青年提督の艦これな日々   作:汰地宙

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其の三 更に増える仲間たち

 電と長良の初出撃の翌日。

 速人は現在鎮守府にある資材の量が記載されている書類を見て、眉根を寄せつつ呟いた。

 

「……やはり、新しい艦娘(なかま)が欲しいところだな……」

 

 そう、先日の出撃でやはり本格的に出撃を行っていくとなれば仲間が必要、ということが分かってきたのだ。

 現在速人の鎮守府に所属する艦娘は、電と長良の二人……どうしても心もとない。

 できれば、強力な仲間が欲しいところだが。

 

「戦艦、空母は流石になぁ……」

 

 相変わらず眉を寄せて書類とにらめっこする速人は、「ままならんなぁ」と言いつつ頭を掻いた。

 

 戦艦、空母。

 方法は違えど、共に強力な戦力となる艦だ。戦艦の砲撃は正しく砲雷撃戦の花形。空母の索敵と航空機による爆撃があれば遥かに楽に戦闘を行えるだろう。

 そこだけ見ればいいとこだらけのように見えるのだが、この艦種共通のデメリットもある。

 

「……資材が足りんよなぁ」

 

 そう、資材の問題だ。

 戦艦は運用コストが高く、大破すれば鋼材を100、練度が高くなれば500もの鋼材を修復で食うという。更に建造するときに出る確率の高いとされる燃料30、弾薬400、鋼材600、ボーキサイト30というレシピを回す段階で既に相当な資材を食うのだ。

 更に空母も戦艦ほどではないが入渠で資材を食うし、艦載機と言うものを使うため、その補給のためにボーキサイトを多く食うのだ。艦載機の数が多いときの消費量は恐らくかなりのものだ。

 

 いくら大本営からそこそこ潤沢な資材が送られてくるとはいえ、明らかに今の鎮守府にある量では運用しきれない。

 

「重巡辺りが欲しいところだがな……どうすべきか」

 

 故に、軽巡以上戦艦未満といった辺りの性能、コストの重巡洋艦が、今運用できる最大の戦力になりうる艦だろう。

 重巡洋艦が出ることが期待されるレシピは、燃料250、弾薬30、鋼材200、ボーキサイト30……所謂レア駆逐艦レシピ。このレシピは、軽巡、重巡が出るレシピとしても使える。

 

 目を瞑り、熟考する。

 ……数秒の間、速人の唸り声が執務室の中に響き……速人はカッと目を見開き、意を決したように立ち上がった。

 

「よし、やろう!」

 

 そうと決まれば話は早い。

 速人は執務室を勢いよく飛び出し、工廠を目指して走り出した。

 

 

 

***

 

 

 

 工廠。

 今日も忙しくとてとてと歩き回っている妖精の一人を速人は呼び止める。

 

「あぁ、すまん。ちょっといいだろうか」

「あ、ていとくさん。きょうはかいはつですか? けんぞうですか?」

 

 声をかけると、妖精がとてとてと近づいてくる。今日はまだ仕事の依頼はしていないが、どうやら道具の整備などで動いてくれていたらしい。今度全員を一度休ませようかな、と思いながら本題に入る。

 

「今日は建造だ。ドックを二つとも回してくれ」

「ふたつですか、きょうはなにやらきあいがはいっていますね」

「まぁな。そろそろ戦力をしっかり強化したいからな。片方は初期レシピ、もう片方は燃料250、弾薬30、鋼材200、ボーキサイト30のレシピで頼む」

「りょうかいです」

「あぁ。いつも頑張ってくれてありだとうな。今回もよろしく頼むぞ」

 

 最後に労いつつ頭を撫でてやる。撫でられた妖精は頬を緩めている。嫌がられてはいないようで何よりだ。

 少し慌ただしくなり始めた工廠の音を聞きながら、速人は工廠を後にした。

 

 

 

***

 

 

 

 工廠にて建造を開始してから二時間ほど経った頃。

 速人は書類仕事をいったん切り上げ、昼食のために食堂へと向かっているところだった。

 今日は何を食べようか……なんてことを思いながら歩いていると、目の前から誰かが走ってくる。黒髪にポニーテール……どうやら長良のようだ。

 

「あ、司令官!」

 

 長良も速人に気付いたようで、「やっと見つけました!」と言いながら速人の目の前で急停止した。ぜーはーと息を切らしている当たり、そこそこの時間速人を探していたらしい。

 

「……どうした?」

「はい、妖精さんが、建造完了したって言ってたので、報告です!」

「うぉ、マジか。すまん、探させたな」

「いえ! こういう時の為に鍛えてるんですから!」

 

 眩しい笑顔を見せてくれる長良に礼を言いつつ、二人で並んで工廠へと向かう。

 道中電も見つけたので誘い、三人は新造艦を迎えるために工廠へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ていとくさん。きてくれましたか」

「あぁ。ありがとう妖精さん。お疲れ様」

「これがおしごとですから」

「そう言ってくれると助かる。……あぁ、これ休暇届だ。使うときは言ってくれ。みんな一緒に羽を伸ばすと良い」

「なんと、おやすみをいただけるなんて」

 

 休暇届を受け取って嬉しそうにとてとて仲間の元へ駆けていく妖精の背を見送り、他の二人に一度謝ってからドックに向かう。

 電はにこにこしながら速人の顔を見上げ、長良もにこにこして速人を見ている。気になるなぁ……と速人は苦々しい表情を浮かべる。

 

