『レーダー・コンタクト。
『
『エンゲージ。
百里第七航空団第204飛行隊のF-15Jは火星カタクラフトに対し、AAM-4B中距離ミサイルを発射し、ドッグファイトに備えて距離を詰めつつあった。
『ミサイルは失中。
『02、フォローする』
『全機、無理をするな。五分稼げれば良い……!なんとしてもあの飛行型カタクラフトを拘束しろ』
火星の飛行型カタクラフトとF-15J六機が戦闘に入る中、四機のF-15EJ支援戦闘機がその隙をついて低空から揚陸城に迫っていた。第9飛行隊に所属する古屋一等空尉はその四機編隊の編隊長を務めている。
「こちらウィザード01。
搭載しているのはAAM-5B空対空ミサイル二基とAGM-88E
『イーグル03、FOX2!』
『
『なんて機動だ……!』
『ヤツの軸線に入るな、やられるぞ!』
エリアスイーパーの204飛は苦戦しているようだ。古屋は自分たちのために時間を稼ぐ彼らの武運を胸の内で祈った。
『
「ラジャ」
『ターゲット、ロックオン』
「ウィザード01、マグナム、マグナム」
古屋は対レーダーミサイルの発射をコールし、離脱する。AARGMは広帯域スパイラル・アンテナをシーカーの代わりに備え、揚陸城から発せられる電波を追って飛んでいった。
揚陸城を叩いて敵の侵攻を遅らせることで本隊の展開の時間の猶予を作るための決死の攻撃だった。
四機のF-15EJは対レーダーミサイル八基及び対地ミサイル八基を発射。うち五基が揚陸城の対空砲火に撃墜されたが、残りは全弾命中し、揚陸城は対空レーダーなどを破壊され、被害を受けた。
攻撃はこれからがメインだった。
三沢より緊急発進した第6飛行隊のF-2A支援戦闘機四機で編成された二個編隊が房総半島上空でKC-767より空中給油を受けて迫っていた。軍用艦艇を一撃で沈めるほどの威力を空対艦ミサイルを抱えている。
揚陸城はレーダー設備を失い、接近に気づかないどころではなく、《エスカリオン》の誘導も出来ない状態だった。
百キロ以上のアウトレンジから放たれたASM-3空対艦ミサイル三十二基は次々に揚陸城を襲った。迎撃はほぼ目視に頼られ、マッハ3で迫るASM-3は一基も撃墜されることなく揚陸城に殺到した。
「撃て!」
120mm滑腔砲の威力は伊達ではなかった。敵も流石にこれは食らいたくないらしい。高い機動性能を発揮して逃げている。
『このゴキブリがぁ!』
敵は対カタフラクト戦が専門で、近接武器しかないらしい。ちょこまかと市街地を利用して建物の合間合間、路地や傾斜、時には地下駐車場にまで潜って神出鬼没に攻撃してくる自衛隊の戦車の存在は相当目障りなようだ。
おまけに武山の第31普通科連隊の一個中隊が市内に展開。携対戦車ミサイルや110mm個人携帯対戦車弾、84mm無反動砲を使って地味ながらもしつこく攻撃している。
連合軍のカタフラクト隊もその隙をついて攻撃を仕掛けていた。指揮系統は統一されていなかったが、連合軍のカタフラクト中隊の指揮官は自衛隊に歩調を合わせ、連携しつつあった。
《アレイオン》が75mm突撃銃を連射する。その《アレイオン》に滑るように火星カタフラクトが迫り、距離を詰める。
「松野、援護射撃」
松野曹長の乗る90式戦車改が射撃し、砲弾が火星カタフラクトに吸い込まれる。《アレイオン》に斬りかかっていた火星カタフラクトは矛先を変え、ビームサーベルを振り回して砲弾を空中で炸裂させてしまう。
「くそ、ライトセーバーかよ!」
砲手の三宅二曹が叫んだ。
「なんなんだ、一体……!砲手、弾種徹甲!」
『了解!』
「03、やつがそっちを向いてるぞ!」
『こっちに来ます!』
「02、04、撃て!」
富田の90式戦車も交差点に飛び出すと同時に発射する。砲弾が高速移動する火星カタフラクトに寸分たがわず飛んでいき、火星カタフラクトは回避せずにビームサーベルで撃ち落とす。が、富田車が放った
「通った……!」
「02は徹甲、03、04は榴弾だ!弾種混合で叩く!再度斉射するぞ、態勢を整えろ」
各車は再び隠れ、攻撃のタイミングを窺う。普通科中隊の対戦車小隊が中距離多目的誘導弾を発射した。四発のミサイルが間隔を開けて火星カタクラフトへ飛翔する。それを撃墜しようと火星カタクラフトが振り向いた。
「──
全車が再び走り出し、敵を捉えた瞬間に撃つ。火星カタクラフトは撃ち落とそうとはせずにビームサーベルの切っ先を向けて細かく振るう。放たれた砲弾がビームサーベルの手前で逸れてしまう。
「弾が逸れた?」
しかしHEAT弾が正面で炸裂した瞬間、02車の発射したAPFSDS弾がビームサーベルを抜け、敵カタフラクトの肩部を直撃する。APFSDS弾のタングステン弾芯の先端はマッシュルーム状に広がりながら装甲にめり込み侵入し、そのまま貫徹した。
「やった!」
「いいぞ、続けて撃て!」
四輛の90式戦車改は次々に撃つ。敵は片腕を失った。やれる──!
