和だった。彼女が憧れ、希望を抱いた地球をこれから自分は壊すことになる。果たしてそれで良いのか。
彼女の意思とは関係なく揚陸城は降下を始める。
*
航空自衛隊横田基地。航空総隊司令部の
陸海空自衛隊は
航空自衛隊の全戦闘部隊の指揮をする航空総隊作戦指揮所は、ヴァース帝国軍の地球侵攻の第一段階である揚陸城降下に対する対処を開始していた。
「衛星軌道上に滞留している三十七の揚陸城のうち、十九基が降下シークエンスに入りました」
「日本への降下軌道に入った揚陸城を確認。数一。この揚陸城をロメオ5と呼称。落着予想地点、計算中」
「正確な位置は不明ですが、ロメオ5落着目標は首都圏エリア内と思われます。ロメオ5、約十分後に迎撃可能高度へ突入」
「中央指揮所からの命令はまだか?」
航空総隊司令官、辻井空将は苛立ちを滲ませた声で訊ねた。
「まだです……!」
オペレーターが悲痛な声で叫ぶ。陸海空自衛隊を指揮する防衛省市ヶ谷の中央指揮所からデフコン1が発令されてすでに一時間。アセイラム姫暗殺のテロ事件が起きた時点で、ヴァース帝国の動向を警戒して
官邸では新芦原市のテロ事件で緊急閣僚会議が開かれていたが、その会議はそのまま安全保障会議になった。地球連合の安全保障理事会も緊急会合を行っている最中だった。
「早くしろ……一千万以上の命が懸かってるんだぞ……」
辻井は誰にも聞こえないように呟いた。すでに全国の自治体にJ-アラートによるシェルターへの避難指示が発令され、落着が予想される関東地域の住民は避難を始めている。
落着が予想される首都圏、大都市東京に住まう一千万人以上の国民はシェルターへ避難している最中だ。ヘブンズ・フォールの月の欠片に備え、元々災害の多い日本はその人口の半分近くを収容可能な数と規模のシェルターを首都圏や政令指定都市などに建設していた。だが、交通機関は避難の混乱で麻痺し、まだ逃げ遅れている人間は大勢いる。当然その中にはここにいる自衛官の家族も含まれていた。
「出ました!タイム
「よし、迎撃開始だ。ロメオ5の降下軌道を偏向する」
揚陸城は、その落着による衝撃波で周辺一体を掃討する質量兵器であると共に橋頭堡ともなる。二キロ近い大きさの隕石が降ってくるようなものだ。自衛隊はこれを本来弾道ミサイル対処行動で定められた破壊措置命令に基づいて対処する。
航空総隊作戦指揮所の指揮下で地上発射型迎撃ミサイル及び太平洋と日本海に展開するイージス艦が迎撃を開始した。
弾道ミサイル対処の統合任務部隊は海上自衛隊の部隊も航空総隊の指揮下に置かれる。今回の揚陸城の降下対処も統合任務部隊が編成され、海自部隊が航空総隊の指揮下に入り、直ちに迎撃ミサイルが発射された。
通常、弾道ミサイル迎撃にはスタンダードSM-3ことRIM-161迎撃ミサイルが使用され、キネティック弾頭の運動エネルギーを利用し、弾道ミサイルを直撃させて破壊する。
しかし、大質量で自由落下してくる揚陸城は同じ手段での破壊は最初から望めなかった。そのため、物理的な方法で揚陸城降下軌道をずらし、人工密集地への落着を阻止して被害を最小限にする
迎撃ミサイルを大型化し、キネティック弾頭ではなくサーモバリック弾頭による強烈な爆圧を一方向のみに与える。弾道ミサイル迎撃にはない手段だった。これはヘブンズ・フォールで地球に降り注いだ月の破片の迎撃手段として日本が独自に研究していたもので、専用のミサイルを使用するため地球連合軍のオプションとしては採用されていない。
一方で十五年前から想定済みの地球連合軍はその落着後の包囲殲滅をオプションとし、戦力の移動を開始していた。
「ミサイル、近接信管作動。──効果確認中……効果、十パーセント」
その言葉を聞いても隊員たちはまだ諦めていなかった。大気圏外の軌道修正は地球の地軸や遠心力も味方に加わる。百パーセントは被害の恐れのない太平洋上への軌道偏向だ。しかし、それにはミサイルが足りなかった。
「第二波、弾着二秒前、一……今、インパクト」
赤外線画像では大気圏に突入しようとする揚陸城が映っていた。次の瞬間、サーモバリック弾頭が炸裂する。サーモバリック弾は日本語にすると高衝撃熱圧力弾だ。強烈な熱圧力がはっきりと赤外線画像に映った。
「効果二十五パーセント!」
「最終弾弾着!」
最後のサーモバリック弾の近接信管が作動する。爆発で起こった強烈な熱圧力が赤外線で映るが、次の瞬間には揚陸城は大気圏に突入していた。揚陸城全体が熱の壁の空力加熱によって高温を帯びる。
「軌道偏向限界です……」
「落着予想地点は!?」
「不明。現在再計算中」
「偵察航空隊、スクランブル。
地上発射型のPAC-3ペトリオットミサイルによる迎撃が開始されたが、大気圏に突入した揚陸城には焼け石に水で効果はなかった。
彼らの努力は結果的に首都圏を守ることに成功する。揚陸城が落着したのは相模湾だった。しかし落着の衝撃によって生じた津波は神奈川県や静岡県の相模湾沿岸を襲い、大きな被害を出すこととなった。
ニコ動で見たアルドノア・ゼロの地球側の迎撃能力が高すぎる件で思い付いて書きました、ハイ。
大気圏外で核兵器使って破壊しちゃおうかと思いましたが、話が進まないんでこんな感じになりました。
追記
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