長月(偽)だ。駆逐艦と侮るなよ。   作:萩鷲

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例えば長月になって-4

「――で、ここが工廠。艤装の開発なんかをやってるとこだよ」

「……ふむ」

 

 食事を終えた後、僕は皐月に連れられて、警備府を見て回っていた。最初は、見取り図もあるし、案内はいらないと言ったんだけど――妙に皐月がしつこかったので、素直に厚意に甘えることにした。

 

「ついでだし、挨拶して行こっか」

 

 言って、皐月は工廠の扉を開く。鍵はかかっていないようだった。

 

「――明石さーん! いるー?」

 

 大声で叫ぶ皐月の後ろに続いて、僕も工廠に入る。想像していたよりも、かなりこじんまりとした様相で、小さな町工場のような印象を受ける。

 

「――はーい! どうかしましたかー?」

 

 皐月に負けず劣らずの声量で返事を返しながら、奥から誰かが現れる。まあ、皐月の呼びかけから考えれば、それが誰だかは悩むまでも無いけれど。

 

「ああ、皐月ちゃんじゃないですか。どうしました? また、装備改修ですか?」

 

 服装こそ、見覚えのある姿とは違い、作業服だったが――ピンクの髪に、課金をする時に嫌でも聞くはきはきとした声。間違いない。『工作艦明石』だ。

 

「ううん、今日は別件。……ほら、長月」

「あ、ああ」

 

 皐月に促され、僕は皐月の後ろから姿を現した。

 

「おや? 初めて見る子ですね」

「今日からここに所属になった、駆逐艦長月だ」

 

 ――少しずつ、『長月』としての自己紹介に慣れ始めている自分に気が付き、喜んで良いやら悲しんで良いやらな気分になったのだが、それは今は置いておく。

 

「なるほど、新入りの子でしたか。私は、工作艦、明石です。ようこそ、工廠へ!」

 

 言って、明石は作業用の手袋を外し、右手を差し出す。僕も手を差し出し、握手を交わした。

 ――メカニック系女子も、結構良いよな。うん。顔に機械油の痕が付いてるところとか、高ポイントだ。

 

「……今度は、口には出さなかったぞ」

「はい?」

「あ――な、なんでもない!」

 

 最後まで頑張れよ、僕。

 

「まあ、良いですけど。――装備の開発や改修が必要になったら、いらして下さいね。提督からの許可証さえあれば、いつでも受け付けます」

 

 ――本来のゲーム的には、開発と改修工廠に当たる部分だろうか。まあ、なんにせよ、まだ出撃さえ済ませていない、どころか艤装に触れてさえいない今の僕には、早すぎるだろう。

 

「そのうち、よく利用することになるだろうし、しっかり覚えておいてね?」

「分かった」

 

 皐月の言葉に、頷きつつ――それはつまり、やっぱり僕も出撃することになるってことだよなあと、心の中でぼやく。

 大丈夫なんだろうか、本当に。

 

「そういえば、明石さん、さっき何してたの? やっぱり、装備開発?」

「ええ。それも、これまでにないくらいの、凄い奴です」

 

 皐月の問いに、明石はどこか誇らしげな顔で答える。

 

「――そうだ。折角です、見ていきますか?」

「おお、明石さんの新作! 見る見る!」

 

 明石の言葉に、目を輝かせる皐月。あ、こいつ機械いじりとか好きなタイプだ。自動車整備をずっと隣で眺めていられるような、ホームセンターの工具売り場に浪漫を感じるような、そういう類の奴。

 

「長月ちゃんに言ったつもりなんですが……いや、別に良いんですけどね?」

 

 苦笑いをする明石。多分、今までにも似たようなことはあったんだろう。

 

「で、長月ちゃんはどうですか?」

「……まあ、皐月が見るというなら、私も」

 

 ――と、あまり興味が無い風を装いつつ、僕自身、工業系の勉強をしていた時期もある人間だ。機械には興味がある。

 

「それじゃ、付いてきて下さい」

 

 言って、明石は踵を返し、元来た方へと歩いて行く。皐月と僕も、後ろに続く。

 道中には、旋盤用や溶接用らしき、比較的普通の工作機械もあれば、何に使うのか想像も付かない怪しげな機械もあり、修理するのか、それともスクラップにするのか、半損した艤装らしき物が乱雑に放置されていたりと――視界に入るものが、一々興味を引く。それは当然僕だけに限らず、皐月も同じ様子で、二人仲良くきょろきょろしながら進んで行く。

 

「――さあ、これです」

 

 しばらく歩いた後、明石は足を止めて呟く。明石の目の前には、作業台が設置されていて――その上に、皐月の身長ほどのサイズの連装砲が、鎮座していた。

 

「うっわー、大っきい……!」

 

 興奮した様子で、感想を漏らす皐月。僕は、比較対象になりそうな装備の実物を見ていないので、砲の大きさについて、客観的な判断は出来なかったけれど――皐月の反応からすると、やっぱり巨大なのだろう。

 

「――名付けて、『試製五十一センチ連装砲』です。四十六センチ砲を凌駕する火力を目指して、開発しました」

 

 嬉々とした表情で、明石は解説する。

 ――って、ああ。五十一センチ砲かこれ。イベント報酬だったやつ。なるほど、実物はこんな大きさなのか。

 

「ねえ、もう使えるの?」

「一応、撃つことは出来るでしょうが――まだ細部が調整中でして。そのうち、武蔵さん辺りに手伝って貰って、テストするつもりです」

「じゃあさ、テストする時は呼んでよ! ね、お願い!」

 

 身を乗り出して、皐月は明石にせがむ。まあ、その気持ちは分かる。でっかい砲って浪漫だよね。大艦巨砲万歳。

 

「はいはい、分かりましたよ。本当、好きですねえ、皐月ちゃんは」

 

 少々呆れたように言いつつ、しかし明石はどこか嬉しそうだった。

 

「……長月ちゃん、どうしました? さっきから、黙り込んでますが」

「え? ――あ、ああ!」

 

 ――しまった、変なこと言わないように意識しすぎて、全然喋ってないぞ僕!

 

「――ほ、ほら、皐月! そろそろ、次のところを案内してくれ!」

 

 怪しまれたんじゃないかという不安が浮かび、思わず皐月を急かす。余計に怪しい気もするけど、そんなことを気にする余裕は、残念ながら残っていなかった。

 

「あ、うん、そうだね――って、押さなくても良いって、分かったからさー!」

 

 ぐいぐいと皐月の背中を押しつつ、僕は逃げるように工廠を後にした。

 

「……体調でも悪いのかと思いましたが、元気みたいですね」

 

 背後から、明石の声が聞こえた気がしたが、よく聞き取れなかった。

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