「心葉先輩。これで全部ですか?」
「うん、ありがとう。助かったよ」
部室には夕日が差込み、すっかり放課後を感じさせる。
ぼくは卒業式を控え三年間を過ごした部室を去ることになり、私物の整理を後輩の日坂さんに手伝ってもらっていた。
「心葉先輩の私物、意外と少ないですね」
「まぁね、実質パソコンぐらいだし。今回は大掃除みたいなもんだよ。あと、ぼくが持ってきた本も後輩に残しておいてあげたいからね」
「はいっ。文学少女のわたしに掛かればすぐに読み尽くしちゃいます。来年はわたしに憧れた後輩が入部希望でどっしどっしですよ」
「それは頼もしいね」
ぼくを心配させないためか扁平な胸をツンと突き出す後輩をみて思わず頬がほころんでしまう。
「でも、やっぱり寂しいですね。……あれ、これ見たことないんですけど心葉先輩の本ですか?」
そういって、日坂さんがぼくに見せてきた本は、
――ゼロの使い魔。
「いや、ぼくのじゃないよ。遠子先輩のかな? あの人は純文学やライトノベルも区別せずよく読んでたから」
「へー。文学少女はこういったヲタクっぽいもの読まないのかと思ってました」
「遠子先輩はもちろん好き嫌いはあっただろうけど、ジャンルで区別はしなかったよ」
「そうなんですね。……一回読んでみようかな。どんな味がするんでしょうか」
「さぁ、その本のことはわからないけど、同じライトノベルのバカとテストと召喚獣っていう作品は、駄菓子のわたパチみたいだって言ってたよ。手軽に食べられて、口に入れたときはふわふわの綿菓子なのに、すぐにパチパチ弾けてびっくりさせられるの。ユーモアに溢れていて、こんな食べ物があるのか! って」
「へー。じゃあこの本も楽しみです! 桃色の女の子が表紙なのできっとピーチ味ですよ!」
「うん。家に帰って読んでみるといいんじゃないかな」
「……あのー、心葉先輩」
突然日坂さんの声のトーンが少し低くなった。なんだろうと思い振り向くと、本が光っていた。
「これ、光ってます! やばいです! なんですか、これ」
「日坂さん、またなにかしたの!?」
「失礼な! 今回はわたし何もしてません! ……というか、心葉先輩、なんか本に吸い込まれてませんか」
「――! わわっ!」
気付けば、すごい力で本の中へと吸い込まれていく。
「日坂さん、助けて!」
「駄目です! わたしの力じゃ!」
ギュン。
「……心葉先輩が、本に吸い込まれちゃった」
◇ ◇ ◇
本に吸い込まれてから、少しずつ意識が途切れていく。
――ああ、ぼくは死ぬのだろうか。
そんなことを考えると、走馬灯のようにさまざまな顔が浮かぶ。
父さんや母さん。舞夏に芥川君、琴吹さんに日坂さん。美羽に……遠子先輩。
できるのなら、もっと物語を書き続けたかった。
――。
意識途切れてから、次にぼくが目を覚ましたとき、最初に目に入ったのは遠子先輩でもなく、後輩の日坂さんでもなく、真っ青な空に似た色の髪をしている眼鏡をかけた少女だった。
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