仲間津いづちDayLine   作:ロンドンギヌス

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思えば。
この出会いは、偶然じゃなかったのかもしれない。


Prologue

 雷と電は我が日本国海軍の誇る艦娘である。

 艦娘とは世界大戦時に活躍した船霊がヒトを象ったものであり、日本政府からの発表当初は『ツクモ』と呼ばれていたらしい。

 その名の通り、ツクモ神とかいう神的な存在がヒトの形をとったもの、だそうだ。詳しい話は知らないし、聞いても教えてくれないだろう。

 といっても、一般人がその実物を目にすることはめったにない。

 それもそのはず。彼女らはほとんど鎮守府の中で生活しているからだ。

 大抵の人はテレビ画面や新聞の中でしかその姿を見ずに死んでいくだろう。

 かくいうこの俺、浜城(はましろ)大海(ひろみ)も、少し前までその中の一人だった。

 普通に高校を卒業して、大学に行って、適当な職について――そんな平凡な一生を送るはずだった。

 

 

 

 目を覚ますと、まずじっとりと汗をかいていることに気づいた。

 部屋の中も全体的に暑苦しい。

 あれ、クーラーをつけてたはずなのに……。

 そこまで考えて、ふと左手に布団だとは思えない硬い感触があることに意識が向いた。

 寝起きの緩慢な動きで寝返りを打ち、そこにあるものを確かめる。

 ……うわぁ、またいつの間にか電源切ってるよ、俺。

 顔をしかめていると、頭上からセットした目覚ましの電子音が聞こえてくる。

 どうやら、ちょうどいい時間だったようだ。

 寝苦しくて五時とかに起きなかっただけよかったと思うべきだろう。

 そのことにちょっとだけ救われた気がした。

 とはいえ、こんな暑い場所にいるのは敵わない。

 さっさと身支度を整え、俺はリビングへと逃げ込む。

 リビングに入ると、予想通りすぐに冷やされた空気が身を包んだ。

先ほどのむわっとした熱気を肺から追い出すように、大きく深呼吸。

はぁー、生き返る。

「あ、大海(ひろみ)。おはよ!」

 そんなことをしていると、俺に気づいた亜麻色の髪の少女、雷(いかずち)がこちらを振り向いて笑みを浮かべた。

 口元からちらりと見える八重歯が寝ぼけ眼には眩しく映る。

「おはよう、雷。相変わらず早いな」

「当然よ! お世話になってる身だもの!」

 彼女の手元では、ベーコンエッグが良いにおいをさせている。

 ジュージューと音を立てるフライパンの中のそれは、見るだけで朝の空腹が鳴ってしまうほどだ。

「雷がそんなの気にしなくてもいいのに」

起きたら朝ご飯が用意されているのは嬉しい限りだけど、ずっと任せっぱなしになっていることに罪悪感を感じてしまう。

でも、何かしようにもこの部屋は狭くて、下手すれば邪魔になる。

だから結局、子どもの手伝いみたいな感じに落ち着くんだけど。

「気にさせてほしいわ。恩返ししたいのよ!」

 俺と話をしながら、雷はベーコンエッグをそれぞれの皿に取り分けていく。

「あ、これ持っていくよ」

盛り付けが完了したのを見計らって、俺はそれを部屋の中央に位置するテーブルの上に運ぶ。

テーブルの前に置かれたテレビからは、お天気お姉さんが今日の天気を告げていた。

「今日は昼から雨だって」

「そうなの? じゃあ洗濯物は部屋干しした方がいいわね!」

雷からコーンスープを受け取り、先ほどの行動をもうワンセット。

そうしていると、案外すぐにやることがなくなった。

「他に何かやることない?」

「じゃあ、電(いなづま)を起こしてきてくれない?」

雷の頼みに頷いて、俺はもう一人の家族が寝ているであろう寝室へと向かう。

と、部屋の前に立ったところで、俺が取手に手をかけるよりも先に扉が開いた。

「ふわぁ〜……おはようなのです」

大きなあくびをしながら入ってきたのは雷の双子の妹である電。

 活発そうな姉とは違って、大人しそうな見た目の少女だ。

 いつもはバレッタで後ろに纏めている髪も、こうして見ると案外長いもんだな。

 そしてこの子の特徴はもう一つ。

「はわわっ!」

 ドジっ子ちゃんだったりする。

「よっと」