富田がそう思った時、上空で再び爆発音が聞こえた。音というよりも空気の塊を叩きつけられ、戦車の中に押し込められるように富田が潜った瞬間、周囲の建物が炸裂し、破片が戦車を叩いた。強烈なソニックブームが地表を襲ったのだ。
まるで絨毯爆撃のように白い火星カタフラクトが地表を凪ぎ払ってしまった。連合軍の《アレイオン》がすぐさま対空砲火を張るが、白い飛行型カタフラクトは上昇していく。
「くっ、各車応答しろ」
富田はイヤーマフを兼ねたヘッドセット越しに痛む耳を押さえながら無線に呼び掛けるが、応答はない。車外のアンテナがやられたらしい。戦術ディスプレイが死んでいる。車長用視察装置は旋回できなくなっていた。
「無事か?」
「砲塔旋回不能!射統装置(射撃統制装置)もやられました」
『エンジンは大丈夫ですが、視界無し。瓦礫に埋もれたかもしれません』
砲手と操縦手の報告を受け、富田は舌打ちをした。
「お前らは出るな、確認する!」
富田は89式小銃を取るとハッチを開け、戦車の砲塔上に出た。見渡す限り、酷い有り様で建物の残骸に戦車の前方が塞がれている。
「後退して復旧しろ。俺は様子を見てくる。砲手、誘導」
「了解!」
三宅の返事を聞くと富田はヘッドセットのコードを抜いて戦車を降りた。通りを走ってその先の大通りへ向かう。
衝撃波は残らずガラスを砕き、脆い建物の壁や屋根を崩壊させていた。街中は押し寄せた津波とそれらの残骸でぐちゃぐちゃになっていた。この光景には火星人への怒りを禁じ得なかった。
そんな富田の目の前に突然、連合軍の《アレイオン》が飛び出してきた。75mm突撃銃を連射しながら後退りしてくる。激しい砲声に思わず伏せると、次の瞬間一瞬にして距離を詰めた火星カタクラフトにビームサーベルを突き立てられ、《アレイオン》は沈黙した。
「くそ……」
火星カタフラクトは、コックピットを貫かれ、機能を完全に止めた《アレイオン》を捨てて周囲を見渡している。富田は咄嗟に身を隠した。
心臓が恐怖で恐ろしい速さで早鐘を打ち、体からは冷や汗が吹き出した。89式小銃をぐっと抱き抱え、敵が過ぎ去ることをひたすらに祈った。
火星カタフラクトは目の前を横切り、復旧中の戦車に向かっている。
「三宅、逃げろ!!」
そこへ履帯の地響きとディーゼルエンジンの高回転音を響かせて90式戦車改が向かってきた。東山だ。
「駄目だ、来るな!」
富田が叫んだ瞬間、東山の90式戦車改が射撃した。戦車砲の強力な衝撃波は臓附を揺さぶり、富田は弾かれる。刹那、火星カタフラクトは加速し、90式戦車改の正面からビームサーベルを叩き込む。
120mmAPFSDS弾を防ぐ90式戦車改のセラミック複合装甲はまるでバターを斬るように容易く断ち切られた。砲塔から車体まで真っ二つに引き裂かれ、車体は爆発炎上する。
「東山……!!」
富田が悲鳴に近い声で仲間の声を叫んだとき、火星カタクラフトが振り返った。
その先には90式戦車改のそばで三宅二曹と羽田士長が立ち竦んでいた。
「やめ──!」
喉から声が出掛けた瞬間、ビームサーベルが振るわれた。二人が地面が消し飛び、爆発する。さらに火星カタクラフトは動けなくなった90式戦車にもビームサーベルを振り下ろし、気が済むまで刻んだ。戦車が爆発炎上し、その炎と黒煙に照らされ、炎の陽炎に揺られる火星カタフラクトの姿は富田の目にくっきりと焼き付けられた。