「……なんだ?」

「司令官さんは、その、優しいのです」

「そうですねー。まさか妖精ちゃんたちのための休暇届をわざわざあげるなんて」

「いや……そりゃお前、労働は対価が伴ってこそのものであってだな……本当ならお前らにもちゃんと給金をやりたいんだが、まだ俺も運営に慣れてないからな……すまんがもうちょっと余裕ができるまで待ってほしい」

 

 と速人が頭を掻きながら言って二人を見ると、二人は口を半開きにして速人を見ていた。なんか変なこと言ったかよ俺、と速人は思わず表情を苦くした。

 

「な、なんだよ……お前らが大本営から金貰ってるのは知ってるが、それじゃ足りないと思っただけだぞ」

「……司令官さんは本当に優しさが底なしなのです」

「さっすが司令官!」

「え……えぇ……?」

 

 妙な表情を向けられたかと思えば今度は褒められ、一体何がなんなんだもう……と速人は頭を掻くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 工廠、ドックにて。

 速人はまず、初期レシピで回した方のドックを開いた。面倒だったので建造時間を見ていないため、どんな艦が出てくるかはわからない。

 どんなのが出てくるか……と速人、電、長良が思い思いの表情を見せている中、ドックの扉が開き、中から姿を現したのは―――

 

「軽巡、阿武隈です! よろしくお願いします!」

 

 明るい茶色の髪を揺らし、ちょっと変わった前髪をした軽巡の少女は、どことなく見覚えのある生真面目さを感じる敬礼をして見せた。

 同型艦である阿武隈が来たのがうれしいのか、長良は目を輝かせながら阿武隈の手を掴んだ。電はその後ろで阿武隈の前髪をちらちらとみている。

 

「わぁ、阿武隈ちゃん!」

「あ、長良さん! 長良さんもこの鎮守府に?」

「うん! あ、こっちは電ちゃんだよ」

「よ、宜しくお願いします、なのです!」

「うん、宜しくねー」

 

 後ろでさっそく楽しげに三人が話しているのを聞きながら、速人は口を半開きにして硬直していた。

 

 軽巡、阿武隈。

 軽巡洋艦の中でもかなり出にくい艦とされ、阿武隈がいない鎮守府も中々に多いという。

 そんな軽巡が初期レシピで来るとは……と驚きつつ、速人は次のドックを開いた。それに気付いた長良が、電と阿武隈の手を引いて速人の後ろに来た。

 

 阿武隈に続く、重巡を期待して建造を行ったドックから出てきたのは……。

 

「重巡、妙高です。よろしくお願いします、提督」

 

 端が切り揃えられた濡れ羽の黒と表現するのだろうか、艶やかで流れるような黒の髪に、少し目尻の下がった優しげな眼。

 ……妙高型重巡洋艦一番艦、妙高。

 速人の望んだ、重巡洋艦であった。

 

「軽巡、長良です! よろしくお願いします!」

「い、電なのです! よろしくお願いします、なのです!」

「ついさっき来たばかりだけど、阿武隈です。同じ新人同士、仲よくしてくださると嬉しいです!」

「妙高です。どうぞよろしくお願いします」

 

 さっそく自己紹介を済ませた彼女らは、またわいわいと話し始めている。仲がいいようで何よりだ、と速人もまた笑みを浮かべた。

 と、不意に妙高が「そういえば」と言って顎に手を当てた。

 

「提督、今のところのメンバーは、これが全員ですか?」

「あぁ、一昨日運営スタートしたばかりの鎮守府だからな……。俺は提督の水谷速人だ。まだ慣れてない分頼りないかもしれんが、宜しく頼む」

「そうなのですか。なら、私が精一杯サポートをさせていただきます。よろしくお願いしますね」

「頼りがいがあるな……いざというときは頼む」

 

 くすりと微笑を浮かべる妙高は、正に頼れる大人の女性という雰囲気だった。今まで若く(無論妙高もとても若い)元気一杯な子らが多かった分、速人としても頼れる人がいるのはありがたい。

 

「司令官! じゃあ今回も歓迎会しましょう!」

「またか……別にかまわんが、お前らは騒ぐのが好きだな……」

 

 どうやら長良たちが先程から盛り上がっていたのは歓迎会についての話題だったようだ。またかとは思ったが、確かに前回の歓迎会は人数が少なかったし、こうしてメンバーが増えたのだから祝うのもまたいいかもしれないな、と速人は何となしに思った。

 

「あら……でも提督、明日の職務に響いてしまいますよ?」

「これでも体力はあるから大丈夫だ。……酒を飲むにしても精々小さい日本酒を一本開けるくらいだ」

「なら大丈夫でしょうか」

 

 さりげなくこちらを気遣ってくれる妙高に礼を言っていると、既に工廠の出入り口まで移動していた長良が「司令官、妙高さん、早く!」とぶんぶんと手を振っている。その後ろでは電と阿武隈が仲良く並んで話している。

 速人と妙高は一度顔を見合わせてふっと笑うと、手を振る長良の方へと歩いて行った。

 

 

 その日の鎮守府にある広間では、遅くまでにぎやかな声が響いていたという。

 

 




鎮守府メンバー紹介(1)
・提督
 本名水谷速人。
 20歳の若年で新人の提督ながら、その豊富な知識と訓練時代からの優秀な頭を使って日々鎮守府の運営を頑張っている。
 好きなのは物を作ったりする作業で、デスクワークは好きではない。と言うかまず仕事が好きではない。たまに工廠に赴いては艤装の開発風景を見ていたり、部屋でゲームをしていたりすることもしばしば。
 しかし責任感は強い方なので、頑張っている艦娘たちのためにも、と面倒だと思いながらも今日も今日とて書類仕事をこなしていく。
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