「――つまり、艦娘の給金は、基本給と、MVP認定を受けることによるボーナスが主だ。他にも、長期の戦線離脱を余儀なくされた場合の手当や、大規模作戦参加によって発生する特別報酬もあるし、実績によっては、基本給自体が変動することもある」
「ふむ……なるほどな」
食堂に向かう道中、僕はヴェールヌイから、給金についての説明を受けていた。
「とはいえ――艦娘は自由の少ない身だ。お金があったからといって、使い道は少ないね。元から衣食住は保障されているし、生活費にあてる必要もないから」
言われてみれば、殆どの時間を海の上か基地で過ごしているであろう艦娘にとって、お金なんて、多少趣味なんかに使う分があれば、不自由はしないだろう。
「……では、例えばヴェールヌイは、給金をどう使っているんだ?」
だから――ほんの軽い気持ちで、質問してみたわけなんだけど。
「――私の給金の殆どは、戦災孤児を支援する団体へ寄付している」
――かなり重い答えが返ってきた。
「そもそも、私も戦災孤児なんだ。深海棲艦のせいで、故郷は滅茶苦茶、家族も殺された。私は、たまたまその日、少し遠くまで出かけていたから、難を逃れられたんだけどね」
「お、おおう……」
――重いよ。めっちゃ重いよ。朝っぱらから聞く話じゃねえよ。
「まあ、そういうわけだから、同じような境遇の子を、少しでも助けてあげたくてね」
「そ、そうか……」
やべぇ。めっちゃ気まずい。そのくせ、ヴェールヌイ自身は平気な顔をしている。
「ほ、他の艦娘がどう使っているのかは、分かるか?」
――空気に耐えられず、話を少し逸らす。
「他の艦娘か。家族への仕送りをしている艦娘が多いな。他には、引退後のために貯金していたり、趣味にほとんどをつぎ込んでいたり、私のように、どこかに寄付していたり」
「……なるほどな」
僕は、どうするべきだろうか。少なくとも、家族はこの世界にはいない。貯金しても、元の世界に帰れば――帰れれば――無意味だろう。趣味に使うにしても、それだけで全額を使い込むような、金のかかる趣味は持っていないし、持ちたくもない。金銭感覚が狂う。
「――なあ、ヴェールヌイ」
「なんだい?」
――だったら。
「今度、その支援団体へ寄付する方法を教えてくれ。私の給金も、そこに振り込むことにするよ」
――この世界で得たものは、この世界へ還元しよう。
「……良いのかい?」
「ああ。どうせ使い道も無いんだ。持て余しておくよりは、ずっと良いだろう?」
まあ、最低限遊べるくらいのお金は、手元に残しておくけど。ゲームとかやりたいし、本とか読みたいし。
「……
僕の答えを聞いたヴェールヌイは、帽子のつばを摘まみながら、目を伏せて呟いた。
「――どういたしまして」
「――っ⁉︎」
――僕が返事を返すと、それまで無表情を貫いていたヴェールヌイは、驚きを顔に浮かべつつ、頬を赤らめた。いやまあ、スパシーバの意味くらいは、艦これプレイヤーならば分かる。『ありがとう』だ。
「――あ、ああ、もう食堂が目の間じゃないか。六警のメンバーにはメールで集合をかけたし、きっともう集まってると思うよ。ほら、早く入ろう」
頬を赤らめたまま、ヴェールヌイはやや早口にまくし立てつつ、僕を置いて早歩きで食堂に入っていってしまった。
「……案外、照れ屋なのか?」
図らずも、意外な姿のヴェールヌイを見ることができた。
「いや、しかし――ヴェールヌイもかわいいなあ、うん」
――周囲に人がいないことを確認してから、しみじみと呟いて、僕も食堂に入った。