 ドアの縁につまづいてこちらに倒れてくるその小さな身体を、俺は危なげなく受け止めた。

いくら艦隊とはいえ、その身体は小さな女の子。

高校生の俺でも楽々支えられる。

「大丈夫か、電?」

「大丈夫なのです。助けてくれてありが、と……」

「ん?」

急に電の口が固まる。

 どうしたのかな、と思っていると、いきなりその小さな顔が真っ赤に染まった。

「はわっ、はわわわわっ!」

「わ、ちょっ、どうした、電っ?」

 そして手をバタバタと振り、俺から逃れようとする。

 びっくりして手を離しそうになるけど、今離したら電の頭は廊下のフローリングに真っ逆さまだ。慌てて腕の力を強めた。

 だが、それでも電は止まらない。

「ててて、手っ、手っ!」

 顔を真っ赤にしながら電が主張するのは『手』という言葉。

 だけど、電の手はばたばたと振られるばかり。

 だとするとその原因は俺にあるということで……あ、電を抱きしめたままだった。こう、背中に手を回してガシッと。

「ご、ごめん」

抱きしめていた手を離すと、電はパッと離れて恥ずかしそうに顔をうつむかせた。

あー、やっちゃった……。

雷の時とはまた違う罪悪感が俺を襲う。

「電、顔を洗ってらっしゃい! 大海はこっちで手伝って!」

「「は、はい!」」

気まずくてどうしようか考えていると、開きっぱなしになっていたリビングへの扉から声が飛んできた。

 その叱責にも似た口調に、電と二人して背筋が伸びてしまう。

 だけどほんの少し前に流れていた空気は霧散した。

 電が洗面所に入っていくのを尻目に、俺は雷の方へと近づく。

「最近、雷にどんどん感謝しなきゃならないことが増えてる気がするよ」

「もう、気にしすぎよ。一緒に住んでるんだからこれぐらいよくあるし、いつまでも気まずい雰囲気じゃ嫌だもの」

 なんて、トーストしたパンを取り出しながら雷は言う。

 叶わないなぁ。

 出会ってまだそんなに経ってないけど、そう思ってしまう。

 もう、俺じゃなくて雷がこの家の家主なんじゃないだろうか?

 そんなことを考えつつ、テーブルの上を確認する。

えーっと、一通り皿や箸は出てるから……。

まだ出されていないものを確認して冷蔵庫に向かう。

「電は牛乳だとして……雷は何飲む?」

「ありがと、大海! 昨日紋次郎さんから貰ったリンゴジュースがいいわ!」

「あ、いいね。じゃあ俺もそれにするか」

マグカップをテーブルの上に三つ取り出し、それぞれにドリンクを注いでいく。

それをお盆に乗せて運ぼうとしたところで、電が洗面所から顔をのぞかせた。

「お姉ちゃん、お兄ちゃん、改めておはようございます」

さっぱりとした顔でぺこりと一礼。

今度はバレッタで髪を留めているらしく、左側だけ下ろしている髪がさらさらと揺れる。

 彼女いわく、一種のこだわりらしい。

 と、頭を上げたところで目があった。

「えへへ……」

 とたんに、はにかんだような笑みを浮かべてくれる。

 その姿のなんと微笑ましいことか。

 思わずほおが緩んでしまった。

 決して不審者ではない。同居人である。

「「おはよ、電」」

 いつも通り挨拶を投げかければ、偶然雷と声が重なった。

 思わず視線を合わせ、ふふっと笑いあった。

「じゃ、全員揃ったことだし食べましょうか。いただきます!」

「「いただきます!」」

 雷の音頭に合わせて、三人で仲良く合掌する。

 朝ご飯を食べている間、笑顔が絶えることはなかった。

 

 

 さて、気付いているかもしれないけど、ここは鎮守府じゃない。

田舎と都会を足して二で割ったようなどこにでもある地方の街にある、それほど広くないアパートの一室だ。

 ついでに言ってしまえば俺は軍関係者じゃない。

関係者の関係者がいいところだろう。

 それなのになぜ俺がこの姉妹と暮らしているのか。

 その答えは、夏休みが始まったあの日までに遡る。




初めまして、ロンドンギヌスです。
鎮守府の外を書いてみようと考えて、この作品を書き始めました。
初投稿なので至らないところが多々あると思いますが、よろしくお願いします。




……こんな感じでいいんですかね?
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