「――で、ここが工廠。艤装の開発なんかをやってるとこだよ」
「……ふむ」
食事を終えた後、僕は皐月に連れられて、警備府を見て回っていた。最初は、見取り図もあるし、案内はいらないと言ったんだけど――妙に皐月がしつこかったので、素直に厚意に甘えることにした。
「ついでだし、挨拶して行こっか」
言って、皐月は工廠の扉を開く。鍵はかかっていないようだった。
「――明石さーん! いるー?」
大声で叫ぶ皐月の後ろに続いて、僕も工廠に入る。想像していたよりも、かなりこじんまりとした様相で、小さな町工場のような印象を受ける。
「――はーい! どうかしましたかー?」
皐月に負けず劣らずの声量で返事を返しながら、奥から誰かが現れる。まあ、皐月の呼びかけから考えれば、それが誰だかは悩むまでも無いけれど。
「ああ、皐月ちゃんじゃないですか。どうしました? また、装備改修ですか?」
服装こそ、見覚えのある姿とは違い、作業服だったが――ピンクの髪に、課金をする時に嫌でも聞くはきはきとした声。間違いない。『工作艦明石』だ。
「ううん、今日は別件。……ほら、長月」
「あ、ああ」
皐月に促され、僕は皐月の後ろから姿を現した。
「おや? 初めて見る子ですね」
「今日からここに所属になった、駆逐艦長月だ」
――少しずつ、『長月』としての自己紹介に慣れ始めている自分に気が付き、喜んで良いやら悲しんで良いやらな気分になったのだが、それは今は置いておく。
「なるほど、新入りの子でしたか。私は、工作艦、明石です。ようこそ、工廠へ!」
言って、明石は作業用の手袋を外し、右手を差し出す。僕も手を差し出し、握手を交わした。
――メカニック系女子も、結構良いよな。うん。顔に機械油の痕が付いてるところとか、高ポイントだ。
「……今度は、口には出さなかったぞ」
「はい?」
「あ――な、なんでもない!」
最後まで頑張れよ、僕。
「まあ、良いですけど。――装備の開発や改修が必要になったら、いらして下さいね。提督からの許可証さえあれば、いつでも受け付けます」
――本来のゲーム的には、開発と改修工廠に当たる部分だろうか。まあ、なんにせよ、まだ出撃さえ済ませていない、どころか艤装に触れてさえいない今の僕には、早すぎるだろう。
「そのうち、よく利用することになるだろうし、しっかり覚えておいてね?」
「分かった」
皐月の言葉に、頷きつつ――それはつまり、やっぱり僕も出撃することになるってことだよなあと、心の中でぼやく。
大丈夫なんだろうか、本当に。
「そういえば、明石さん、さっき何してたの? やっぱり、装備開発?」
「ええ。それも、これまでにないくらいの、凄い奴です」
皐月の問いに、明石はどこか誇らしげな顔で答える。
「――そうだ。折角です、見ていきますか?」
「おお、明石さんの新作! 見る見る!」
明石の言葉に、目を輝かせる皐月。あ、こいつ機械いじりとか好きなタイプだ。自動車整備をずっと隣で眺めていられるような、ホームセンターの工具売り場に浪漫を感じるような、そういう類の奴。
「長月ちゃんに言ったつもりなんですが……いや、別に良いんですけどね?」
苦笑いをする明石。多分、今までにも似たようなことはあったんだろう。
「で、長月ちゃんはどうですか?」
「……まあ、皐月が見るというなら、私も」
――と、あまり興味が無い風を装いつつ、僕自身、工業系の勉強をしていた時期もある人間だ。機械には興味がある。
「それじゃ、付いてきて下さい」
言って、明石は踵を返し、元来た方へと歩いて行く。皐月と僕も、後ろに続く。
道中には、旋盤用や溶接用らしき、比較的普通の工作機械もあれば、何に使うのか想像も付かない怪しげな機械もあり、修理するのか、それともスクラップにするのか、半損した艤装らしき物が乱雑に放置されていたりと――視界に入るものが、一々興味を引く。それは当然僕だけに限らず、皐月も同じ様子で、二人仲良くきょろきょろしながら進んで行く。
「――さあ、これです」
しばらく歩いた後、明石は足を止めて呟く。明石の目の前には、作業台が設置されていて――その上に、皐月の身長ほどのサイズの連装砲が、鎮座していた。
「うっわー、大っきい……!」
興奮した様子で、感想を漏らす皐月。僕は、比較対象になりそうな装備の実物を見ていないので、砲の大きさについて、客観的な判断は出来なかったけれど――皐月の反応からすると、やっぱり巨大なのだろう。
「――名付けて、『試製五十一センチ連装砲』です。四十六センチ砲を凌駕する火力を目指して、開発しました」
嬉々とした表情で、明石は解説する。
――って、ああ。五十一センチ砲かこれ。イベント報酬だったやつ。なるほど、実物はこんな大きさなのか。
「ねえ、もう使えるの?」
「一応、撃つことは出来るでしょうが――まだ細部が調整中でして。そのうち、武蔵さん辺りに手伝って貰って、テストするつもりです」
「じゃあさ、テストする時は呼んでよ! ね、お願い!」
身を乗り出して、皐月は明石にせがむ。まあ、その気持ちは分かる。でっかい砲って浪漫だよね。大艦巨砲万歳。
「はいはい、分かりましたよ。本当、好きですねえ、皐月ちゃんは」
少々呆れたように言いつつ、しかし明石はどこか嬉しそうだった。
「……長月ちゃん、どうしました? さっきから、黙り込んでますが」
「え? ――あ、ああ!」
――しまった、変なこと言わないように意識しすぎて、全然喋ってないぞ僕!
「――ほ、ほら、皐月! そろそろ、次のところを案内してくれ!」
怪しまれたんじゃないかという不安が浮かび、思わず皐月を急かす。余計に怪しい気もするけど、そんなことを気にする余裕は、残念ながら残っていなかった。
「あ、うん、そうだね――って、押さなくても良いって、分かったからさー!」
ぐいぐいと皐月の背中を押しつつ、僕は逃げるように工廠を後にした。
「……体調でも悪いのかと思いましたが、元気みたいですね」
背後から、明石の声が聞こえた気がしたが、よく聞き取れなかった。